No.470290 そらのおとしものショートストーリー5th あの子と海5 無口無表情っ子22012-08-15 01:03:08 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:1640 閲覧ユーザー数:1561 |
そらのおとしものショートストーリー5th あの子と海5 無口無表情っ子2
「畜生……っ。どうしてこんなことになっちまったんだ……」
楽しいものになる筈だった海でのバカンス。
イカロスやニンフは勿論、日和や鳳凰院月乃なんかも呼んで皆でワイワイやるつもりだった。
おっぱいボインボインお尻プリンプリンの水着の美少女達に囲まれてうっはうっはのむっひょっひょのひと時を過ごすつもりだった。
ところがだ。
それぞれ都合がどうとかで1人欠け2人欠け、海に到着したのは当初の予定より大幅に少なかった。
たわわに実るおっぱいの量が減ってしまった。
だが俺に訪れた悲劇はそれだけでは終わらなかったのだ。
俺達は観光用ヨットに乗って大海原へと繰り出した。ところがいつものお騒がせメンバーがこともあろうに船内で喧嘩を始めた。
そして危険指数は超1級品である奴らはお約束的な展開として船に大穴を開けてくれた。沈み行く船体。俺は水面へと放り出され……運良く浮いていた丸太に捕まって事なきを得たが、その後気絶してしまった。で、現在……。
「こんな無人島に流れ着くなんて俺は漫画の主人公かっての~~っ!!」
綺麗な淡い青い色をした海に向かって大声で叫ぶ。
何と俺は漂流してどことも知らない無人島へ流れ着いてしまったのだ。前に1度、会長達に騙されてそはらと2人きりで無人島生活体験もどきをさせられたことはある。が、今回は正真正銘の本物だ。本当に無人島に流れ着いてしまった。
「騒いだところで状況は良くはならん。少し落ち着いたらどうだ?」
守形先輩は海岸に干からびたワカメやクラゲを布団にしながら横たわり俺を注意している。
そう、俺と一緒にこの島に辿り着いたのは守形先輩だった。
一緒に流れ着いたのはボインボインでもキュートからも程遠いメガネ男だった。
「それに大声を出されると毒が回ったこの体には堪えるのでな」
「す、すんません」
しかも守形先輩は海の不思議な生き物の毒にやられて重傷の身だった。
「もし俺が死ねば……」
「そんな縁起でもないことを言わないで下さいよ」
普段からサバイバル生活を送り生命力に満ち溢れている先輩が死ぬだなんて……。
考えただけでもゾッとする。嫌な気分に満たされる。
「俺がもし死ねば美香子は一緒にこの島にいた智樹に全ての責任を転嫁するだろう。そうなれば死ぬよりも辛い瞬間が延々とお前を襲うだろう」
「俺が全力で看病しますから絶対に死なないで下さいっ!!」
俺は泣きながら先輩を元気付けた。
先輩の死は俺の死も同じ。
2つの命の内のどちらかでも欠ければゲームオーバーという過酷すぎる状況。
何故こんな不幸に陥らなければならなかったのか、その原因を俺は思い出してみた。
『智子ちゃん。いい加減に私の英くんから離れてくれないかしら? 会長とってもご立腹よ~』
『え~でも~。智子の指定席は守形先輩の隣って決まってますし~。あっ、守形先輩の膝の上でも智子はオッケ~ですけどね~。キャッ♪』
6人だけとなってしまったヨットクルージング。その参加者の中に守形先輩と会長と智子が同時にいたのは不幸としか言いようがなかった。
この3人が同時にいて会長と智子が争いを起こさない訳がなかった。
陸地が全く見えない海の真ん中で2人の争いは留まることを知らずにヒートアップしていった。
『ニンフ……あの2人を何とかすることは出来ないのか?』
『無理よ。半端に介入しようとしたら私の方が死んじゃいそうだわよ。海に落ちたら大変だし』
ニンフは素っ気無い対応を披露した。
『私も泳げないから、自分からあの争いに介入して海にボチャンっていう展開は避けたいかなあ』
そはらも日和見った。
もはや争いを止められるのは賞品となっている守形先輩のみ。俺は最後の希望を先輩に託して振り返った。
「……無理」
先輩は首を静かに横に振った。
その直後だった。
ヨットが大爆発を起こしたのは。
会長の投じた爆弾が智子のパンツ剣に切り裂かれたことで大爆発を起こしたのだった。
『そはらっ! 掴まって!』
『うんっ!』
ニンフはそはらを連れて颯爽と空中に非難していた。泳げない2人としては至極当然の判断であった。
でも、その判断が出来なかった俺は沈み行く船から放り出されて大海原を漂う羽目に陥ったのだった。
「先輩は一体何にやられてそんな重傷を?」
守形先輩は普段からサバイバル生活を送るだけあって体は頑丈。多少の毒ぐらいでこんな状態に陥る筈がない。一体、どんな陰謀が背後に?
「毒笑いクラゲだ。このクラゲに刺された人間はとにかく笑いっ放しの状態に陥る。俺のように笑えない人間の場合には体の機能が麻痺して……1週間で死に至るだろう」
「笑おうよっ! そうすれば死ぬことはないんだろ!?」
大声でツッコミを入れる。
「フッ。無理なものは無理だ。俺は笑えるように人間が出来ていない。陸に戻って大手術でも受けない限りは1週間後には死に至る身だ」
「諦めはやっ!!」
守形先輩の生への未練のなさが腹立たしい。
先輩が死んだら俺が会長に殺されると言うのに。
「何かないんっすか? 解毒剤になるような生き物とかはいないんっすか?」
先輩の為、そして俺の為に先輩が死なずに済む道を模索する。
「そう言えば、聞いたことがある」
「おおっ」
微かな可能性を先輩の語り口に見出して感動の声をあげる。
「この島のどこかにはどんなクラゲの毒も治してしまうというベホマクラゲが存在すると」
「そのベホマクラゲさえ見つけてくれば先輩は死なずに済むんすね!」
「ああ」
先輩は横たわったまま頷いた。
「だが、ベホマクラゲがどこにいるのかは俺にも分からん。海の生き物なのか山の生き物なのかさえも」
先輩は島の中央部を見た。
俺達が流れ着いた島はかなり大きい。長く続く海岸線。そして中央部は小高い山があり、その周囲は密林地帯となっている。
以前そはらと漂流した“無人島”を更に大きくしたような島だった。
「1週間以内にそのベホマクラゲを見つけ出してみせますよっ!」
先輩に誓ってみせる。1週間。それは先輩の命のリミットであると同時に俺の命のリミットでもあった。
こうして俺のベホマクラゲ探し&サバイバル生活は始まった。
1日目
「海の方を探したけれどベホマクラゲは見つかりませんでした。代わりに食料と、そこで拾ったオレンジ色の星が1つ刻印されている球を見つけたので先輩にあげるっす」
「綺麗な見たことがない球だな。ありがたく飾らせてもらおう」
2日目
「密林の方を探したけれどベホマクラゲは見つかりませんでした。代わりに食料と、そこで拾ったオレンジ色の星が2つ刻印されている球を見つけたので先輩にあげるっす」
「似たような球が複数あるということか。ありがたく飾らせてもらおう」
3日目
「海岸沿いを探したけれどベホマクラゲは見つかりませんでした。代わりに食料と、そこで拾ったオレンジ色の星が3つ刻印されている球を見つけたので先輩にあげるっす」
「星の数がそれぞれ1、2、3と異なる。興味深いな。ありがたく飾らせてもらおう」
4日目
「山側を探したけれどベホマクラゲは見つかりませんでした。代わりに食料と、そこで拾ったオレンジ色の星が4つ刻印されている球を見つけたので先輩にあげるっす」
「何故星の数が違う球がこれほど存在しているのか? ありがたく飾らせてもらおう」
5日目
「海底の大神殿を探したけれどベホマクラゲは見つかりませんでした。代わりに食料と、そこで拾ったオレンジ色の星が5つ刻印されている球を見つけたので先輩にあげるっす」
「超古代の海底神殿の中にまでこの球があるのか? 一体この球の正体は一体? ありがたく飾らせてもらおう」
6日目
「火山の中の大神殿を探したけれどベホマクラゲは見つかりませんでした。代わりに食料と、そこで拾ったオレンジ色の星が6つ刻印されている球を見つけたので先輩にあげるっす」
「メガネデータベースで検索した結果、この球は7つ揃うと巨大な竜が現れてどんな願いでも叶えてくれるという。ありがたく飾らせてもらおう」
そして運命の1週間目を迎えてしまった。
まだベホマクラゲは発見出来ていない。クラゲを発見できなければ守形先輩は死んでしまう。
「くそぉっ! 一体どこにベホマクラゲはいるってんだ!」
俺の命を繋ぎ止めてくれた丸太を蹴っ飛ばして怒りを発散させる。と、その丸太の下にオレンジ色で星が7つ刻まれた球を見つけた。
「クラゲじゃなくて球の方が先に全部揃ってしまうとはな」
先輩の話に拠れば球を7つ揃えて竜を呼び出せばどんな願いも叶うという。本当だとはとても思えないが、今は藁にもすがる時だ。
球を持って先輩の所へと戻る。
「先輩、7つ目の球をみつけました」
先輩の前に球をかざしてみせる。
「そうか……では、球を7つ纏めて置いてこう唱えるんだ。出でよネ申龍と」
先輩は荒い息を繰り返している。今にも息絶えてしまいそうだった。
「分かりました。すぐにやってみるっすっ!」
俺は言われた通りに球を一箇所に並べて置いた。そして呪文を唱えた。
「出でよネ申龍っ!!」
駄目元だった。でも、神様か何かは俺たちを見捨ててはいなかった。
突如晴天だった空には暗雲が立ち込め、巨大な稲妻が地上から天空へと向かって駆け上っていった。7つの球から発せられた光が天へと昇っていったのだ。
そして光が昇っていった地点から緑色の鱗を持つ巨大な龍が姿を現した。
(我を呼び出したのはお前たちか?)
龍は直接俺たちの心に呼び掛けて来た。
「先輩っ! 本当に出たっすよっ!!」
大抵の非常識には未確認生物絡みで慣れている。けれども今回は一際派手で驚かされる。
「これもまた新たなる新大陸ということか。フッ」
先輩はメガネを曇らせながら浸っていた。
(それでお前たちの願いはなんだ? どんな願いも1つだけ叶えてやろう)
龍は願い事を叶えてくれると言っている。
「そうだっ! この龍に先輩の体を完全回復させてもらえば良いっすよ! いや、この際不老不死になることだって!」
「では、この場にベホマクラゲを召喚して欲しい」
先輩はメガネを光らせながら述べた。
「龍に頼めばステータス全快できるのに。何でそんな回りくどい手段をっ!?」
「ベホマクラゲも新大陸だからだっ!」
先輩のメガネが光り輝いていた。
(良かろう。ならばベホマクラゲをお前たちの元に寄越そう)
龍の体が光り輝く。
(ハアッ!!)
龍は咆哮した。
その咆哮と共に先輩が寝ていた干からびたワカメとクラゲの布団が消え去った。
そして俺達の前に人の身長ほどある大きな白いクラゲが体にワカメを巻きつけながら現れた。
(干からびていたベホマクラゲの体に水分を与えたのはサービスだ。では、望みを叶えた。サラバだ)
龍は俺達が事態を把握するよりも早くペラペラと述べると消えてしまった。7つあった球はそれぞれ違う方向の空へと飛び散ってしまった。
そして俺達の前には大きなクラゲだけが残された。
先輩の受けた毒を解除する為のベホマクラゲが遂に俺達の前に出現した。
だが、このクラゲをどうすれば先輩の毒は治るのだろう?
(助けて頂いてありがとうございます。人間の女の子を真似して日焼けに挑戦していたら危うく死んでしまうところでした)
「うぉっ!? クラゲまで念話が出来るのかよ!?」
もう何に驚くべきなのかさえも分からない。
「フム。まさしく新大陸」
先輩は勝手に納得している。新大陸とさえ名を付ければ何でも納得してしまうので便利な性格でもある。
「元気になったばかりの所を早速で悪いのだが、毒笑いクラゲの毒を除去したい。出来るか?」
(出来ます。私とキスして頂ければそれで解毒となります)
クラゲはポッと全身を赤く染めながら解毒方法を述べた。あのクラゲ、一応女らしい。
「方法は分かった。だが、申し訳ないがどこが口だかまるで俺には分からん」
先輩は微妙に困った表情を浮かべている。360度どこから見ても同じに見えるクラゲの口がどこかなんて俺も分からない。
(でしたら、最近覚えた人化の法で人間に姿を変えてみますね)
クラゲの全身が光に包まれる。
その一瞬後、クラゲは女子高生ぐらいの年齢の美少女に変身していた。
大きな胸が特徴的で、セミロングの髪をポニーテールに結った、少し濃い目の垂れ気味の眉がチャームポイントの子だった。
残念なことに大事な部分はワカメが良い仕事して見られない。俺はこの時ほどワカメという存在を憎く思ったことはなかった。
「私、人間時の名前は甘木そよかぜと言います。よろしくお願いしますね」
別の漫画で6年後の先輩に惚れていそうな女の子っぽい名前だった。
「俺は守形英四郎だ。よろしくな」
「守形先輩ですね。改めて助けて頂いてありがとうぞございます」
クラゲ改めてそよかぜは先輩の首に腕を回して抱きつき、そして──
「お会いしたばかりですが……大好きです!!」
魔法天使な題名っぽいことを言いながら先輩にキスをした。
「英く~~ん。助けに来たわよ~~~~っ!!」
そよかぜが先輩にキスをしたのと、戦艦に乗り、大艦隊を指揮した会長が俺達を発見したのは同時だった。
「うふふふふふふふ~~っ!!!! 英くんを助ける為に世界中の海を捜索してみれば、また新しい女の子を毒牙に掛けていたなんて~~~。うふふふふふ~~~~っ!!!!」
タイムラグなしで艦隊から砲弾が雨あられと島に向かって撃ち込まれる。
「逃げるぞっ!! 智樹、そよかぜっ!!」
先輩は躊躇なくそよかぜの手を握って島の内部へと走り出す。
「先輩のそういう無自覚な行動が毎回会長を激怒させているんだって、いい加減に気付け~~っ!!」
文句を述べながら先輩に従って必死に走って逃げる。会長は俺が先輩の浮気と無関心と述べても聞く耳を持たないだろう。考えられる限り最も残忍な方法で俺をいたぶり殺すに違いなかった。
「だからあの時、ワンステップ置かないで龍に素直に体力全快にしてもらえば良かったのに~~~っ!!」
「過ぎたことを言うな。全ては新大陸へと近付く為だ」
「はいっ。守形先輩の言う通りです♪」
こうして俺たちはこの世全ての悪からの逃亡劇というサバイバル生活第2章へと突入することになった。
「伝承によれば火山神殿は海底神殿に繋がっているという。そして海底神殿には古代の宇宙船が隠されているという」
「やっぱり宇宙まで行かないと逃げ切れないのかよっ!」
「守形先輩にならどこへでもついていきますよ~♪」
俺達の本当の戦いはこれからだっ!!
了
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水曜更新。
今週は1話で、来週は2話分の更新になりそうです。
15巻を鑑賞……原作の鳳凰院キング義経が拙作に追いついた。
そうか、15巻以前ではこんな変態にはまだなっていなかったのか……。
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