No.466928 そらのおとしものショートストーリー5th あの子と海4 無口無表情っ子2012-08-08 01:26:12 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:1664 閲覧ユーザー数:1577 |
そらのおとしものショートストーリー5th あの子と海4 無口無表情っ子
「畜生……っ。どうしてこんなことになっちまったんだ……」
楽しいものになる筈だった海でのバカンス。
イカロスやニンフは勿論、日和や鳳凰院月乃なんかも呼んで皆でワイワイやるつもりだった。
おっぱいボインボインお尻プリンプリンの水着の美少女達に囲まれてうっはうっはのむっひょっひょのひと時を過ごすつもりだった。
ところがだ。
それぞれ都合がどうとかで1人欠け2人欠け、海に到着したのは当初の予定より大幅に少なかった。
たわわに実るおっぱいの量が減ってしまった。
だが俺に訪れた悲劇はそれだけでは終わらなかったのだ。
俺達は観光用ヨットに乗って大海原へと繰り出した。ところがいつものお騒がせメンバーがこともあろうに船内で喧嘩を始めた。
そして危険指数は超1級品である奴らはお約束的な展開として船に大穴を開けてくれた。沈み行く船体。俺は水面へと放り出され……運良く浮いていた丸太に捕まって事なきを得たが、その後気絶してしまった。で、現在……。
「こんな無人島に流れ着くなんて俺は漫画の主人公かっての~~っ!!」
綺麗な淡い青い色をした海に向かって大声で叫ぶ。
何と俺は漂流してどことも知らない無人島へ流れ着いてしまったのだ。前に1度、会長達に騙されてそはらと2人きりで無人島生活体験もどきをさせられたことはある。が、今回は正真正銘の本物だ。本当に無人島に流れ着いてしまった。
「……マスターっ! 口を動かしている暇があったら手を動かして下さいっ! 締め切りは待ってはくれないんですっ!!」
イカロスは鬼気迫る表情でみかん箱の上に置かれている原稿用紙にペンを走らせている。
そう、俺と一緒にこの島に辿り着いたのはイカロスだった。
イカロスとケイネスの野郎のはた迷惑な戦いの果てに俺はこの島に流れ着き、しばらくしてからフラフラの状態でイカロスは画材を抱えてこの島へと飛んで来た。
そして間もなく執筆作業に取り掛かったのだった。
「いや、こんな最果ての孤島で同人活動って言われてもなあ……」
いつまで生きていけるのかも怪しいこの何もない孤島で、ギラギラに照る太陽の下で執筆活動は正気の沙汰とは思えなかった。
「……夏コミの締め切りは3日後。この原稿を絶対に落とす訳にはいかないんです」
イカロスの瞳には熱い赤い炎が宿っている。俺の話を聞いてくれない。
「いや、この状況じゃ、本を作るのはちょっと無理がないか?」
「……全国の何万という清らかな心を持った腐った乙女達が私の本を待っているのです。たとえこの命尽きようとも本を完成させない訳にはいきませんっ!」
ここにいるのは人形のような機械天使ではなかった。血の通った1人の女子同人作家だった。頭に“腐”のつく。
「お前が同人活動に命を懸けるのはいい。だがな……なんでいつも書く本が俺が男達に滅茶苦茶に汚される本なんだあぁっ!?」
俺がベタ塗りを手伝っているページでは、俺が守形先輩に押し倒されて服をビリビリに破られている。そして襲われているのに何故かうっとり熱っぽい瞳で先輩を見つめている。
何だこの構図っ!?
そして何故こんな漫画をモデル本人である俺が手伝って仕上げなくちゃならんのだっ!? 俺はこんな漫画を描く事に許可を出した覚えなんかない。
「……私も若い頃はもっと色々なジャンルに手を広げてみたいという欲望を抱えていました。百合も大好きですし、NC(ノーマルカップリング)にもいずれ手を広げてみたいと思っていました」
「エンジェロイドは年を取らないんだろ!?」
俺のツッコミはイカロスに届かない。
「……でも、描いている内に気が付いたのです。私はまだ智樹総受けという1つのジャンルさえも全然描ききれていないと。総受けになったマスターの全てを描ききれていない私に気付いたのですっ! 本物の真正マスターを描ききれていない私にっ!」
「本物の俺は少しも男に興味がないからなっ! 俺はプリンプリンのボインボインな美少女が大好きだからなっ!」
俺のツッコミはイカロスに届かない。
「……マスターのエンジェロイドを名乗りながら、マスターの真実の姿1つ描くことが出来ない未熟な私をお許し下さい。でも、だからこそ精進に精進を重ねていつか完全なマスターをこの漫画用紙に描き出してみたいんですっ!」
「イカロスはどこにもいない俺を描こうと明後日の方向を突っ走っているだけだからなっ!」
俺のツッコミはイカロスに届かない。
「……そして、こんな未熟な私を支え応援してくれるファンが全国には、ううん、全世界に何万人といるのです。応援してくれる皆の為にも私は何を犠牲にしてでも本を完成させないといけないのですっ!」
「犠牲にする中に俺を含めるのはやめようぜ」
俺のツッコミはイカロスに届かない。
「俺も暑さで今にも死に掛けなんだが……イカロスの顔色も相当に悪く見えるぞ。休息が必要なんじゃないのか?」
イカロスの自己修復能力の高さは俺もよく知っている。そのイカロスをして作業する程に顔色が悪くなっていくというのは相当なことがコイツの体内で起きているのではないだろうか?
「……ロード・エルメロイさんとの戦いは熾烈を極めました。私の自己修復プログラムもそのほとんどが機能を停止しています」
「アイツ、変態だけど強いからなあ」
エンジェロイドと互角に戦う人間なんてどんな変態だっての。
「……今もロード・エルメロイさんの呪詛で幼女にハアハアしたくなる呪いが全身を駆け巡っています。それに対抗するべく、私も全身にマスター総受け妄想を駆け巡らせていることで防壁と成しています。ですが、この防壁構築で私の治癒能力は全て消費されてしまっています」
「幼女と男同士で張り合うよりも、まず体の方を治療しようぜっ!」
俺のツッコミはイカロスに届かない。
「……たとえ一瞬であれ、この身を幼女への想いに奪われ男同士の愛を忘れてしまうぐらいなら、この身の純潔を守ったまま死んだ方がマシです。私はBLと共に生き、BLと共に死ぬしかないのです」
「その死に俺まで巻き込むな~~~~っ!!」
俺のツッコミはイカロスに届かない。
「大体、こんな所でのん気に作業していたらシナプスに狙われるかも知れないだろ? パピ子やパピ美、シナプスのマスターの野郎がどんなちょっかいを出してくるか分かったもんじゃないぞ」
アイツらは事あるごとに俺達の行動を邪魔して来るからな。つい最近は海岸のゴミ拾いをクラス行事としてやろうと思ったら、何とアイツらは先回りして海岸のゴミを全部綺麗に回収して行きやがった。
他にも募金活動を行おうと思ったら、目標募金金額分の小銭が入った募金箱を学校に送りつけて募金活動を中止にさせるなど数限りない嫌がらせを仕掛けて来ている。この間なんて俺とイカロスの掃除当番さえも奪われた。シナプスのマスターの野郎がドヤ顔でほうきを持っていた。
無人島に漂着なんて絶好の反撃の機会をそんなアイツらが見逃す筈がない。
「……どうやら、来たようですね」
イカロスが手を止めないまま上を見上げた。
イカロスの視線の先には、既によく見知った敵であるパピ美とパピ子の姿があった。2人は手にキャリーケースを持っていた。
「イカロス先生っ! 原稿のお手伝いに来ました」
「へっ?」
パピ美の奴、一体何をほざいているんだ?
「……うん。ありがとう」
「はいっ?」
イカロスの奴、何故にそんなにあっさり受け入れているんだ?
2人のハーピーは島に降り立つと持って来た鞄を机代わりにして早速作業に取り掛かり始める。
何なんだ、この風景は?
「マスターはイカロス先生が締め切りに1分でも遅れた場合には本を刷らないことを何度も繰り返しています」
「……分かってる。私の命に代えてもこの原稿は時間内に仕上げてみせる」
「この戦、私も命を賭けてお供いたします」
「私もです。イカロス先生」
「……ありがとう。2人とも」
3人は全身から炎を吹き上げながら原稿と必死の格闘を続けている。
何なんだ、この風景は?
そして激闘の日々が始まった。
「イカロス先生。ここの、桜井智樹が巨大触手に襲われて白濁塗れになる場面ですが、資料が足りなくて触手が描けませんっ!」
「……マスターはここにいます。この近海には超巨大大王イカが生息しています。従ってこの問題を解決する方法はただ1つ。えいっ♪」
「俺を掴んで海に投げ入れるな~~っ! って、何で突然海面に巨大イカが……ぎゃぁあああああああああぁっ!? 触手が、宿主が俺の肌にぃいいいいいいいぃっ!!? 嫌ぁあああああぁ。俺の純情がぁああああああああぁっ!?」
「さすがはイカロス先生っ! 斬新にして的確な解法です。これで最高のポーズが描けます」
「……エッヘンです♪」
「イカロス先生。大変ですっ! ラジオで新作アニメ番組のチェックをしていた所、この島に超大型で波の強い台風が迫っているそうです。このままでは原稿がっ!」
「……ど、どうしよう。もはや私には台風をどうこうするだけの力は残っていません。このままではせっかく描いた原稿が全て台風に飛ばされてしまいます」
「台風1つ追い払えぬとは落ちたものだな、ウラヌス・クイーンよ」
「……シナプスのマスター……」
「何が起きようと俺はお前が締め切りを破ることを絶対に認めん。締め切りを守ること。それは如何なる種類の物書きにおいても絶対に守らねばならん絶対の規則だ」
「……はい」
「ですがマスターっ! 台風で原稿用紙を飛ばされてしまっては如何にイカロス先生といえども原稿を完成させることは出来ません」
「そうですよ。台風の中で原稿を完成させるなんて不可能です」
「貴様らが何と言おうと俺は締め切りを変えぬ。期間内に作品を仕上げろ」
「「そんなあ……マスターの鬼ぃっ!!」」
「だが、作家が締め切りに間に合うように最大限に執筆に専念出来る環境を整えることも印刷会社の責任者の当然の責務だ」
「……えっ?」
「台風は俺に任せろ。代わりにお前達は原稿を時間内に仕上げるのだ。良いなっ!」
「マスターが手に持っているのは、ダイダロスが暇潰しに作った台風吸い寄せマシーン“すいたいくん”。まさかそれで台風を自分に引き寄せてこの島から遠ざけるつもりなのですか!? 下手をすれば死んでしまいますよっ!」
「マスターはその機械を借りる為にダイダロスに頭を下げたのではないですか!? 靴を舐め、頭を足で踏まれたのではないですか?」
「フッ。俺がこの機械を借り受けた経緯などどうでも良い。俺が望むのはただ1つっ! 時間内に原稿が仕上げることだけだ。これ以上話すのは時間の無駄だ。俺はもう行く。絶対に落とすなよっ!」
「「ああっ! マスターが台風の中心地に向かって飛んでいくっ!!」」
「……パピ子、パピ美。今回の原稿、絶対に時間内に仕上げますよっ!」
「「はいっ!!」」
こうしてイカロス達の作業は続き……
「……完成ですっ!」
締切時間ギリギリで原稿は完成したのだった。
「……パピ子、パピ美。この原稿を印刷会社『しなぷす』までお願いします」
イカロスは全身をフラフラさせながら残った力で大事な原稿をパピ美に手渡す。
「今回の印刷では、この間の台風で行方不明になったマスターに代わってダイダロスが印刷を担当してくれるそうです」
「本は完成出来ますよ、イカロス先生っ!」
涙を流しながら大事に原稿を受け取る2人。
「……私はこのまま会場の設営を手伝いに向かうから、原稿の方をよろしくね」
「「はいっ!」」
パピ子とパピ美はシナプスにある印刷会社『しなぷす』に向かって飛び立っていく。
イカロスはハーピー2人が天に昇っていくのを見送ると海へと向き直った。
「……マスター。そういう訳で私はこれからビッグサイトに向かいます」
イカロスの視線の先には超巨大大王イカが海面から姿を現していた。数日前に智樹を触手攻めしたイカだった。
智樹がどうなったのかは知らない。原稿に夢中で、モデルとしての役目を終えた少年がどうなったのか確かめなかった。
なのでとりあえずこのイカを智樹の代わりとすることでイカロスの脳内議会は満場一致の可決を見た。
「……乙女達に夢を配り終えたら、いずれ戻って来てマスターを空美町へとお連れしたいと思います」
イカはイカロスの言葉に対して触手をうにょうにょと動かし続けている。イカロスはそれをイエスの合図と受け取った。
「……それでは私はこれより、文字通り日本で一番熱い戦場へと飛び込んでいきたいと思います。マスターもお元気で」
イカロスは体をふらつかせながらも優雅に空中へと飛び立っていく。
そして真っ白い翼をはためかせながら東京湾岸沿いの一角を目指して飛んでいく。
そんなイカロスを超巨大大王イカは触手をうにょうにょと動かしながら見送っていた。
そしてそんな少女とイカを桜井智樹とシナプスのマスターが大空から優しく見守っているのだった。
了
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今週末はコミケですね。
出掛ける方は暑さ対策を十分にして下さいね。
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