ブライト家に向かう街道、エリーズ街道の霧の範囲を調べ終わったエステル達はある建物が目に入った。
~エリーズ街道・メンフィル大使館前~
「あ…………」
エステルは自分にとっては馴染み深い建物――メンフィル大使館とその隣にあるアーライナ大聖堂が目に入り、思わず止まった。
「もしかしてあの建物がリウイ皇帝陛下達が住まわれるメンフィル大使館ですか?」
「ええ。隣にある建物は師匠自ら司祭として務めているアーライナ教の大聖堂よ。……数年前、師匠から魔術を教わっていた時、よく通っていたわ……」
クロ―ゼの疑問にシェラザードは遠い目をして、昔を思い出していた。
「フム。………前から思っていたんだが大使館を守っている兵達は他の大使館と違って、メンフィル兵だよね?やっぱり、大使の身分が違うからかね?」
オリビエは大使館を守っている兵達を見て、クロ―ゼに尋ねた。
「ええ、そう聞いています。帝位を退き、隠居しているとはいえ、リウイ陛下は皇族なのですし。」
「あれだけ若く、強くて隠居って………信じられないわ~。」
クロ―ゼの話を聞いたエステルは学園祭で見せたリウイの強さの片鱗やリウイの容姿を思い出し、驚いていた。
「ねえねえ、ママ!ツーヤちゃん達に会いにいこうよ!」
そこにミントが表情を輝かして尋ねた。
「………そうね。ヨシュアの事とかも話したいし、会いにいきましょうか!」
ミントに尋ねられたエステルは少しの間考えたが、やがて頷いた。
「しかし、そう簡単にメンフィルの姫君達に会わせてくれるのかな?忘れがちかもしれないが、彼女達は皇族だよ?」
「あ、それは大丈夫よ。なんたってこれがあるんだから!」
オリビエの疑問にエステルは懐から豪華な装飾をされた一枚の手紙を出した。
「……もしかして、リフィアさんかプリネさんが書いた紹介状ですか?」
エステルが懐から出した手紙を見て、クロ―ゼは驚いた表情で尋ねた。
「うん。王都でわかれる時、これをくれたんだ!そのお陰で、これをメンフィル兵に見せれば中に入れてくれるわ。……じゃ、行きましょうか。」
そしてエステル達は大使館の門番に近付いた。
「……ここはメンフィル大使館です。何か御用ですか?」
「えっと………リフィ……っとと。リフィア皇女殿下とプリネ皇女に用があって、来ました。」
メンフィル兵に尋ねられたエステルはいつもの調子でリフィアを呼び捨てにしようとしたが、すぐに言い直した。
「………失礼ですが、殿下達とはどういったご関係で?」
「友人です。……これがその証拠です。その手紙の内容を読んでくれれば、わかります。」
そしてエステルはメンフィル兵に手紙を渡した。
「拝見します。…………これは!…………少々お待ち下さい。」
エステルに渡された手紙を最初は首を傾げて受け取り、読み始めたメンフィル兵の1人は手紙の内容や手紙の最後に書かれてあるリフィアとプリネのサインや手紙を調べた時、印されてあるマーシルン家の紋章を見て驚き、急いだ様子で大使館の中に入って行った。
「へえ………エステル。あんた、リフィアさん達から紹介状を貰っていたのね。皇族直々が書いた紹介状なんて、滅多にないわよ?………今大使館に入った兵士、かなり驚いていたわよ。」
メンフィル兵を見送ったシェラザードは驚きの表情でエステルを見た。
「えへへ。……そう言えばシェラ姉は大使館や大使館の隣にあるアーライナ教の大聖堂に通って、魔術を教わっていたよね?もしかしてあたしが持っている手紙のような紹介状を聖女様からもらったの?」
「ええ。もしだめならこれを使おうと思っていたけど、いらぬ心配だったわね。」
エステルに尋ねられたシェラザードは懐から大事にしまってあるペテレーネの紹介状兼大使館に入る許可証を見せて、答えた。そして少しすると中に入ったメンフィル兵が戻って来た。
「お待たせしました。………申し訳ないのですがお二人とも大使館を留守にしていまして……」
「あ、そうなんですか。ちなみに2人は今、どこにいるんですか?」
メンフィル兵から紹介状を返してもらい、説明を聞いたエステルは若干残念そうな表情をした後、尋ねた。
「……申し訳ないのですが、お2人が今、どこにいるかを答える事は………」
エステルの質問をメンフィル兵が断ろうとしたその時
「――リフィアお姉様とエヴリーヌお姉様は本国で大事な会議のために、今は帝都――ミルスにいるわ。プリネお姉様はちょっと理由があって、クロスベルにいるわ。」
レンが大使館の中から出て来て、エステル達に近付いて答えた。
「レ、レン………!」
「レンちゃん!」
「ハッハッハ!……まさかこんなにも早く再会するとはね♪」
レンの登場にエステルやミントは驚き、オリビエは笑って答えた。
「うふふ、久しぶり……でもないわね、エステル、ミント♪それにクロ―ディア姫もようこそ、メンフィル大使館へ。」
驚いている様子のエステル達を見て小悪魔な笑みを浮かべたレンは両手でスカートの両端をつまみ上げて、上品に挨拶をした。
「兵士さん達もいつも見張り、ご苦労さま。ここからはレンが引き継ぐわ。」
「「ハッ!」」
レンに言われたメンフィル兵達は敬礼をした。
「………こうして見ると、やっぱりレンちゃんがメンフィル皇女という事を実感してしまいますね……」
「ええ。それにしてもあたしは数年前から通っていたのにどうして一度も会った事がなかったのかしら?」
クロ―ゼの言葉に頷いたシェラザードは昔を思い出して首を傾げた。
「うふふ、その頃のレンは色々学ぶ為に朝と夜の食事と就寝の時以外、ほとんど本国にいたらから、会う暇がなかっただけよ♪」
シェラザードの疑問にレンは上品に笑いながら答えた。
「………あの、レンちゃん。先ほどプリネさんがクロスベルにいるとおっしゃっていましたが………」
「うふふ、お姫様としては”不戦条約”の事を考えたら他人事ではないものね♪別に政治的な意味合いでプリネお姉様がクロスベルに行った訳ではないから安心していいわよ♪単なる私用だから。」
「ねえ、レンちゃん。………やっぱり、ツーヤちゃんもプリネさんと一緒に行っているの?」
「ええ。………まあ、用事も終わったって聞いたから、明日には帰って来ると思うわ。それよりどうするの?今、大使館にいるのはパパとママだけよ。よかったら会って行く?普通なら会えないけど、エステル達なら会ってくれると思うわ♪」
ミントの疑問にレンは少しの間考えた後、答えた後、エステル達に尋ねた。
「聖女様達が…………ねえ、みんな。どうしようか?」
レンの話を聞いたエステルは仲間達に尋ねた。
「ミントは何でもいいよ!」
「………あたしはせっかくロレントに寄ったのだから師匠に挨拶しておきたいわ。」
「……あの、できれば私も、リウイ陛下達にご挨拶をしておきたいので……」
「そっか。オリビエは………答えを聞かなくてもわかるわね………」
「フッ。エステル君もわかっているじゃないか♪」
仲間達の意見を聞いたエステルはオリビエを見た後、溜息を吐いた後、オリビエを睨んだ。
「言っとくけど………いつもの調子で聖女様に話しかけたら承知しないからね!」
「その時はあたしもしっかり、お仕置きしてあげるわ♪」
「ハイ、わかりました………」
「クスクスクス。話は纏まったようね。じゃあ、レンが案内してあげるわ。」
エステルとシェラザード、オリビエのやり取りを見て小悪魔な笑みを浮かべていたレンはエステル達を大使館の中に招き入れ、リウイの執務室まで案内した。
~メンフィル大使館内・リウイ大使の部屋~
エステル達と共にリウイがいる部屋まで来たレンは扉をノックした。
コンコン
「………誰だ?」
「お仕事、ご苦労さま。パパ♪エステル達が訪ねて来たから、通してもいいかしら?」
「………何?………わかった。今は休憩中だし、通しても構わん。」
「は~い。」
部屋の主――リウイの返事を聞いたレンはエステル達に振り向いた。
「うふふ……パパ達と会う覚悟はできたかしら?」
「覚悟も何もって、プリネや貴女の両親に会うだけでしょーが。なのになんで覚悟とか必要なのかしら?」
「そうだよね?どうして??」
レンに言われたエステルは呆れた後、溜息を吐き、ミントは首を傾げた。
「うふふ、そう思っているのはエステルとミントぐらいよ?」
「へ?」
レンの指摘に首を傾げたエステルが仲間達を見ると、それぞれ緊張している様子だった。
「み、みんな、どうしたの?なんか固いわよ?」
「ハァ………あんた達が羨ましいわ………今から会うのはあの”覇王”よ?何度か会った事があるけど、どうしても緊張してしまうわ……」
「はい。……シルヴァン陛下とは比較にならないほどの”覇気”をここからでも感じてしまいますよ……」
「フッ。………さすがはエステル君だね。」
「そんなに緊張する事、ないと思うんだけどな~。それじゃあ、失礼しま~す!」
そしてエステル達はリウイがいる部屋に入った…………
Tweet |
|
|
2
|
1
|
追加するフォルダを選択
第229話