プリネがパラスケヴァスを使い魔にしたその頃、エステル達はボースに向かっていたが、飛行船がロレントに寄った時、今まで見た事がない濃霧が発生し、飛行船は無事着陸したが濃霧が晴れない限り飛行船の出航も見合わせる事や結社の”実験”の可能性が非常に高いと感じたエステル達はロレントで調査する事を決め、ギルドに向かった。
~遊撃士協会・ロレント支部~
「ふふ、まさかこんな時にあなた達が来てくれるなんて。確かボース支部に向かう途中だったのよね?」
エステル達がギルドに入るとロレント支部の受付――アイナが笑顔で出迎えて、確認した。
「ええ、その通りよ。狙ったタイミングで足止めを食らっちゃたわ。」
シェラザードは溜息を吐き、苦笑しながら答えた。
「おかげでウチはとっても助かったけどね。それにしても……エステルと会うのは訓練場に行く時以来かしら?新しい仕事用の服もだいぶ板に付いたみたいね。」
「そ、そっかな……」
アイナに褒められたエステルは照れた。
「ミントも最初見た時は、本当に大丈夫かなと思った事があったけど、訓練所に行く前までの仕事ぶりや訓練場での経験、そして今までの活躍を聞く限り、どうやら私の杞憂だったようだわ。もう、推薦状も3枚あるようだし、この調子なら正遊撃士になる日も近いようで、期待しているわ。」
「えへへ~。」
同じように褒められたミントは笑顔で照れていた。
「ジンさん、クローディア殿下、ティータさんとは初めてよね?私、ロレント支部の受付を務めるアイナといいます。よろしくお願いしますね。」
「はい、こちらこそ。」
「あのあの……よろしくお願いします。」
「はは、お前さんの噂は色々と聞かせてもらってるよ。」
アイナに自己紹介されたクロ―ゼは軽く会釈をし、ティータはペコリとお辞儀をし、ジンは豪快に笑いながら答えた。
「あら……そうなんですか?ところでオリビエさん。そんな所でどうしたのかしら?」
ジンの言葉に首を傾げていたアイナだったが、依頼状が貼ってある掲示板に隠れているオリビエに話しかけた。
「ハッハッハッ……き、気にしないでくれたまえ。決してあの夜のことがフラッシュバックするとかそういう訳ではないんだからね?」
「???」
焦り、笑顔ながらどこか恐れている様子のオリビエをアイナは不思議がった。
「ふふ……そっとしておいてあげなさい。そういえばアガットはアイナと面識あるのよね?」
「まあな。ロレントにはあまり寄らねぇから何度か会った程度だが。」
シェラザードに尋ねられたアガットは頷いて答えた。
「ふふ、今回はよろしくね。挨拶はこれくらいにして早速、状況を説明させてくれる?」
「ええ、お願いするわ。」
「……霧が発生したのは今日の明け方くらいになるわ。最初はうっすらとモヤがかかった程度だったけど……みるみるうちに濃くなって視界を遮(さえぎ)るほどになったの。」
「どういう原因で発生したのか現時点では分かりませんか?」
アイナの説明を聞いたクロ―ゼは不安そうな表情で尋ねた。
「ええ、今のところは。ロレント市の全域を覆っているのは確かですが……」
「霧にも色々種類があるからな。沖合いで発生して海岸に流れてくるものもあれば、盆地で発生するものもある。」
「ふむ……王都地図を見るとロレントは盆地にあるようだね?」
ジンの話を聞いて頷いたオリビエはアイナに確認した。
「ええ、どちらかと言うと。単なる自然現象である可能性も否定できないわね。」
「どちらにせよ……警戒はした方がいいみたいね。ボース行きは中断してこのままロレント地方で様子を見た方がいいんじゃないかしら?」
「その方が良さそうだな。どのみち霧が晴れるまでは定期船も動かねぇみてえだし。」
シェラザードの提案にアガットは頷いて答えた。
「あ……その……」
その時、エステルが遠慮気味な様子で口を開いた。
「ママ?」
「なんだ、エステル?」
エステルの様子にミントは首を傾げ、アガットは尋ねた。
「例の空賊事件はどうするのかなって……」
「そいつは元々、他に手がかりがなさそうだから調べてみようって話だっただろ?調査自体は王国軍がやってるし、俺たちが無理に行く必要はねぇだろ。」
「で、でも……」
「……なんだ。気になることでもあるのか?」
様子がおかしいエステルにアガットは目を細めて尋ねた。
「あ、ううん……。そういうわけじゃないんだけど。でも……あたし……」
「……エステル。あんたの心当たりが何なのかは知らないけど……少し冷静に考えてみなさい。」
「え……?」
シェラザードの指摘にエステルは呆けた。
「空賊艇の奪還事件はある意味、終わった事件よ。人質が取られたのならともかく、ギルドが動く緊急性もない。そもそも空賊がボース周辺に留まっている可能性も低いしね」
「そ、それは……」
「一方、こっちの異常現象は今、起こりつつある事件だわ。もしも『結社』の仕業だったらさらに何か起きる可能性もある。ロレントはリウイ皇帝陛下や師匠を初めとする、強者揃いが住むメンフィル大使館があるとはいえ、基本、国内の事情に関しては不干渉。さあ……どちらを取るのが正しいの?」
「………………………………………………………………」
「……エステルさん。」
シェラザードに選択を迫られ黙っているエステルをクロ―ゼは心配そうな表情で見ていた。
「あ、あの、シェラさん!たぶんお姉ちゃんにも事情があるんだと思うんです。だから、その……」
「そうだよ!ティータちゃんの言う通り、ママは事情があって空賊さん達を調べたいって、ミントは思うの。だから………」
エステルの様子を見かねたのかティータとミントはエステルをフォローしようとしたが
「……ううん、ティータ、ミント。シェラ姉の言う通りだわ。」
「お姉ちゃん……」
「ママ……」
他ならぬエステルに制された2人は言葉を続けるのをやめ、エステルを見た。
「ゴメンね、シェラ姉……。あたし、ちょっと周りが見えていなかったみたい。」
「謝ることなんてないわ。周りが見えなくなることは誰にだってあることだしね。あたしだってそうだし、そこのアガットなんて特にね。」
「んだとォ?」
からかうような表情で例えに出されたアガットは心外そうな表情でシェラザードを見た。
「でも、己を見失わずに常に最善の道を捜索するのも遊撃士には必要な心構えよ。言うは易し、行うは難しなんだけどね。」
「そのあたりに関しては俺もまだまだ修行中の身だな。旦那の足元にも及ばんだろう。」
「そ、そうなの!?」
「お祖父ちゃんって、本当に凄いんだ……!」
ジンの話を聞いたエステルは驚き、ミントは表情を輝かせた。
「どんな逆境でも己を見失わずユーモアすら漂わせる芯の強さ……。以前、旦那がカルバードに来た時、何度も死地を助けられたもんだぜ。」
「そうなんだ……」
「まあ、あのオヤジの域なんざ簡単に届くわけはねぇからな。俺たちは俺たちなりに一歩ずつ進むしかねえだろう。」
「うん……そうだね。アイナさん、ごめん。話を脱線させちゃって。」
アガットの励ましの言葉に頷いたエステルはアイナに謝った。
「ふふ、いいのよ。それでは話を進めさせてもらうけど……。現時点であなたたちに要請したい仕事は特にないの。何か起こった時のために待機してくれるだけでいいわ。家で待っててくれてもいいのよ?」
「あ、うん。家には戻るつもりだけど……。それ以外に気を付けておくことってない?」
アイナの提案に頷いたエステルは尋ねた。
「うーん、そうね。強いて言うなら、街道の様子を調べてきてほしいくらいかしら。」
「街道の様子を調べる?」
アイナの頼みにエステルは首を傾げた。
「さっきも言った通り、霧はロレント市全域を覆っているんだけど……町外れの方にも結構、広がっているみたいなの。今後のことを考えると発生範囲がどのくらいか知っておきたいのよね。」
「ふむ、このまま定期船が使えない状態が続けば陸路を確保する必要があるわけか。」
「ええ、そういうこと。南のエリーズ街道、西のミルヒ街道、北のマルガ山道。この3つの道で、どこまで霧が続いているか確かめてきてくれる?」
「了解。そのくらいお安い御用だわ。」
アイナの依頼にシェラザードは頷いた後、仲間達に振り向いた。
「さて、そうなると……。今回は、あたしとエステルが案内役になった方がいいみたいね。」
「うん、そうね。ロレント地方なら大体知ってるし。」
「仕方ねぇ……とっとと同行者を選びな。」
そしてエステルは同行者にクロ―ゼ、オリビエ、ミントを選んだ。
「はあ……それにしても凄いわね。知り尽くしている町なのに迷っちゃいそうな気がするわ。……ミント。迷子にならないよう、あたしと手を繋ごう?」
「うん!」
ギルドを出たエステルは霧だらけで周りがあまり見えない様子に溜息を吐いた後、ミントと手を繋いだ。
「そうならないように地図とコンパスがあるのよ。方向を見失ったら参照しながら進みましょう。」
「うん、そうね。とりあえず、それぞれの道で霧の範囲を調べるとして……。クローゼ、オリビエ。一度、家の様子を確かめに行ってもいいかな?」
「はい、お付き合いしますね。」
「フッ。ご招待にあずかるよ♪」
「えへへ~。お祖母ちゃんに会うのも久しぶりだな~。」
エステルの提案にクロ―ゼやオリビエは頷き、ミントは嬉しがった。
「さてと……。それじゃあ出発するわよ。」
そしてエステル達は霧の調査を始めた…………
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第228話