地下を探索したエステル達はどんどん進んで、一番奥に到着するとそこに一人の人物がいた。
~旧校舎・地下・奥~
「あ…………!」
エステルは奥にいた人物の姿を見つけると驚いて声をあげた、その人物の姿は数々の目撃者達が見た白いマントを羽織った人物だった。
「影もあるようだし、幽霊じゃあなさそうだが……。てめえ……何者だ!?」
「フフフ……」
アガットの叫びに白いマント姿の人物は笑いながら、エステル達に振り返った。
「ようこそ、我が仮初めの宿へ。歓迎させてもらおうか。」
「か、仮面……?」
「お兄さん、なんで顔を隠しているの??」
「エステルさんやポーリィちゃんの目撃情報と同じですね……。あなたがルーアン各地を騒がしていた『影』の正体ですか?」
白いマント姿の人物が仮面をかぶっていることにエステルは驚き、ミントは仮面をかぶっている事に首を傾げ、クロ―ゼは今までの情報を整理して真剣な表情で尋ねた。
「フフ……。その通りだ、クローディア姫。お目にかかれて光栄だよ。」
「え!?」
「こ、こいつ……なんでクローゼの正体を!?」
マント姿の人物がクロ―ゼの正体を知っている事にミントとエステルは驚いた。そしてエステル達の様子を見て、不敵に笑った後マント姿の人物は自己紹介をした。
「フフ……。私に盗めぬ秘密などない。改めて自己紹介をしよう。『執行者』NO.Ⅹ。『怪盗紳士』ブルブラン―――『身喰らう蛇』に連なる者なり。」
「『身喰らう蛇』……!」
「…………チッ!…………」
『白い影』の正体――ブルブランが自分達が追っていた組織の幹部という予想外の人物の登場にエステル達は驚いた後、後ずさりして警戒した。
「フフ、そう殺気立つことはない。私はここで、ささやかな実験を行っていただけなのだ。諸君と争うつもりは毛頭ない。」
エステル達の様子を見たブルブランは口元に笑みを浮かべて答えた。
「じ、実験……?」
ブルブランの言葉に首を傾げたエステルだったが、ブルブランの後ろにある黒いオーブメント――ゴスペルを見つけた。
「そ、それは……」
「リシャール大佐が使っていた漆黒の導力器『ゴスペル』……」
「しかもどうやら……あれより一回り大きいみたいだね。」
「本当だ………前のと比べたら大きい…………」
見覚えのあるオーブメント――ゴスペルを見て、エステルやクロ―ゼは驚き、オリビエとミントは以前のゴスペルと比べて大きい事に気付いた。
「ふむ、『彼』の報告通りこれの存在は知っているか。この『ゴスペル』は実験用に開発された新型でね。今回の実験では非常に役に立ってくれたのだよ。」
「実験……。いったい何の実験だ?」
ブルブランの話を聞いたアガットはブルブランを睨みながら尋ねた。
「フフフ……。百聞は一見に如(し)かずだ。実際に見ていただこうか。」
アガットに睨まれたブルブランだったが気にもとめず、ゴスペルが置いてある装置らしき所についているスイッチを押した。すると浮いていて、透けているブルブランの映像がエステル達の目の前に現れた。
「ゆ、幽霊……!」
「お化けさん!?」
「いや、その装置を使って空間に投影された映像のようだね。そんな技術が確立されているとは寡聞にして聞いたことはなかったが。」
透けて浮かんでいるブルブランの映像を見て幽霊と思ったエステルとミントだったが、オリビエが否定した。
「これは、我々の技術が造りだした空間投影装置だ。もっとも、装置単体の能力では目の前にしか投影できないが……。『ゴスペル』の力を加えるとこのようなことも可能になる。」
『ゴスペル』から黒い光があふれだすと、ブルブランの映像が急にエステルたちの後ろに移動した。
「きゃっ……!?」
「わわっ……」
「ひゃぁっ!?」
いきなり自分達の後ろに現れたブルブランの映像を見て、エステル達は驚いた。そしてブルブランの映像はエステル達の周りを何周か廻った後、ブルブランの元に戻り、ブルブランがスイッチを押すと映像は消えた。
「―――とまあ、こんな感じだ。フフ、ルーアン市民諸君にはさぞかし楽しんでもらえただろう。」
「チッ……。つまり、単なる悪ふざけだったわけか。」
「そうだよ!あなたの悪戯のために、ルーアンの人達が怖がっているんだよ!?」
ブルブランの言葉を聞いたアガットとミントはブルブランを睨んだ。
「悪ふざけとは人聞きが悪い。選挙で浮かれる市民たちに贈るちょっとした息抜きと娯楽……。そんな風に思ってくれたまえ。」
アガットとミントの言葉を聞いたブルブランは心外そうな様子で答えた。
「カ、カラクリはわかったけど……いったいどうしてこんな事をしでかしたのよ!?『身喰らう蛇』って……いったい何を企んでいるわけ!?」
ブルブランの話を聞き、呆れながら納得したエステルはブルブランを睨んで叫んだ。
「フフ……それは私が話すことではない。私が、今回の計画を手伝う理由はただ一つ……。クローディア姫―――貴女と相見(あいまみ)えたかったからだ。」
「えっ……?」
ブルブランに名指しをされたクロ―ゼは驚いた。
「市長逮捕の時に見せた貴女の気高き美しさ……。それを我が物にするために私は今回の計画に協力したのだ。あれから数ヶ月―――この機会を待ち焦がれていたよ。」
「え、あの、その……」
ブルブランの話を聞いたクロ―ゼは何の事かわからず、戸惑った。
「……市長逮捕って、ダルモア市長の事件よね。な、何であんたがあの時のことを知ってるのよ!?」
「フフ、私はあの事件の時、陰ながら君たちを観察していた。たとえば……このような方法でね。」
エステルに尋ねられたブルブランは一瞬で執事の姿に変えた!
「ええっ!?姿がいきなり変わった!?」
「まさかあの時いたダルモア家の……!?」
いきなり姿を変えたブルブランを見てミントは驚き、クロ―ゼは察しがついて信じられない表情で変装したブルブランを見た。そしてブルブランはまた一瞬で元の仮面と白マントの姿に戻った。
「怪盗とは、すなわち美の崇拝者。気高きものに惹かれずにはいられない。姫、貴女はその気高さで私の心を盗んでしまったのだよ。他ならぬ怪盗である私の心をね……。おお、何という甘やかなる屈辱!如何にして貴女はその罪を贖(あがな)うおつもりなのか?」
「あ、あの……。そんな事を言われても困ります。」
「この自分に酔った口調……てめえにソックリじゃねぇか?」
ブルブランの芝居がかかったようなセリフにクロ―ゼは戸惑い、アガットは呆れた表情でオリビエに尋ねた。
「失敬な……。一緒にしないでくれたまえ。」
アガットに尋ねられたオリビエは心外そうな表情で答えた。
「フフ………欲を言えば、かの”姫の中の姫(プリンセスオブプリンセス)”とも相見(あいまみ)えたかったところだが、以前と違って彼女は君達の傍にいないようだからね。………非常に残念だ。」
「『身喰らう蛇』。何か思っていたのと違うけど……クローゼが狙いと聞いたらなおさら放っておけないわね!おまけにプリネまで狙いなんて、絶対に許せないわ!」
「そうだよ!クロ―ゼさんはミントやツーヤちゃんにとっても大事なお姉さんなんだから!それにプリネさんはツーヤちゃんがずっと待ち焦がれていた”パートナー”なんだから、絶対にあなたなんかに渡さない!」
「エステルさん、ミントちゃん………」
ブルブランの話を聞き、勇ましく武器を構えるエステルとミントをクローゼは心強く思った。
「協会規約に基づき、不法侵入の容疑で拘束する。『ゴスペル』のことも含めて色々と喋ってもらうぜ。」
そしてエステル達に続くようにアガットも武器を構えて、ブルブランを睨んで宣告した。
「やれやれ……。何という無粋な連中であろう。相手をしてやってもいいがせっかく選んだこの場所だ……『彼』に相手してもらおうか。」
「なに……?」
ブルブランの言葉に訳がわからず、アガットは首を傾げた。そしてブルブランは指を鳴らした!
パチッ!!
ブルブランが指をならすと地面が揺れ動きだした。
「な、なんなの……?」
「ふえっ……!?」
「ふむ……。イヤ~な予感がするねぇ。」
そしてエステル達が横を向くと、横にあった大きな扉が開き、そこからトロイメライをも超える大型の人形兵器が現れた!
「な、なにコイツ!?」
「甲冑の人馬兵!?」
「フフ、どうやら『彼』はこの遺跡の守護者のようでね。半ば壊れていたところを私が親切にも直してあげたのだ。せっかくだから君たちが相手をしてあげるといい。」
人形兵器の登場に驚いているエステル達にブルブランは得意げに説明した。
「じょ、冗談じゃないわよ!」
「……来るぞ!」
そしてエステル達は遺跡の守護者――ストームブリンガーとの戦闘を開始した……………!
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第195話