~女王宮内~
カノーネ達を倒した後、入口を守っていた特務兵を一瞬で倒したエステル達は女王がいるはずの女王の寝室に向かおうとした時、特務兵に守られながら歩いて来る今回のクーデターでリシャールに王座につけるという言葉にまんまとのせられた女王の甥ーーデュナン公爵が通りかかり、エステル達を見て驚いた。
「は、反逆者ども!のこのこと来おったな!?私を新たなる国王と知っての狼藉か!?」
「冗談は髪型だけにしなさいよ。あんた、まだ国王になったわけじゃないでしょ!」
「そうだよ!それにおじさんが王様になっても、誰も喜ばないよ!」
「な、なぬう!?」
デュナンはエステルとミントの言葉を聞いて、怒った。
「デュナン公爵閣下ですね。私たちは遊撃士協会の者です。クローディア殿下の依頼で女王陛下の救出に来ました。大人しくそこを通してくれるとこちらも助かるんですけど。」
シェラザードは公爵にその場をどくよう笑顔で警告した。
「ク、クローディアだと!?あの小娘……余計なことをしおって!!」
「デュナン小父(おじ)様……。もう、終わりにしてください。小父様はリシャール大佐に利用されていただけなんです。」
「な、何だそなたは……。………………………………」
見知らぬ少女に小父と呼ばれた公爵はわけがわからず、クロ―ゼをじっとよく見てある人物に似ている事に気付いた。
「ク、ク、ク、クローディアではないか!なんだその髪は!?その恰好は!?」
デュナンはクロ―ゼを指差しのけ反りながら驚いて叫んだ。
「やっと気付いたのか……。こりゃ、ルーアンで会った時も気付いてなかったわけだわ。」
エステルはデュナンの様子を見て呆れて溜息を吐いた。
「よく判らないけど、ずいぶんと抜けた人みたいね。」
「典型的な貴族の小物ですわね。」
「この様子だと私の事も知らなさそうね。」
「あの、黙っていた私が悪かったんだと思います……それにカーリアン様を知らないのは仕方がないと思います。カーリアン様はリベールとメンフィルの会談にはいらっしゃいませんでしたから……」
シェラザードとニルのデュナンに対する低い評価や呆れている様子のカーリアンを見て、クロ―ゼは公爵を少しだけ庇ったが、色々言われた公爵は怒りの表情で叫んだ。
「こ、この私をよくもたばかってくれたな!これだから女という生き物は信用がおけんのだ!小狡(ずる)く、狭量で、ささいな事ですぐ目くじらを立てて……。そんな下らぬ連中に王冠を渡してなるものか!」
「………………………………」
「………………………………」
「………………………………」
「………………………………」
「……………む~……………」
「…………へ~………………」
その時空気が凍りエステル、シェラザード、ニルからは無表情で、クロ―ゼは困ったような表情で、ミントは頬を膨らませ、カーリアンは口元に笑みを浮かべていたが、目は笑っていない表情でデュナンを見た。
「……え……その…………」
6人から無言のプレッシャーを受けた公爵は思わず言い淀んだ。
「か、閣下……。今のはマズイのでは……」
「あ、謝った方がいいかと……」
嫌な予感を感じた特務兵達は公爵に謝るよう促したが
「ふーん……下らない連中か……」
エステルは笑顔だったが目が笑っていなく
「いやはや、見直したわ。このご時世に、しかもこのメンツにそんな事を言うなんて大した度胸がある発言ね……」
シェラザードも同じ表情で
「フフ………その言葉、ファーミやリフィア達の前でも言って貰ってもいいかしら?」
カーリアンも同じような表情で
「性別で差別するような愚か者には天罰が必要ですわね………」
ニルは連接剣の刃を鞭のように地面に叩きつけた後、切っ先をデュナンに向けて、睨み
「……クロ―ゼさんのおじさんだから、酷い目には会わせるつもりはなかったけど………ミント、怒ったから許さない!」
ミントもニルのように剣の切っ先をデュナンに向けて、睨み
「ご、ごめんなさい小父様。今のはちょっと……弁護できそうにありません。」
クロ―ゼは申し訳なさそうな表情で謝り、エステル達と共にデュナン達に向かって攻撃した。そしてエステル達の怒りを受けたデュナンを守っていた特務兵達はエステル達が出す怒りのオーラに悲鳴を上げながら、一瞬でボロボロにされて気絶させられ、無事なのはデュナンだけになった。
「はい、一丁上がりと!さーて、お次は公爵さんの番かしら?」
エステル達がデュナンを見ると、エステル達を恐れて徐々に後退していた。
「女ごときが振るう鞭の味、味わってもらおうかしらねぇ?」
シェラザードは鞭を構え
「あ~!思い出した!おじさん、ママやクロ―ゼさんが参加した劇に出て来た悪者だ~!悪者は退治しなくちゃ、駄目だね!」
ミントはデュナンが学園祭の劇を邪魔した張本人である事に気付いて、剣を構え
「さて………と。天罰を下す時間のようね?」
ニルは片手に光の玉を収束し始め
「”戦妃”を侮辱した罪……重いわよ♪」
カーリアンは双剣を構えた。それを見たデュナンは悲鳴をあげた。
「ひ、ひええええええ……。寄るな、寄らないでくれええ!」
「あ、あの……。そのあたりで許してあげては……」
悲鳴をあげているデュナンをさすがに可哀想と思ったクロ―ゼは遠慮がちにデュナンを許すよう言った。
「くっ、こうなったら陛下を盾にするしか……。……ええい、ままよ!」
そしてデュナンがエステル達から逃げて女王を人質にしようと、走り出した時、階段の手すりに顔を思いっきりぶつけてしまった。
「ぎゃうっ……」
手すりに思いっきりぶつかってしまったデュナンは呻き声をあげた後、気絶した。
「あちゃあ……。ちょっと脅しすぎたかも。」
エステルは気不味そうな顔をした。
「まあ、邪魔したのは事実だし、いい薬になったんじゃない?」
「そうだよ!」
「当然の報いね!」
「フフ……ま、面白いぐらい怖がってくれたから、許してあげるわ♪」
シェラザード達は同情している様子はなかった。
「はい……。不幸な事故だと思います。でも、気絶した小父様をこのままにしておくわけにも……」
クロ―ゼは気絶したデュナンをどうしようか悩んでいた所
「……こ、公爵閣下!?」
フィリップが慌てた様子でデュナンに近寄った。
「あ、フィリップさん!」
エステルはフィリップを見て声をあげた。
「エステル様……。それにクローディア殿下……。それに貴女はカーリアン様!この度は、我が主が迷惑をおかけして申しわけありません!全ては、閣下をお育てしたわたくしの不徳の致すところ……。どうか、これ以上の罰はわたくしめにお与えくだされ!」
フィリップはエステル達に向かって頭を深く下げた。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
頭を下げられたエステルはどうすればいいかわからず慌てたが
「フィリップさん……どうか頭をお上げください。私たちは、お祖母さまを……陛下をお助けしに来ただけです。もとより、小父様に何もするつもりはありません。どうか、私の部屋で小父様の手当てをしてあげてください。」
「で、殿下……」
エステル達の代わりにクロ―ゼが寛大な処置を命じた。
「実際、大した傷はないわ。ぶつかったショックで気絶しているだけだから大丈夫。」
「ミント、もう怒っていないよ!」
「面白いものが見れたから、別にいいわよ♪」
「みなさんが許しているのだから、天使のニルが怒るわけにもいきませんわ。」
「み、皆様……本当にありがとうございます。このご恩、決して忘れませんぞ!」
エステル達の寛大な心に感動したフィリップはデュナンをクロ―ゼの部屋へ運んで行った。
「カノーネ大尉!?しっかりして下さい!おい、こっちにも侵入者がいるぞ!」
その時特務兵の声が女王宮の外から聞こえて来た。
「げっ。気付かれちゃったわ!」
「不味いわね………女王陛下を守っている特務兵もいるかもしれないから、下手したら挟み撃ちにあうわ。」
特務兵の声を聞いたエステルは焦った。シェラザードも難しそうな表情で考え込んだ。
「しょうがないわね……私が相手をしてあげるから、貴女達は先に行きなさい。」
「一人だと撃ち漏らす事があるかもしれないし、ニルも付き合うわ。」
そしてカーリアンとニルが援軍の特務兵達の相手をする事を申し出た。
「わかった!」
「お願いします!」
カーリアンとニルに援軍の特務兵達の相手を任せたエステル達は再び女王の元へ急いだ。急いで女王の部屋に入ったエステル達だったが、そこには誰もいなく奥のテラスにいる可能性も考え、テラスに向かった。
~女王宮・テラス~
「お祖母さま、大丈夫ですか?」
「助けに来ました、女王様!」
「クローディア……。それにエステルさんも……」
テラスにいたリベール国王、アリシア女王は助けに来た人物を見て複雑な表情をした。なぜなら
「ようやく来たか……。待ちくたびれてしまったぞ。」
自分が逃げないよう監視していた兵が、特務兵の中でもリシャール大佐以上の実力を持つと囁かれている仮面の男ーーロランス少尉がエステル達と戦うつもりてあったからだ。
「ロ、ロランス少尉!どうしてこんな所に……」
ロランスを見たエステルは驚いた。
「あ~!!先生とカルナさんを襲った人だ!!」
またミントはロランスを見て、テレサやカルナを襲った人物の一人である事に気付いた。
「フフ……。私の任務は女王陛下の護衛だ。ここにいても不思議ではあるまい?」
「ふ、ふざけないでよね!いくらあんたが腕が立ってもこっちは4人もいるんだから!」
ロランスの言葉に反応したエステルは強がりを言った。
「なに、こいつ……。ずいぶん腕が立ちそうね。いったい何者なの?」
シェラザードはロランスの正体を知っていそうなエステルに何者か尋ねた。
「情報部、特務部隊隊長。ロランス・ベルガー少尉!もと猟兵あがりで大佐にスカウトされた男よ!」
「ほう、そこまで調べていたか。さすがはS級遊撃士、カシウス・ブライトの娘だ。」
「!!!」
「外部には公表されていない先生のランクを知っているなんて……。こいつ、タダ者じゃないわね。」
シェラザードは遊撃士協会内部の情報まで手に入れているロランスを最大限に警戒した。
「フフ……。お前のことも知っているぞ。ランクC、『風の銀閃』シェラザード・ハーヴェイ。近々、ランクBに昇格予定らしいな。」
「………………………………」
ロランスの不敵な笑みを見て、シェラザードはロランスを睨んだ。
「そこの少女に関しても知っているぞ。マーシア孤児院出身の”闇夜の眷属”の少女、ミント。近々、ブライト家の一員として、ロレント市民に登録されるらしいな。」
「………………………………」
ロランスに見られたミントはシェラザードと同じように睨んだ。
「あ、あの……。お祖母さまを返してください。もしあなたが大佐に雇われただけなのならもう戦う理由などないはずです。」
エステル達がロランスを警戒する中、クロ―ゼはロランスに女王を解放するように嘆願した。
「この世を動かすのは目に見えている物だけではない。クオーツ盤だけを見ていては歯車の動きが判らぬように……」
「え……」
突如ロランスが語り出したことにクロ―ゼはわけがわからなかった。
「心せよ、クローディア姫。国家というのは、巨大で複雑なオーブメントと同じだ。人々というクオーツから力を引き出すあまたの組織・制度という歯車……。それを包む国土というフレーム……。その有様を把握できなければあなたに女王としての資格はない。」
「!?」
ロランスの意味深な言葉にクロ―ゼは何か大事なことを言われたと気付き、それを必死に考えた。
「面白い喩(たと)えをするものですね。ですが……確かにその通りなのかも知れません。まさか、この場で国家論を聞くとは思いませんでしたけれど……」
ただ一人、女王だけはロランスの言葉を理解し、その言葉を重く受け止めた。
「フ……これは失礼した。陛下には無用の説法でしたな。」
それを聞きロランスは口元に笑みを浮かべた。
「な、なんかよく判らないけど……。要するに、女王様を解放する気はないってわけね。」
エステルは何がなんだか理解できなかったがロランスが女王を解放する気ではないと思い、棒を構えいつでも戦えるようにした。
「だとしたら……どうする?」
「決まってる……。力ずくでも返してもらうわ!」
ロランスの挑発ともとれる言葉にエステルは強く言い返し
「そうね……。ここまで来て後には引けない。」
「孤児院を燃やし、先生を襲って、みんなを悲しませた事………ミント、絶対に許さない!みんなに代わって、みんなの悲しみと怒りをお兄さんにぶつけてやっつける!」
シェラザードとミントはエステルの言葉に呼応するようにそれぞれロランスと戦う意思を告げ
「あなたからは敵意は感じられませんけど……。お祖母さまを取り戻すためなら剣を向けさせていただきます!」
クロ―ゼもレイピアを構えてロランスと戦おうとした。
「フフ、いいだろう……。ならば、こちらも少し本気を出させてもらうぞ。」
「え……!?」
エステルがロランスの言葉に驚いているとロランス少尉が仮面を放り投げて素顔を出した。
「………………………………」
「……銀髪……」
エステルは髪の色に驚き
「いや……アッシュブロンドね……。どうやらこいつ……北方の生まれみたいだわ。」
シェラザードはロランスの容姿を見て出身地を予測した。
「フフ……。北であるのは間違いない。まあ、ここからそれほど遠くはないがな。」
シェラザードの推測にロランスは口元に笑みを浮かべて答えた。そして剣を構えた!
「お前たちが女、子供であろうが手加減するつもりはない…………行くぞ!!」
そしてエステル達とロランスの戦いが始まった…………!
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第156話