黄巾党が治まって少しは落ち着くと思ったが、この世界は俺が思ってる以上にせっかちらしい。
あれから俺は街を転々としていたが、とうとう金が尽きたので徴兵に乗った。
規則に準ずれば飯と寝床が確保され、給金もでる。
それほど大きな勢力でもないので、開墾や調練もどうということはない。
力を抜いて、そつなくこなしていった。
このまま金を溜め、また英傑等を捜しに旅をしようと目論んでいたのだが……
「こうそ……公孫……でてこねぇなぁ」
今俺は、汜水関から離れた場所で仲間の兵と共に陣を展開している。
反董卓連合に、主君が参じたのだ。さらに、総大将である袁紹の挑発を受け、先陣を出る羽目になった。
その阿呆な主君の名前を思い出そうとしているのだが、何故か思い出せない。
「うーん…………あぁ、公孫賛か」
そうだ公孫賛だ。王座に座る彼女を見た事があるが、威厳というものが全く無かったので印象が薄かった。
あれも良い女だとは思うが、流石に主君を襲うわけにはいかないので我慢している。
俺としては連合に参加してくれた公孫賛に感謝したい。
お陰で、遠目だが色んな英傑を見る事ができた。
劉備と曹操、そして孫策。孫権は居なかったのが残念だが、これらをお目にかかれた事自体が僥倖だしな。贅沢は言えねぇ。
劉備と孫策は期待通りの美女だったが、曹操に関しては落胆せざるを得なかった。
あれなら横に侍らせていた女二人のが抱いてみたいねぇ。
劉備軍の天幕を覗き見していた時、驚いたというかやはりというか、星の姿があった。
今回も彼女は劉備に組するのだろう。俺には関係の無い事だが、何も言わずに別れて来たのでばれたら面倒な事になりそうだ。注意しとこう。
この汜水関攻略戦、劉備軍との共闘らしい。
流石に戦場でばったりってのはありえないと思うが、今回は普通に兵を気取ってるか。
そう心に決めた矢先、汜水関の門が開き兵が出てきた。
黒髪の綺麗な姉ちゃんが何か言ってたが、そんな易々と挑発に乗るもんかねぇ。
旗は……『華』か。
董卓軍で旗が華っていったら、あいつしかいねぇな。
敵兵が迫ってきたため、自軍も行動を始める。
ついさっき一兵を気取るって決めたんだが、早々に覆す事になるとはな。
流れに乗り、俺は前線へと向かった。
「うりゃりゃーーッ!!」
「くぅ……!」
華雄の姿が見えないんで前線どころか敵陣のど真ん中まで進んでしまった。
敵兵をなるべく避け急いで来たが、漸く見えた。
華雄は赤髪の子供に押され防戦一方になっている。
あの武器……丈八蛇矛。てことはあの子供が張翼徳か。そりゃ華雄には荷が重い相手だな。
襲ってくる敵兵の首を刎ねながら冷静に分析する。
「これで……最後だぁーーーッ!!!」
華雄の斧が弾かれ地に刺さり、続け様に丈八蛇矛が振り下ろされる。
こりゃやばい。
敵兵を蹴り飛ばし、全力で駆け華雄の前に立つ。
「ぐ……おぉ……ッ!」
刀背に左手を沿えまともに受けた。
大きな金切り音と共に、衝撃が襲い掛かる。
全身が軋む。だが、受け止めてやった。張翼徳渾身の一撃を。
「な、何者なのだ!」
その場から飛び退き警戒する張飛。
「貴様!敵兵が何故私を庇う!!」
冷静に頭を働かせる。この場に居るのは華雄の兵と張飛。張飛と相対した今、俺は一人敵に囲まれてる事になる。
この場を脱するには……これだな。
俺は振り向き華雄の腹に拳を叩き込む。
「貴様は……かふッ!」
顔を驚愕に染め意識を失う華雄。
倒れこむ彼女を抱き、口を開く。
「聞け!我が軍は今劣勢にある!直ちに退却せよ!」
俺の言葉にざわめく兵達。
華雄を助けた場面を見た兵共が味方だと判断したのだろう。退却の指示が戦場で復唱されている。
「悪いな嬢ちゃん。この場は退かせて貰う」
「……別にいいのだ」
警戒した様子を崩さず、張飛は答える。
周りを見渡すと、華雄が乗って来たであろう馬が居た。俺は華雄を片腕に抱いたままその馬に乗り、汜水関へと駆ける。
後ろを一瞥すると、張飛が静かにこちらを睨んでいた。
「鈴々!無事か!?」
「愛紗……」
華雄軍が退却し、進軍を始めた劉備軍が眼にしたのは、静かに立ち尽くす張飛の姿。
関羽と趙雲が急いで駆け寄るが、張飛に怪我は無い様だった。
「怪我は無いようだな」
「うん、大丈夫なのだ。でも……」
先の出来事を話す。
華雄を打ち倒す寸前、乱入してきた公孫賛軍の兵。
身なりは一般兵だったが、渾身の一撃を受け止められた事。
「何と……董卓軍の敵将が味方に紛れていたのか」
「恐らくはそうだろうな。しかし白蓮殿の軍からか……誤解を招かんといいが」
「それは大丈夫だろう敵兵に囲まれていた故、それを知るのは敵兵と鈴々だけだ」
関羽と趙雲が情勢について話し合うが、その間も張飛は静かに汜水関を睨みつけていた。
自分の一撃を受け止めたあの男の顔が脳裏をよぎる
自然と、握りこぶしに力が入る。
「次に会ったら……絶対に倒すのだ」
赤髪の少女は、その小さな身体の内に大きな闘志を燃やしていた。
あれ?こんなに戦闘が多いはずじゃなかったんだけどな……
最初は一刀に乙女達をバンバン抱かせる物語を書こうと思ったんだけどな……
どうしてこうなった
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テンポ良くいきたいのでどんどん進みます。