「ん……くあぁ……」
窓から指す日の光に眼を覚ます。
体を起こそうとすると、隣にあるぬくもりの存在に気が付いた。
……華雄だ。
昨日は寝てしまった華雄をそのままそこに寝かせ、俺は隣の寝台で寝たのだが、何故一緒に寝ているのだろうか。
「んん?……ふあぁ……かずと、おきたのか?」
と、華雄が眼を覚ました。上体を起こし両手を上げ、伸びをしながら話す。
寝起きだからか舌足らずの様な声色で、普段の華雄とは違う可愛さを感じる。
……俺は何を言ってるんだ。昨日の出来事の所為か、余計なことを考えてしまう。
「むぅ。寝ている一刀を見ていたら、知らないうちに寝てしまったか……」
眼を擦りながら話す彼女。
華雄が何故俺の寝台にいるのか。
昨日のあの状態は何だったのか。
等の聞きたいことはあったが、それよりまず、謝らなくてはならない事がある。
「華雄、昨日はごめん!自分から旅に着いていきたいっていったのに、自分勝手に華琳の所に戻るだなんて……」
寝台に正座し、華雄の横で頭を下げる。
少しの沈黙を挟み、華雄が大きく息を吐いた。
「あぁそうだな。一刀、お前は自分勝手すぎる」
華雄の言葉が胸に刺さる。
「急に旅に同行したいと言ってきて、決心が着いたらすぐさま曹操の下へ戻る。此方の都合は考え無しか」
返す言葉がない。
「当然か。一刀には多くの想い人がいるのだったな。私との旅など、比ぶべくもないか。だが一刀……一刀はあの時言ってくれたじゃないか」
「私を、守ってくれると。あれは……嘘だったのか?」
限界だった。
涙声が混ざる華雄の声に耐え切れず、下げていた頭を上げる。
「嘘じゃないッ!俺は華雄を……華雄…を…………」
言葉は続かなかった。
何故なら頭を上げた俺の眼前に、意地の悪い笑みを浮かべた華雄がいたからだ。
「今、言ったな?」
「は……え?」
思考が追い付かない。
想像では、今にも泣きそうな華雄が俺を睨みながら話していたのだが……
「嘘じゃないんだな?私を守るんだな?ならば、私は一刀の傍にいなければならないな」
困惑する俺を見て、華雄の笑みが増す。
あぁそうか……あれは演技……
「これからもよろしく頼むぞ、一刀。それとな……」
言葉と共に、華雄が更に近づいてきた。
元から無いに等しい華雄との距離が更に狭まり、そして無くなる。
数秒して、華雄が離れた。頬が真っ赤に染まり視線を背けている。
「私は、どうやら一刀に恋をしてしまったらしい。一刀が私に恋をさせたんだ。責任は取ってもらうぞ……」
もじもじと恥ずかしそうに言う彼女に、俺は耐え切れず再び顔を近づけた。
戻る決心がついたのはいい。
だがこの世界に戻ってこれたのに、真っ先に戻ってこないで他の女性と関係をもった何て知られたら、魏のみんなはどう思うだろうか。
……止めよう。想像するだけ恐ろしい。
華雄は俺を好いてくれている。そして俺も華雄が好きなんだ。
みんなには申し訳なく思うけど、この気持ちは覆らない。
潔く、許してもらえるまで頭を下げよう。
と、思考を巡らせている間に目的地に着いた。
大通りの焼売屋だ。
華雄に行ってきてほしいと言われたのだ。
「あ、こっちこっち!」
店内を見渡すと、俺に向かって手招きをする孫策さんがいた。
……なるほど、そういうことか。
自然と苦笑いが浮かぶ。
「昨日、華雄と呑んでたって孫策さんだったんですね」
喋りながら対面に座った。
店員さんが茶を置いてくれたので、喉を潤す。
孫策さんはさっきから無邪気に笑っていた。
「昨日の華雄、帰り際すごい興奮してたけど大丈夫だった?」
「…………大丈夫でしたよ」
いきなりの質問に吹き出しそうになるが、堪える。
すると孫策さんは笑みを止めずジト目で見つめてきた。
「本当にぃ~?」
「……まぁ、少しだけ……」
俺の言葉に、孫策さんはすぐさま眼を輝かせた。
「少しって何!?お姉さんに話してみなさい!」
次々とくる質問攻めに成す術無く、俺は全てを吐かされた。
「そっかそっか。華雄……良かったわねぇ」
昨日の出来事を話すと、孫策さんはしみじみと呟いた。
「孫策さんが焚き付けたんでしょう?」
「焚き付けたなんて失礼しちゃうわね。相談に乗って上げただけよ」
唇を尖らせぶーたれる孫策さん。
本当にこの人は着飾らないなぁ。
「……帰る事にしたみたいね」
少しの間をおいて、孫策さんが静かに言った。
「はい。昨日の孫策さんの言葉で、踏ん切りが着きました」
「そ。なら私は華琳達の恩人ね」
おどける様にそう言い、小さく息を吐き笑みを浮かべる。
そういえばと、孫策さんが懐を漁り始めた。
「お金、困ってるんでしょ?許昌まで行くにはこれで十分なはずよ」
卓に置かれた布袋。
中にはいっぱいのお金が入っていた。
「な、何で……こんなのもらえませんよ!」
「いーのいーの。面白い話を聞かせてもらえたし、これのお代も兼ねてるから」
視線を孫策さんに戻すと、ふりふりとボールペンを振っていた。
そういえば……あのまま持ち帰ってたのか。気が動転していて気が付かなった。
ボールペン代にしてもこの金額は高すぎる。
だが孫策さんの事だ、俺がこれを受け取らないと絶対納得しないだろう。
「……借りって事でいいですか?」
このままこのお金を貰うのは、俺が納得できない。
「あはは、あげるって言ってるのに律儀ねぇ。きっと後悔するわよ?」
後悔?
孫策さんの言葉に首を傾げるが、当の本人は説明せず、笑みを浮かべながら立ち上がった。
「じゃあ、私は呉に戻るわね。お祭りの準備もあるし」
「お祭り?」
「知らないの?三国同盟祭。毎年蜀でやってるんだけど、今年は過去最大規模になりそうで大忙しなのよ」
面倒臭そうに溜息を吐く孫策さん。
やはりというか……この人は仕事が大嫌いの様だ。
「間に合うといいわね、三国同盟祭に」
孫策さんはそう言い残し、店を出て行った。
三国同盟祭か……
名前からするに、三国の親睦を深める目的の祭なのだろう。
旅をしていても悪い噂は聞いていなかったが、本当にこの大陸は平和が続いているらしい。
『魏で自分のしたことは、この平和に繋がっている』
間違っているかもしれないけど、そう思うと俺はどうしようもなく嬉しくなった。
許昌に戻る前に、最初の村で手に入れた情報である、国境付近の野党を探す事になった。
華雄は申し訳なさそうにしていたが、元々許昌に戻るのは俺の都合だ。
その所為で華雄の仕事を阻害してはいけない。
孫策さんのおかげで路銀稼ぎをする必要が無くなったため、華雄がとってきた仕事を断り、すぐに街を出ることになった。
馬上では、華雄が相変わらず俺の腕の間に収まり寄りかかってくる。
満面の笑みを浮かべる華雄に心が温まるが、やはり精神衛生上良くない。
「……やっぱり、もう一頭買った方がよかったんじゃないか?」
「いらん。このままでいい」
即答された。
ぐりぐりと頭を押し付けてくる華雄に、嬉しいながらも溜息を禁じ得なかった。
あとがき
お久しぶりです。
華雄さんが告白するとしたら、こんな感じでストレートでいくと思うんです。
なんて妄想を垂れ流した内容になってます。
前半の演技は、洞窟での申し出を断った腹いせも含んでのものです。
既に一刀さんは華雄さんに落とされてたんですがね。
さて更新情報にも書きましたが、みていない方もいると思うのでこちらにも説明を。
『前に作中あとがきか更新情報かに言っていた浮気作品ですが、掲載していたサイト様がサービス停止をしてしまったため、こちらに移させていただきます。久遠シリーズがまだまだ終わっていない中何を書いてるんだって感じですが、お許しくださいませ。
とりあえずは浮気作品を小出ししながら久遠の続きを執筆していきたいと思います』
です。
浮気作品の『おや……~~』の方ですが、とりあえず書いてある分は手直ししながらupしていくと思います。なのであちらの文末はあとがきではなく作品補足や愚痴しかかいてないです。
そして久遠の方ですが完結までの流れは完璧にできました。
後は書く意欲ですが……何とか投げ出さないで完結まで突っ走りたいと思います。
ではではまた、次回作品で。
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魏√after 久遠の月日の中で18になります。前作の番外編から見ていただければ幸いです。
詳しくはあとがきで。