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魔法少女リリカルなのは~生まれ墜ちるは悪魔の子~ 二十九話

新しい家族

2012-07-22 07:34:10 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2554   閲覧ユーザー数:2456

「う……あ……」

 

目を覚ましたとき、途方もない全身の痛みと眩しさを感じた。

 

それとは別にどこか解放感というか息苦しさが感じられなかった。

 

「こ、ここは……」

 

起き上がってみると、そこはソファーの上だった。

 

「う……ぐ……」

 

頭がガンガンして直前のことが思い出せない。いつ寝たのかが思い出せない。

 

そんな時、部屋に入ってきた影があった。

 

「あ、目が覚めたん?」

 

そこにははやてが入ってきた。

 

「あ、おはようございます」

「うん。おはよう。元気そうでなによりやな」

 

こちらに微笑んでくるはやてに腰が低くなり、周りを見渡すと自分と同じ様に寝ている騎士たちがいた。

 

そして、周りには騎士たちも同じ様に眠っていた。

 

「おい、お前たち。起きないか」

「う…うん……」

「ふあー……」

「……むぅ…」

 

そこから連鎖的に騎士たちも目を覚ます。

 

目を擦る面々を前にはやては笑ってしまう。

 

「皆さんはコーヒーはいります? そこの子はジュースでええかな?」

「あ、いえ、そういうのはお構い無く…」

「ええって、このまま朝ご飯にしようとおもっとったんよ。少し待っててな」

 

そう言うや否やはやてはキッチンへと向かっていった。

 

「~~♪」

 

鼻唄を歌いながら料理を始めるはやてに呆然とする面々。

 

簡単な料理の合間に車イスを器用に操って挽きたてのコーヒーとジュースを入れてリビングへとお盆に乗せて持ってくる。

 

「はいどうぞ」

「あ、ありがとうございます……」

 

さっきから落ち着きが無いように振る舞っているとはやては笑ってまたリビングへと戻っていく。

 

「え、えっと……」

「分かっている……ひとまずはこのままで……」

 

困惑している仲間の面々をなんとか落ち着かせ、差し出された各々の飲み物を口に含んだ時だった。

 

「はよー」

「はよー」

「はよー」

「おっはー」

「あ、おはようさーん」

「「「「ぶーーーーーーーーーーーー!!!!!」」」」

 

突然現れた同じ顔の少年四人組がはやてと挨拶して現れた。その光景を目にした騎士たちは口に含んでいたものを勢いよく吐きだした。

 

リビングに飛沫があがる中、はやてたちはお構いなしに話を続ける。

 

「うわ~、なんかこうしてみるとなんや四つ子みたいやな~」

「これも気の成せる技だ。覚えれば容易い」

 

そう言いながら一人に戻る姿を騎士たちは唖然としながら見つめ、そこで思い出した。

 

(そうだ!! 確か我等は奴に……!!)

 

拳が振り下ろされる所から気を失ったことを思い出し、嫌な汗が流れる。

 

(なぜ、私たちは生きて……)

「よ」

「「「「!!」」」」

 

またも、気持ちが別の所へ行っていたとはいえ、気配さえも感じさせずに眼前までの侵入を許してしまった。

 

シグナムは震える体を必死に抑える。

 

「な、なんなんだよぉ……」

 

ヴィータに至ってはもう涙目になり、いつもの威勢が綺麗さっぱり消し飛び、弱々しく震えている。

 

傍から見れば可愛らしいのだが、とてもそう言える状況じゃない。

 

ヴィータをそこまで追い詰めた元凶がすぐそこにいる。

 

しかも、カリフは何事もなかったかのように普通に問いかけてくる。

 

「どれ、ちょいと隣失礼」

 

シグナムの隣に座ってジュースを飲むカリフにシグナムの心拍数が最大値にまで上がる。

 

だが、今のカリフからは昨日のような怒気など感じられず、争っても百害あって一利無し。

 

「あ……あの……」

「ん?」

「昨日のこと…なんだがな……」

 

相手を刺激しないように話しかけるシグナムに騎士たちも緊張が伝わる。

 

リビングに何とも言えない空気が充満してくる中、カリフが別の所へと食い付いた。

 

「ふむ。実を言うとオレはお前等に聞きたいことがあるのだが……」

 

カリフがガタっとソファーから勢いよく立ち上がると騎士たちも身構える。

 

そして、堂々と言い放った。

 

「まずは朝ご飯からだっ!!」

 

本当に場違いな一言に騎士たちは固まり……

 

「ご飯できたで~♪」

 

はやてのおっとりとした声がリビングに木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく経ち、朝飯も食べた面々ははやてとカリフと向かい合うように座っていた。

 

そして、全てを話した。自分たちは闇の書から生まれたプログラムだということ、魔力の蒐集、そして主であるはやてを守るという使命を持っているということ。

 

「は~……昔からある本で綺麗やったから残しといたんやけどな」

「あのタ○ンページから出てきたというならオレの探知をかいくぐってはやての元へ辿りつけたのも納得だわ」

 

はやてとカリフで闇の書をジロジロと見ながら話し合っている所を見ていると、シグナムが気まずそうに挙手する。

 

「あの、主はやて…」

「どないしたん?」

「主はやての話ですと、そちらの少年はお知り合い……」

「そうや。カリフくんって友達なんや」

「ボディーガードだ」

 

その言葉に騎士たちは顔を真っ青にさせ、すぐに頭を下げる。

 

「申し訳ございません!! まさか主はやてのご友人だとは知らず、あのような……!!」

「いや、いいわ。あれくらいなら普段の生活とは何も変わらん。日常的なものだ」

「だが……!!」

「止めろ」

 

シグナムたちはそれでも良しとはせずに謝罪を続けようとするが、カリフがそれを怒気を込めて止める。

 

「貴様等ははやてを“護る”という信念の元、ああ言った暴挙に出たと…そういうことだな?」

「正しく言えばプログラムですけど……」

「プログラムも信念も紙一重だ。そこはどうでもいい。オレが聞いているのは、あの戦闘を信念の元で行ったことなのかと聞いている」

 

真剣さゆえかカリフから僅かな覇気が零れ、シグナムも少し圧されてしまうが、すぐに毅然として返す。

 

「ええ、違いはありません」

「……」

「……」

 

カリフとシグナムは互いに目を見つめ合い、一息つく。

 

「……嘘は無いようだな……なら昨日のことはもうどうでもいい」

「なんでだよ……」

「あ?」

 

ここで今までカリフを見ようともしてなかったヴィータが口を開く。

 

「なんでそんな簡単に昨日のことを無かったことにできんだよ……アタシ等はオメエを殺そうとしたんだぞ!?」

「止めろヴィータ!!」

 

どこか納得ができないのか、信用ができないのかヴィータが立ち上がって怒鳴る。

 

一方で怒鳴られたカリフはヴィータの目を見据えて毅然と返した。

 

「簡単だ。この問題には後悔も恨みも入れる余地がないのだからな」

「どういうことだ?」

 

ザフィーラがそう聞くと、カリフはさも当たり前のように返す。

 

「貴様等には貴様等の、オレにはオレなりの正義がある。それらは決して交わることなくぶつかり合うことは必須」

「正義……」

「貴様等はそれをプログラムとか義務とか言うがどっちも同じだ。要はそれを貫き通すことが重要なのだ。命ある者にとってそれは何者にも替え難い物であるべきだ」

 

カリフは立ち上がって腕を組む。

 

「オレは昨日、はやてが駆けつけて来なければ間違いなく殺しただろう。その事にはオレは間違ったことだと思わん。だから貴様等も昨日のことなど後悔するな、謝罪するな。貴様等の謝罪はオレに対する最大級の侮辱だ」

 

カリフは今まで生きる、死ぬの世界で生きてきた。

 

その中でも彼は無関係な者を巻き込む、人質、ハッタリなどといった“嘘”と“卑怯”に基づく行為をひどく嫌悪している。

 

もし、シグナムが昨日のことを謝罪しようものなら、昨日までの殺し合いが嘘の出来事になってしまう。

 

自分がすることは自分の気持ちに正直であるがゆえの真実

 

それが彼の生き方である。

 

シグナムたちは自分たちの行った昨夜の非道な行為を認めろと言われ、若干困惑する部分もある。

 

だが、主を守る使命を嘘か本当かと問われれば

 

「分かった。昨日のことはもう何も言わん」

 

紛れも無い事実である。

 

「お前たちもそれでいいな?」

「ええ……」

「ああ……」

「……」

「ヴィータ」

「あぁ、もう分かったよ!!」

 

シグナムに諌められるヴィータはまだ納得できない部分があるが、ひとまずは納得しておく。

 

(多分、ヴィータも……皆も同じ気持ちなのだろうな……)

 

未だモヤモヤしているように見えるヴィータを見て、それに共感できる。

 

(いつの時代も恨まれ続け、道具として扱われてきた我等にお茶を出し、正義……命とは……変わった主と少年だ……)

 

プログラムの自分にまさか怨恨どころか不敵な笑みを浮かべて我等の誇りを認めてきた少年と食べ物を与えて手厚く歓迎する主

 

この二人は今まで関わってきた人の中では特に変わっている人種なのだろう。

 

だが……

 

(こういう主もいいかもしれんな……)

 

しみじみとそう思っていると、ヴィータが今でも納得できない部分があるようにカリフに問いかけてきた。

 

「アタシ等の行動は少し急ぎ過ぎたかもしんねえけどよ……ほとんどの原因はオメエなんだぞ!?」

「は? なんで?」

「惚けんなよ!! 昨日だってアタシ等に気付かれずに部屋に入っただろ!! あれはなんなんだよ!!」

 

少しはカリフという少年に慣れたヴィータは吼えた。

 

ほとんど逆ギレか八つ当たりの部分もあるだろうが、確かにそれが無かったら我等も話を聞こうとはしてたかもしれん。

 

「言い訳に聞こえるけど……確かに……えっと、カリフくんって呼んでいい?」

「オレの名はそれだけだが? 他になんて呼ぶ気だ?」

 

睨んでいるつもりは無いのだが、シャマルはカリフの瞳にビビってしまう。

 

「あう……昨日のカリフくんの動きであなたを暗殺者だと思っちゃったのよ。クラールヴィントの探知にも反応しないのってどういうこと?」

「それにお前からは魔力が感じられなかったのにここから廃工場まで移動する時の身体能力も異常に思えた」

「ヴィータの攻撃をバリアジャケット無しの生身で受けきったのも異常だったしな」

「後はなんなんだよ!! めっちゃ攻撃はええし、手で剣とアイゼンをぶった切るし、シグナムの矢よりも体かてえし、声だけでザフィーラの結界ぶっ壊すし、四人になるし……だぁぁぁぁぁぁもうどっからツッコみゃいいんだよぉ!!」

「まあ、今まで突っ込んでなかったんやけど、凄いには変わりあらへんもんね」

 

騎士たちとはやての追究は単純。

 

要は守るべき対象の近くに非常識な奴がいたことが原因だと。

 

ただし、本人はそれを何とも思っていないから余計にたちが悪い。

 

「まあ、大抵のことは鍛えれば普通の奴にでもできるけど…」

「「「「「絶対に違う!!」」」」」

「気配を消す原理は死ぬほど簡単だ」

 

そう言ってカリフは深呼吸を繰り返す。

 

その姿に全員が疑問に思う。

 

ただつっ立って何をしてるのかと……

 

「?」

 

だが、そこで異変に気付いたのはザフィーラだった。

 

「おい……」

「なんだよ。なんかあったか?」

「いや……気のせいかと思うのだが……」

 

ヴィータの質問にザフィーラは歯切れが悪く答えた。

 

「……体が透けてるんだが……」

「「「「え?」」」」

 

意外な答えにカリフを見つめると、確かにカリフの体が徐々に透けている。

 

突然の出来事にはやてを含めた全員が驚愕する。

 

「なんでや!! これどうなってん!?」

「クラールヴィントにはまだ反応があります!!」

 

時間が経っていく内にカリフは半透明となっていた。

 

「そ……ろそ……すが……見……くなる……」

「何言ってんだよおい!」

「……に…………」

 

声も体も何もかもが消えた。

 

「シャマル…反応は?」

「だめ…消えちゃった……」

「ザフィーラ……匂うか?」

「いや、残り香しか匂わん」

 

犬並の嗅覚を持つザフィーラまでがカリフを見失う。

 

はやてはカリフがいた場所まで移動して手探りで辺りを探ってみる。

 

「……ホンマに消えてもうた…」

 

その一言にシグナムはドアや辺りを見回してもまだ閉まったまま。

 

少なくとも移動した痕跡はない。

 

「ど、どこに……」

 

本格的にホラーと化し、全員が身構えて辺りを探る。

 

そして……

 

「わお!!」

「「「「「だあああぁぁぁぁ!!」」」」」

 

カリフはいきなり姿を現し、全員を驚かす。

 

柄にも無く騎士たちはすっ転び、はやては胸に手を当てて気持ちを落ち着かせる。

 

そして、いち早く我に帰った騎士たちはカリフに怒るとかではなく幽霊を見る様な目で問いかけてきた。

 

「お、お前……どこに行ってたんだ……」

 

シグナムが恐る恐る尋ねると、カリフは何気なしに答える。

 

「は? オレはこっから一歩も動いてねえぞ」

「え? でも、クラールヴィントは……」

「ついでに言えばはやてにベタベタ触られもしたしな」

「え!? ウソ!!」

 

益々混乱する面々を面白がりながら種明かしをする。

 

「おめえ等は“気”って知ってるか?」

「き?」

「えっと…テレビとかである体に流れてるような?」

「まあ大体合ってる。その気は鍛えれば増やすこともでき、それによって攻撃もできる。要は魔力となんら変わらねえよ」

 

ザックリとだが、原理は大体魔力と同じだと言われればなんとなく理解できたこともあった。空を飛べたのもそれかと何となく分かった。

 

だが、それでも理解ができない部分もある。

 

「気はあらゆる生き物に流れ、微量に放出される。植物とかからも含めてな……そこで思ったんだ」

 

カリフは床に手を当てる。

 

「この世界は空気と同じ様に気がうっすらと流れるのなら、オレもその気に同調させればいけるんじゃないかとな……」

「それが……さっきの技か」

「簡単に言えば地球と…いや、世界と一体化する程度にしか使えない技だと思えばいい」

 

簡単に言うが、それはどれだけ凄いことか……つまり、その技を発動させられてしまえばたとえ最新鋭の設備でも見つけることなど無理なのではないか?

 

「これ……完全にレアスキル級よね……」

「この他にも気には結構な使い方があるな。人によって気も違うから目当ての人物を探し当てたり、強さも測れる。オレしかやらないのは体の気の流れで弱点とか病くらいも見つけられるようにもなったし、強制的に打ち込んで体をイカれさせるとかもな」

「……魔法よりも多用な使い方ができるんだな」

「オレの師匠も含めた周りの連中は気を戦闘力を計るのと人探しにしか使ってなかったからな……と言っても奴等を倒すために見に付けた技でもあるからな……」

 

こうでもしなければ互角に戦えなかった昔を思い出してまた機嫌が悪くなる。

 

段々と自爆して勝手に雰囲気が悪くなっていくのにはやてがストップをかけた。

 

「まあ、今までの会話で分かったことがあるんよ」

 

どこからかメジャーを取り出してシグナムたちに近付く。

 

「これからは闇の書の主として皆の世話をせんとアカンってことやな。これから服買いに行くから寸法測らせてや」

「いや、しかし……」

「カリフくんもこれから焼き肉行こうな」

「む、それもそうだな……準備は十分以内に済ませろ」

 

カリフとはやてがわいわいと賑わう様子に騎士たちは置いてけぼりを喰らう。

 

だが、騎士たちは今までに会ったことの無い新たな主に感じたことの無い感情が胸の中に生まれたような気がした。


 
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