No.457255 魔法少女リリカルなのは~生まれ墜ちるは悪魔の子~ 二十八話2012-07-22 07:31:46 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:2345 閲覧ユーザー数:2265 |
幾年、幾百年も生きて我等は主のために戦ってきた。
魔力を蒐集し、闇の書を覚醒させる役目が我等にはある。
故に、様々な魔物、強者を相手に勝利を掴んできた。
一対一の戦いならばヴォルケンリッターに負けはない、と自負してきた。
長年の自信、積み重ねた経験と実績
それらも強さを表すステータスだといつからか思い始めていた。
その神話が今、目の前の存在に砕かれようとしていた。
「さあ、かかってきなよ? さっきまでの威勢はどこへいった?」
目の前には主と同じ様な歳の少年が独特な舞いを披露しながらこちらへ近づいてくる。
だが、その姿からはとてつもない覇気、怒気、殺気が溢れんばかりに流されていく。
それを裏付けるように先程もヴィータの攻撃に耐え、グラーフアイゼンを片手で持ち上げるなどと有り得ない芸当を魔力なしでやってのけた。
生身で行っているからこそ、皆は言い知れぬ恐怖に体を震わせて固まっていた。
そんな時、少年が言葉をぶつけてきた。
「そこの三つ編みのガキィ~……オレが余裕ぶってるから……なんだってぇ?」
「あ、いや……あ……」
「それはつまり……オレへの挑発ってことで……」
少年は前かがみになり……
「いいんだよなぁ!!」
途轍もない加速でヴィータの元へと向かってきた。
「……!!」
ザフィーラが己の役割柄の性質からか、本能的にヴィータを押しのけてプロテクションを張ろうとしたが、時すでに遅し。
カリフの蹴りがザフィーラの腹部へとしっかり食いこまれた。
「……!!」
肺の空気が全て抜けるほどの衝撃に声も上げられない。
この間の時間は一秒もない。
ザフィーラの体は遥か後方へと飛ばされて廃工場の残骸へ突っ込んだ。
「……え?」
傍にいたシャマルにとっては一瞬のことだった。
ただ、カリフが消えると同時にザフィーラが後ろへ飛んでいったとしか言えなかった。
「う…!!」
ここで押しのけられたヴィータが地面に転がる。
ここまでの動きをヴィータもシャマルもシグナムも理解できていなかった。
だが、その疑問も目の前の存在の前には塵にも等しかった。
「て、テメェは……!」
「い、いつからそこに……」
さっきまでと違うと言ったらザフィーラのいた場所にカリフがいたことだ。
避ける周りを無視してカリフはザフィーラの飛んだ方向をヘラヘラ笑いながら眺めていた。
「追撃がないようだが、怖気づいたか? ん?」
その言葉に唖然としていたシグナムが我に帰った。
この少年は自分たちを“敵”として見ている。
こちらも抵抗しなければ……
死
「ヤッハーーーーーーーー!!」
ヴィータに手刀が振り下ろされる。
その間にシグナムが割って入り、彼女のデバイス・レヴァンティンでガードする。
「う……ぐ……!」
カリフの手刀を防いでもあまりの怪力にこちらが潰されそうになる。
シグナムは泣き叫ぶ筋肉の悲鳴を押し殺して未だ動けない二人に喝を入れる。
「ヴィータ!! シャマル!! 呆けるな!! 死ぬぞ!!」
「「!!」」
喝を入れられた二人はやっと意識を取り戻し、一斉に動き始める。
ヴィータは放り投げられた鉄槌を拾い、シャマルはサポートのために後方へと下がった。
そんな動きに気にも止めずにカリフはもう一度手を振り上げて手刀を加える。
「ぬぅ……ぐぅ……!!」
「まだまだぁ!!」
威力を徐々に釣り上げながら手刀の嵐をシグナムに加え続け、シグナムもそれに必死に耐える。
そこでレヴァンティンに亀裂が入る。
(なんだこの強さ……馬鹿げてる!!)
シグナムが受け続けていると、先程に吹っ飛ばされたザフィーラが攻撃を仕掛けてきた。
カリフは攻撃を中断させてシグネムの腹を蹴り飛ばす。
「がはぁ!!」
シグナムも吹き飛ばされ、ザフィーラが向かってくるのに対し、カリフは構えを解いて力を抜く。
そして、完全な脱力状態に腕を垂らす。
柔らかくなった筋肉は威力を落とし、やがては筋肉でできた鞭へと変貌する。
「はああぁぁぁぁぁぁ!!」
ザフィーラの拳が眼前へと迫ってくる間にもカリフは脱力を続け、やがては筋肉は水分レベルにまで達する。
「柔らかい攻撃は殺傷能力を下げる代わりに……」
直前で拳を避けて脇腹に鞭のような張り手を撃ち込む。
“鞭打”
「“痛み”を与える」
「があああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
カリフが転げまわって脇腹から血を滲ませるザフィーラに言い聞かせ、近付く。
「ふん。女子供の護身術にここまでみっともない姿を晒すものだ……“皮膚が人体急所”とは言ったものだ」
「げふぅぅぅ!!」
面白そうにザフィーラを蹴り上げて空中に放り込む。
「ぶっとべえええええぇぇぇぇぇ!!」
そこへヴィータがグラーフアイゼンを振りかぶってカリフへと振るい、顔面で鈍い音を出して止まる。
「な!?」
そこには自分のグラーフアイゼンを歯で受け止め、それどころかいつかのようにデバイスを噛み砕きつつあった。
カリフはグラーフアイゼンごとヴィータの体を持ち上げ、地面に叩きつける。
「うあ!!」
空気と唾を吐き出して悶絶するヴィータに気合砲でまた吹き飛ばす。
グラーフアイゼンを離して吹き飛ばされるのを見届けた直後にシグナムが仕掛けた。
「紫電一閃!!」
「!!」
刀身に炎を纏わせた斬撃が向かってくる。
だが、カリフはそれに対抗して手刀に力を入れ……
「ナイフ!!」
迎え撃った。
ぶつかり合い、辺りに突風を巻き起こり、シグナムとカリフが拮抗する。
「ほう、さっきより威力が高いな……この炎、ただの火じゃないな?」
「貴様……この炎に素手で対抗など何を考えている!?」
カリフは鼻で一笑する。
「赤く熱した石炭に来る日も来る日も抜き手をして鍛えてきたんだ……たかだか燃えるだけの火で……」
「ば、馬鹿な!?」
「この刃と同等になったつもりかああああぁぁぁぁ!!」
そう言うや否や、カリフは手刀でレヴァンティンを“斬った”
そのまま追撃を加えようとしたが、そこでパンチを誰かのプロテクションに阻まれる。
「あぁ”?」
「これ以上はやらせはしないわ!!」
シグナムの背中越しにシャマルが何やら魔力を練っている。
見た所、奴の仕業だろうと思っていたカリフは周りでザフィーラとヴィータも復活しかけている。
シグナムもその場を離れて魔法で折れたレヴァンティンを元に戻した。
「グラーフアイゼン!!」
ここでヴィータが仕掛けた。
全魔力を以て先程よりも巨大な鉄槌を振りかぶってくる。
「轟天爆砕!!」
その圧倒的な破壊の鎚をカリフへ振り下ろす。
「ギガントシュラァァァァァァァァァァァク!!」
カリフが蟻に思えるほどの鎚がカリフを潰そうとするが、カリフはそのまま両手で何事も無く止める。
陥没する地面で止めているカリフの体に二重のバインドがかけられる。
「捕まえたわ」
「行けぇ!! シグナム!!」
「!?」
カリフが急いで首だけ動かしてシグナムを探すと……
「翔けよ……」
剣だったデバイスが弓へと姿を表し、そこには矢が接がれていた。
「隼!!」
放たれるはシグナムの技の中でも最速で、最高峰の破壊力を誇る。
ただし、ヴィータのようにただ純粋な破壊力ではない。
対人において“必ず貫く”必殺の矢である。
ただし、顔はカリフの歯によって急所を外す恐れがある。
ならば、狙うは心の臓ただ一つ!!
バインドとヴィータの最大技で無防備になっている胸に目がけて必殺の矢を放った。
「やった!!」
「これなら……!」
四人はそれぞれ勝利を確信した。
魔力が残っている内に最大の力で最大級の攻撃でケリをつける。
そのつもりで念話で撃ち合わせた作戦、勝利の布石
普通ならこれで決まる
「なるほど……“個”ではなく、“合”で成し得た作戦……」
だが、忘れてはいけない。
「無駄だったようだなぁ!!」
目の前の存在は……我等の常識を容易く撃ち砕く。
「「「「はぁ!?」」」」
カリフが胸の筋肉を膨張させて向かい来る矢を迎え撃つ。
矢はカリフの鋼の肉体に止められ、その力は拮抗する。
「あ、有り得ねえ!! なんだよあれ!?」
「我が矢より……強靭な肉体だというのか……」
「ザフィーラ! バインドをもっと強くして!!」
「シャマルもバインドに集中しろ!! 破られたら終わりだ!!」
矢と肉体は拮抗を続け、騎士たちは柄にも無く天に祈る。
決まれ!
決まれ決まれ!!
決まれ決まれ決まれ決まれ決まれ決まれ決まれ決まれ決まれ決まれ決まれ決まれ決まれ決まれ決まれ決まれ決まれ決まれ決まれ決まれ決まれ決まれ決まれ決まれ決まれ決まれ!!
「決まれえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
ヴィータの悲痛な叫びが辺りに木霊する。
そして……
「何がしたいんだぁ? お前たちぃ」
その目に写った光景は、ヴィータのデバイスを真っ二つに斬り裂き、二人がかりのバインドを苦も無く引きちぎって矢を掴んでいたカリフの姿だった。
「そんな!? 私とザフィーラのバインドを……!」
「グラーフアイゼンまで……」
「くそぉ!!」
ザフィーラがなけなしの魔力で結界を作り、騎士たちを覆う。
カリフは矢をへし折って盛大に溜息を吐く。
いつまで経っても進展しない状況、絶妙なコンビネーションを相手にもはやめんどくさくなってきた。
カリフはまたもや構えを解いて深呼吸をする。
カリフの一挙一動に警戒して汗が噴き出す。
そして、カリフが息を大量に吸った直後に始まった。
「があああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「「「「っ!!」」」」
突然の絶叫に全員が耳を塞いだ。
「うがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ただ、そこからは何も起きず、ただ叫ぶだけ。
それでも四人は耳を塞いだままだった。
「うるせええええぇぇぇぇぇぇ!!」
「う……ぐぅ……」
「これは効く……」
「耳が……」
徐々に苦しそうに青くなっていく面々に更なる音の攻撃が続く。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
騎士の中でも防御力の高いザフィーラの結界にヒビが入り、音を出して割れた。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
音の波動が騎士たちだけでなく、廃工場さえも破壊していく。
「■■■■■■■■!!!!!」
カリフのその場で作った技“サウンドバズーカ”
“声”だけで無差別に周りを攻撃する即興技
もはや声ではなく、音の津波に呑まれたあらゆる物が音を立てて崩壊していく。
騎士たちも耳を塞いでも鼓膜を通し、脳を直接揺さぶる音に全員が膝を付いた。
それに気付いたカリフは絶叫を止めてその場に佇むだけ。
倒れていた騎士たちは今は使い物にはならない耳ではなく、肌で音の振動が止んだのを感じてよろけながらも立ち上がる。
だが、三半規管を揺らされた面々は立つこともできず、堪らず飛んで空へと逃げる。
それでもカリフに慎みというものはない。
「はっはっは……これで最後だ」
笑いながら己の体を四人に分身させた。
四身の拳……前の世界の天津飯から授かった拳法の一つ。
己を四人に分身させる技だが、欠点といえば戦闘力が四分の一になる程度だ。
「とは言っても」
「今のままでも」
「確実に」
「貴様等を嬲ることはできるがなぁ」
腕を組んで騎士の一人一人と向き合う。
騎士たちはカリフの声が聞こえてはいないが、いきなり化け物が四人に増えたことだけは理解し、絶望に打ちひしがれた。
「だが、今のオレはとても慈悲深い」
「貴様等はオレに一太刀浴びせた」
「よって、嬲るのは止めて」
「確実に一撃で葬ってやる」
四人のカリフは全員の襟首を掴んで急降下して地面に叩きつける。
「「「「……!!」」」」
喉を絞められて声もだせないまま悲鳴を上げる四人。
それぞれのカリフは手を重い鈍器をイメージして血管の浮かんだ拳を握る。
「安心しろ」
「痛みも」
「苦しみもなく逝ける」
「だから」
拳を振り上げ
「「「「安心して死ね」」」」
正真正銘、生物の命を叩き潰す慈悲深き凶器が
騎士たちに振り下ろした。
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