No.457140 魔法少女リリカルなのは~生まれ墜ちるは悪魔の子~ 二十六話2012-07-22 00:31:22 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:2333 閲覧ユーザー数:2244 |
「そうかぁ……今まで世話になっていた所が事情で住めなくなって……」
「お前の料理の腕も気に入った。家賃も払い、しばらくはボディガードしてやる。光栄に思え」
「せやなぁ。カリフくんめっちゃ強いから得かもしれへんけど、私は家賃なんていらへんよ」
今までフェイトと住んでいたマンションは既に引き払い、住める所がなくなったカリフははやての家でしばらく過ごそうと。
かと言って一方的に住ませてもらい、タダ飯を食うというのも彼の流儀に反する。
受けた礼は返すためにはやてにはバイト代を家賃として、そしてしばらくの身の周りの世話を申し出た。
世話と言っても移動の際の手伝いだけである。
「いや、これだけは通させてもらう。衣食住を世話になるんだ。これくらいは通させてもらわんとこちらの気が済まない」
「ええって……私もカリフくんが私を頼ってくれて嬉しかったんよ。それに……」
「?」
「困った時はお互い様や」
この一言にカリフは苦い顔をする。
こいつには警戒心が足りない。
この手の人間は真心がそのまんま表に出ており、良く言えば正直だ。
どんな邪な気持ちがあったとしても正直者にカリフはある程度の礼を尽くす。
だが、今の世界ではそんな正直者の多くが馬鹿を見る時代となってしまっている。
カリフはそんな“時代”に反抗している。
ゆえに、自分がボディガードをすれば問題はないとした。
「お前がなんと言おうともオレは流儀を通させてもらう。それで話は終わりだ」
「なんや頑固やなぁ……でも気持ちは嬉しいわ」
「ふん……」
にっこりと笑う少女の顔を直視せずにそっぽを向けるカリフは心情を悟られない様に言う。
「そうだな、早速だがこれから水戸○門を見てからオレはバイトへと向かう」
「え? そんないきなりなん?」
「あぁ、時間が選べないのが難点だが、このバイトは実力さえあれば全てが思い通りな上になにより、オレの性に合っている」
「ふ~ん、そうなんや」
どこか無邪気に笑うカリフにはやては微笑ましくなってしまうが、折角来てくれたのにいなくなってしまうのは寂しい。
「なんや寂しいなぁ……このまま晩御飯も食べられへんの?」
「いや、そこは問題ない」
カリフはニヒルな笑みを見せてはやてに告げた。
「これはお遊戯みたいなものだ。夕方には帰る」
心底楽しそうな彼にはやては何も言えなくなり、なにより本人がそう言っているのだから信じることにした。
「そうか……じゃあ私はご飯作っておくから」
「それでいい……そうと決まったらまずは水戸○門だ。早くせねば始まってしまう」
「あ、私もよく見るんよ。一緒に見よか?」
「よし」
ここで二人はしばらくテレビを見てくつろいだ。
「ママ~…ここが新しいおうちなの?」
「ええ、しばらく使ってないから埃っぽいけど、少しずつお掃除していきましょ」
「うん! 一緒にお掃除!!」
「うふふ……」
現在、プレシアは遠見市の外れの小山に建てられていた一軒のコテージへと来ていた。
度々ジュエルシードの調査を行うための拠点として建てた別荘である。
幸いにもここはこっちの世界で正当な手続きを行って購入したものであり、この世界に深く関与できない管理局の目も届かないこの別荘はまさにうってつけだった。
また全てが元通りになったというのにもうフェイトたちには会えない。
自分がフェイトたちに言った一言、やってきたことを忘れてはいない。
プレシアはしばらくここで身を潜め、ほとぼりが冷めたら別の場所へと離れよう。
そう思った。
「アリシア……これから頑張りましょ」
「うん!!」
せめて、この子だけは守ると心に決めて……
「来たな……」
所は戻って、カリフははやての家でテレビを楽しんだ後に外へと出た。
あまり人気のない場所で数分か待った後、バイト先からの“迎え”が来た。
カリフの目の前に停まる黒のリムジン
黒光りする高級車から一人の執事服を来た老人が畏まった。
「お迎えに上がりました」
これがカリフの……
「王者(チャンピオン)」
バイトの光景である。
カリフのバイト先は誰でも知っているであろう場所は東京ドームである。
徳川財閥出身の老人が主催している地下格闘技場
そこには表の世界の格闘界で敵がいなくなるほど強くなりすぎた者、腕に覚えのある裏の世界の人物、とにかく腕の覚えがある人物なら参加可能
空手、ボクシング、中国拳法……あらゆる種目の格闘家が己の戦い方で競い合う異種格闘技戦
ここでのルールは武器を使うこと以外は何をしてもOK
噛みつき、金玉潰しも可能、この大会で失明する人物も珍しくない。
それでも、強さ、名声、そして戦いをこよなく愛する者が集まる場所である。
そもそもカリフがなぜこの格闘技に出たのか……
それはジュエルシードを集めてた最中にカリフは少し遠出をして東京へと出向いた。
そして、適当に散策して気を探ってみると、ある一カ所だけ一般人よりも強い気が大量に集まっている場所を見つけた。
興味を持ったカリフがそこへ行ってみると、そこは東京ドームだった。
そのままカリフは導かれるがままにガードマンをなぎ倒しながらそこの地下へ行くと……そこには楽園(パラダイス)があった。
中心のステージで互いに殴り合う血まみれの男たち、熱気に当てられて観客が唸る。
そしてぶつかり合う闘気にカリフは感動し、そこから意識が半ばトんでしまった。
『オレも混ぜてもらおう!!』
様々な刺激にあてられたカリフの闘争本能が火を点け、突如としてステージに乱入
そこにいた主催、闘士、観客がこの時だけは衝撃を与えられた。
まさか、こんな所に年端もいかない少年が血なまぐさい舞台に高らかと名乗り出たのだから。
最初は悪ふざけだと思い、闘士の一人がカリフの首根っこを掴もうとした時だった。
『ぐあああああああぁぁぁぁぁ!!』
筋肉隆々の男の腕があらぬ方向へと曲がり、折れた骨が皮膚を突き破っていた。
その光景にその場の全員が悲鳴を上げた。
ステージの中心で腕を押さえながらカリフに対して戦闘の構えを見せる闘士にテンションが最高潮に上がった。
『それでいい!! かかって来い!! 人間どもよ!!』
そう叫び、瞳の消えた白目で集まり始めていた闘士の軍団へと向かっていった。
そこからが信じられない光景の連続だった。
少年のライオンよりも鋭い歯が闘士たちの体を一瞬で切り裂く。
闘士と力を比べ、骨ごと相手を屠る
数人同時に達人を相手にしても常人離れしたスピードで立ち回り、一撃で相手を鎮める。
そして、四人同時に目にも写らぬ速度でのパンチを見舞う。
そして、遂に闘士全員がステージを埋め尽くす様に地面に突っ伏した。
大会主催の老人はその光景にただ震えるだけ。
口周り、拳、足、そして全身を返り血で真っ赤に染めたカリフが老人に近付いてこう言った。
『もっと強い奴を呼べ』
その言葉が静まり返った会場に響き渡った。
そして、主催者の心にも……
『君は……なんで戦うのじゃ?』
ガードマンの制止も聞かず、堪らずにカリフの前にまで来て問う。
そして、少年は答えた。
『……知らねえや』
無邪気に笑った血のりを付けた子供。
その言葉に嘘は無く、強制されている訳でもない。
ただ、単純に楽しんでいた。
ただ、戦いに生きる道を見出していた。
なんて真心! なんて素直さ! なんて純粋さ!!
老人は涙を流し、ガードマンに合図して何かを持ってこさせる。
首を傾げていると、カリフの前に金の獅子で装飾されたベルトが……
獅子は太古より強さの象徴として敬われてきた。
そんなベルトを老人はカリフの頭を撫でながら優しく言った。
『また、ここへ遊びにおいで』
この瞬間、江戸時代より続いてきた歴史に史上最年少の王者が産声を上げたのだった……
この時以来、カリフは莫大な“バイト代”をもらって日夜戦い続けている。
彼はそこで悟空もベジータも教えなかったことを学び、平和ボケ予防として通っている。
カリフの他の闘士は正直言って肉体的には全然及びもしない。
だが、カリフはたまに梃子摺らされる。
弱い人間が強者に立ち向かうために編み出した技術
人体急所を捉えた攻撃法、画期的な防御法など、力だけに頼らない新鮮な戦いに興味をそそられた。
それ以来、カリフは着実に学んでいる。
そんな真摯な態度も主催者の好感度を上げ、今では試合が終わった後、主催者の豪邸に呼ばれるほどとなった。
「どうじゃった? 今日の相手は」
畳と障子で囲まれた和室の真ん中で座布団の上で問いかけてくる。
それに対し、カリフは座敷用の椅子にもたれかかって差し出されたつまみを口に含む。
「うん……たしか空手の達人だったな……中々に面白かった」
差し出されたお冷を飲み干す。
「肉体を凶器とし、敵を切り裂く……中国拳法、柔術、どれもこれも興味をそそられる」
「そうかそうか、それはなにより」
老人はカラカラと笑い、日本酒を注いで飲み干す。
そんな中、カリフは老人に尋ねた。
「ジジイ……一ついいか?」
「なんじゃ?」
「あんた……魔法を信じるか?」
「ま、魔法……て、箒にのったりする……あの魔法かのう?」
突然、素っ頓狂な声を上げて老人が尋ねてきた。
それでもカリフはこの家の家政婦に差し出された冷えたジュースを飲み干す。
「そうだな……魔法のステッキを振りかざし、人が動物に化けたり、空を飛んだり、なんか弾を撃って敵を倒すような魔法だ」
「わしはそこのところの知識には疎いんじゃが……最近のアニメにでてくるような……奴か?」
「さあ、オレは水戸○門しか見てない」
そう言うと、老人はクックと口元を押さえて笑いを堪え、カリフはその様子に顔を歪ませた。
「おい、何がおかしい」
「いや、こりゃ失敬……クク……まさかお主が年相応の話題をふっかけてきたのでな……クク……」
「なら、いつまでも笑ってないで聞け。でないとその耳引きちぎるぞ」
「クク……いやすまんな。続けてくれ」
未だ笑い続ける老人を一睨みしながら続けた。
「魔法使い……いると思うか?」
「いる……と言うと?」
「聞いてんのはこっちだ。答えろ」
「そうじゃの~……」
カリフの急かしに老人は顎を撫でてしばらく考え……
「いない……」
「……」
「…と言いたいところじゃが、最近ではそういうのもいてもおかしくないと思うんじゃ。子供の身でありながら達人を圧倒しているお主を見た後ではな……」
「そうか……」
「それでな……え~っと……」
「? なんだ?」
「いや、なんでも……」
話していると、老人は何かをいいかけ、そして途中で止めた。
それを見たカリフは気になって聞いてみた。
「なんだ。ハッキリしろ」
「……じゃがのう…」
「怒んねえからさっさと言え」
言うのに躊躇っている老人に苛立ちが募り、口調も乱暴になっていく。
そんな彼に老人は観念したように話した。
「いやな……わしはお主を……人間とは思えなくてな……その……」
「続けろ」
「……なんというか…お主はもしかしたら……宇宙人じゃないかと……」
「……」
老人が冷や汗を流しながらカリフの様子を窺っている。
この少年を怒らせたらここのSPを集めても無事で済む保証はない。
今更ながら失言だったのではないかと内心では生きている心地がしない。
「そうか……宇宙人か……」
カリフの言葉に老人の体が一瞬だけ震える。
そして、カリフは意外にも口端を吊り上げる。
「……的を得ているな……ジジイ」
「は……はぁ……」
「ははははは……そうか、宇宙人か。オレ以外の宇宙人が現れたら戦ってみたいものだ」
「は、ははは……それはわしも楽しみじゃのう……」
呆然とこっちを見つめてくる老人の視線にも気にも止めず、カリフは珍しく笑い声を上げた。
戦い、飯を食う
今日は良い仕事をした。
この享楽もまた人生だ。
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