川神城。
九鬼従者二番のマープルという女性が『武士道プラン』の一環として、川神市で秘密裏に作った城である。
しかし、その城は仮面の男とレンに奪われてしまい、マープルもどこかの牢屋で監禁されて現在は、その二人が主をしていた。
「依頼主は?」
仮面の男が傍にいる李に尋ねる。
「現在は葉桜と決闘中です。あと、六分ほどかと……」
「なら、その後は葉桜は破棄しろ」
「心得ました」
李はそう頷くと消え、次に弁慶と源義経、那須与一が現れる。
「どうも~~。二人連れてきましたよ~」
弁慶は気だるい声を出しながら二人の両手に拘束している鉄の鎖を壊して、自由にした。
「今晩は、夜分遅くにすいません。源義経様、那須与一様」
「こ、今晩は……」
義経は男が挨拶を交してくるので、慌てながらも挨拶を返す。
「けっ! そう思うならこういう事件を起こさないでほしいぜ」
与一は義経を三人から守るように前に立つ。
「何も警戒する必要はありません。私は貴方様の味方です与一様」
「味方だぁ? こんなことしておいて、よくそんな嘘がつける」
「それは誤解です。私は依頼主の願望を叶えようとしているだけに過ぎません」
「願望だと?」
「闘争の世界……。川神百代様が望む『闘争の世界』を造ることが私達の望みでこざいます」
与一は叫ぶ。
「ふざけんなっ! そんな世界作れるわけない!」
「できます。私の仕事は『人の願望を叶えるのが』仕事。そこに不可能はありません」
「はんっ! だったら、死んだ人間を生き返せって言ったら出来るのかよ?」
「出来ます。彼に不可能はありません」
その場に鯉が笑顔で現れた。
「現に、死んだ母を生き返らせてくださいました。私の目の前で」
「なっ!?」
仮面の男は笑う。
「桐山様はとても良い人です。望みを叶えたら私達の目的にとても協力的で、思いのほかすべてがうまくいきました」
「私は、母を生き返させていただいたお礼をしているだけですよ♪」
「てめぇ……正気か? 死んだ人間は生き返りはしないんだぞ!」
鯉はため息をつく。
「失礼ですね。ちゃんと生き返ったと申しているというのに……っ!?」
突如、川神城が揺れた。
「………強い力。出ようとしてる」
今まで黙っていたレンが仮面の男に話しかける。
「そうですか……。では、予定より早いですけど次の生贄を差し出しましょう」
「……! 義経逃げろ!」
「えっ!?」
事の成り行きを黙って聞いてしまっていた義経を与一が突き倒す。
「与一!?」
振り向けくと与一の体に黒い球体が現れて、そのまま吸い込んでしまった。
「鋭いですね。ですが……」
今度こそ確実に、と鯉が義経に手を伸ばす。
「……っ!」
今度はそうはいかないと義経は鞘に納めていた剣を抜く。
「無駄ですよ?」
さっき与一を吸収した黒い球体が義経の目の前に現れる。
「見えるっ!」
だが、義経はそれを斬った。
「!?」
四人がありえない現象に動揺する。さらには斬られて二つになった球体は、仮面の男と鯉に近づいくる。
「しまっ……!?」
鯉は回避することは間に合わずに吸収されてしまうが、仮面の男はそれを取り込んでしまう。
「………くっ!」
義経の方は、この隙にと川神城から外へと飛び出した。
「待てっ!」
「いいですよ。弁慶」
仮面の男は弁慶を静止させる。
「………よかったの?」
レンが吸収させた鯉のことを尋ねた。
「ええ。鯉様のお役目はここで終わりでよいでしょう。後は、川神百代様の生贄になってくだされはよいかと……」
義経が逃げた方向に仮面の男は目を向けた。
「義経様には別の生贄になっていただきましょう。フラグ、相手……さぁ、どちらでしょうか?」
「う……」
大和の意識は戻った。
「よ、よかったぁ……」
聞き覚えのある女性が安堵の息を漏らした。
大和は上半身を起こすと、頭を振って思考をクリアにした。
レンという女性に腹部を蹴られて、屋上から転落してしまったことしか覚えていない。兎にも角にも、どうにか最悪の事態だけは免れたようだと大和は認識した。
「ユキ……どうして、ここに? と、言うかユキが助けてくれたの?」
「うん、あのね……」
言いかけて、小雪は右の脇腹を押さえてうずくまった。
「ユキっ!?」
「……だ、大丈夫だよ」
心配しまいと笑顔で答えているが、小雪はあきらかに苦しそうな顔をしている。
「ど、どこで怪我したんだよ!?」
大和が青ざめた顔で聞いてくる。
「ちょうど、大和が学園の屋上から転落する所を見つけたから、助けようとして……」
「無理したのか?」
「ううん……。大和は簡単に助けられたけど、その後に赤い髪の女の人にバッサリと……」
小雪は大和を離さないよう力の限り片手で抱きしめ、もう片手の手でレンの攻撃を防ごうとしたが無理な体勢で防いでしまったために、怪我をしてしまったらしい。
「でも、大丈夫だよ。これぐらいならなんともないよ」
大和に心配かけるまいと、無理矢理笑顔を作る。
「ユキ。無理しちゃ駄目だ!」
小雪は痛みをこらえて立ち上がる。
「大丈夫……だよ」
小雪は歩き出そうとして、脇腹の痛みに思わず呻いた。その拍子に、膝の力が抜けて倒れそうになる。
「ユキ!」
大和が咄嗟に小雪の体を抱き止める。
「や、大和……」
小雪の額に脂汗が滲んでいるのを、大和は見逃さなかった。
「やっぱり、無理してるじゃないか!」
間近で詰問され、小雪はつい頷いてしまった。
「僕のことはいいの! それよりトーマと準を……」
「言い分けないだろう! とにかく救急車を……」
大和は携帯を取り出そうとポケットに手を入れる。
「……くっ!?」
だが、携帯は粉々に壊れていた。
小雪の方も先ほどのレンの攻撃の時に、壊れてしまったらしい。
「なら……誰か人を……」
辺りを見回すが誰もいない。さらに夜中の時間なのに、町の電灯が点灯もしていない。
「な、なんだ、これは?」
大和は事態の状態に少し困惑する。
「………ここだけじゃないよ、大和。川神市のほとんどがこうなっているの……」
「ほとんど!?」
「うん……たぶん、あれのせいだよ……」
小雪が目を向けた先。
そこに、大きい城とその上空に黒い穴が開いているのだった。
川神城の地下。
そこにはマープルが関わっていない地下牢があり、風間ファミリーの男達翔一、師岡、岳人、忠勝が捕まっていた。
「ちくしょー出しやがれ!」
檻の網目を掴みながら岳人は叫ぶ。
だが、返事は返ってはこない。
「やめておけ。無駄に体力を使うだけだぞ」
忠勝が地面に座り込みながら岳人に話しかけた。
「おいおい、ゲン。このまま黙って捕まっていろっていうのかよ?」
「そうじゃねぇ……体力を温存しとけって意味だ」
「温存?」
翔一が忠勝と同じように地面に座り、横寝しながら答える。
「チャンスは必ずくるってことだ。その時に、体力がなかったら意味がないだろう? なんとかなるさ!」
「………」
風間ファミリーのリーダーの翔一が『なんとかなる』という言葉には不思議となんとかなる効果がある。そのため岳人はそれ以上は、何も言わずに二人と同じように座った。
「それにしても……この牢屋にはトイレもないだよね。ここでしろってことなのかなぁ……」
モロは辺りを見渡すが、牢屋の中には何もない。トイレさえも。
「………フハハハ。それはこの牢屋は、一時的の拘束用として用意した場所に過ぎないだからだ」
瞬間。
世界最強クラスの強さを持つ川神百代に負けず劣らずの強烈な気配が、四人を襲う。
「……うお!? 何だ、このプレッシャーは……」
岳人は気おされたようにつぶやいた。
「く……うっ!」
他の三人もキツイ表情を見せながらもその相手を睨む。
「ほう……我の威圧にもひるまず、さらに敵意を見せるとは……。フ、その意気や良し」
四人は初めに感じた威圧感は消えていくことに気づき、流れるような銀髪を後ろに流し、その凛々しい顔立ちをあらわにする女性。
彼女は、ふっくらとした身体つきは女性らしい魅力をかもしだしながらもその奥に、研ぎ澄まされた日本刀のような清冽さを感じさせていた。
「お姉さん。どうでしょう? 俺と付き合いませんか?」
岳人は状況も考えずにナンパした。
「いや、おかしいでしょう!? ここでナンパとかさぁ!」
師岡が岳人の馬鹿さ加減に思わずツッコミをいれてしまう。
「フハハハハハ」
呵呵大笑。
「残念だが、我には彼氏がいてな。誘いに乗ることはできん」
「そ、そうすか……」
岳人はガックリと肩を落とす。
「………」
三人は呆れた。
「さて……どうやら、お主達に笑顔が戻ったようだ。これなら少しはスムーズに話ができるかもしれんな」
彼女は右ポケットから鍵を散りだして、四人に見せる。
「話に乗るなら、ここから出してやろう」
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第五話
『暗雲』