葵冬馬の携帯にメールがくる。
冬馬はもらった相手について少し考えるが、呼ばれた方が女性である以上行かないと失礼だと思い、井上準と一緒に行くことにした。
「どこに行くの? トーマ」
夜だというのに出かけようとする二人が心配になった榊原小雪は、行き先を尋ねた。
「少し、昔の女性に会ってくるだけですよ。何も心配いりません」
冬馬は小雪の頭を撫でながら笑顔で答える。
「そうそう。ユキは勉強でもして待っていてくれ」
準も笑顔で小雪の頭を撫でた。
「うん……」
二人が大切な小雪にとってやはりどうしても心配してしまう小雪。
「なら、こうしましょう。もしも一時間以内に連絡がなかったら何かあったということで、ここに探しに来てください」
冬馬は手紙を小雪に渡す。
「……そして、その場所に私達がいなかったら大和君に連絡してください。必ず、助けてくれますから」
小雪と大和は昔馴染みの関係で、風間ファミリーとも仲がよく、特に小雪は大和にとあるキッカケで仲良く恋人関係になりかけてもいた。
おかげで、二人の仲の良さが昔から睨み合っていた2-Sと2-Fの険悪な関係も良好的になっており、冬馬と大和は好敵手で良き友人として付き合ってもいる。
けど、そんな冬馬でもまだ一度も大和に助けを求めたことはなかった。
それを求めるという意味は………。
「トーマ。それは……」
「保険ですよ。何もなければ無意味なことですから♪」
しかし、一時間が過ぎても連絡もなく、指定した場所にも二人の姿はなかった。
状況は、侵入者が圧倒的に不利、と言っていい。
ここは校舎の屋上。たった一つの出口は、鉄のドアでふさがれている。
逃げ場はどこにもない。
そして、それぞれ武器を構えた一子、京、クリス、由紀江の達人達が侵入者を取り囲んでいるのだ。
「アタシが捕まえてやるわ」
一子が一歩前に踏み出した。
「おい犬、大丈夫か? 加勢しようか」
クリスの発言に、一子がムキになって言い返す。
「大丈夫よ。こんな奴、アタシ一人で十分よ!」
同時に、薙刀を袈裟斬り状に振り下ろす。初手から、渾身の一撃だ。
「………」
侵入者はそれを軽くかわし、一子の腹部を蹴り飛ばす。
「……あぐっ!?」
一子は屋上出入口の扉に激突して、気を失ってしまった。
「一子!?」
忠勝が気を失った一子に駆け寄る。幸い気を失っているだけで外傷は見られない。
「なっ――――」
大和はごくりと息を飲む。
一子を蹴った瞬間に殺気を感じた。しかもこのクラスは百代と同格ともいえるほどの。
「………遊びは終わり」
侵入者は呟く。
瞬間、彼女から禍々しい闘気が大和を貫通させた。
「っ!?」
大和の全身に、寒気が襲う。
「モロ!?」
気がつけば師岡が、相手の放った闘気に負けて気を失っていた。
「コイツちょーやべぇーぜ」
由紀江のストラップ松風が呟いた。
「はい。皆さん気をつけてください」
今度は由紀江が仲間を守る形で一歩前に踏み出した。
「……おまえ、強い。でも、レンから見たらお前も弱い」
月の光が完全に侵入者の姿を現す。
スカートはかなり短めで、油断すると下着が見えるようで。布が薄目な上にピッチリとした上着で、体のラインがはっきりわかる服を着た赤髪の女性。歳も大和達と同世代に見えた。
「……今度は、こっちが攻める」
凍り付いたように動けない大和達にレンと名乗った女性が襲いかかる。
「させません!」
それを由紀江と京、クリスが素早く応戦しようとする。
だが。
「うっ!?」
突如に由紀江、京の反応が鈍りクリスだけが応戦する形となる。
「遅い……」
クリスの武器であるレイピアを、かすかに身じろぎするように身体を動かしただけで、レンは回避して一子と同じように腹部を蹴り屋上出入口の扉に激突させて、気を失なわさせる。
「クリス!」
大和がクリスの名を呼びながらレンから目を逸らした瞬間、背後にレンがいた。
「……敵から目を逸らす。それ駄目」
「っつ!」
気がつけば大和も腹部を蹴られて吹き飛ぶ。
ただし、屋上出入口の扉ではなく外へ……と。
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第四話
『崩壊』
追記
しばらく、まじこい投稿休みます。(燃え尽きたから……)