No.395610

迷子の果てに何を見る 第五十七話

ユキアンさん

ほう、こいつは懐かしい顔を見たものだ。
ちょうどいい、こいつを使わせてもらうとするか。
by???

2012-03-21 08:29:05 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2710   閲覧ユーザー数:2569

悪魔襲来

 

 

side リーネ

 

 

その日は朝から雨が降り続けている日だった。授業も終わり店で用事を済ませてから寮に戻る帰り道、雨の中を傘もささずに黒いコートを着て黒い帽子を被った初老の男性が立っていた。

 

「申し訳ないがお嬢さん、道を教えてもらえないかね」

 

「ええ、構わないわよ。それで何処に行きたいの」

 

「すまないね、この少年が住んでいる所なんだけど知らないかね」

 

見せられた写真には赤毛でメガネをかけたガキが映っている。

 

「さあ、職員寮の方じゃないかしら。そんなのでも一応は教師なんだから」

 

「おや、お嬢さんはこの少年の事が嫌いなのかね」

 

「大嫌いよ、あなた達みたいな奴よりもね。伯爵って所かしら」

 

「一目で見破られるとは思っていなかったよ。名前を聞いても」

 

「まずは自分から名乗るのが紳士なんじゃないの」

 

「これは失礼。私はヴィルヘルム・フォン・ヘルマン。今は落ちぶれているが元伯爵だ」

 

「これはご丁寧に。私はリーネ・マクダウェル・テンリュウよ」

 

「マクダウェル、それにテンリュウだと」

 

「ご想像の通り、私は『教授』と『闇の福音』の実の娘」

 

その言葉にヘルマンの顔に雨以外の液体が浮かんでいく。

 

「バカな、なぜここにそんな大物が!?」

 

「何故って、ここに住んでいるからに決まっているじゃない。ああ、目的を話してくれれば、場合によっては見逃してあげても良いわよ」

 

「……麻帆良の敵情視察、及びネギ・スプリングフィールド、アリス・スプリングフィールドの脅威度の確認だ」

 

「なるほど。でも残念ね。アリスは今は私の弟と一緒に婚前旅行に出ているからここにはいないわよ。だからアリスの脅威度は教えてあげるわ。お父様達に弟子入りしてもうすぐ弟子卒業よ。それから一般人を巻き込まないのならあなたの事は見逃してあげるわ。ただし、私の家族や友人に手を出した時点で魂も肉体も殺してあげる」

 

「…………それではネギ・スプリングフィールドをおびき出す事ができないのだが」

 

「おびき出すなんて簡単よ。手紙を投げつければ良いだけなんだから。お前の父親の事を知っているってね。それと何処何処に一人で来いって書いておけばのこのこやってくるわ。あと、あれだけは殺しても良いわよ」

 

「何?」

 

「あれの事はどうでも良いのよ。むしろ邪魔なのよ。あれのせいで私達の安寧の時間を削られるのは腹が立つわ。だからこそあなたを見逃すの。殺してくれるならそれも良し、殺せなくてもトラウマを与えればそれも良し。楽しませてくれたりすればあなたが貴族に戻れる様にルシフェルとO☆HA☆NA☆SHIしてあげてもいいわ」

 

「それはありがたい申し出だ。喜んで引き受けさせてもらおう」

 

「なら、楽しみにしているわ」

 

それだけを告げて寮へと向かう。無防備に、いつでも自分を狩れる様にヘルマンに対して背中を向けて。その行動にヘルマンが動揺しているのが手に取る様に分かる。ここで私を殺せれば魔界で王の一角ともなれるだろう。現在6王の一角である毒の王サマエルが行方不明となっている。噂ではお父様に狩られたとか色々と憶測が飛び交っている。お父様は何処にいるのか知っているみたいだけど今は関係ない。とにかくその王の座が一つ空いているのだ。そしてお父様は6王全員の相手をして一方的に勝っている。その娘を殺したとなれば6王の一角、それも筆頭になれるだろう。その誘惑にヘルマンは手を……出さなかった。正確には出しかけて思い留まった。

 

「それで正解。バカはここで手を出すわ。そして完全に消滅させられる。ちなみにあれはここで手をすぐに出すわよ。お父様が殺すなと言われるから殺してはいないけど」

 

「心臓に悪いな。とりあえず私は失礼させてもらおう」

 

「頑張りなさい」

 

今度こそ完全に別れる。サーチャーだけとばして様子を見るとしましょうか。

 

 

side out

 

 

 

 

 

side へルマン

 

 

やれやれ、やっと行ってくれたか。本当に心臓に悪い一家だ。見た目からは想像もできない様な力を秘めている。これはアリス・スプリングフィールドも同じようだと考えれば良いだろう。逆にネギ・スプリングフィールドの脅威はほとんど無いと思っても良いだろう。あの『教授』と『闇の福音』の娘にあそこまで嫌われ、妹のみが弟子になっているという時点で大した魔法使いの元で修行等していないだろう。唯一可能性があるとすれば高畑・T・タカミチだろうが、生憎彼は魔法を詠唱する事が出来ない。魔法を使えない彼に師事することはあまり考えられない。魔法学校を主席で卒業しているが所詮はMMの魔法学校だ。これがアリアドネーや帝国なら警戒はするが問題等ほとんど無い。

先程受けたアドバイス通り手紙をネギ・スプリングフィールドに届ける様に使い魔を出す。部屋にはいなかったのでとりあえず置いて来たというのでステージで待ち続ける。しばらく待つとこちらに向かってくる魔力を感じる。そちらの方を向くと元から杖に備えられている認識阻害の魔法以外一切使わずにネギ・スプリングフィールドがやってくる。

 

「あなたが父さんの事を知っている人なんですか。教えて下さい、父さんは何処に」

 

「それは私と戦って引き出す事だ。私に勝てたら話してあげよう」

 

「ラス・テル マ・スキル マギステル。光の精霊19柱、集いて来りて敵を討て。魔法の射手・光の19矢」

 

返答もせずにいきなりの攻撃、認識阻害の結界等も一切無し。なるほど前者はともかく後者は最悪だな。この状況を誰かに見られたらどうするつもりなのだ。おそらくこれで周りに迷惑をかけすぎて嫌われているのだろう。

とりあえず飛んでくる魔法の矢を素手で全て撃ち落とす。

 

「なっ、素手で僕の魔法が!?」

 

驚く様な事なのかね。この程度の威力ならそこら辺の銃の方が恐ろしく感じるのだがね。特に『教授』が使用していた銃は恐ろしかった。流れ弾で一体何柱の悪魔が滅されたか分からん。王達もまともに喰らえば致命傷を受けるのか必死に回避していた。それに比べればこんなものは豆鉄砲みたいな物だ。

 

「その程度かね」

 

「くっ、ラス・テル マ・スキル マギステル」

 

足を止めたまま、前衛も居らずに呪文詠唱を始める。この時点でもう調査する必要すらないな。少しは期待していたのだが拍子抜けだ。

瞬動で近づき頭を掴み地面に叩き付ける。それだけで勝敗は決まった。

 

「すまないね、楽しませる事が出来なくて」

 

様子を見ていると思われるリーネ嬢に声をかける。

 

「仕方ないわね。恐ろしく拍子抜けしたでしょ」

 

姿は見えないが声は聞こえる。何とも不思議だがアリアドネーの技術ならこの位可能だろう。

 

「さて、私の用事は済んだ。これで帰らせてもらう」

 

「そうはさせん」

 

おや、この人物は確か

 

「これはこれは近衛近左衛門殿ではありませんか」

 

「ふんっ、今頃やってくるなんて趣味が悪いわね。ヘルマン、あなたはこれからどうするの。少し位なら手伝ってあげるわよ」

 

リーネ嬢の声に近左衛門は反応しない。どうやら私にしか聞こえていないようだ。

 

「おや、そうかね。ならば近衛殿とも手合わせをしておこうかね。一応麻帆良自体の脅威も調べる様に言われているからね」

 

「そう、なら手伝ってあげる。こうやってね」

 

次の瞬間ネギ・スプリングフィールドが立ち上がる。身構えるが意識は完全に無い。

 

「落ち着きなさい、糸で操り人形にしているだけだから。雨に濡れるのは嫌だからこれで勘弁して頂戴。元が悪いからあまり期待はしない方がいいけど」

 

「二代目『人形使い』の力、しかと見せてもらおう」

 

「あらあら、ご期待には応えないと、ね」

 

その言葉と同時に戦闘が開始する。ネギ・スプリングフィールドが立ち上がった事でその様子を見ていた近左衛門はいきなり襲いかかってくるネギ・スプリングフィールドに驚きまともな一撃を貰う。そこに追撃とばかりに私は全力で悪魔パンチを叩き込むも障壁に当たる感触から防がれたと判断しすぐに回避に移る。それに対してリーネ嬢はほぼ密着させた状態からの何の強化もしていない体術で攻撃し続けている。なるほど、魔法の発生地点よりも内側に入る事で魔法を封じているのか。ならば私も見習わせてもらおう。人形ほど接近できんがそれでも出来る限り近づきながら、大振りを止めて威力を殆ど込めずに小振りで連打を浴びせる。それから数分膠着状態が続くもそれは突如起こる。

 

「あっ、駄目ね。もう使えないわ」

 

ネギ・スプリングフィールドの足が折れる。バランスが崩れた所に近左衛門がすかさず拘束魔法を使用する。ここが引き際だろう。

脇目も振らずに私は麻帆良から逃げ出す。邪魔をされる事も無く学園から抜け出す事に成功する。

 

 

 

 

 

あっけない。

 

 

 

 

そうとしか言いようが無かった。

 

 

 

「やあ、ヘルマン。学園に何か用かい」

 

あのお方に出くわすまでは。

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

side リーネ

 

 

「それでヘルマンはどうしたの」

 

『いや、それがとある資料を渡して消えたんだ』

 

ヘルマンが学園に来た翌日、零樹から電話がかかって来た。

 

「とある資料?」

 

『資料というよりは仮説かな?何でもヘルマンの主が行なおうとしている研究なんだけど、それに僕も協力して欲しいらしいんだ。片手まで良いのならという条件で協力することにしたんだ』

 

「ふ〜ん、どんな研究なの」

 

『一応部外秘らしいから姉さんにも教えられないけど、一言で言うなら世界のバランスを崩せる研究かな』

 

「それは……面白そうね」

 

『言うと思った。実際仮説を立てる所までしか出来てないから夢物語なんだけど、面白くはなると思う』

 

「ある程度目処が立ったなら連絡なさい。協力してあげるわ」

 

『了解』

 

「それで、今は何処にいるの」

 

『中国から東南アジアを回って今はオーストラリアだね。この後は一度大陸に戻ってロシアの方にでも行こうかと思ってるよ』

 

「時間的にロシアを見終わった位に帰国って感じかしら」

 

『たぶんそんな感じだと思う』

 

「分かったわ。アリスにもよろしく伝えておいて頂戴」

 

『うん、それじゃあお休み』

 

電話が切れた後、私は考える。

世界のバランスを崩す事が出来る研究。

単純に幾つか考えが浮かび、その中で零樹が協力しそうな物をピックアップする。更にそこにヘルマンというキーワードを繋げれば自ずと計画者と実験内容が予想できる。

おそらく、悪魔の精製、又は強化計画。

概ねそんな所でしょうね。一体どんな風になるのかしら。今からが楽しみだわ。

 

 

side out


 
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