正史、外史、この世界のこと。
監視者、司馬懿のこと。
貂蝉と卑弥呼と名乗る者達から聞かされた話は信じられないものばかりだったけれども、嘘はついていない様であった。
司馬懿の目的も分かり、2人が去って数日が経った。
私達はまだ魏の城に留まって話し合いをしている。
議題は、残った私達魏の面子をどうするか、だ。
魏は、今ここにいる者を除いてすべての人間が司馬懿によって石に変えられてしまった。
司馬懿との決戦まで私達だけでここに残るのは厳しい物がある。
しかしこの話し合いは意外にも、すぐ解決した。
「
一刀がそう言ってくれた。
「俺と華琳は一応同じ学舎で学んだ仲だし、気兼ねないだろ」
「いいの?孫策も?」
「……いいもなにも王である一刀が決めたことよ。別に私からは文句は無いわ」
そう言い孫策は微笑みながら片目をつぶって見せた。
私達と呉は少なからず因縁がある。
前に呉に攻め入った時、一部の兵を制御できず孫策暗殺という汚点をつくってしまった。
幸いにも暗殺は未遂に終わったが、その後遺症で孫策は前の様な強力な力を失ってしまった。
そのことを反省はしても後悔はしない、それが私の生き方だ。
しかし後ろめたい気持ちが無いといえば嘘になる。
孫策や一刀が気にしなくても他の呉の者は恨みを持っていると分かっていても、この申し出は嬉しかった。
それに蜀に厄介になるのは少し気乗りしない。
劉備は王とはいえまだまだ未熟なところがある。
その部分を毎日見せられたらたまったものではないだろう。
それに、なんだか気に障る高笑いが聞こえてくるのな気がするし……
という訳で、私は一刀の提案に甘えることにした。
私たちの処遇が決まったからといって、すぐに呉に向かうわけにはいかない。
今後の事についての話し合いや、石になってしまった者達をそのままに放置しては置けないと城の中に移したり、その他いろいろと準備をしていると数日が過ぎた。
粗方の準備を終え、私達は呉へと向かうこととなった。
出発の時ちょっとした事件があったが、道中は特に何事も無く呉に着いた。
「孫権よ!私がお前を鍛えてやろう!」
呉に到着するやいなや春蘭が自身の武器、七星餓狼を片手にそう叫んだ。
「司馬懿を倒せるのはお前しか居ないのだ。
だから負けてもらった困る!そこで私がお前を鍛えてやろう!
それにただでここにいるのも悪いからな、うん」
そう言い、構え一刀に向かうかたちになり、
「さあ、いくぞ!」
「姉者!長旅を終えたばかりだ。孫権殿も色々と溜まっている仕事があるだろうし、明日からでも良いんじゃないのか」
跳びかかろうとする春蘭をすんでの所で秋蘭が止めてくれた。
春蘭は「そうか」と言いながら剣を収め、
「では、明日から鍛錬を行うからな!覚悟しておけ!」
と言い、自分の馬を厩へと引っ張っていった。
「……では、風たちも呉の皆さんのお手伝いをしましょうか、稟ちゃん」
「そうですね。お世話になるのですから、何かお手伝いをしましょうか」
春蘭のは少しやり過ぎだが、呉に厄介になるということで、皆それぞれの得意とする仕事の手伝いを行うこととなった。
呉の者達も積極的に手伝おうとする私達を邪険に扱うことはせず、受け入れてくれた。
そして私たちが呉について幾週が経った。
「どう?春蘭との修行は?」
夜、一刀を酒に誘い、二人で城壁の上へと来た。
「春蘭の稽古はなかなかでしょ?」
「そうだね。さすが魏武の大剣と謳われていることはあるよ。
毎回、生傷が出来て大変だよ……」
「ふふっ、そう言う割にはまだ春蘭に一本も取られてないじゃない。悔しがってたわよ、春蘭」
春蘭と一刀の鍛錬はいつも拮抗したものとなるが、最後は一刀が押し切るかたちとなる。
春蘭はなんと言うか対抗心がむき出しで、最後のほうになると
よっぽど赤壁のときの戦いが悔しかったみたい。
その後、他愛のない話を交わし、酒を含み月を見る。
火照った頬に冷たい風が気持ちいい。
「……不思議ねぇ」
「何が?」
「私たち、ついこないだまでこの大陸の覇権を賭けて戦争を、殺し合いをしていたわ。
それがいまや、一緒に仕事をして、こうやって酒を飲んでいる。少し前までは考えられなかったわ」
「……華琳はさ、この戦いが終わったらどうするんだ?」
一刀のこの言葉に、持っていた猪口がピクリと揺れた。
「この戦いが終わったら、また覇道を目指すつもりかい?」
「……いいえ」
一刀の問いに私は
それに一刀はどうしてとたずねる。
「……確かに司馬懿を倒し、石にされた魏の兵たちが元に戻れば再び覇を唱えることも出来るかもしれないわ。
でも、私にその気力はもうないわ。行く当てのない私たちを、一刀や桃香たちが助けてくれた。
そんなあなたたちにまた剣を向けることなんて出来ないわ。恩を仇で返すようなこと私の信条が許さないわ。それに…」
「それに?」
ここで一息、酒を口に運ぶ。
「…それに、この生活が、何でもないこののんびりとした生活が心地良いのよ。だから私の覇道はここで終わり。
司馬懿を倒したら、あなたたちと協力してこの大陸の平和のため尽力することを誓うわ。
……ふふふ」
「なにがおかしいの?」
急に笑いだした私を訝しむように一刀は尋ねる。
「いえ、ごめんなさい。
ついこないだまで天下を目指していたのに、今こんなことを言っている自分がおかしくてつい、ね」
「後悔、してる?」
「…後悔はしてないわ。これで良いって思ってるから。
覇王という仮面を脱いだら、とても身体が軽くなったわ。
でもね、同時に弱くなったって思ったの。今の私は、力のないただの女じゃないかって………」
「涙が……」
えっ、と自分の頬を触ってみると、いつの間にか零れ伝ってきた涙に触れた。
気が付くともう、止めることができない。
流れ始めた涙を止めることはできない。
「うっ、うぅぅ……違うの、後悔してるんじゃないの…悲しいわけじゃないの。
ただ、今までのことを思い出して、ここまで来たんだって思ったら、いつの間にか…涙が……
…うっうわあぁぁぁっ」
あふれる言葉をせき止めることができない、でも、涙でうまく話すことができない。
気が付くと一刀に抱きつき、彼の胸の中で声を上げて泣いていた。
「落ち着いた?」
抱きつき泣く私を一刀は邪険にせず、優しく背中をなでてくれた。
彼にこうやって近づき優しさに触れると改めて思う。
「好き……私…一刀のことが好きなの……」
恥ずかしくて顔を上げることができないけど、耳を当てた一刀の胸から聞こえる鼓動が早くなるのがわかった。
「ただの女になって、やっぱりそうだって思った。私は、一刀のことが好き。
あなたと初めて会って、一緒に学んでいた時から、そう。ずっと、あなたのことが好きだった」
熱くなる顔を必死に堪え、一刀の顔を見ると、彼の顔も真っ赤になっていた。
一刀が私のことを少しでも思ってくれてると感じたら嬉しい気持ちになった。
「今の私は、もう普通の女の子よ。好きな男に優しくされたいし、思いを分かち合いたい。
でも、それがあなたの負担になるのなら私は……」
「そんな事ないよ」
離れようとする私を優しく抱きとめ、一刀は微笑む。
「華琳はいつも凛としているけど、こうやって弱い部分を見せてくれて感激だよ。
こんなふうに、華琳に思われてとても嬉しいよ」
ずっと胸がドキドキして、もう張り裂けそう。
「あなたが気が多いのは知ってる。でも今だけは、私だけを見て欲しいの」
私は震えながらも、そっと唇を一刀に近づける。
この夜は一刀のぬくもりに包まれて、今までで一番心休まる夜となった。
まずは、更新に時間をかけてしまい申し訳ございませんでした(-_-;)
1月は行く、2月は逃げる、3月は去ると言ったもので、1月2月は修論やらでとても忙しくなかなか時間がありませんでした。
さて、前回の話の「流れ星が正史と外史をつなぐ扉だ」と書いたところコメント欄がすごいことに!
ゲームにははまらない設定ですが、この話のオリジナルと思ってくれれば幸いです。
次に、今回は華琳様の拠点でした。
華琳様、大好きです!
もっとロマンティックに可愛く華琳様を書きたかったのですが、ブランクが長かったのかあまりうまく書けなかった……
華琳様の魅力をもっと出したかった!!
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前回の投稿から1ヶ月以上か……
忘れられていたらどうしよう。
では、どうぞ!