「う~ん……う~~~ん……」
「だいぶ手間取っているようですね、桃香様」
先の魏との戦いのあと、戦後の処理のため私たちは魏に留まり作業を行なっている。
桃香様には報告書の処理や進行の確認などを行なってもらっていたのだが、この様子だとあまり進んでいなようだ。
「あ、愛紗ちゃん。ううん、仕事はもう終わったんだけどね…」
見ると机の上には、確かに今日渡した分の竹簡が確認済のところに置かれていた。
「では、いったい何をそんなに頭を抱えているのですか?」
持ってきた茶を桃香様に渡し、席に着き一息入れようと茶をすすりながら尋ねた。
「うん……えっとね、どうやったら一刀さんとその…愛し合えるかなって…」
「ブフォオォォォ!」
「ちょっ、大丈夫?愛紗ちゃん!」
「ゴホッゴホッ…何を言っているのですか!桃香様!」
「その、ちょっと前から考えてたことなんだけどね、やっぱり好きな人に愛されたいというか…ね。
愛紗ちゃんもわかるでしょ」
指をもじもじさせ顔を紅くしながら答える桃香様はとても可愛らしかったが、
「いや……私に聞かれても……」
「私、分かってるんだから。愛紗ちゃんも一刀さんのこと、好きなんでしょ?」
「うっ!?それは……」
桃香様の言葉に思わず目を逸らしてしまった。
「別にね、責めてるわけじゃないの。たまたま好きになった人が一緒だった、それだけだよ」
桃香様は私の方を向き、優しく微笑む。
「……いや、違う。愛紗ちゃんと同じ人を好きになった、これはとても素敵な事だよね」
「桃香様……」
「大切な愛紗ちゃんと一緒だもん、とてもうれしいよ!」
そう言い、笑顔のままぽんと私の肩に桃香様は手を添えた。
その優しさに、私も肩に置かれた手にそっと自分の手を重ねた。
「ありがとうございます…桃香様」
私も微笑み返そうと顔をあげようとした時、肩に置かれた桃香様の手に力が込められ、
「それじゃあ、愛紗ちゃんも一緒に考えよう。一刀さんに愛してもらえる方法を!」
「へ?」
有無を言わせない笑顔で迫ってくる桃香様。
こうして私は、桃香様と一緒に一刀殿に愛してもらう方法を考えることとなった。
「じゃあまず、どうしたらいいかな?」
桃香様に半ば強引に引き込まれる形で、私も一緒に考える事なった。
「そうですねー……や、やはり色気で迫る、というのは…どうでしょうか……」
「う~ん…お色気作戦か……
でも、私経験無いよぅ……愛紗ちゃんはあるの?」
「わわわ私もありませんっ!」
とっさにこんな下賤なことを思いついた自分が恥ずかしい。
桃香様の言うように紫苑や桔梗のように年のこ…ゲフンゲフン、経験が豊富なら良いが、そのような経験の無い私達には少し難易度が高いことだ。
「…………」
「…………」
私の発言で微妙な空気となってしまった。
「愛紗ちゃんってえっちなんだね…」
「なっ!?」
「それはそうと、そう言う桃香様は何か考えは無いのですか?」
咳払いをし、この空気を変えるため桃香様に意見を聞いてみた。
「私?そうだね…やっぱり、一刀さんに可愛いと思われることが大事だと思うの」
「と言うと?」
「一刀さんに可愛いって、好みの女の子になれば自然と愛してもらえるんじゃないかな」
なるほど、一刀殿が好きな女にか……
「それで、一刀殿の好みは?」
「………愛紗ちゃんは何か知らない?」
「私も知りませんよ……」
「…………」
「…………」
また行き詰ってしまった。
「でも、私見ちゃったんだよね…」
すると桃香様はなぜか顔を紅くしながら声を小さくつぶやいた。
「何をですか?」
「前に、一刀さんたちが蜀に来てくれた時があったじゃない?
その時にね、夜遅く美羽ちゃんと七乃さんが一刀さんの部屋に入っていくのを見たの。それでさすがに部屋の中までは見れなかったけど、声が聞こえて…その……」
そう言い終えると更に顔を真赤にして、もじもじしながらうつむいてしまった。
「なっ!?つまり一刀殿は美羽のような小さい娘を好いていると!」
何たる破廉恥!
「え、でも七乃さんは大きいよ。
それに赤壁で会った時、士徽さんが自分は一刀さんの妻だって言ってたし。士徽さんも別に小さくないし……」
「確かに……呉の者たちは皆少なからず一刀殿を思っている様子。
大きいのやら、小さいのやら、中ぐらいのやら……皆それぞれ別々ですね」
多分彼女たちは、もう一刀殿と何かしらの関係を持っているのだろう。
しかしそう考えると、
「一刀さんってなんだか無節操だね……」
「そうですね……」
その後、あれやこれやと考えた結果、
「結局のところ、自分の気持ちを素直に伝えるのが良いと思うのよね!」
ということになった。
「最初からそれで良かったのでは……」
会議は思ったより長くなり、外を見ると日が暮れ真っ暗であった。
「では、私はこれで…」
「ちょっ、愛紗ちゃん!」
これで終わりかと思い、席を立とうとすると桃香様が跳びかかるようにして止めに来た。
「な、なんですかいきなり」
「どこ行くつもりなの、愛紗ちゃん!」
「どこって、自分の部屋に戻るつもりですが…」
「何言ってるの!愛紗ちゃん!今から一刀さんのところに告白に行くよ!」
「え?い、今からですか?もう遅いですし、明日のほうがよろしいのでは……」
「思い立ったら即行動だよっ!」
「は、はぁ……」
「こうしてる間に一刀さんが部屋に女の子を連れ込んでしまうよ!
…それに一人で行ったら、また甘寧さんに邪魔されちゃうかもしれないし……」
桃香様の口から甘寧の名前がポツリとこぼれた。
甘寧は一刀殿の後ろにいつも控え、ともに行動している。
あれはかなり一刀殿に入れ込んでいると、色事に疎い私でも分かる。
蜀では私も彼奴に邪魔されたな。
「桃香様も甘寧に邪魔をされたのですね……」
「えっ?と言うことは愛紗ちゃんも?」
私は「はい」と首を縦に振り答えた。
「じゃあ、やっぱり一緒に行こうよ。一緒だったら甘寧さんに邪魔されないかもしれないよ。
これまで私たちは一緒に力を合わせてきたじゃない。だから今回も一緒に立ち向かえばきっとうまく行くよ!」
すると拳に力を込め、なぜか桃香様そう宣言した。
今までは皆が幸せに暮らせる国を創るためにと力を合わせてきたのだが、今回は完全に私事。
かなりのズレが有り、言っていることはかなり無茶苦茶だ。
でも、こんな機会がなければ私のような者は行動に移せない。
それは桃香様も同じなのかもしれない。
変なところが不器用で、だから同じ不器用な私と共に、と言っているのだ。
だから、たまには無茶も良いかもしれない。
「……そうですね。これまで我ら姉妹、力を合わせ共に困難に立ち向かってきたのですからこれくらいのこと二人で立ち向かえばどうということはないですよね。
鈴々だけを仲間はずれにするのは心苦しいですが」
そう冗談めかして返すと桃香様は、
「さすがに今回は鈴々ちゃんを連れてゆくわけには行かないよ」
と苦笑いをした。
こうして桃香様と2人で一刀殿の部屋の前へとやって来た。
見たところ甘寧はあたりにはおらず、今回は邪魔される心配は無いようである。
隣に立つ桃香様に目をやるとよほど緊張しているのか、目を瞑り、胸に手を当て息を整えていた。
「ん…………。よしっ!
行こう、愛紗ちゃん」
「はっ、はい!」
心の準備が整ったようで、桃香様は私に声をかけたあと一刀殿の部屋の戸にゆっくりと手を伸ばした。
その時、私は改めて緊張してきた。
一刀殿に拒まれたらどうしようか、気持ちを押し付け負担にならないだろうか、と。
そう思うと不安で手が震えだした。
すると、桃香様の手が震える私の手を優しく包み、
「大丈夫だよ、愛紗ちゃん。一刀さんはきっと私たちのことを受け入れてくれるよ」
「桃香様…そう、ですね」
桃香様の手から伝わる温もりで幾分か緊張が和らいだ。
「じゃあ、行くよ」
「はい」
私が頷くと、桃香様はゆっくりと一刀殿の扉を開いた。
その後、私たちは一刀殿に受け入れてもらった。
しかし、ここでそのことを話すのは照れくさいので勘弁願いたい。
成就した恋ほど語るに値しないものはない、だろ?
いやしかし、一刀殿はすごかった。
まさか私と桃香様2人がかりで掛かっても、それを一刀殿は……
今思い出しただけでも恥ずかしい。
私達が結ばれた後、幾日が経ちとうとう魏の城を出発することとなった。
これからは司馬懿との最終決戦に向け、各国で準備する手はずになっている。
「これでまた、しばらく一刀さんとお別れだね」
「桃香様……」
「分かってるよ、愛紗ちゃん。司馬懿さんを倒して平和になったら、いつでも一刀さんに会えるようになるもんね」
そんな話をしていると出発の準備を終えた一刀殿がこちらにやって来た。
「やあ、桃香、愛紗」
一刀殿は簡単な挨拶と今後のことについて話し呉の者たちが待つ方へと戻ろうとしたとき、隣にいた桃香様が一歩前に出、
「一刀さん、一緒に頑張って世界を守ろうね。
……でも私、少し怖いから勇気が欲しいの」
「えっ?」
そう言い桃香様はぐいっと一刀殿に顔を近づけ唇を重ねる。
「…ぷはっ、これで元気でた。ありがとう、一刀さん」
桃香様は自分の思い切った行動に恥ずかしくなったのか、そう言うとあっけに取られて固まる一刀殿から離れると一直線にこちらの隊列へと走って戻ってきた。
周りの皆も呆然とするなか、私は一刀殿に歩み寄り、
「何も寂しいのは桃香様だけでは無いのですよ」
一刀殿の襟首を掴み、まだ固まる一刀殿を強引に引き寄せ桃香様と同じように口付けをした。
私の行いに再び周りが固まるのが分かった。
「……はぁっ……ではまた」
口早に言い終えると桃香様の向かった先に私も足早に戻った。
恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしいー!
なぜ私は皆の見てる前であのようなことを。
桃香様がしたのを見て、それに感化されたからか。
でもまあ、これで少しでも一刀殿の心の中に私のことを思う気持ちを植えつけることが出来たとしたらそれで良しとしよう。
その後、私と桃香様は道中星や紫苑に茶化されたが不思議と嫌に思わなかった。
私の、一刀殿への気持ちが本物だから恥じることは何もない、そう思うからかもしれない。
今回は愛紗と桃香の拠点でした。
視点は愛紗のみとなっていました。
愛紗はゲームでは少しかわいそうなキャラに感じてしまいます。
無印ではパッケージの真ん中に鎮座し、メインヒロインの位置に立っていましたが、真では新キャラの桃香と一緒にされ、萌将伝ではついに個別イベントもなくなったそうで(作者はまだ萌将伝をやっていません………)かわいそうでかわいそうで。
原画の片桐様の絵は最高なのに…ツリ目最高!!(ただし二次元に限る)
アニメではまだ輝いていたけどね。
Tweet |
|
|
31
|
2
|
追加するフォルダを選択
今回は愛紗と桃香の拠点。
時間は魏の城にいる時となっています。
では、どうぞ!