今、俺達は魏の城の一室に居る。
部屋に居る者達は皆口をつぐみ、重い空気が場に漂っている。
先ほど見た街の光景、人々が石に変わってしまった有り様を見たら当たり前であろう。
さて、今ここに居るのは魏の石にならなかった華琳と武将や軍師たち、呉と蜀の主だった将たち。
そしてこれらの軍勢とは別に二人、この場に集まっている。
この二人事を話するために、時間を戻す必要がある。
街に入り消沈し佇む華琳の後ろ姿を見つけた俺達は、街の異常にすぐ気が付いた。
「なんだ、これは!?」
街の中は外同様、人々が石に変えられた。
その光景はやはり異様、なにが起きたのか分からないといった顔や苦悩を浮かべた顔、そんな表情をしたまま固まっていた。
俺達がその様子に唸っていると突然、いままで動かなった華琳の方がピクンと動いた。
「劉協様……劉協様は!」
「あっ!ちょっ、華琳!」
漢の最後の皇帝、劉協の名前を叫び、華琳は再び走りだす。
そういえば劉協は華琳が保護していたんだったと思い出し、後を追う。
城の中、劉協の部屋と思われる扉を華琳は力いっぱい押し開け中に入って行く。
「劉協様っ!劉協様ーっ!」
華琳は劉協の部屋の寝台を覗き込んだ。が、そこには誰もいなかった。
「そんな…あの娘はここに寝ていて……ずっと寝ていたのに……
私があの娘を守らなくっちゃいけないのにっ」
誰もいない寝台を見て泣き崩れる華琳。
……しかし、おかしい。司馬懿は魏の人間全員を石に変えたと言った。
将の中には石にならなかった者も居たが、石になったのなら石像と化した劉協がここにいなくてはおかしい。
そんな事を考えていると、部屋の扉が急に開けられ。
「どうやら遅かったようね」
「うむ、そのようじゃな」
扉の近くに立っていたのは、ほぼ裸と言っても良い格好をした筋肉隆々のなんとも言いがたい男達であった。
「だーれがムチムチ変態筋肉ダルマですって!?」
「いや、誰も言っていない」
いきなり部屋に入ってきた怪しい男二人。
夏侯惇は見るなり剣を抜き威嚇、他の者達もただならぬ雰囲気に警戒している。
「お、お前は貂蝉!?」
そんな中、声を上げたのは意外にも思春であった。
「思春、知ってるの?」
「えっ?あ、はい雪蓮様。以前、ちょっとありまして(合間17参照)」
すると貂蝉と呼ばれた方は思春に小さく手を振り、「久しぶり」と破壊力抜群の微笑みを返した。
「貂蝉…この様子を見ると、どうやら劉協はここにいないようじゃな」
貂蝉の隣のもう一人の男がそうつぶやくと、寝台に顔を伏せていた華琳がピクリと反応した。
「あなた……劉協様の事を…知っているの……?」
くぐもった声で尋ねる華琳。
「……それも含めてお前たちに話がある。……場所を移そうか」
こうして冒頭の話に戻る。
「……それで、あなた達は何者なの?
司馬懿との関係は?劉協様は何処に行ったの?」
落ち着きを取り戻した華琳は堰を切ったように様にまくし立て二人の来訪者に質問する。
「…そうね、その話をする前にこの世界についてついて話をするはね」
「この世界について?」
「そう、このあなた達が住む世界は外史と呼ばれる世界なの」
すると貂蝉は静かに話し始めた。
世界には正史と呼ばれる字の如く正しい世界と、外史という正史から創られた世界があることを。
そして俺達の住む世界は正史の住人達によって創られた世界であることを。
「そして儂、卑弥呼とこの貂蝉は外史を監視する監視者と呼ばれる存在じゃ」
「創られた世界…それじゃ、私達はつくられた偽物だって言うの?」
「いいえそうじゃないわ。あなた達は紛れも無くこの世界に生きる曹孟徳達、少なくとも私達はそう思っているわ。
でも、そうじゃないって思っている監視者もいるの。その一人が司馬懿よ」
司馬懿が監視者の一人、つぶやく華琳に貂蝉は話を続ける。
「司馬懿は外史に否定的な監視者なの。
私たち肯定派が外史を見守るのが仕事だったら、否定派は外史を終わらせるのが仕事」
外史を終わらせる、つまり俺達の住むこの世界を終わらせることが司馬懿の目的だと貂蝉は言った。
あまりにも突拍子も無い話に皆、驚きを隠せない様子である。
「それに司馬懿には仲の良かった者達が居ったんじゃが、その者達は他の外史で敗れ消えてしまってな。
そのことが司馬懿の外史に対する否定的な考えに拍車をかけたようなのじゃ」
正史とか外史、この世界についての話を話されてもいまいちピンと来ない。
部屋は一瞬静まり返った。
「……正直正史とか外史って言うのは信じられないけど、話はわかったわ。
それで劉協様は何処に行ったの?」
「うむ、確かにこんな話をしても信じろというのは無理なもんじゃ。
さて劉協じゃが、彼女は司馬懿と一緒に居る」
「司馬懿と一緒に?それで司馬懿は何処にいるの!」
「ごめんなさい、司馬懿が何処にいるかは分からないわ。
もともと司馬懿は監視者の中では下っ端なの。だから大した権限も力も持っていなかったの。
でも、さっきも言ったように司馬懿は外史を終わらせることに異常に執着しているわ。
だから力を持とうとしたの。この世界に関係が強い者を媒介として力を得ようとしたの」
「どういうこと?」
「外史を終わらせる力を手に入れるために世界に影響力のある者の力を使う。それに選ばれたのが劉協ちゃんだったの。
劉協ちゃんは漢の最後の皇帝、だから自分の代で王朝を終わらせてしまったことを悔やんでいたの。そこを司馬懿は漬け込んだ。『もう一度、漢王朝を復活させたくないか』ってね。心の隙間をついて徐々に劉協ちゃんを蝕み、力を奪ってゆく。
最近の劉協ちゃん、ずっと寝たままだったでしょ?あれはね、力を奪われていたからなの」
「それじゃあ、司馬懿が私のところに仕官に来たのも全部、劉協様に近づくためだったの」
「そうよ。この世界の劉協ちゃんはまだ幼くか弱い女の子。司馬懿にとって力を手に入れるための絶好の得物だったってわけね。
そして司馬懿は最終的に、この世界の住人の命を使ってこの外史を終わらせようとしている。そのはじめに、魏の人達のエネルギー…精力を吸い取ったの。その結果はみての通り、人々は石に変わってしまった」
「人の、命を……?」
司馬懿の計画を聞き、その嘘の様な話に改めて唖然とする。
「……ならば、司馬懿のやつを倒せば魏の住民も元に戻るのだなっ」
重い空気を吹き飛ばそうとするように、夏侯惇が解決策を尋ねた。
「…そうね。確かに司馬懿を倒せば石になった人たちも戻って、この世界が閉じられることもないわ。
でも、それは難しいわ。司馬懿は曲がりなりにも監視者。
そりゃ剣で斬ったり傷を付けることはできるけど、監視者は正史の人間が創りだした者。外史の人間が消すことは出来ないの」
「それじゃあ、私達はなにもできないんですか!このまま、人々が石に変えられるのを、世界が終わってしまうのを黙って見てなくちゃいけないんですか!」
そんなのいやだと桃香はかすれた声で言った。
「そうでもないわよ」
なにも出来ないことに憤り、嘆く俺達に貂蝉はニヤリと微笑む。
「外史の人間じゃあ駄目だけど、正史の人間なら監視者を、司馬懿を倒すことは可能よ」
「え?でも、正史の人間なんて今からどうやって連れてくるのよっ」
貂蝉の言葉に雪蓮は、不可能な事を言われたからか少し怒気を含みながら返した。
「今から正史の人間を用意する必要なんて無いわ。だって、この場に正史の人間がいるんだもの」
皆は貂蝉の言っていることが良く分からないと首を傾ける。
「正史の人間は今ここにいるは……貴方よ、孫権ちゃん」
貂蝉は俺を見て、そう言った。
「どういうこと?貂蝉」
「そんなに怖い顔をしないでよ、孫策ちゃん。
貴方達お母さんに、孫堅ちゃんに孫権ちゃんの出生について聞かなかったの?」
「確か…流れ星が落ちって、そこに俺が居たって……
でも、これって捨て子だった俺を孫家に迎えるための母さんの嘘じゃなかったのか?」
「いえ、貴方は間違いなく流れ星と一緒にこの世界に来たわ。
その流星はね、正史と外史を繋ぐ扉みたいなものなの。だから貴方は間違いなく正史からやって来た人間なのよ」
そんな、まさか。そう思った。
自分が正史の、違う世界の人間だなんて考えてみたことも無かった。
でも、それで、
「俺に司馬懿を倒せると言うなら、俺は大切な人たちが住むこの世界を終わらせないため、戦う」
一緒に生きたいと思う人たちがいるこの世界が無くなるなんて嫌だ。
「さっきも言ったけど、司馬懿は劉協ちゃんの力を取り込んで強くなっているわ。
とても一筋縄ではいかない相手よ。それでも戦う?」
「……ああ。司馬懿を止めることが出来るのは俺しかいないんだろ。だったら、俺はやるよ」
「ウフフフ、やっぱり貴方は
了解、私と卑弥呼で司馬懿の居場所を探すわ。分かり次第連絡するから貴方達は戦いに備えて準備しておいて」
そう言うと貂蝉と卑弥呼は「「ぶるぁぁぁぁ!!!」」という声と共に何処かに飛んでいってしまった。
この世界の秘密、自分の秘密と立て続けに知らされ、少し混乱もしている。
でも、これだけは言える。
大切な人達を守るために、絶対に司馬懿に負けない。
この章、最後のお話でした。
監視者は正史の人間じゃないと倒せないという設定はオリジナルです。ゲームでは特にそのへん言われてませんでしたし、つくってみました。
さて最終章ですが、少し迷っています。
あまり詳しくは書けないのですが、候補としては、
生ける仲達を走らす、 か 晋国建国
の2つで考えています。
どっちがいいだろう……意見があったらお願いします。
ではまたノシ
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この章のラスト!
物語も終盤に。モチベーションを保って頑張るぜ!
では、どうぞ!