No.326554

御菓子屋妙前 ~第四幕~

帽子さん

はぁ、中々に更新するのも疲れますね^^

2011-10-30 16:51:42 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:822   閲覧ユーザー数:807

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふふっ、店主さんの一日げっとー by??

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ファミリーなんて言葉がある。それは皆様知っている通り家族という意味で、英語で表記するならfamilyだ。カタカナならファミリーで、日本語で言うなら家族。まぁ、そんな事は同でもよくて私が言いたい事は、その家族は必ずしも、血が繋がっている必要がある。という訳ではない、ある程度親しくなり、親類と同じように遠慮なく何でもしあえる関係がすべからくファミリーと呼べるそう私は思う。

 今回連絡をした相手も似たような間柄だ。今更遠慮をする仲ではないし、今回のこの件彼女以外に適任者はいないだろう。それに、契約という事で彼女にとっても有益がある。いわゆるギブアンドテイクという奴だ。

 今回連絡を取った彼女は私の店の常連さんで、いや、正確にはそうでも無いかもしれない。彼女はどこからこの妙前の噂を聞きつけ直接電話でデリバリーを頼んできたのだった。その時は驚いたものだ。私は当然のことながらデリバリーなどした事も無く、その時野々村もいたのだが店を野々村だけに任せて外へ出て行く事にはいささか心配だったので断ろうと思ったのだがその時に提示された代金に目がくらみ最終的に野々村に店を任せてはじめてのデリバリーという物を体験する事となった。

 そして、その時彼女の家へと当然のことながら行ったのだが、そこがまた凄かった。どんな人が住んでいるのかと思えるほどの豪邸だったのだ。

 その時私は彼女へと直接届けに行ったのだが、今思えばああいうのは執事みたいな人物が取り次いでくれるものではないだろうか。とにかくその時は彼女へと直接届けに行くと、少しながら彼女と会話をする機会があった。その時に彼女のやっている事、……情報屋みたいな物をやっているという事を知った。それ以来何故か私は彼女に気に入られ、度々その日から彼女から注文を受けるようになり、常連となっていったのである。

 

「pllllll。plllllll」

 そんな事を考えていたら突然に携帯が音を発した。取り出して、相手を見るとどうやら小さな情報屋さんだった。私は何だろう、と思い電話に出る。もしかして何か情報が必要なのだろうか、そうなったら出し惜しみはしないのだが。

「あっ、もしもし店主さん? さっき調べ終わったんだけど、これは中々骨が折れる相手だよ。野々村ちゃんだっけ? 何でこんな相手に目をつけられてるんだろう? 相変わらず店主さんの周りには不思議な人が多いよね、好ちゃんしかりさ」

 どうやら、今回の事件の調べ物は終わったようだった。随分と早い事だ。彼女であってももう少し、時間がかかると思っていたのだが。

 しかしそうか、今回の事はテレビで散々報道されているし、その殺されたのが小久保官房長官だ、彼女も少しばかり調べたのだろう。そこで、小久保が妙前の常連という事を知りそこから今回のように私が彼女を頼る事を予想してあらかじめ、調べておいたのだろう。先ほどまでやっていた事はただの確認か。

「いや、意図してそうなった訳ではないのですがね。それは良いとして、どうしたんですか? 貴女が中々骨が折れる相手とは……? そんな人がこの世にいるとは思えませんが」

「ふふふ、嬉しい評価だけど、私はそんなに凄い存在じゃないんだよ、できる事だって人並みだしね」そんな事を言わないで欲しい彼女が出来る事が人並みといったら私達凡人のやる事など何もやってないに等しいではないか「それに、私だって中々相手にしたくない人種っていうのはいるしね。今回の相手はそんな人」

「で、誰なんですか? その人って……」

「んー。私的には店主さんはその存在は知らないほうが良いと思う。今回電話したのは調べ終えたよっていう報告だけ。ここから先も私に任せておいてくれてかまわないから」

「分かりました。まかせます」私はそう言うと、携帯電話の電源を切った。

 

 そうして、私は再びこの空虚な空間へと戻る。野々村一人だけがいなくなり、一番初め、開店当初のときに戻ったかのようなこの店は野々村がいなければかなり寂しいものになっているのだということに気がついた。そうして、私は野々村の大切さを身にしみた。

 私はふと、立ち上がりいつもお菓子を作っている奥へと向かう。

 電気をつけ見渡すと、いつもいつもちょっと狭いな。ぐらいに感じていたこの部屋が不思議に広く感じられた。

 

 私はそこにある台を撫でながら歩いていると、ふいに、トントンというノックをするような音が入り口の方向から聞こえた。

 私は不思議に思って、早足で入り口の所に行くと、そこにはいつものギターケースを背負った。好さんがいた。その長い黒髪はポニーテールにまとめ上げられている。

「どうしたんですか? 好さん。すいません、今日は営業していなくて……」

 私がそう言うと、フルフルと首を振った。そして、私を無視して店の中に入ってきた。

「店主さん。ののちゃんいなくて寂しい。だから、来た。私お菓子好き。だから、おしえて?」

 好さんはそういうと何処から取り出したのかエプロンをその身にまとった。そのエプロンはピンク色でうさぎのワンポイントが刺繍されていた。よく似合っている。

「そうですか。お菓子を作るのは楽しいですからね。分りました。奥まできてください」

 

 

 私はそう言って先ほどまでいたキッチンまで戻っていく。その後を好さんがひょこひょこと着いてきている。

 いつもの私なら、好さんが喋ったという事実に驚き、気分を上げていただろう。しかし、今はそれどころでは無かった。

 野々村がこの店にいないという事実はそこまで私に重くのしかかっていたのだった。

 

 

 私はキッチンへと着き、今私の隣で好さんが一生懸命お菓子を作っている。作っている物は好さんのリクエストでマドレーヌである。

 この店の名前は『妙前』といかにも和風くさいのであるが、実は洋菓子も扱っているのである。若い客層を狙ったのだ。

 私の教え方はそれほど上手いとは思えないのだが、好さんの腕がいいのだろうか。私が隣でやり方を教えながらやっているのだが着々と完成に近付いていっている。以前料理等を習っていた事があるのかと思ったがどうやら無いらしい。これがいわゆる才能だろうか。彼女の仕事が何なのか未だ知らないけれど。彼女のこの才能を活かせる所で働いて欲しい。

 私がそう思っているともうあっという間に焼き上げるのみとなったようだった。

 

 彼女と二人、マドレーヌが焼きあがるのを椅子に座りながら待つ。その間彼女の無口という属性も手伝って全く会話が弾まない。それに私自身今明るい話を降ろうとしてもどっからどうみてもやせ我慢にしか見えない。

 私はじっと黙りながら彼女の座っている椅子の足の辺りを見詰めていた。

 彼女はそわそわとせわしなく動いている。そして、時折私の方を見てくることから、私を気にしてくれている事は分かるのだが逆に私が彼女に話しかけてあげることが出来ないという悪循環だった。

 そして私の方を見つつもオーブンの方へ目が行っている事から今焼いているマドレーヌの事が気になっているのかなぁ、と思う。

 

 そして、しばらく経つと良い香りがこの部屋いっぱいに立ち込めてきたどうやら出来上がったようだ。

 私は立ち上がって、焼きあがったマドレーヌを取り出す。好さんはまるで珍しいものを目の前にした子供のような目でその取り出したマドレーヌを見ていた。

 その焼きあがっていたマドレーヌそして、今の好さんを見てバイトに入った当初の野々村の事を思い出していた。

 あの時もどうしてか、いきなり野々村がマドレーヌを作って見せてくださいなんていうので作ったのだ。そしてその時の野々村も今の好さんと同じような表情をしていた。

 その野々村も今どうしているだろうか、先ほどあった野々村の姿が思い起こされる。笑顔で溢れていた野々村が泣き叫んでいた姿。

 そんな事を考えていたら再び警察にたいする憎しみがよみがえってきた。自然と手に力が入ってしまう。

「え?」

 すると、その手にかぶせてきた手があった。私は驚いてその方を向くと、そこにいたのは野々村ではなく、好さんで好さんは、優しく私の手を撫でていた。私の手は撫でられたことによって、力が抜けていっていた。

「好、店主さんが今悲しいのは分かる。けど恐い顔しちゃ駄目。ののちゃん。店主さんの優しい顔が好きだって言ってた」

 そうか、野々村はそんな事を言っていたのか。

「ありがとうございます。好さん。少し気がたっていたみたいです」

 けれど、この思いを消す事ができない。どうしてもできない。私は人が絶望する顔を始めてあの時見てしまったのだ。そう簡単に割り切れるものではない。

 野々村が帰ってきてからも私はこの思いと付き合うことになるだろう。

 

 私達はマドレーヌを取り出すと。その場で頂く事にした。私はせっかく始めて作ったのだろうから家に持って帰ったほうが良いのでは?と提案したのだが、好さん曰く一緒に食べたほうがおいしいのだそうだ。

 マドレーヌを手に取り、口にするとやはり出来上がりだという事もあり暖かかったが、その暖かさが心にしみた。

「おいしい」

「そうですねおいしいです」

 そして、始めて作ったとは思えないほどのおいしさ。好さんも満足がいっているようだ。

 一つのマドレーヌが食べ終わり、少し喉が渇いたので好さんと自分の分二つ分の紅茶を入れ飲んでいた。

 

 

 

 

「好。今日、店主さんの家に泊まろうと思う」

 私はそれを聞いて思わず口に含んでいた、紅茶を噴出しそうになった。

「こ、好さん。そこまでしていただかなくても大丈夫ですから」私はすこし咳き込みながら言う。

「でも、好のばぁば言ってた。嫌な事があったら、誰かと一緒にいたほうが良いって」

 コクコクと紅茶を飲む好さんの姿にようやく癒しを感じ取る事ができた。すこし心が落ち着いてきたのだろうか。

「いえ、しかし。私にもですね……」

「それに、好。今日泊まるホテル取ってない」

 それを聞いて私は時が止まったと感じた。いや、好さん。ホテル暮らしだったのか。とか色々驚くべき事はあったのだが。

 私は、好さんが私の家に泊まるという暴挙を止めるべく様々なことを考えたが、今日泊まるところが無いらしい好さんをほったらかす事など出来なかった。

「はぁ、いいですよ。分かりました」

 

 私の家には今、好さんが来ている。あの後、好さんは自分が今日の夕食を作ると言い出し、近所のスーパーで買い物をしてから私の家に来たのである。この家に野々村以外で女性が来る事など初めてではないだろうか。

 そしてその彼女は今、お風呂に入っている。妙前に来たときどうやら仕事が終わって直ぐに来たようで、仕事の汗を流したいのだそうだ。

 この狭い部屋にシャワーの音が響いている。私は年柄もなくどきどきしながら本を読んでいた。

 シャワーの音をBGMにしながら本を読むこと数分間。ようやく好さんが上がったようだった。脱衣所と部屋が一応分かれていて良かったと思う。

「ん、シャワーありがと」

 そうして、拭き終わり着替えも終わった彼女は出てくると先ほど買ってきたものを出して料理を作り始める。

 出されたものは、ひき肉、パン粉、たまねぎ、卵である。どこからどう見てもハンバーグの材料だ。好さんの大好物らしい。他にもからあげやカレー等が好きらしいことから意外と味覚が子供のようだった。

 

 好さんは、たまねぎを置いて切り出す。こういった料理も初挑戦であるらしい。

「好さんって、こういうハンバーグの作り方とか何処で知ったんですか?」私は多少の興味と供に聞いてみる

「テレビ」そう言った好さんは持っている包丁に全神経を注いでいるようだった。そして綺麗にみじん切りにしていく。このみじん切りのやり方もテレビで学んだのだろうか。

 そして、ある程度まで、たまねぎを切っていると突然に好さんの包丁の手が止まった。

 私はそのとき好さんの包丁のリズムを聞きながらまた本を呼んでいた。

「どうしたんですか? 好さん」

「何か、目が痛くて……」

 そういいながら目をこする好さん。もしかしてたまねぎを切ると目が痛くなるという事を知らなかったのだろうか。知らなかったのだろう。実際にこうしてたまねぎを触っていた手で目をこすっているのだから。

「あぁ、好さん。たまねぎって切ると目が痛くなるんですよ。それで、その玉ねぎを切った手で目をこするとですね、余計に痛くなるので……」

「どうすれば良いの?」

 そう首をかしげながら聞く彼女に私は答えることが出来なかった。良くたまねぎを一回噛めばいいなど聞くが果たして玉ねぎを切った手で目をこすっていて効果があるのか。

「私がやりますので、包丁を貸してください」

 私はそういい読んでいた本を置いて、彼女から包丁を受取ろうとするが離さなかった。不思議に思って彼女を見る。

「今日は好が店主さんのお夕飯を作る」

 なるほど、自分で作りたいという事か。涙目で言う好さんを見て思う。

「なら、玉ねぎだけは私に任せてください。目が痛いでしょう? 手を洗ってタオルでも当てててくださいな。その他は好さんに任せます」

 そういうと、好さんは渋々といった感じに私に包丁を渡してくれた。

 

 

 

 そして、やはり目がかなりしみていたのか、すばやく手を洗うと目にタオルを当てていた。

 私はそれを見ると手早く玉ねぎをみじん切りにする。それを傍目から見ている好さんはなにやら悔しそうな目をしていた。

 当然の話だが、テレビ等では玉ねぎを切れば目が痛くなるなど当然なのでそんな事を言う事は無い。

 好さんには次のときに期待しようか。

 

 あの後、好さんが復活するのにはしばらく時間がかかった。それからは、案外あっさりとハンバーグは作りあがってしまった。

 今私達二人は小さなちゃぶ台を出し、二人で並んでいる。この前は野々村と一緒に食べたのだがその野々村も今はいない。

 

 私は、手を合わせる。そして、それを見た好さんも私がやることの意図を察して手を合わせた。私はそれを見ると音頭をとる。

「いただきます」

「「いただきます」」

 私は最初に彼女の作ってくれたハンバーグに手を伸ばす。ちょうど良く作られたそれを割ると仲から肉汁が漏れ出して食欲をそそった。

 彼女は私がハンバーグに手を伸ばしたのを見て体をビクッとさせる。上手く作れているか心配なのだろうか。私が端から見ている限りでは変な作り方をしていなかったので大丈夫だとは思うが。

 私はその割ったハンバーグを掴み口へと運ぶ。ちなみにかかっているソースは売っている奴である。以前野々村が買ったのが残っていたので、それを使った。

「うん。おいしいですよ」

 私がそういうと好さんは嬉しそうな顔をする。そして彼女も同じように食べる。

「確かに、おいしい、かも」

 そういって微笑む彼女だった。

 

 夕食を終えた後私達は特に何をする事も無く。私はお風呂へと入った。お風呂でも好さんが乱入するなどのハプニング等は特に無く、後は寝るだけといった感じだ。

 そして時計を見てもまだ寝るには早い時間で、本を読むしか時間つぶしの方法は無かった。その間好さんは一人何を考えているのか私の方を見ているだけだった。

 

 かくして、就寝するには丁度良い時間となる。

「そろそろ、寝ますか?」私は好さんに尋ねる。

 この部屋には勿論のことだが、寝る毛布などは一組しかない。なのでどちらかは座布団を使って寝る事になる。私としては好さんは女性であるので、布団を使って欲しいのだが、この布団は普段私が使っているものでもあるので嫌がらないだろうか、という懸念がある。

「寝るところなんですけど私の家には布団が一組しかないのですが、嫌でなかったら好さんが使ってください」

 私は提案するが好さんは首をフルフルと降る。

「布団ないと風引いちゃう。一緒に寝る」

 私はこの提案に驚いた。いや、今日は驚いてばかりなのでそんな衝撃は無いのであったが。とにかく驚いた。普通の女性は好きでもない男性と一緒に寝るという事に対して、普通は嫌悪感を催すのではないだろうか。まぁ、私の布団を使うしかないという時点で今更な感じなのだが……。それに、私が好さんと一緒に寝るという状況に耐えられるかどうか疑問である。主に理性が

「それとも、店主さん。好と一緒に寝るの嫌?」

 そう若干涙目になりながら首をコテンと傾ける好さん。それを見て私は、あぁ、こんな表情をされては断れるわけが無いじゃないですか。などと思っていた。

 

 

 

 そして、私は布団を用意して好さんと寄り添うようにして眠っていた。お互いに背を向け合っている。私がさすがに向き合って寝るのはまずいと、説得した結果だ。

 ボーっとしながら何を見るでもなく前を見ていた私だったが、今日はいつもと比べて窓から差し込んでくる月光がとりわけ強いように感じた。

 直ぐ後には、好さんのぬくもりがある。もう寝てしまったのだろうか。既に好さんの呼吸は整っていた。

 私も既に好さんは眠ってしまったのだろうと思い瞼を下ろしていた。思い返せば今日は色々な事があった。野々村が捕まったという悪い知らせから始まり。好さんがお菓子作りにきたり(好さんのマドレーヌは私の部屋の冷蔵庫に入っている)、私の家にお泊りしてきたり。今日だけでどれほど密度の濃い一日を送ったのだろうか。素肌に感じられる毛布の感触がいやに心地良い。

 そこで私は背中を触れられている事に気がついた。

「どうしたんですか? 好さん」私は尋ねる。先ほどまで目を瞑り、今日の事を思い返していたせいか。かなり眠くなっていた。いや、恐らく精神的に疲れているのが一番の要因だろうけど。

「ん。店主さん。大丈夫そうだなって」そこで一呼吸いれる好さん。今日の私はそんなに大丈夫じゃなさそうに見えたのだろうか「今日、来たのは心配だったから。でも、実際店主さん見てもっと心配になった。ほおって置いたら死んでしまうんじゃないかと思った」

 そこまで、だったのだろうか。いや、実際それほどだったのだろう。私の知り合いにこういった事に強いのがいたお蔭で野々村は助かるのだが、もし、そういった知り合いがいなかったら、私は狂ってしまったかもしれない。野々村の帰りを待つといっても、官房長官を殺した罪だ。果てしなく重い、恐らく一生日の目を見ることは出来ないと思う。

 そう考えると彼女がいてくれた事はありがたかった。人との温もりがあることによって安心ができる。もちろん情報屋もだ。

 後ろで、好さんがもぞもぞと動いている。そして、私の背中にピトッとくっついた。

「ちょっ、」私はその事に驚き声をあげ、後ろを振り向こうとしたが好みさんの力が不自然に強く振り向く事が出来なかった。

「好。店主さん死んじゃうの嫌だった。 店主さんの事好きだから……」

 瞬間、時が止まったような感じがした。好さんからの突然の告白。いつもなら嬉しいと感じ、いち早くこれに返事をするはずだ。しかし、私の心で何かが返事をする事にストップをかけていた。

 どう答えれば良いのだろうか。私は今まで生きてきた中で告白をいうものを受けた事が無い。つまりこういったときどうやって答えれば良いのか分からなかった。

 そうして、どのくらいの時間がたっただろうか。

「すぅ……。すぅ……」

 後ろから、可愛らしい寝息が聞こえてきた。好さんの寝息だ。

「私はどう答えれば良いのでしょう」

 私はその事をしばらくの間考え続けていた。

 

 次の日の話だ。私が朝目を覚ますと、何時々に出て行ったのか後ろで寝ていたはずの好さんは既にいなくなっていた。その事にあわてた私だったが、台所に書置き置いてあることに気がついた。

 『早くに起きちゃったので、帰ります』

 何という簡潔な理由だろうか。それを見た私はしばらく玄関にある扉を見続けていた。

 

 今日は、情報屋の話しが正しければ、今回の事件の真犯人が見つかるといった話であった。それはつまり、あの場所から野々村を助けてあげる事ができるという事でもある。……今度の情報屋との約束の時、色々とお菓子を持っていってやろう。

 私は今、朝食を食べていた。今日の朝食は、軽めにパンとコーヒーだけである。特に意味は無かったが早く食べ終わり、近くのコンビニによって新聞が見たい、と思ったのである。

 

 私はその後コンビニにより新聞に目を通すと驚愕の事実がつづられていた。詳細は以下の通りである

 

『小久保官房長官殺害事件真犯人逮捕!! 犯人は何と横道総理!! 政界の大スキャンダル。

 事件の顛末は次の通りである、小久保官房長官と、横道総理の間柄がよくない事は最近の国会等でご存知の事であろう。

 横道総理の打ちたてた政策は、必ずしもと言っても良いほど小久保官房著官により批判を受けていたこと。

 

 

 

 それから、どうやら横道総理の娘さんに小久保官房長官は金を握らせ売春をしようとしていた。らしい。

 その事を知った横道総理は拳銃をネットから購入。殺害にいたったのである』

 

 真犯人が総理だったという事は私にとっては驚愕の事実だったが、それも今は関係なかった。今は野々村がこれで帰ってくるという事実だけが重要だった。

 しかし、犯人が総理だったという事で納得のいくことがいくつかある。野々村の主張を警察側が聞き入れなかったという奴である。

 だが、これなら聞き入れなかったとしてもおかしくはない。この国のトップからの圧力、そして恐らくだが金のやり取りもあったのだろう。

 

 私はその新聞を購入し家へと帰る。そういえば、いつもは山ほどあるはずの新聞は今日に限り少ししかコンビニに置いてなかった。

 世間もこのニュースに高い関心があるのだろう。確かにテレビ等で見ればナイスなミドルかもしれないが実際を知ればただの権力と金をかざしたおっさんだった。横道総理は知らないが小久保官房長官は少なくともそうだった。

 そういえば、何故横道総理は野々村を犯人の代役として選んだのだろう。と、考えてその問いは直ぐに解決した。

 恐らく小久保官房長官をつけていた人がいたのだろう。そして、足しげく私の店に通っている所を発見し、その時にたまたまいたのが野々村だったのだ。

 野々村の見た目も美少女と言っても過言ではない。おそらく過去に一回襲われそうになって、そして小久保は諦めきれず野々村のバイト先を探し、そして野々村を発見。そして彼女の事をつけまわした。とか適当な動機を作り上げるつもりだったかもしれない。

 そして一度捕まえてしまえば、金、とその職権を利用してどうしようと、有罪を逃れられないようにしたのだろう。

 しかし、それももう既に敵わない。情報屋の彼女がいて本当に良かったと思う。

 

 店が見える所まで来ると、なんと電気がついていた。確か鍵はつけたはず。とか、泥棒か?だとかいう考えがめぐりめぐったが、ここであの店の鍵を持っている人物を一人思い出した。それにしても今日のうちに帰ってこれるとは、情報屋アフターケアが良すぎるな。

 どんな事を要求されるのか、後が恐い。

 私は店の扉の前に立ち一呼吸置く、私がここから入ってくるなんてなんとなく新鮮な気持ちだ。そして、扉を開ける。

「いらっしゃいませー」

 すると、そこにはかつての笑顔で出迎える野々村がいた。留置所で見たような絶望に染まった顔ではなかった。まぁ、その顔は涙で少し赤くなっていたけれど……。

 私は野々村の立っている前まで歩いていく。

「おかえり」

「ただいま、店主さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 
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