No.326546

御菓子屋妙前 ~第三幕~

帽子さん

いやはや、矛盾がね、多いのよ私の小説は

2011-10-30 16:42:56 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:910   閲覧ユーザー数:896

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・。 by??

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私が店内に戻るとそこには先ほどまで数人いたはずのお客が忽然と全員姿を消しており、そこにいるのは小久保官房長官と数人のSPのみとなっていた。

「ぐふふふふふ、すいませんねぇ。私のプライベートを迂闊にもらすと大変な事になってしまうので、他の方たちにはお帰り願いました。あぁ、心配しなくても大丈夫ですよ私が帰られた人の分も買いますから」

 生理的に拒絶感を催す笑いと共にその巨漢、小久保官房長官は言う。私はこの人が苦手だ。最初この店に来たときからこの人のかもし出すオーラや、態度が理由だ。

 それを見て私は野々村がこの人を嫌う理由が分ったような気がした。が、野々村は小久保官房長官には未だ出会ったことは無いはずだ。私はその考えを捨てた。

「いつもご贔屓ありがとうございます。小久保官房長官殿」

 私はいつもどおり店主とお客という仮面をかぶり接客する。普段の私からは考えられない対応だが、この人相手ではこれが普通となっていた。

「それで、今日はどういったご用件で?」私はなるべく感情を前に出さないようにして尋ねる。

「あぁ、いやなに。この店をTVで代替的に宣伝したらどうかと思ってね。そうすればこの店はもっと客が入るだろう、そうすれば君の懐も大分暖まるはずだ。どうかね?」

 私はその言葉の意味を考える。何かあるのだろうか、私はこの官房長官がただでこのような交渉をするはずが無いそう考えていた。

「ぐふふふふ、そう深く悩まないでくれたまえ。心配はいらない、ただ必要な時になったらちょっとした要求を呑んで欲しいのだ」

「要求?」その不穏な言葉に私は不安を覚える。

「私は今後この地域を新たに開発しようと思っていてね。その際にここら一帯の住人には少しの間出て行ってもらいたいのだが、それには激しい反対意見がでる事が予想されている。そこで君の出番だ、ここら一帯の住民達の信頼を得ている君が私の要求を呑みここから出て行けば住民達は渋々ながらここを出て行くだろう。それに君の新しい仕事場の心配も要らない、私は東京のとあるデパートの一角を貸しきる事ができる。そこでこの仕事を続ければ良い。給金もかなりよくなるはずだ」

 私はその言葉を聞いて驚愕した。何ということだろう。この男は私をここいら住民の説得のためのだしにしようとしているのだ。そこで私は思い出す。この男が毎回私に多くの金を支払っていた事を。・・・・・・なるほど、あの金は私を落とすための準備金だったというわけか。

 しかし、この男は何か勘違いをしている。ここらに住んでいる住民というのはほとんどがここの常連さんたちで占められていて、何故かここの常連さんたちは不思議なほど実力を持っている。それは武力なり、財力なり、色々な面の事でだ。そんな人たちをこの男は私をここから追い出したくらいで説得できると思っているのだろうか。確かに私がここから離れて良い思いをする人は少ないがそれでも遠くに行ってしまって買いに行くのが面倒だぐらいなものだろう。

「官房長官殿お言葉ですが、私がここを退いたくらいではここらの方たちのを追い出す事はできないかと・・・・・・」それに「それに、私自身ここを出るつもりもありませんし、それにここ妙前は今までTVなどの紹介は全て断っておりますので・・・・・・」私はここが大好きだ。いろいろな個性豊かな常連さんたちがいる。そんな面白いところをわざわざ離れようとするだろうか。いや、しない。

「ふむ、君は賢い者だと思っていたのだが。残念だ。私はここらで失礼する」

 小久保官房長官はいらだった様子で荒々しく立ち上がる。周りにいたSPたちは小久保官房長官がイライラしている事で少々うろたえていた。そして官房長官は何も買うことはせずにノシノシとこの店から出て行ってしまった。

 それを私はいつもどおりレジで立ちながら見詰めるだけだった。

 私は、小久保官房長官の縦長で黒い車がここから出発したのを確認すると奥部屋にいるマスコットたちを呼びに行こうと思い奥部屋へと向かった。

 

 

 私は奥部屋の扉を二度叩く。

「小久保官房長官はいきましたので、店内に来て良いですよ」

「ふぅ、やっと行きましたかー。ありがとです店主」

 私がそう言うと、扉からは野々村だけが出てきた。彼女はニコニコ顔でこの店の征服を身にまとっている。

 

 

 

 ここで、彼女の制服の説明をしておこう。彼女はこの店のマスコット的存在という事もあり。ほかのお店などのようなかしこまったような制服ではない。どちらかというと、今の時代のアニメとかでよくあるような可愛らしいものである。以前バイトが受かり、野々村が店番として出ていたとき常連さんにもっと可愛い服にしたほうが良いといわれ彼女に経費で可愛いものを買ってもらった。私には美的センスという物が皆無なので、そこにはノータッチである。そのお蔭か、この店では以前とは違った客層が多く来るようになった。彼女目当てに・・・・・・。

 

 私は、その部屋には好さんもいたはずなのに野々村しか出てきていないことに気づき部屋の中を見たが誰もいなかった。

「あれ、好さんは?」私は尋ねると

「好ちゃん? 好ちゃんなら、店主が見せに戻ってから少し経った時だったかな? 裏口から出て行っちゃたよ。お弁当ありがとだって」

 そうか、好さんはもう言ってしまったのか・・・・・・。残念だ。ん?伝言を受取ったということは野々村は好さんと言葉を交わしたという事か?なんと羨ましい。好さんは無口で有名なのだが、くぅ・・・・・・。野々村は喋ったのか、ちなみに私は彼女とは数えるほどしか喋ったことは無いし、声を聞いたことも数えるほどしか無い。私も彼女の

声を聞きたかったものである。残念だ。

「そうか、残念だ。しかしもう行ってしまったのならしょうがありませんね。さぁ、仕事を再開しましょう」

 私は手をパンパンと二度叩いて野々村を店内に向かわせた。

 

「ありがとうございましたー!!」

 店内に明るい野々村の声が響く。野々村のバイト内容は店内をいそいそと歩き回り接客をする事だ。そのため常に笑顔でいることを言いつけている。ただ、野々村の場合はデフォルトで笑顔なので言っても言わなくても同じ事なのだが。

 私が店内に目を巡らすと先ほどまで、小久保官房長官のお蔭で人っ子一人いなかったこの店内は野々村が店に出たとたん、満員御礼とはいわないがそれでもそこそこに客が入るようになっていた。

 何とはなしに野々村を見る、本当に素敵な笑顔だった。私が少し見ほれてしまうほどに。そういえば、野々村がバイトで店内に入るのは久しぶりだったな。いつもは何故かバイトに来ても遊んでいたりとしているのだが。私は雇い主として甘いのだろうか。甘いのかもしれない。だがそれでもいいと思える。私がここの店主で今の野々村にもたいした不満は無い事だし。野々村が私の視線に気づいたのかこちらを向くと、その笑みを更に数段階レベルアップさせた笑みとなった。・・・・・・、自分で言っといてなんだが意味が分からない。

 

 今日は小久保官房長官という思いがけないイレギュラーがあったが無事今日の仕事も終盤を迎えてきた。午後八時半ちょっと過ぎ時計を見るといつの間にこんなに時が進んだのかと思うほど時間が経っていた。

「もう良い時間ですし、そろそろ切上げますか」

「ふぇー、やっとですか!! 久しぶりに仕事したので疲れましたよー」

 先ほどまでバリバリはたらいていた野々村が言う。

「久しぶりではなく毎日やってくれると助かるんですがね」

「ふへへへへ、すいません。それは無理ですよ。私にもやるべきことという物がありましてぇ」

「はぁ、では私は暖簾を下げてくるので、片付けをしていてください」

「はーい」

 私はその言葉を聞き、暖簾を下げるために降り口から外へでた。

 私は外に出、夜独特のちょっとした冷機が私の肌を撫でる。そのことに私の肌は驚き、その部分は鳥肌立ってしまった。

「ふぅ、もう夜になるといささか肌寒いですねぇ」

 私は誰に言うでもなく、その寒さについての感想を言う。道路を見ると、帰宅の時間なので数多くの車の行列が見て取れた。数々のライトが光っているその様はなんとなく神秘的だった。

 私は暖簾を下げると店内へと戻った。

 

「おつかれさまでーす」

 

 

 

 私が店内に戻ると、そこには既に仕事着から私服へと戻っている彼女がいた。彼女はいつもどおりの笑顔で私を迎える。そして店内は既に暗くなっていた。彼女が気を利かせて電気を消してくれたのだろう。まぁ、一部の電気はついたままだが、これはこうして私と話したりするためだろう。

「あぁ、お疲れ。今日は色々と大変だったね」

 私が言っているのは小久保官房長官の事だ。すると、彼女は少しばかり表情を暗くする。はて、彼女と小久保官房長官の間になにかあるのだろうか。見ていた限りでは何も接点は無いはずだ。

「それで、店主。確か店主の部屋にはテレビとかありませんでしたよね」

 彼女は私に確認を取ってくるが何なのだろうか。確かに私の部屋にはテレビは無いが。そのせいか、私は世の流行という物に疎い。まぁ、それも野々村が来てくれたお蔭で大分改善されてはいるのだが。

 ちなみに彼女が何故私の家にテレビが無い事を知っているかというと何度か彼女に家を見せて欲しいといわれ連れていった事があるからだ。そのときに何かしら間違いは起きてはいない。

「なら、最近の小久保官房長官に関するニュース知りませんよね?」

 ニュース?

「はい、最近テレビをつけると、その事に着いてばかりやっているんですよ・・・・・・」

 全く知らない事だった。

「それによると、最近ですね。女の子、中学生辺りの子供ですかね。その子達の殺害事件が増えているんですよ。しかもその子達は死体解剖の結果全員乱暴をされてから殺されているそうなんです。そしてその犯人がどうやって調べたのか、小久保官房長官なのではないか?って言われてるんです」

 それを聞いてみると私の知らないものばかりだった。なるほど、しかしそれならこの子が小久保の目の前に出たくないというのはもっともだというものだろう。彼女はその年齢に反して容姿が幼いのだ。

「だから、私は彼が来たときは外に出たくないんです」

「なるほど。しかし何故それを私に? 私は中学生でも、女子でもないのですが」

 私がそう尋ねると彼女は顔を赤くして「殺人犯の考えなんて分らないじゃないですか!! だから、何も知らないで接するよりも知っていたほうがいいと思って・・・・・・」

 どうやら、私を心配しての事のようだった。しかし、私はそんなに弱そうに見えるだろうか・・・・・・。やってみないと分らないが。あの巨体に遅れを取る事はさすがにないと思うのだが。

「なるほど、ありがとうございます。しかし大丈夫ですよ。これでも私は強いですから、もし何かやってきたら逆に返り討ちにしてやりますよ」

 私が腕まくりをして力こぶを見せながらそういうと野々村はキョトンとした表情になりそうですね。と言った。するといつもの野々村に戻ったように感じた。シリアスな野々村というのはらしくない。

「だから、もう帰って大丈夫ですよ」私はそう言うと、仕事を終える後片付けをするために奥の部屋へと消えた。

 

「まぁ、それももうそろそろの辛抱なんですけどねー」

 だから、私がいなくなった店内で野々村が何と言ったところで私が気付くはずも無かった。

 

 

 

「どういう事なんだ!!」

 私は今目の前にあるパソコンのディスプレイに写っているとある事実に驚き叫んでいた。

 私が今いる場所。それはこの町の一角にあるインターネットカフェだ。昨日、野々村から聞いた小久保官房長官の話に興味を持った私は、ここに調べにきたのだ。

 私の家にはアナログな物、そして生活するための最低限しかないため、良く野々村などに電気物に弱いと思われているが、そんな事は無かった……いや、そんなことはどうでも良い。いまそんな事は関係ないはずだ。そういえば今日は休日だったなだとか、店を臨時に閉めてきたなんて事はどうでもいい。

 今私の目に映っている事実。その事実は明らかに私の想像の範疇を超えていた。

 

 

 

 『小久保官房長官 銃殺!! 犯人の正体は?』

 

 昨日会った。人物が殺されている。そういえば、今朝からパトカーの音がうるさかったかもしれない。そんな事に今更気づく。

 私はこの事実に驚愕しながらもその記事の詳細に目を通した。

 

 『昨夜、零時ごろ未明京都府□△町の△公園付近にて、小久保官房長官の死体が発見された。警察の司法解剖によると、頭に一発銃弾を受けた後があるとの事。それが致命傷となったようだ。警察は最近小久保官房長官にかかっている少女暴行殺人事件の関係者が私怨で殺したのではないか、との見解を示している』

 

 私が昨日小久保官房長官と分られたときは九時に近かったはず。それから、約三時間の間に何があったのだろうか。私は、目を見開きながらそのページから一編たりとも情報を逃さないようにと睨み続けていた。

 そんな時。

 

 plllll、plllllll。私の携帯電話が音楽を鳴らす。この音楽は着信のときの場合だ。誰だ?

 私は、ポケットから携帯電話を取り出し、相手を確認する。野々村だった。恐らく、今目の前で開いている、この小久保官房長官の事件についてだろう。

 

「もしもし。えぇ、小久保さんの事件ですか? 知ってます。はい、いいですよ……。」

 予想通り、野々村は私に小久保官房長官についてのことを知らせようと思っていたようだ。そして、私達が関係者として疑われる可能性があるかもしれないから、一緒にいようと言われたのだ。言われてみればそうかもしれない。こういう場合付き合いがあった人を疑うのが定石だと思う。いや、警察の取り調べ方など知らないが。ただ、私は銃など持っていないのでそんなに心配する必要も内規がするのだが……。野々村も、持っていないだろう。

 故に、一緒にいなくてもいい気がするのだが。まぁ、気分の問題なのだろう。

 待ち合わせる場所は、どうやら私の家にするらしかった。その際、夕食も作ってくれるらしい。今から楽しみである。私はインターネットカフェを後にした。

 

 私が家に着き待つこと数十分。外から少し大きい音の靴音が聞こえてくる。この感じは恐らく野々村だろう。ようやく来てくれたようだ。

「こんにちわー!!、はいはいすいませんねー」

 彼女はドアをノックせずに開け入ってくると言う。そして、私を確認すると、足でどけるように私をのけると慣れたように台所まで行くと持っていた、スーパー袋をドサドサとおろし、この部屋にある小さな冷蔵庫に入れ始める。

「ん? カレーかな」

「んー、そうよー」

 私は彼女が袋から出し入れしている買って来た物を見て適当にあたりをつけるとどうやら当たりのようだった。

「それにしても驚いちゃったよー。まさか、小久保官房長官死んじゃうなんて」

「えぇ、私も先ほどまで、ネカフェで、パソコンいじってたので偶然知ったという感じなのですが驚きました」

「まぁ、それもだけどー。野々村的には、店主がパソコンを使えたことにも驚きましたよ」

 彼女はそう言うと、私の向かい部屋の端に積んである座布団を持ってきて座る。彼女を出迎えたために立っていた私は、同時に先ほどまで座っていた座布団に座る。

「馬鹿にしないでください。私だってパソコンくらいは使えます」

「えへへー、ごめんね。でもこんな部屋じゃそう思われても仕方ないと思うなー」

 彼女は周りを見渡す。見事に何も無い。生活雑貨等はあるのだが何処にでもありそうなテレビは無い。ついでにラジオも無い。更には新聞も取っていなかった。

 ……。しょうがないのか。

 

「それにしても、店主的には今回の件どう思われますー?」

 野々村は台所に立ち、慣れた手つきで野菜を刻みながら私に尋ねる。本当に慣れた手つきだ。これから、お菓子作りの方も手伝ってもらおうか、と考えてしまいそうになるぐらいには。

 

 

 

「そうですね。個人的にはもう胃に穴が開く思いをしなくてすむので、ありがたいですが。店的に考えますと、やはりビッグゲストの消失は痛いですかね。お客あっての店といいますか」

「そっかー。店主さん現実的だなー。私的には女性の敵が消えたって感じなので逆にせいせいしますよ。あの人が近くにいた日には危なくて夜道を歩けませんからね」

 あははー。と笑いながらいう野々村。たしかにそうかもしれないな。いや、死者相手にひどい話だが。

「しかし、せいせいするとは貴女も酷い方ですね。お得意様がお亡くなりになられてしまったのに……」

「それは、しょうがないでしょ? あんな噂が流れてる人が近くにいちゃね。それに私は店主とは違って可愛らしい女の子ですからっ」

 そう言って彼女は先ほどまで刻んでいたものを全て、鍋へといれていく。まだルーは入っていないのであの独特の香りはまだ漂ってはいない。

「しかし、それも噂でしょう?」私はそう返すが「でも言うじゃない? 火の無い所に煙は立たないって」こう切り替えされてしまった。「たしかにそうですね」

「だからね。あの人についてはこんな感じな評価で良いと思うんだよね。店主もさ、お得意様なんて山ほどいるじゃない? 好ちゃんだってそうだし。デリバリーしか頼まない情報屋さんしかりさ。だから、今は胃の痛くなる懸念がなくなったって思っておけば良いんじゃないかな?」

 彼女はそういって私の方を向き微笑む。そうだな。どうでもいいか。あの人が消えた所で妙前は何も変わらない。以前の妙前に戻るだけだ。私はその事についてはもう考えない事にした。今はただ彼女が作ってくれるカレーを心待ちにしておこうか。どうやらまだ時間はかかるようだし。一寝入りひても良いかもしれない。

「私はちょっと眠りますね。カレー出来たら起こしてください」

「あいあい~」その言葉を聞いた私は座布団を枕代わりにして目を瞑った。

 

 私が目を覚ますともう既に部屋の中は、太陽が沈みかけているのだろうオレンジ色で染まっていた。

 身体を起こし、野々村を探そうと視線を動かすと、私の側に丸いちゃぶ台が置かれており、私のいる位置とは正反対の場所に野々村は携帯をいじりながら座っていた。

「あっ、店主さん起きたの。う~ん、カレーが出来上がるまでもうちょっと時間がかかるなぁ……」

「おはようございます」

 そう言われ私は鼻を動かすと確かにカレーの匂いが漂っていた。そして私はお腹が空いている事を知覚する。

 はぁ、早く出来ないものか……

 

十数分後。

 

「店主やっとできましたよ~」

 野々村は先ほどまでいじっていた携帯を見ながら言う。どうやら、携帯の時計で時間を見ていたようだった。私はそれを見て、この部屋にある時計を見れば良いのでは、と思ったが、先ほどまで私は寝ていたのだった。という事を思い出して半分申し訳ない気分になった。話し相手がおらず、ただ時間を待つしかないということは結構苦痛である。

 しかし、私は最近の若者は携帯が手放せないと、聞いたことがあったので、たとえ私が起きていても携帯を見ていたのかなとでも思う。

「おぉ、やっとですか腹ペコですよ」私はお腹を撫でながら言う。腹と背がくっつくほどではないが空腹を感じていたのは確かである。

「はいは~い、じゃ。よそってきちゃいますから。少しだけ待ってていてくださいね~」

 と、野々村は私を小さい子供を相手するときのように言う。そのことで私は少しムッとしたが、今の状況を思い返すと、そう思われても仕方が無い事に気付いた。

 しょうがない、手を洗ってくるか……。

 私は手を洗うために席を立った。そのまま洗面所へと向かう。蛇口をひねり水をだしてその中に手を突っ込む。冷たい。この冷たさが私を少し引き締めてくれるようだった。

 ふと、私はその時鏡をみると先ほどまで眠っていたせいか、若干髪の毛が跳ね、顔を見ると今寝起きという事が分るような顔になっていた。

 恥ずかしいな。顔も洗っておこう。

 ついでに顔も洗うことにした。

 

 私が、すっきりした顔でリビングといえるべき場所へともどると既にそこには私の分と野々村の分のカレーが配膳し終えていた。

「あっ、用意しておいたよ店主さん」

「ありがとう。じゃ、食べようか」

 私は、先ほどまで寝ていた場所に枕代わりに使っていた座布団を置いて座り、手を合わせる。野々村もそれに気付き私と同じく手を合わせる。

 

 

 

「「いただきます」」

 私はそう言うと、置いてあったスプーンを手に取りカレーを口の中に運ぶ。

 うん。うまい。カレーのあの独特の辛味が口の中に広がる。

「中辛?」私はなんとなく尋ねる。

「そうですよ。私あんまり刺激物好きじゃないですから」彼女はそういうとまた一口カレーを掬う。

「そうですか。私も辛いのは嫌いじゃないですが、この位がちょうど良いですね」

「ところで味の方はどうですかね? 味見もしたから多分まずいって事はないと思うんですけど」

 私はそう言われてそういえば味の感想を言ってなかったなと気付く、普通は味の感想を言うものだと思う。

「おいしいですよ・じゃがいもとかも難くないですし」

「ほんとうですか!? うれしいです!!」

 私がそうお礼をすると、彼女は笑顔になり言う。

 そして私と彼女二人はそこそこ雑談を交えながらカレーを食べ勧めていった。

「ふぅ、おいしかった」彼女は、すこし後にのけぞりながら言う。そして食べた事でお腹が少し張っているのかお腹を撫で付けている。

「じゃあ、私がお皿を洗いますからゆっくりしていてください」

「お願いしまーす」

 先にカレーを食べ終えていた私は彼女のお皿を私のお皿に重ね、皿を洗うために立ち上がる。我が家はリビングとキッチンは繋がっているので対して移動する事はないのだけれど。

 

「そういえば、明日、妙前に警察の方とか来そうですねー」

 お皿を洗っている私に野々村が話しかける、野々村は眠いのかちゃぶ台にもたれかかりぐだーっと溶けている。

「そうですね。来るかもしれません。そこそこ常連だったわけですからね」

「店主、もし私が捕まっちゃったらちゃんと助けてくださいよ」

 何を言っているのだろうか。私達はテレビで言っている小久保官房長官の死亡推定時刻には二人とも店で仕事をしていたはずだ。捕まるはずは無い。もしかしたら冤罪で捕まった場合だろうか……。

「まぁ、捕まるなんて事はありえないとは思いますけどね」

 

 それから私達は他愛の無い話をし、時計を見ると良い時間だったの野々村は家へと帰宅した。

 私は後にこのことを深く後悔することになる、何故彼女をこの時呼び止めなかったのか。

 後悔の念はいつになっても消えはしない。

 

 

 野々村が私の家にカレーを作りに来てから早一週間という時間が過ぎ去っていた。

 そして、私は五日前から新聞をとり始めている。

 私は少し前に起こった小久保官房長官についての情報が無いかと躍起になって新聞から情報を得ている。勿論近所にあるネカフェにも通い新聞では分りにくい状況などを手に入れている。

 私は本来なら、このような小久保官房長官が殺された事件、そしてその詳しい情報などどうでも良かった。そうどうでも良かったのだ。

 しかし、そう言っていられないのが今の状況だ。

 

 時間で言うとちょうど六日前、野々村が私のところにカレーを作りに来た次の日のことである。私がその日バイトに来なかった野々村のことを恨みながら仕事をし、休憩時間となったとき私はふと携帯を見た。すると、そこには一通のメールが届いていて。宛名は野々村だった。私はバイトにも来ずになに暢気にメールを送っているのかと思ってそのメールを見てみると。

 

 

 

『店主さん! どうしよう! 家に警察が来てこの間の事件の犯人が私だって!!』

 そんな内容が短い文で書かれていた。私はその事に珍しく動揺し、どうすれば良いのか少しの間あたふたしていたのだが、少ししたら警察へ行き私がその時の状況を説明すればよいという考えにやっとの事行き着いた。

 私は急いで着替え財布を手に取ると、店の表へと出て暖簾<のれん>をさげる。今日はもう店じまいだ。いまから警察署へと行かなくてはならない。

 確か、警察署へと行くにはここから二駅ほど移動しなくてはならなかったはずだ。私は駆け足に駅へと向かった。

 

 私は今疲れている。これほどまでの疲れを今までに感じた事は無い。それほどまでに疲れきっていた。店内にぽつんと置いてある椅子に腰掛けながら今の状況に打ちひしがれていた。

 今私は既に警察所へと行き、野々村の罪が冤罪だという事を主張してきた所である。私の疲れの原因はそこにある。それの一部をダイジェストにして少し話そう。

 

 私が、警察署へと付き。野々村のバイト先のオーナーという事で会おうとしていたのだが、まずここでストップが掛けられた。小久保官房長官殺人事件の第一容疑者に無駄な知識を植え込まないために気安く面会をしてはいけないのだそうだ。

 そこで躓くとは思わなかった私はその受付にいた女性の方に私の身の上を説明すること数十分ようやくの事で、面会の許可を短い時間だが貰う事ができた。

 そして私は良くドラマなどで見かけるような留置所へと連れて行かれ、待っていると。囚人服(だろうか)を着た野々村が向こう側から、女性の府警に連れてこられた。

 野々村は私の姿を確認すると、いきなり窓へと駆け寄り涙を流し堰をきるように話始めた。

「店主さん!! どうして? どうして私は捕まってるの? 分らないよぅ」

 涙を零し乱れる野々村、今おかれている状況の意味が分からないのだろう。何故自分が捕まったかのその意味が。

「安心してください。大丈夫です、貴女が無実である事は私が知っています。貴女を絶対にそこから救って見せます。任せてください」

 私は彼女を安心させるようにと、言葉を語りかける。

 私はその時若干の怒りを覚えていた。私が知っている野々村はこんな悲しい顔をすることは無かったのだ。いつも笑っていて。気さくで。少なくともこんなマイナスな表情は見たことが無かった。そしてそんな明るかった彼女に暗さを覚えさせたこの忌々しい事件に対してかなり腹が立っていた。

「お願いします、お願いします、お願いします。私がいくら、あの時はバイトをしていたと話しても信じてくれないんです。お願いします。店主さん。助けてください」

 彼女はずっとそんな事を呟き続けた。私はそれに対して安心してくれだとか、必ず助けるとか話していたのだが聞いてくれた気配が無かった。そして刻一刻と面会時間終了が近付いていき、面会時間が終了となったとき。

「面会時間終了の時間となります」

 といった、無機質な声が側にいた婦警の方から声が発せらた。そして、婦警に野々村は腕を捕まれる。そして、その奥にある厚い厚い扉に飲み込まれていった。

「嫌だァああああああああああああああああああああああああああ!! 戻りたくないよぉぉおおおおおおおおおおお!!」

 喉がつぶれてしまうのではないかと思うくらいに大きな声で叫ぶ野々村。その声を聞き、私は心が激しく痛むと供に、野々村に無碍な扱いをしている事に対して激しい憎しみの感情が渦巻いていた。その憎しみの感情に、心が押しつぶされてしまいそうなほどだ。しかし、そこで押しつぶされてしまうわけには行かない。もし押しつぶされてしまったら、野々村を救う人物がいなくなってしまう。

だから私は野々村が飲み込まれてしまった扉に向かって「大丈夫です。必ず救い出して見せます」なんて言葉を吐いた。

 

 こんな事があったのだ。あの後かなり駆け足で店に戻り、誰もいない店内に椅子をだして腰をかけた。そして今に至る。といった感じである。

「そういえば」

 私はふと、気になった事があった。それは野々村の言っていた。バイトをしていたと言っても誰も信じないという言葉である。野々村は捕まりそうになったときに一番最初、その事を言うはずである。そして、そのような証言があったとするならば、妙前に捜査がきても良いはずである。しかし、ここ数日間この店に警察官と思われる人物は一人もいなかった。

 そこで一つの過程が立てられる。それは警察側で意図的に野々村を犯人に仕立て上げようという思惑があるのではないか? と、いうことだった。

 そう思い立つと、色々と不思議な事案が浮かんでくる。普通重要人物だからといって、あそこまで面会を拒否するものだろうか。そしてあからさまに短い面会時間。

 

 きな臭い

 

 私は立ち上がり、ポケットに入っている携帯電話を取り出す。連絡する先は、小さなお友達の所である。

 

 

 

 残念ながら私には、警察に盾突けるようなそこまで大きな力はない、しかし私のお友達達は別である。彼女達ほどこの世で信頼できて一番頼りになる存在もいないだろう。

 私はアドレスから彼女の番号を見つけ電話をかける。

「plllll。pllllll。ガチャ」

 ツーコールで出た

「もっしもーし! 店主さん!? もっちろん電話してきたりゆーはわかってるよーん。お菓子二週間分でやってあげるー。あとあとー、店主さんが私のためにー一日時間を作ってくれるとうれしいな」

「それくらいでいいんですか? なら、了承しましたよ」

「よーっし、なら契約成立だね。ふっふーん。おれっち達に盾突いたあほどもを蹴散らしてくるよ」

「頼みます」

 

 私はそういうと携帯の電源を切った。


 
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