――2011年11月16日 15:55
――学園都市 理系学区 医療学部
――一騎の研究室 地下
「これか……」
G-6の前身とも言えるG1システムの使用が想定されていたロードチェイサー。それを趣味と気分と気合で魔改造してしまった結果原型と留めない化け物マシンと化していた。
「これ、小沢さん作だよね」
「それ聞くか?」
「いや、榎田さんかもしれないし」
「ああ……」
どちらにせよ、前輪が二輪になっており、車体後部にはかつての英雄が搭乗していたマシンを模したデザインになっているせいか、女性的センスは一切感じられない。
「えーっと……もう時速420kmとか書いている時点でやる気無いよね」
「殺る気はまんまんだな」
よくこの構造で実現できたものだ、と逆に感心してしまった。
「ちょっと待て。時速420kmってことは……端から端まで一時間か」
「ぶっとばせば。の話だけどね」
いずれにせよ、普通の人間には到底無理な話である。
ハルから、もう自分でみたら?と晴彦からマニュアルが渡される。それに目を通したものの、サイドブースターがついていたり、ダイナミックエントリー用のカタパルトに変形したりと、安全性を犠牲に機動力に傾向しているようだ。
「逆じゃね?」
だが最近の敵の強化具合、加えて特殊な敵の増加を鑑みても、アインツが現場に直行するのは早いほうがいい。
いずれにせよ、大きな力を得たことになる。
「まあけど、仮面ライダーとバイクは切っても切れない縁。今まで専用のバイクを持っていなかった方がおかしいよ」
「ガードチェイサーで事足りていたからな。まあくれたってことは使っていいんだろ。三年くらい酷使してデータ送れば文句ないだろ」
そう言ってロードチェイサー・カスタムの周りを、観察するように回り始める。全体的に灰色が目立つカラーリングであり、渋く重い印象を受ける。
「右ハンドルにダイヤルとスイッチがついているな……」
「それを回してスイッチを押せば各種機能を起動できるらしいよ」
「変形は?」
「君はバイクに何を求めているのさ?」
「ロマン」
第十九話 未来の思い出
――2011年11月16日 16:35
――学園都市 理系学区 医療学部
――一騎の研究室 総合司令センター
一騎ですらあまり出入らない司令センターで、二人はモニターを見つめていた。
基本晴彦はここで待機し、アインツのサポートを行っている。本来複数人でバックアップする予定であったため、何人かが座りコンソールを叩くためのスペースはあるが、晴彦の優秀さと人件費の問題から晴彦の城となっている。
「今日は平和だな」
「そうだね。おかげで仕事が随分はかどるよ」
晴彦はデータベースの整理を行っているようだ。
ここ最近は、ほかの仮面ライダーからの技術提供も多く、彼らが敵対していた組織や技術に関する情報も大量に仕入れたところだった。
それに伴ってか、アインツチームも不思議と仕事が増え雑務をする時間が無くなっていたのだ。
こうやって整理を行う過程で、見えていなかった弱点や問題点が浮き彫りになることもあるので、二人が暇なときにやってしまうのが、議論も同時にこなせて一番都合がいいのだ。
「Wが来たときも思ったが、やはり一度セキリュティを見直す必要があるんじゃないのか?」
「確かに。今は更新しかしてないし……刷新することも必要だろうね。学園都市内の監視カメラと人工衛星は旧世代と言ってもいいし」
「両方とも骨が折れるな。監視カメラは数が多いだけだが……人工衛星に至っては宇宙にあるからな」
「宇宙か。さすがの学園都市もかなり手つかずだね」
宇宙開発に関してはJAXAに後塵を拝しているだろう。もっとも友好関係ではあるため頼み込むなり積むなり委託されるなりでうまく丸め込めるだろう
「なるほど、宇宙……宇宙か」
そう言って鉄筋コンクリートでできた空を見上げた。
「もしかして例の?」
晴彦の言葉から、一騎の脳裏に特徴的な頭部を持った仮面ライダーの姿がよぎった。
「いずれ接触する必要はある。そのときにうまく丸め込むなら彼に任せてもかまわないだろう」
「まあけどスマートブレイン社のをそのまま接収しているからね。ハードは問題ないと思うよ」
「ということはソフト面から見直す必要があるということか?」
「……自分で仕事を作ってしまった」
良かれと思ったら自分で荷物を背負い込んでしまっていた。
新世代のソフトを、旧世代のハードでも利用できるように作るのはかなり骨が折れるだろう。
「民間だったら他に委託できるのに!」
そう言って力強くエンターキーを押したそのとき、警報が鳴り響いた。
「え、僕じゃないよ!?」
「IQ200の馬鹿がここにいるとはな。自爆用のプログラムでも入れたか?」
俺の研究成果を吹き飛ばす気か。と本音も漏らした。
「……学園都市内のネットワークに進入を確認。中央学区のシステムサーバーに異常、文系学区の交通機関ネットワークが物理的に遮断……」
「おいおい、デジタルクライシスかよ」
かなり危険な状況であることは確かであった。
少なくとも学園都市内の重要ネットワークは、レベルの高い異常を感知された場合物理的に遮断されるほど厳重ではある。
突如巨大スクリーンにホットラインが開かれ、学園のトップの顔が見えた。ご丁寧に秘匿回線だ。
「学園長!」
『外部からのクラッキングを受けているようだ。そちらで確認できる状況を……』
学園長の渋い声が終わる前に晴彦はすでに結論を出していた。
「重要ネットワークは物理的に遮断されています」
「ハル。インフラと交通網は?」
「モノレールは全て無事。いくつかネットワークに接続されていた機械がやられたみたい」
『……この件に関してもツヴァイチームを一切信用することはできん』
「全くの同意です」
間髪入れずに同意した相棒の強情っぷりに感心しつつも一騎は状況を詳しくまとめる。
「外部からということは俺たちは触れないのでは?」
『門外顧問に依頼して外部は止めてもらう。アインツチームは内通者を探し現状を押さえ込んでくれ。外部と内部から同時に破壊行動されてしまうとさすがに持たない』
「知識の根がスタンドアローンなのが唯一の救いですね」
そう言って一騎が地下に置かれているロードチェイサー・カスタムの元へと急ぐ。
『全くだ。橘君の意見を受け入れておいて良かったよ』
「ははっ。光栄です」
・・・
・・
・
『一騎、状況が不味くなった』
「どうした?」
ちょうどヘルメットを被ったところだった。
ピットに備え付けられたスピーカーから晴彦の声が響く。
『ジェットスライガーが暴走を始めた。敵さんの狙いはこれのようだね』
「ジェットスライガーが?」
かつてスマートブレイン社が建造した……もはやバイクとはいえない戦術兵器だ。スマートブレイン社倒産の際に一機だけ残っていた物を学園都市が接収、保管していたのだ。
武装は全て外されていたものの、スタンドアローン状態とは言い難かった。
『ああ、航空力学科が借りていたのが暴走し始めたらしい』
「急にか?」
『一応航空力学科の先生方を拘束したけど……』
「そんなことより旧スマートブレイン社の技術者を拘束した方が建設的だ。とりあえず俺はジェットスライガーを止める。幹線道路を封鎖してくれ」
『すでに封鎖を完了しているよ。そこからだと……20分くらいかかるね。それまでに移動パターンを解析しておく』
「ジェットスライガーはネットワークから何らかのアクセスを受けたという認識でいいのか?」
右ハンドルに備え付けられたダイヤルを回しロードチェイサー・カスタムを起動する。
『というより、ジェットスライガーに何らかの細工がされていたと言うべきかな。やっつけ作業にしては手が込みすぎている』
「……ってことは、ジェットスライガーを接収した時には既に細工されてたってことにならないか?」
重い音を立ててロードチェイサー・カスタムが起動し、一騎はアインツコマンダーを取り出す。
『ははっ、ネットは広大……ってことさ』
そういって晴彦はモニターに視線を戻す。
『ジェットスライガーは現在、理系学区の幹線道路を我が物顔で暴走中。特に破壊活動を行っているわけではないよ』
「了解」
新たに得た専用機、ロードチェイサー・カスタムに跨りながらアインツコマンダーでコードを入力する。
4――9――1――3
――変身!!
『EINS』
アインツコマンダーとアインツドライバーが合体、アインツギアとなり、そこから光のリングが飛び出す。
光のリングが回転を始め光球となり、次第に光が薄れ始めアインツに変身終了する。
「……なんか締まるな」
変身に呼応するようにロードチェイサー・カスタムの色が灰色から、金のラインが入った黒へと変化する。
「何これ、聞いてないんだけど」
『そこはロマンを感じるところじゃなかったの?』
「……それもそうか」
アインツの目に光が差し込んでくる。さあ出撃だ。
――2011年11月16日 16:55
――学園都市 理系学区 主線道路
晴彦に指示された付近に到着した。高速道路にあたる主線道路からでも確かに爆音が響いており、ジェットスライガーが暴走しているようだった。
「ハル。もしかして中央区に向かってないか?」
『……確かにかなり大回りだね。それを悟られないため?』
「さあな。だが最終目的がそれなのは当然だ」
突如、ハンドルを大きく横に切ったアインツは、幹線道路の壁を突き抜け下の道路に着地する。
『ちょっと、なるべく壊さない!』
「それは敵に言え」
このマシンを乗り回して感じたが、とりあえず曲がりにくい。かなり大回りに回らなければ曲がりきれないのだ。正直時間のロスが激しい。
そう思いながら角を曲がった瞬間、ジェットスライガーが正面に現れる。
「捉えた!」
しかし次の瞬間にはジェットスライガー前方に装備されたミサイル発射口が全門開放され発車される。
これを見たアインツは、機体を横に傾けダイヤルを回してサイドブースター起動し減速、同時に左手でアインツコマンダーを開いてコードを入力する。
8――8――8
――超変身!
『BLASTFORM』
青のリングが飛び出し、アインツとロードチェイサー・カスタムを包み込む。
ミサイルは光球と道路に直撃する。
煙の中からロードチェイサー・カスタムが無傷で飛び出してくるが、その上をあざ笑うようにジェットスライガーが、アインツが来た道を飛行していく。
「おい、ハル!どっかで補給してるぞ!ついでにあの動きは絶対にAIだ!」
『確かに!』
操作されている動きではない。人間であの挙動と判断は到底不可能だ。
完全に停止ししてしまったが、再びダイヤルを回し今度は急発進を行うオーバードブースターを起動する。バイク後方に備え付けられたブースターのその加速度は一秒足らずで時速300kmまで加速する。
しかしその速度でカーブを曲がることなど不可能であるため、再びサイドブースターを起動し無理矢理曲がりきる。
「こいつじゃないと追いつかないな!」
車体が少し安定したところで、ブラストアクスガンをジェットスライガーに射撃する。
それに対してジェットスライガーは急減速を行い、体"当たられ"を敢行する。
「冗談じゃねえぞ!」
これに対してアインツは前輪を持ち上げ、ジェットスライガーに乗り上げその上を走りきる。
わずかな時間空中に投げ出されるが、その瞬間を狙ってミサイルが発射される。
「いい加減弾切れだろ!!」
着地と同時に機体を多く回転させ、ミサイルを正面に見据える。
これをブラストアクスガンの連射で撃墜し、爆炎の中を走りきり再びジェットスライガーに迫る。
「いい加減鬼ごっこは飽きたぞ!」
ブラストアクスガンを持ち替え、煙の先のジェットスライガーの胴体を大きく切り裂いた。
喜んだのもつかの間、ジェットスライガーは抜群のタイミングで機体後部のブースターを点火させアウトバーストでロードチェイサー・カスタムを吹き飛ばした。
これに対応できなかったアインツは大きく吹き飛ばされ、ロードチェイサー・カスタムから投げ出される。
それをあざ笑うようにジェットスライガーは走り去っていくのであった。
次回予告:
――何あの役立たず!何しに出てきたのさ!!
――さて、初変身といこうか
――『Standing by』
第二十話 過去に駆ける
* *
おまけ:設定資料
ロードチェイサー・カスタム
アインツに新たに得た専用バイク。歴代ライダーを見てもモンスター中のモンスターマシンである。これは設計者が搭乗者の安全を一切考慮していないことに起因する。前輪が二輪あるため三輪バイクとなる。
トライチェイサー、ビートチェイサーに搭載されていた色が変化するマトリクス機能に始まり、ダイナミックエントリーを行うための変形機構、急カーブ、急ブレーキを可能とするサイドブースターを機体側面に装備、機体後部には急加速を行うオーバードブースターを装備している。
これらの機能は右ハンドルに備え付けられたダイヤルとスイッチで起動される。
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この作品について
・この作品は仮面ライダーシリーズの二次創作です。
執筆について
・隔週スペースになると思います。
・日曜日朝八時半より連載。