――2011年11月14日 11:07
――学園都市 理系学区 医療学部
――一騎の研究室
「だー!もう!使えないね!あの疑似ライダー!」
「ハル。障子に耳あり壁に目ありだ」
「逆!」
「……おう」
結局ツヴァイは撃破され修復作業と装着者の負傷によりしばらく出てこられないらしい。
「弾丸避けにもならないとか趣旨分かっているのかな!?」
「いや、そんな用途で作った訳じゃないと思うぞ」
確証のある言葉を使えない状況であった。
おそらく敵組織から送り込まれた、今のところ味方であろうライダー……。もっとも今は学園都市も渋々活動を認めているレベルであり、仮面ライダーの名を認められているわけではなかった。
まあ敵組織も壊すために作ったわけではないだろう。
「とりあえずだ、ハル。現在つかめている情報をまとめてくれ」
「OK、OK。株あげてとっとと追い出そう」
* OP:NEXT LEVEL *
第十八話 雲一つ無い快晴
――2011年11月14日 11:10
――学園都市 理系学区 医療学部
――一騎の研究室
「まず最初に観測したのは掌に載りそうな機械」
そうしてモニターに映ったのは小さなカブトムシ状の機械だ。
昨日交戦した仮面ライダーの使用していたツールとは違うものだ。
「よく撮影できたな」
「留まってたからね。木に」
「木に?」
「木に。樹液でも吸ってたのかな?」
もしそうなら随分と本能に忠実な機械である。
「兎も角この小さなカブトムシがあの仮面ライダーと怪人を連れてきたんだろうな」
「まあその可能性が濃厚だね。で、その怪人だけどあの超速移動のおかげで足取りはつかめていない」
アインツで体感した超高速戦闘。
この事件が終わるまであの感覚と戦う事になっている。少なくとも今の学園都市でアレに対抗できるのはおそらくアインツだけであろう。
「だけど仮面ライダーのほうは居場所が掴めているよ」
* *
――2011年11月14日 12:35
――学園都市 中央区 販売部
――神代屋
「よう」
「……」
昨日訪れた定食屋で、再び仮面ライダー達が交錯していた。
総司は鯖の味噌煮定食に舌鼓を打っていた。
「おじいさん、俺も鯖の味噌煮定食」
「はい、わかりました」
大盛況とは言えないが、それなりに繁盛していた。何よりも味が格別であり、物腰の柔らかい老紳士の存在が親しみやすさが添えている。
「何か用か?」
「用も何も、聞きたい事が山ほどある」
一騎がそう言った途端、総司が席を立とうとする。
「まあ待て、あんたもこっちに来て困ってるだろ?」
物理的な引き留めはおそらく逆効果だ。声をかけるだけに留め、自分は目の前の鯖の味噌煮定食に集中する。
ここで彼を引き留められなくても晴彦が追跡してくれるし、何より定食屋の中で面倒は起こしたくない。
「俺が飯食い終わるまで外で待っててくれ」
・・・
・・
・
「なんだ。意外とすんなり待っててくれていたな」
「監視されているからな」
無駄だということは知っているという事か。
「立ち話もなんだ。俺のレストハウスに美味しい和菓子がある」
手で、行くか?という仕草を総司に見せる。
すぐさま総司は指挿された方向に歩き始めた。
「おばあちゃんが言っていた。美味しい物を食べるのは楽しいが、一番楽しいのはそれを探している間だ」
「なるほど。すこしハードルが上がってしまったな。それにしてもあんた、こっちに来て焦っていると思ったら、結構食べ歩きしているんだな」
晴彦の報告ではアインツとの交戦後、随分と食べ歩きで時間を過ごしていたようだ。
「別の世界では別の味を楽しむのが第一だ」
「そりゃ肝の据わっていることで」
* *
――2011年11月14日 14:00
――学園都市 理系学区 医療学部
――一騎の研究室
「じゃああんたはそのハイパーゼクターの暴走でこっちの世界にはじき出されたと」
「ああ」
一騎の目の前では総司がきな粉餅に舌鼓を打っていた。もはや餌付けのレベルだが、味に関しては本土の本店と同じはずだ。
「データが欲しい。ハイパーゼクターの転送形式を教えろ」
大胆不敵。
横で会談を聞いていた晴彦は、一騎をそう称した事がある。
恐れを知らず、目的に向かって邁進する。その時の大胆さは、他の人間を惹きつける不思議な魅力があったのだ。
「気に入った」
違った不思議な魅力を持った総司は、同じ仮面ライダーとして一騎を認めたのか、手の上にカブトゼクターを召喚する。
人工物でありつつもどこか愛嬌を持っているそれに、興味津々で見入る。
「親友が言っていた。高貴な振る舞いには高貴な振る舞いで返せ」
親友?と首を爨げるが、そこを突っ込むところではないと察し、ノブレスオブリージュを果たそうとカブトゼクターを導くようにこちらの手を差し出す。
主人と同じ雰囲気を察しとったか、すんなり一騎の手に移りその上で一回転を披露した。
「転送形式が少し違うが、ヒントは得られるだろう」
「ハル。転送形式だけだ、それ以外は分析するな」
「合点承知。まあいくら僕でもそこまで無粋な真似を、面と向かってはできないよ」
カブトゼクターは晴彦も気に入ったのか、彼の後について万能試験室に付いていった。
「さてこっちではあの怪人のことについてだ」
「あいつはワーム。人類の天敵だ」
「ワーム?偶然の一致とはまさにこのことか」
晴彦も適当に付けた名前のはずだ。まさか実名とコードが一致するとは、運命を感じずにはいられなかった。
「わかり合えないのか?」
「一部にはそういう連中もいる。だがこちらの世界に降り立った奴は……」
「はっ、どこの世界も考える事は一緒だな。ってことは敵対する組織から送り込まれ、ハイパーゼクターに起動実験が失敗してこのざまだと」
ため息で返答された。
彼の雰囲気からして完璧主義者であり、他人に迷惑をかけるのがかなり嫌なのだろう。そこは察するべきか。
「奴らは人間に擬態して数を増やす可能性がある」
「それを早く言え」
こちらが最重要課題だった。
あんな化け物怪人が繁殖されてはこちらの世界の仮面ライダーが迷惑被る。無性生殖とか突っ込みどころは多いが、そこは大人の事情でカットしよう。
「だーもう!外見で擬態は見破れないのか!?」
「体温が違う」
なんだ簡単じゃん。という言葉が口からポロっと出る。だがその捜索が高速で出来る人間はカブトゼクターと戯れていた。
「敵対する組織はほぼ壊滅している……しかしあのワームは少し特別だ」
――2011年11月14日 15:00
――学園都市 中央区 幹線道路
『なるほど』
総司の言い方だと何らかの改造を施されているのだろう。
『元は天道さんの組織に味方していたけど、拘束されて洗脳……か』
今は総司と別に行動している。どうやら思い当たる節があるらしく、彼としてもこれ以上アインツチームの力を貸しを作りたくないのだろう。
「タイプブラッドを見ているせいか、他人事とは思えないな」
学園都市も抱えている問題は同じだ。
学園都市そのものの倫理感は、十人委員会の承認が必要なせいか高いかもしれない。だが、問題は個人の倫理感だ。
『誰しも同じ考えを持っているわけにはいかないよ。それこそ人間がロボットに進化してしまう』
だが違う考えの持ち主は、敵対組織によって徐々に買収されつつある。そうした研究者が一連の事件を起こしている。
「民主主義の厄介なところだな」
『ま、ウチはウチでも頑張りましょうか』
晴彦がそうしめたとき、アラームが鳴り響いた。
『一騎、クロックアップによる粒子反応を確認』
「どこだ!?」
・・・
・・
・
一騎が駆けつけた時には既に、総司がワームと対峙していた。
この二日間は飲食店との関わりが多かったが、今回の飲食店の前であった。周りの飲食店では被害を防ぐため、防護シャッターがすぐさま降りてくる。
「っと、やっぱりそっちの方が早かったか……」
「彼女は洗脳される前、料理人だったんだ」
だから料理と縁のあるところに現れるという事か?
「教えてくれたっていいじゃないか……」
信用はされているが信頼はされていないということか。一騎は頭をわざとらしくかきむしった。
「だが……もう総て手遅れなのかもな」
「諦めんなよ」
4――9――1――3――8
一騎がアインツコマンダーでコードを入力し、アインツドライバーを召喚する。
「……ああ」
同時にカブトゼクターが総司の手の中に収まった。
* BGM:FULL FORCE *
――変身!
――変身!
ハニカムのアーマーが次々に構成され、総司は仮面ライダーカブト・マスクドフォームに変身した。
そして青いリングが形成した青い光球からアインツ・ブラストフォームに変身する。
「あれ?そんなにごつかったか?」
昨日みたカブトの姿はもっとスマートだったはずだ。
「おばあちゃんがいってた。内面が磨かれると外見も磨かれていく」
「ふむ……ってどういうことだよ」
吶喊してきたマグナワームをアインツと拳とカブトの蹴りが迎撃した。
「さあ、派手に行こう」
ブラストアクスガンとカブトクナイガンを同時に発砲した。
「前に戦ったときにも思ったんだが……似ているな」
「そうだな」
まるでうり二つの武器のアクスモードとアックスモードで、そのままマグナワームを圧倒した。マグナワームは両手にかなり肥大化した鎌を持っているが、これをこちらも刃が付いているもので受け止め、徐々にダメージを水増ししていく。
成長した姿である第二形態とはいえさすがに二対一では不利と感じたか、マグナワームはクロックアップを敢行した。
このクロックアップに対応できる状況でなかったアインツとカブトは見えない敵から攻撃を受け、吹き飛ばされる。
「少し離れている、アインツ」
腰に留まったままのカブトゼクターの頭部を右皮に展開する。その瞬間カブト・マスクドフォームが纏っていた装甲が僅かに浮き上がり、真の姿へと変身する。
「キャストオフ」
『CastOff』
アーマーを脱ぎ捨て、カブトホーンが起立して顔面の定位置に収まり、カブト・ライダーフォームが姿を現した。
『Change Beetle』
「なるほど、そうなっているのか……」
アインツが感心したところで、カブトは右腰のボタンを勢いよく叩いた。
『CLOCKUP』
そしてカブトはマグナワームと同じ世界に進入した。ここで置いてけぼりを喰らったアインツは晴彦に指示を送る。
「ハル!」
『結果を目視で送る』
ブラストフォームは本来超感覚を元に敵の位置を割り出し、狙撃するために作られた。ブラストフォームで集められたデータと計算されたデータを元に、マグナワームの足取りが表示された。
「そこだ!」
発砲した。
ブラストフォームの超感覚で相手の位置を割り出し、晴彦のバックアップで行動を予測。弾丸を予想地点に"先置き"したのだ。
まったくの予想外の攻撃を受け、マグナワームが地面に転がりまわる。
「ったく、手こずらせやがって」
カブトもクロックアップを解除し、アインツの横に戻ってくる。
「上出来だ」
「だろう」
そう言ってサムズアップをカブトに見せた。
起き上がったマグナワームは恨めしそうにアインツ達を視界に入れ、咆哮をあげた。次の瞬間、マグナワームの身体が赤く発熱し始める。
『一騎。どうやら急速に細胞分裂が進んでいる様だ』
「どういうことだ?」
衝撃波まで発生し、アインツとカブトの視界が埃で遮られる。
その衝撃波が張れたとき、マグナワームは二体に増えていた。
「分裂した!?」
カブトも驚いた様子を見せた。おそらく初めての現象だろう。
「過去に擬態したワームが自身がワームであることを忘れていた事があったが……」
「どういうことだ!?」
襲いかかってきた、分裂したマグナワームの大きい方の攻撃を回避しながらカブトに尋ねる。そしてカブトは小降りの方から攻撃を受ける。
「洗脳前は女性体だった。そして洗脳の際に植え付けられたのは男性の精神だったかもしれないな」
「それぞれの自我が確立されたから分離したってことか?だったらこっちの雌は味方じゃないのかよ!?」
両手に持たれた鎌の連撃。
さすがにブラストアクスでは不利と思ったのか、アインツコマンダーを開きコードを入力する。
2――2――2
――超変身!
『SPLASHFORM!!』
緑のリングがアインツギアから跳び出し、マグナワーム女性体との間合いを強引に開ける。
緑のリングが回転を始め、緑の光球がスプラッシュロッドで振り払われスプラッシュフォームが姿を現した。
これに対し一気を勝負を決めに来たか、マグナワーム女性体と男性体はクロックアップを敢行した。
「ちょこまかと!」
5――5――5
――リミットカット!!
『SPLASH!!Release!!』
アインツの身体に雷がまとわりつく。アーマーの縁に金の意匠が現れ、腕にもエネルギーの経路が繋がりその流れも金色に変化する。
纏われていた雷が振り払われ、アーマーの色が戦場を駆け巡る緑風へと染まり、瞳とアーマーから疾風があふれ出した。
スプラッシュフォーム・リミットカットモードが戦場に姿を現した。
それを見届けたカブトは再び右の腰のボタンを勢いよく叩き、アインツはアインツコマンダーに手をかざした。
『CLOCKUP!!』
『ACCELDRIVE!!』
二人同時に超高速モードに身を投げ入れた。
前回と違う点は二つ。
一つは仮面ライダー達が共闘している事。
そしてもう一つは、スプラッシュフォームが携えているスプラッシュロッドが槍の様に変化している事だ。
「さぁて、盛大にそして派手に行こう」
まるで時間が止まった世界で、マグナワーム二体と仮面ライダーが対峙した。
派手さはないが、相手の攻撃に対し的確にカウンターを返すカブトは、巨大な鎌を畏れず相手の体力を削っていく。
その端では変化したロッド、スプラッシュハルバートを使って、豪快に相手を圧していた。ロッドのように鈍器ではなく、斬撃となったことで攻撃力が増している様だ。今までの攻撃力のなさは一切感じられなかった。
「おい、ハル!ちゃんとデータ取ってるか?……ってそうだ。めちゃくちゃ高速なんだった……」
晴彦とまともに会話できるときは全てが終わっているだろう。
「まあ、とっとと終わらせますか!」
9――9――9
――ライダーキック!
『SPLASH!!RIDERKICK!!』
スプラッシュハルバートを女性体に突き刺す。次の瞬間スプラッシュハルバードは円錐状のポインターと化し、マグナワーム女性体を拘束する。
少し距離を開けたアインツは、大きく跳び上がりポインターの中に入る様に新必殺技スプラッシュライダーキックを放った。
「おりゃぁぁ!」
カブトクナイガンのクナイモードを手にしていたカブトも今が決め時と、ベルトの上部に設置されているキーを三つ、リズムよく叩いた。
『One!Two!!Three!!!』
――ライダー・・・キック!!
『RIDERKICK!!!!』
男性体の頭部に回し蹴りを直撃させ、緑の炎と共に爆散させた。
そしてアインツは女性体をふっ飛ばした物の爆発させる事はなく、動きを止めるだけに留まった。
「よし!」
超高速モードを終了し全力を使い果たしたアインツはエナジーフォームに姿を変え、マグナワーム女性体の動きが止まっている事を確認し小さくガッツポーズをした。
「もしかしたら元に戻るかもしれない。希望を捨てないでおこうぜ」
そう言ってアインツは、同じく超高速状態を終了したカブトにサムズアップを見せた。
そんな二人の勝利を祝福するかのようにハイパーゼクターが顕現する。
ハイパーゼクターは底部からマグナワームを包み込むエネルギー波を出す。
「何やっているんだ?」
「おそらく送り返しているんだ」
カブトの言葉にじっと観察していると、徐々にマグナワームの身体が薄れ始めている。
「よかったじゃねえか。これであんたも元の世界に戻れる」
と思ったのもつかの間。マグナワームを送り返したハイパーゼクターは、カブトを置き去りにして再び宙に浮かび上がる。
「……っておい!これ忘れてんぞ!」
カブトをこれ呼ばわりしてハイパーゼクターを捕獲しようと跳び上がるが既に遅かった。
「忘れ物ですよー!ハル!網ないか!?」
『その辺のスーパーに売ってるんじゃない?』
「だー!間にあわねえよ!」
そんなこんなをしているうちにハイパーゼクターは飛び去ってしまった。
ため息をつき、アインツはがっかりと肩を落とした。そんなアインツを労る様にカブトがアインツの肩に手を載せた。
「……行くのか?」
「ああ、いつまでもお前達の手を借りるわけにはいかない。それにあんたの相棒がハイパーゼクターの調査機を作ってくれた。すぐに見つかる」
「そうか……残念だな」
「おばあちゃんが言っていた。絆とは決して断ち切ることのできない深い繋がり。たとえ離れていても心と心が繋がっている」
「……そうだな。また会おう。仮面ライダー」
アインツはそう小さく笑うとカブトは能力をリロードできたのか腰のボタンを押した。
『CLOCKUP!!』
「やれやれ、騒がしい漢だったな」
そういって変身を解除し、一騎は天を仰いだ。
「ま、いずれ逢えるか……」
次回予告
――なるほど、宇宙……宇宙か?
――ははっ、ネットは広大……ってことさ。
――ジェットスライガーが?
第十九話 未来の思い出
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この作品について
・この作品は仮面ライダーシリーズの二次創作です。
・フォーゼ、面白すぎ。
執筆について
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