No.268522

異聞~真・恋姫†無双:十八

ですてにさん

前回のあらすじ:福乳に包まれながら、たどたどしいながらも芽生えた王の決意を聞き、かつての思い人に種馬スキル発動したものの、逆に食われかける始末である。

人物名鑑:http://www.tinami.com/view/260237

愛紗を救おうと思って動いたら、こうなったでござるの巻。

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2011-08-10 17:08:00 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:9846   閲覧ユーザー数:6788

「止めないで下さいっ! 私はもうこうするしか無いのですっ!」

 

「待って、愛紗ちゃん! し、死んだら何もかも意味が無いよ!」

 

「やめるのだ、愛紗~!」

 

どこから用意したのか、羽織った白装束を肌脱ぎし、上半身を露出させた関羽が、切腹すると大騒ぎし、

それを桃香と張飛が必死に止めている風景が、もう30分…ああ、こちらでは四半刻と言うんだったわね…は続いている。

さすがに女性の矜持か、胸部にはサラシをしっかりと巻いている。

 

「于吉、貴方でしょ。あれを用意したの」

 

「雰囲気作りは大切だと思いまして」

 

「まぁ、いいけど。星にも止めるように言ってあるし。酒を呷っているということは、まだ大丈夫なのでしょう。

ところで、裏切るんじゃなかったの」

 

「裏切るというか、この後は左慈についていきますよ。あの桃色天然娘の影響を排除しなければなりませんからね、ふふふ…」

 

「…貴方もたいがい歪んだ愛情よねぇ…、私も人のことは言えないけど」

 

「関羽殿の思いが真っすぐ過ぎて眩しく見えます。蘭樹どのもそうなのでは?」

 

「そうね。あれほど、周りが見えないぐらいに一途にはなれないわね」

 

「…羨ましいですか?」

 

「それは無いわね。第一、私と一刀の築いた絆は、関羽一人で断てるような軽いものではないわ」

 

「私も左慈と早く、そのような絆を結びたいものです」

 

ちなみに、一刀は現在、全身筋肉痛で、寝台から一歩も動けない状況にある。

筋断絶にならない程度に鍛え上げていたものの、予想より早く活性化の反動が来たというところだ。

ホッとした思いもありつつ、鍛え方でこの反動も抑え込めるのかと、冷静に考えたりもするのが、私らしくもある。

 

そう、冷静に、関羽が切腹という、極端な行動に走った理由を考えている。

 

『私は、ご主人様の宿敵を、あろうことか、その特別な呼び方で呼んでいたのか・・・!

許さん! この偃月刀の錆にしてくれる!』

 

と、関羽が左慈を問答無用で斬り倒すのではないかと考えていた。

記憶を取り戻した彼女なら、左慈を切り捨てて、桃香の目を覚まそうとすると。だが、それに至らず、自刃して果てるの一点張り。

 

さらに、一刀の手癖があるとはいえ、私が知り得る彼女と、簡単に欲情する関羽の姿がどうにも一致しない。

閨の許可を求めにきた一刀について離れなかった関羽は明らかにおかしかった。まるで、私の言葉に反応する桂花のようで。

自分から、快楽を欲するような人間ではなかったはず。

 

ちなみに、他の女を抱くことに私を、という誓いは有効。この地に来て、一刀が初めて断りを入れてきたのだった。

毎晩、同じ寝台で夜を過ごすことが当たり前になっていた現状、一刀にしても違和感を感じてくれたと思えば、

私を一番においてくれているという喜びがあった。

 

常に私を一番に置きながら、慕ってくる女性を全て、身も心も満たしてみせる。

それは一刀に求める条件。相反するような方向性を合わせ飲んでみせてもらわねば困る。

だって、覇王を一人の女に変えてしまった男なのだから。器は底なしでいてもらいたいもの。

 

さて、自分の志向性は置いておいて。

 

冷たい考え方だが、出会ってそれほどの時が経っていないはずの桃香より、

一刀との絆と、彼女の心酔する性格を思えば、一刀を桃香もろとも、主君に掲げる方向に行くのではないか。

でも、桃香が主人と認めた左慈を斬れる訳がないと。ゆえにどちらも取れない自分を罰するという。

 

どうにも違和感がぬぐえない。私が直接、話してみるしかないか。一刀は動けないわけだし。

さて、まずは動揺させて手を止めますか。

 

「関羽、我に返ったのはいいけれど…本当に一刀に抱かれずに逝くの?」

 

「なっ! ななななな、何を言うのだ、突然、曹操!」

 

「いろいろ言葉の並びがおかしいし、名前も間違っているけれど、それは置いておきましょう。

慾に蕩けた貴方の顔、なかなかいい顔してたわよ?」

 

「わーっ! わーっ! あの時私はどうかしていたのだ! だから忘れてくれ!」

 

「一刀のキス…もとい、口づけにトロトロに溶かされてしまったのよね。

脳髄が痺れて、なぁんにも考えられなくなって、周りが真っ白になって、一刀と一つになることだけを望んで…」

 

「あぁ、そうだ、ご主人様の口づけが…」

 

思い出して蕩けたらしい。うん、罪作りね、一刀。

隙だらけなので、遠慮なく関羽の手から短刀を奪い去るが、どうにも気づいていない。

…こんなに可愛い一面があるとはね。是非一緒に閨を共にしたいものだ、一刀を唆してみようかしら。

 

「劉備、さっさと肌けた衣装を直してあげなさいな」

 

「えっ!…あっ、うん!」

 

私が短刀を回収し、関羽の手の届かないところへ放り投げたのに気づいた桃香は、

一安心とばかりに、まだお花畑の世界にいる関羽の衣服を整える。

 

そして、私の取る行動となれば、目の前にある張りのある二つの膨らみを、迷うことなく揉みしだくのみ。

 

「ひゃう!?」

 

柔らかさと弾力が素晴らしい均衡を保っている。これはいい美乳ね…!

私の眼力は確かだったということだ。一刀だけに楽しませるのは非常に勿体ないというものだわ。

 

「いきなり人の胸を揉むなど、貴様っ!」

 

「油断し過ぎよ。そろそろ帰ってらっしゃい。ちなみに、今の私は安蘭樹。曹操じゃないわよ?」

 

「髪の色が変わっただけの似非曹操ではないかっ!」

 

「ほぅ…あのちんちくりん金髪生意気娘と一緒にされるとはね…」

 

怒気と共に覇気が漏れ出すのを止められない。身長も胸の大きさもかつての私とは違うのだ。

同じにされるとどうにもこうにも苛立って仕方がない。

 

「ひぅっ! あ、愛紗ちゃん、まずいよ! 謝って! 全力で謝って!」

 

体躯に似合わぬ俊敏な動きで、関羽の後ろに隠れ、必死に彼女を諭す桃香。

貴方、過去の世界で、真正面からこの覇気を受け止めたことがあるのよ? 信じられないでしょうけど。

 

「あわわっ、こ、これが華琳さんの覇気…! すっ、すごいでしゅ!」

 

「はわわっ、相変わらず、こっ、怖いよ…」

 

雛里に諸葛亮も中てられてしまったかしらね? ただ、雛里は震えてるように見えて、瞳の力はしっかりしてるわ。

私の氣に対する初反応がこれか。なかなかやるじゃない。

 

「ふんっ、幾度もその氣を見ている私が臆するものか」

 

・・・! 幾度も? まさか。でも、そう考えれば、先程の違和感にも説明がついてくる。

 

「あら。私の記憶では幾度も貴女の前で、この覇気を見せたことは無いはず」

 

「ふんっ、自分が曹操と認めるのだな」

 

このまま探りましょう、今の関羽なら私の挑発にも乗ってくるはず。覇気を放っていれば、他の者も下手に会話に入ってこない。

 

「ええ、確かに私はかつての覇王。三国を平定し、『桃香』に蜀を、孫策に呉を任せ、三国鼎立を実現させた統一者。

その私を馬鹿にしようと言うの?」

 

「何を言うと思えば…曹操、お前はご主人様に敗れ、呉と連合を組んだ桃香さまにも敗れたのだ!

その覇気とやらも、ご主人様と桃香さまの徳の前には無力だったのだ!」

 

挑発に乗りやすい彼女の性格が、今はありがたい。…いずれ、きっちり矯正はさせてもらうとしよう。

一刀の力になってもらう為にも、彼女の役割は重要なものになる。

 

さて、もう少し探りを入れましょうか。

 

「ふむ、確かに一刀に敗れ、魏の地を任された歴史を私は覚えている。が、桃香に敗れた記憶など…無いわね」

 

桃香はまた混乱しているようだけど、後で説明するから、今はこの氣に圧されたままでいてちょうだい。

 

「赤壁にて、お前は蜀呉連合の水軍に敗北し、大陸から姿を消したのだ!」

 

答え合わせ完了。こんな簡単に誘導されたら駄目よ、関羽。

…蜀筆頭武官兼、桃香の側近が春蘭のような気質があり、張飛は秋蘭のような抑え役ではない。

さらに、彼女が政略にもある程度理解があるのが、余計に悲劇を生む土壌にあり。

桃香と関羽を支えた、はわあわ軍師の苦労を思うと、わずかな頭痛が襲ってきた。

 

「関羽。あなた、自分が混乱しているのを判ってる? あなた、記憶がごちゃ混ぜのような状態になってるわよ」

 

「…いきなり、曹操なにを」

 

「聞きなさい。一刀にも関わる大事なことよ。

一つ目、一刀のもとで大陸を統一。左慈や于吉との最終決戦で銅鏡が割れ、世界が終端を迎えた。

二つ目、呉に降り立った一刀や孫権たちと協力し、赤壁で私達に勝利。天下二分の計が成り、大陸の西半分を桃香たちが統治した。

三つ目。私たち魏が三国を平定した上で、『桃香』に蜀を、孫策に呉を任せた歴史。全て別々のものよ」

 

「…ご主人様の天の知識を有効利用した結果、お前の元で統一出来ただけではないか」

 

天の世界でいう『メインヒロイン補正』というものか。

私が貂蝉に見せられた外史の記憶を、関羽は一刀の手により記憶を取り戻した時点で、全て持っているという。

 

…これは、ひょっとすると呉陣営でも、誰か同じ状況になる娘がいそうだわ。

ふむ、第二夫人ではなく、一刀の正妻を狙ってくる宿敵が増えると思っていて良さそうね。

 

いろいろ不条理とは思うけど、現状を嘆いてる暇など持つつもりはない。

私は自分を磨き続け、一刀の一番であり続ける。それでいいわけだから。

 

「そうよ。だけど、今それは重要ではない。貴方はちゃんと記憶の整理をなさいな。

左慈への憎しみと、桃香への忠誠が同じ原点から出ていると誤認しているから、余計に困惑するの。

私が桃香を真名で呼ぶのを許されていると、貴方は知っているのだから」

 

「私は記憶を失っていたとはいえ…ご主人様の怨敵を、あろうことか、特別な呼び方で呼んでいて!

しかし、私は桃香さまと義姉妹の契りを結び、かつ、桃香さまが奴を『ご主人様』と認めている状況で、斬って捨てることも出来ず!

かといって、仕方ないことと割り切ることもままならない…! 出来るはずがない!」

 

「だから、自分の罪深さを自害して果てようと? 馬鹿ね、そんなことを誰が望むの…」

 

「そうだよ、愛紗ちゃん。死ぬのなんて、駄目」

 

桃香が後ろから、愛紗を優しく抱きしめる。顔に浮かぶ表情は慈愛に満ちた母親のそれだ。

私にはなく、桃香が持つものの一つ。ただひたすらに与えられる、無条件の尽きることのない愛情。

 

「話が全て見えたわけじゃないけど、愛紗ちゃんが苦しんでるのはよく判るよ。辛いなら、私から離れてくれて構わないから。

愛紗ちゃんが死んでしまう方がよっぽど、悲しいもの」

 

「桃香、さま」

 

「それに、愛紗ちゃん。そんな悲しいことを言っていると、ほら、大事な愛紗ちゃんのご主人様が、無茶をしちゃうよ…?」

 

桃香の見た視線の先。俯いていた愛紗と、振り返った私が視点を合わせれば、満身創痍で動けないはずの、一刀が立っていた。

 

 

動かないわけにはいかなかった。本来、愛紗の闇に気付くべきだった俺の責。

代わりに補ってくれた華琳に、別離すらも良しとする桃香の思いに、今動けないなんて理由にならなかった。

 

「左慈、サンキューな」

 

「ふん、これで限界を広げられなかったら承知せんぞ」

 

左慈にやってもらったのは、無理やり氣を流し込んでもらって、一時的に活性化した状態に戻してもらうという荒業。

何とか動こうともがく俺に、さらに代償を背負う覚悟はあるかと、無理やり鞭を叩いてくれたというわけだ。

 

「広げてやる。華琳や愛紗たちを救うためだったら、なんだってやってやる。そして、いずれお前をぶっ倒す」

 

「倒すのは俺だ、勘違いするな」

 

ただ、さっきの肉体が命令を効かない状況と違い、動けるとはいえ、一歩動くごとに激しい痛みが全身を貫く。

それでも、歯を食いしばれば、意識は飛ばない。のろのろとしか動けなくても、今はこれで十分だから。

…爺ちゃんに腕を折られた状態で修行させられたのが、変に役に立ったな。あん時の痛みよりひどいけど。

 

「左慈ぃぃぃぃぃぃ…!」

 

于吉が歯ぎしりしながら、目を血走らせているか、正直、今は構う余裕はない。

そもそも、この動ける状態が、何分続くかすら定かじゃないわけで。

 

「愛紗…ほんとにごめんな、俺、愛紗が記憶を取り戻してくれたことに浮かれて、取り戻した後に愛紗が苦しむ危険性を見落としてた」

 

「ご主人様っ! 動いてはいけません!」

 

「一刀、やめなさいっ! 後遺症がどうなるか判らないのよっ!」

 

「一刀さん、動いちゃ駄目だよ~」

 

「お兄さん…やめて、やめてくださいっ!」

 

「ごっ、ご主人様! だ、駄目でしゅ、動いちゃ!」

 

無茶をする俺を必死に止めようとしてくれる人がいて、

 

「一刀殿…」

 

「ご主人様ん…無茶ばかりするのね…忠能様にそっくりだわん」

 

「…ご主人様」

 

見守ってくれる人がいて、

 

「…主、手を貸しましょうか?」

 

「いや、触られるだけでも激痛が走るような状態だから、ごめん」

 

手助けしてくれようとする人がいた。なんつう幸せもんだ、俺。

 

その思いのお陰で、俺は痛みに意識を失う前に愛紗の元にたどりついた。

たどたどしい動きで、なんとか愛紗を抱きしめる。

 

「苦しいよな、ごめんな、愛紗…。俺、ほんと馬鹿だな」

 

「ご主人、様…」

 

そっと背中に愛紗の両腕が回されるのが判る。俺に刺激を与えないように、最新の注意を払って。

 

「俺は、いずれこの世界から、弾き出される。平和への足がかりさえ作れれば、すぐにでも。そういう約束の元で、この世界にやってきた」

 

「一緒には、いられないのですか…?」

 

震える声。また訪れる別れを、予感したのか。

 

「方法はある。けど、それは愛紗にこの世界を捨てさせることになる」

 

俺はゆっくりと自分でも噛み砕くように説明をしていく。

 

魏国による統一を果たし、歴史を捻じ曲げ続けた代償に、統一直後に世界から弾き出されたこと。

こちらの世界で二年を過ごした俺が、天の世界に帰った時、二日しか経っていなかった事実。

あっという間に半年が経って、絶望しかけたこと。

泣きながら見た夢。

同じように寝台に身を横たえ、涙を流す華琳を。

 

『離れたくない』『一緒にいたい』

『もう一度繋いだこの手を、絶対に離さない───』

 

それだけを互いに願い、結果、天の世界に華琳を引き寄せ、結果、外史が異常な終わりを迎えたこと。

 

捻じ曲げた因果を修正する役割を与えられて、この世界に降り立っていること。

 

「俺は華琳と共に、責任を果たしにやってきた。俺達の身勝手のツケを清算するため。

ただ、世界は優しいだけでもなく、厳しいだけでも無いみたいでさ。

俺達が世界から弾き出される時に、くっついていけば、共に天の世界へ行ける。

ただし、二度とこの世界へは戻れはしないという条件で」

 

「ご主人様と共にあるには、生まれ育った大地を捨てろ、と…?」

 

抱き締めていた腕を緩め、真正面からきちんと愛紗の顔を見つめ、言葉を紡いだ。

 

「…あぁ。それに、天の世界は一夫一妻。正妻は、華琳と決めている」

 

「…正式な夫婦には、なれないと」

 

「うん。それでもいいと言ってくれているのが、風や星たちだ」

 

「なるほど…ふむ、星らしい気がします」

 

「…だから、一緒においで、とは言えない。言う資格も無い。ただ、一つ願うのなら、生きていてほしい。それだけはお願いだ」

 

つかの間、瞑目する愛紗。不思議なほど、動揺する様子もなく。

 

「…まだ、はっきりと決めることは出来ませんが」

 

「うん」

 

目が開かれる。澱むことのない強い意志が、彼女の瞳に宿る。こうなった愛紗は、本当に強い。

俺はひどい言葉しかかけていないのに、この希望をつかんだ表情はなんだろう。

 

「私は、生きます。左慈をどうするのか、忠義をどう貫き通すのか、時間をかけて、自身に問いかけていきます」

 

「…ありがとう」

 

「ただ、決めたこともあります。といいますか、それを根底に置いて動こうと。

すると、悩みがある程度消えましたし、私自身も現金なものですね」

 

「聞いてもいいのかな?」

 

「ええ、ご主人様。むしろ、しっかりと聞いていて下さい。…ふふ、正妻の座は、奪うものなのです」

 

・・・ナンデスト? 奪う? 愛紗、君はナニヲイッテイルノカナ?

 

「ご主人様は、決めている、と仰いました。決まっている、ではないと。

ということは、国の規律などで縛られたものではなく、まだご主人様の意思一つということ。

幸い、ご主人様の好みは、曹操に負けないほどにしっかりとつかんでおります。

…正妻の座、この関雲長が頂戴致します♪」

 

満天の笑顔で、愛紗さんは高らかに正妻争奪戦の開幕を宣言した。というか、なぜにそうなるのか!

一気に外野のざわめきが起きて、部屋は急に慌ただしくも剣呑な雰囲気に変わる。

 

「あ、いや、愛紗、確かに法で決まっているわけではないけど…」

 

「…いいわ、一刀。私は堂々と受けて立つわよ。ふふ、苦難があってこそ、手にした喜びは増すというもの。

お互い、知ってはいても、正式に名乗りましょう?」

 

「いいだろう。我が名は関雲長。真名を愛紗。ご主人様の寵愛は、貰い受けるぞ」

 

「ふふふ、私は曹孟徳。真名を華琳。今は安蘭樹と名乗っている。取れるものなら取ってごらんなさい。一刀は私に溺れ切っているから」

 

闘気が真正面からぶつかり合う修羅場から逃げ出したい、そんな俺の意志をよそに、時間切れということか、

とうとう俺の身体はぴくりとも動かなくなって、地べたに突っ伏した。

 

「…どうしてこうなるの?」

 

「主の行いでありましょうぞ。さて、肩を貸しましょう。寝台にお戻りくだされ」

 

「ぐおお…芯から痛みが響く…」

 

「感覚があるなら喜ばしいこと。まぁ、何日か動けなくとも、その間に進むべき方向性の話し合いが出来ましょう。

間違いなく、今日は無理でしょうからな」

 

 

「めーいりーん」

 

「なんだ、雪蓮」

 

「私の勘は今回もどんぴしゃで当たったけど、今、割って入らない方がいいって勘も当たってるわよねぇ?

覇気が部屋の中で渦巻いてるしぃ…」

 

「突然、北に行きたいといって、遠乗りに出て、早二週間。

確かに、とんでもない氣のぶつかり合いやら、在野のきらめく武将や軍師の集う場を見つけられた。

が、あれに割って入るのは、どうもな…」

 

「そうよね~。でも、早くあの御遣いくんとも話してみたいんだけど」

 

「本人が迂闊に御遣いと呼ぶなと、明命が報告してきていたが?」

 

「でも、絶対に御遣いよ。そうでなけりゃ、あれだけの在野の士が付き従うわけがないわ」

 

「明日にでも接触してみるか?」

 

「なんか、氣の使い過ぎでボロボロみたいだし~。アハハ、あんな無茶な使い方したら、身が持たないわよ。

でも、仲間を守る為になら、平気で無茶をする。嫌いじゃないけどね」

 

部屋の外で、さらなる暴風が迫りつつあるのに、皆正妻争いのドタバタで気付かなかったんだ…。

いや、一部気付いた人がいても、あえてスルーして面白がる人ばかりだったという不幸を思うべきか…。


 
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