No.264190

異聞~真・恋姫†無双:十七(後編)

ですてにさん

前回のあらすじ:天下の大徳はナイスおっぱい。乳圧に隠された慈愛の深さは三国一。

人物名鑑:http://www.tinami.com/view/260237

・・・すごいぶつ切りだけど、愛紗、どうしようかな・・・。

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2011-08-07 23:04:50 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:11389   閲覧ユーザー数:7733

~桃の蕾は緩やかに開き、天の光は紗がかかった愛を無常に照らす~

 

左慈と桃香の漫才が終わり、茶で喉の渇きが癒えたところで、

もう一つだけ、先に桃香に話すべきことがあると、俺は改めて口を開いた。

 

「さて、桃香。于吉に愛紗の術を解いてもらう前に、話しておきたいことがある」

 

「・・・はい。私の考える、理想の話ですよね?」

 

「あえて、きついやり方で見せたけど、争いってそういうことなんだ。

話し合いで解決したいと願っても、力がない人間の話は力ある者は聞こうとしないし、叩き潰そうとしてくる。

国同士の争いとなれば、お互いに背負うものがもっと大きくなるから、なおさらだ」

 

しゅんとする桃香。理想を貫くためには、現実をちゃんと見据えること。

愛紗たちでは、彼女にそれを突き付けることはせず、ただひたすらに支えようとするだろうから。

 

「だけど、それで理想を取り下げるんじゃ、また意味がないよね?」

 

「ええ、私を信じてくれる愛紗ちゃんたちや、村の人たちのためにも、私は諦めたくない」

 

瞳の力は失われていない。王としての器、魅力は十二分。あとは自分の中に、揺るがない芯をしっかりと築くこと。

 

「うん。理想の実現は諦めてはいけない、その理想についてきてくれる人たちの為にも。

ただ、現実を顧みない理想は、ただの妄想だ。それは周りを結局不幸にする。

だからこそ、自分の信じる理想と、目の前にある現実を見据えながら、矛盾を抱えながら、

一歩一歩、その時の最善を求め続けていくしかないんだと思う。

その時の自分たちに出来る最善を尽くしながら。歯がゆさと常に隣り合わせになりながらね」

 

自分の通った道を振り返りながら、俺は一生懸命訴える。少しでも、桃香の糧になれと。

 

「・・・一刀さんは、争いは嫌いですか?」

 

「大嫌いだね。命を失う戦争なんて、特に馬鹿げてる」

 

固い声色の問いに、即答する俺。どんなに戦いを経たとしても、この感覚は俺の中で変わることは無い。

華琳や蓮華の理想の実現の為、なんて都度理由をつけるものの、戦場の狂気は未だに吐き気がする。

殺さなければ殺される。相手の身体を切り裂く、あの身の毛がよだつ、嫌な手ごたえ。

好きになどなれるはずがない。覚悟をして戦場に立ち、終わる度に吐き気をこらえる。

 

この感覚を失えば、俺はたぶん、もう御遣いでもなんでもない、ただの戦闘狂だ。

 

「綺麗事だな。あれだけの戦場に身を投じながら、よく言う」

 

「綺麗事だよ。それで結構だ」

 

左慈の吐き捨てるような言葉に、同じ調子で返す。どう思われようと、これが俺だ。

 

「・・・良かった。一刀さんが思った通りの人で」

 

ふにゅん。

 

頭部に暖かさと柔らかさを同時に感じると思えば、鼻からは甘い匂いが脳裏を刺激する。

一瞬の困惑の後に、桃香が俺を抱きしめているのだと、自覚する。

 

不意打ちだ。ささくれた言葉に冷えた心が、一気に別の意味で熱くなる。

 

「物真似じゃ駄目だと判ってますけど、一刀さんの掲げる王の形は、私が目指すものに近いと感じます。

今の私じゃ、まだ薄っぺらで、一刀さんがどれだけのたくさんの苦しい思いを抱えながら、

それでも前に進んできたのか、想像するのも難しいんですけど」

 

「桃香」

 

彼女の腕の中で見上げれば、包みこまれるような笑顔。

ああ、くそっ、この無防備で真っすぐな信頼はなんなんだ。

一人の女性になった華琳が、やっとのことで見せてくれたあの笑顔を、この娘はあっさりと出してくる。

 

「・・・私、頭はよくないけど、ちゃんと考えます。考え続けながら、進みたいと思います。

しっかり足元を見ながら、それでも、争いなんてしなくて済む、そんな世界を目指して諦めずに行こうって」

 

「ああ、桃香なら、たどりつけると信じられる」

 

「えへへ・・・」

 

いい笑顔だな。ただ、次の瞬間、それはしっかりと引き締まったものに変わり。

 

「だから、一刀さん。一緒に来てくれませんか?」

 

「無理」

 

「ふぇぇ、即答!? それもすごく清清しい笑顔!?」

 

抱き締めていた腕を離し、なんでなんで、と身体で表現する桃香。その仕草はなんとも微笑ましい。

幼馴染が駄々をこねるような、そんな可愛らしい感覚。

 

ただ、それで惚けるほど、俺はもう純粋でも何でもないんだな。悲しいけど。

 

「だって、左慈も言ってただろ? 俺はいずれ消える存在だって。助言はしてあげられるけど、一緒にはいけないって。

あとは、天の御遣いを旗に使うのも考えようだ。あくまで、この大陸の天は通常、帝を指す。

まだ勢力としては力の無い桃香たちが、堂々と漢を否定するような行動は色々まずいよ」

 

周回することでこの大陸の一般常識もいろいろ判ってきた今、『天の御遣い』って言葉は劇薬過ぎると実感している。

判っていて堂々と使いこなすのは、かつての華琳だとか、あの自由奔放王・雪蓮とかのような人物をいうのだ。

 

「華琳たちと相談してからになるけど、仮に同行出来ても客将程度がせいぜいだ」

 

「ううう・・・でも、一刀さんが本気を出せば、たくさんの人が幸せになれるのは間違いないのに・・・」

 

「んなこたぁない。俺は凡人だ。たとえ、英傑だとしても、一人で何ができる。

天の知識? 知ってしまえば、同じことだ。それは惜しみなく、出来る限りのことを伝えるよ。使い方は桃香たち次第だ。

朱里がその辺りは既に押さえてる。問題ないよ」

 

桃香たちといけば、話が大きくなりすぎる。

行商人としての拠点はいずれ持ちたいとは思うけど、自分の立ち位置はこの外史で身軽であることに越したことはない。

 

「・・・自分を凡人と自覚した、才ある者は、賢人よりも時に厄介ですよ~」

 

ろくに音も立てず、静かに部屋に入ってきた彼女に、俺は肩を竦めてみせる。

 

「賢人に言われても説得力が無いぞ、風」

 

「いやいや~、お兄さんの夜の帝王の力に比べれば、風の才など路傍の石みたいなもんです~」

 

「誰が夜の帝王だよ、ったく・・・」

 

「お兄さん以外の誰がいるというのですか?」

 

一応否定しないと、と言葉にしようとするが。

 

「いないわね」

 

「一刀どのしかいませんね」

 

「主のことだろう」

 

「はわわ、相変わらずなんですね、ご主人様」

 

「あわわ、わ、わたし、が、頑張りましゅ!」

 

「お兄ちゃんしかいないのだ、よくわかんないけど」

 

「ふふふ、北郷どのしかいませんね」

 

「さすがはご主人様無双ねん♪」

 

「・・・無自覚な馬鹿は救いが無いな」

 

一気に部屋に入ってきた皆と、鈴々と左慈の連撃にあえなく撃沈。九連撃ってどうよ!

桃香はひとり真っ赤になって、ぼそぼそと一人呟いている。

両刀・・・とか、腰が・・・とか断片的に聞こえる言葉に、俺は頭を抱えた。

俺は今、華琳一筋なのに、どうしてこうなるんだぁあああああああああ。

 

「据え膳は残らず余さず平らげるでしょうに。それも一晩中。不能になってから、不名誉と思う二つ名を返上するのね」

 

愛する女性の言葉に、俺は迷わず意識を暗闇に投げ・・・れたら、幸せだったのになぁ。

 

 

「では、術を解きますよ?」

 

寝台に座らせた虚ろな瞳の愛紗に手をかざしながら、于吉が、俺・鈴々・星に問いかける。

他の皆もお互いの自己紹介が終わり、それぞれ隣室の壁やら扉の前に聞き耳を立てているだろう、多分。

俺たち三人が頷くことで、于吉は静かに印を結んだ。

 

「んぅ・・・こ、ここは・・・?」

 

「愛紗、目が覚めたのだ?」

 

「り、鈴々・・・? 私は桃香さまに失礼な言動をする男を斬ろうと・・・って、貴様!

この青龍偃月刀の錆に・・・って、なんで、貴様が私の偃月刀を持っているのだ!」

 

「これ、滅茶苦茶重いよね。活性化の効果がまだ効いているのに、片手で持つのがこんなに苦しいなんて、

これを軽々と振るう、君はやはり素晴らしい武人だ」

 

愛紗の愛刀を手にしながら、感想を口にする。いや、愛紗だけじゃないけど、この大陸の名のある武人って、

ほんとうにあの細身の腕のどこに、とんでもない力を秘めているだろうか。

 

「なっ、いっ、いきなり籠絡するような言葉を口にしよって! そ、それでこの関雲長が、ど、動揺するとでも!」

 

「くくっ、しているな」

 

「思いっきり動揺してるのだ」

 

「なっ! 鈴々まで何を言う!」

 

「まぁ、主の笑顔は猛毒だからな。彼女は初心なようだから、まぁ、無理もなかろう」

 

「笑顔が猛毒ってなんだよ・・・失礼な」

 

「ふふっ、判らずとも良いのですよ。当人はしっかり理解しているようですから。

頬を真っ赤にしてそんな言葉を言っても、説得力がまるでない」

 

星にしてもそうだが、笑顔が猛毒とか本当にいろいろ失礼だ。わりと傷つくんだぞ、これでも。

 

「口ばかりうまい輩の戯言に騙されるものか! 鈴々、偃月刀を取り戻すぞ!」

 

「あ、これは返すよ・・・って、そんな勢い良く!?」

 

言うと同時に飛びかかってくる愛紗に、初めから返すつもりで伸ばした俺の拳が綺麗に合わさり、

いわゆるカウンターのような形で、ごちん! と、愛紗の額にクリーンヒットしてしまった。

 

「いつつつっ・・・き、貴様ぁ」

 

「えぇ、あぁ、ご、ごめん! 返すつもりで手を出したら、運悪く! だ、大丈夫!?」

 

「おお、見事な後の先ですな」

 

星が感心したとばかりに驚きを示せば。

 

「確か、『かうんたー』って言うんだったかー? お兄ちゃん、実は腕を上げていたのかー。見直したのだ」

 

鈴々が首を縦に細かく振り、星に同調してみせた。

 

「いやいや、ただの偶然ですから!」

 

「そうだ、偶然だ! こんな優男に狙って反撃できるはずがなかろう!」

 

「その通り! 俺が彼女にこれっぽちも敵うわけがないだろう!」

 

「この者の言う通り! この関雲長、易々と遅れは取らん!」

 

息を合わせてとばかりに、俺と愛紗が即反論。対して、きょとんとした顔をする星に鈴々。

何かおかしなことを言っただろうか。

 

「・・・記憶がないとはいえ、ここまで息がぴったりとは」

 

「愛紗、本当に覚えてないのか?」

 

「何を言う。なぜ私が桃香さまを侮辱するような男を知っているというのか。

まぁ、自らの実力の身の丈はわかっているようだが」

 

「あ、大切な愛刀、返すね」

 

「かたじけない。しかし、桃香さまへの侮辱は許すわけではない」

 

「うーん。でも、関羽さん。君の主は、侮辱とは思っていないよ。直接聞いたらいい。桃香、入ってきてくれ!」

 

「なっ! 桃香さまの真名を!」

 

「許されたからね」

 

部屋の扉が開かれ、温かな笑みを浮かべながら、桃香が俺たちの傍まで歩いてくる。

 

「そうだよ、愛紗ちゃん。一刀さんに、私が許したの」

 

「な、な、な、な、な・・・っ!」

 

「はい、愛紗ちゃん。吸って~、吐いて~」

 

「すぅ~。はぁ~」

 

「落ち着いた?」

 

「は、はい・・・。し、しかし、桃香さま! こんな男に真名を許すなど、何を考えているのですか!」

 

「私が目指す理想の先を、知る人だから、だよ。愛紗ちゃん」

 

「理想の、先?」

 

「みんなが笑って暮らせる、優しい国を作る。理想をしっかり追いかけて、かといって、足元をおろそかにせずに。

それに至るまでの矛盾に、自分自身の理想に潰れないように必要な、想いの強さ、覚悟。

・・・えへへ、まだ全部受け売りで、自分の言葉でちゃんと言えないのが悔しいけど」

 

「桃香さま・・・」

 

「私、目をそらさないよ。目の前のどうしようもない現実をちゃんと見て、

それでも、理想に近づけるために、今出来うる限りのことを全てやっていく。

その為に、私自身も精一杯頑張るし、皆の力を惜しみなく貸してもらうよ。

・・・力不足を嘆く時間なんてない、だよね、一刀さん?」

 

「ああ、理想を追いかけて、幻想扱いされるなんて悔しいじゃないか。

馬鹿にする連中に、足元から一つずつ確実に築き上げて、ちゃんと理想の国を作りました、どうだ!

・・・って言ってやりたいじゃないか」

 

「きっと爽快だよね~。うん、私、頑張るよ!」

 

「とまぁ、俺は桃香に足元をしっかりと見据えることの大切さを説いたまでだ。君が気を失ってる間にね」

 

今度は愛紗がきょとんとする番だった。狐に包まれた感覚ってこういうのを言うんだろう。

 

「・・・貴方は、いったい何者ですか。

短時間で桃香さまの信頼を得、鈴々までこれだけ親しげに接する男を、私は、見たことがない」

 

「ただの旅の商人、だと言えば?」

 

「とても信じられませんね。冷静になってみれば、わかります。

貴方にこれだけの才ある者が臣下の礼を取っている時点で、それはあり得ないでしょう」

 

ふふっ、と笑ってみせる愛紗。憑き物が落ちたような表情になってる。

元より、彼女は聡い。感情が落ち着きさえすれば、見るべきものはきちんと見える人だから。

 

「私は桃香さまの道を切り開くことはできても、進む道を指し示すことはできません。鈴々も、おそらくはご主人様も。

貴方はたやすく、それをやってのけた」

 

「左慈はやらないだけって気がするけど」

 

「そう、さらに貴方はご主人様を知っていた。同じ意匠の服装ということは、貴方もまた天の御遣いに等しい存ざ・・・つっ」

 

「・・・愛紗ちゃん!?」

 

頭を押さえる愛紗。記憶が戻る予兆であるとしても、苦しみに顔を歪める彼女を見たいわけじゃない。

桃香が慌てて傍に寄り、ふらつく愛紗の姿を支える。

 

「だ、大丈夫です。なんで、急に刺すような痛みが・・・」

 

「・・・お兄ちゃん、いっそ荒療治するのだ。いざとなれば、鈴々と星で止めるから、一気に思い出させた方が早いのだ」

 

「抱きしめて、真名を呼んでやればよろしい。頭痛も吹き飛びましょうぞ」

 

さも当然の方法だと言わんばかりの、二人の提案に、俺は躊躇せざるを得ない。

なんで、これしかない、って雰囲気なのかな! こんなの絶対におかしいよ・・・。

 

「いやいやいや、うまくいかなかったら俺一刀両断ですよ!?」

 

「・・・大丈夫、なんとかなるよ♪」

 

「いや、桃香、ならないからね? そんな自信満々に言っても信じられないよ!?」

 

「だけど多分、愛紗ちゃんは多少強引なやり方を取った方が早いと思うよ? 一刀さんなら判ると思うけど」

 

「桃香さまも含めて、お前たちはいったい何を・・・それに、見ず知らずの者に真名を呼ばれるなど!・・・つっ」

 

「皆さんの言う通りかもしれません。彼女の思い込んだら一筋な性格が逆に裏目に出ているかと」

 

「于吉までそう言うなら・・・ええい、ままよ!」

 

なるようにしかならん! 華琳、屍は拾ってくれ!

 

「まだ、痛む?」

 

ぎゅっ。無理やりに力強く抱きしめた。

 

「き、貴様っ! こんなことをしてただで済むとは・・・」

 

「うん、嫌なら突き飛ばして斬り倒せばいい。俺はそれを否定しないから」

 

美髪公、とまで呼ばれる、サラサラでありながらしっとりと艶のある長い黒髪。

鼻を埋めれば、柑橘を思わせる甘く、理性を蕩かすような香り。

抱き寄せた自分の胸には、引き締まり張りのある美乳の弾力が圧しつけられるような格好となっている。

 

かつて、俺が初めて経験した外史で、彼女の身体にどっぷりと溺れた事実を思い出す。

うん、性経験が全くない俺が、向けられる一途な好意と共に、彼女の魅力に抗えるわけもなく。

『政務』が側近として働いてくれる彼女に対する『性務』に変わることも日常茶飯事だった。

それでいて、ちゃんと俺が王として立てるように律してくれていたわけで。

 

女性の魔力を身も心も尽くして教え込んでくれたのが愛紗と言ってもいい。

記憶は無くとも、身体は覚えていたから、それ以降の外史でうまくやれたところがあると思う。

 

「み、耳元で囁くな! 力が抜けてしまうではない、かっ」

 

愛紗の力なら他愛もなく俺を吹き飛ばせるはずが、抗う手の力はとても、弱弱しくて。

 

「嬉しいな。俺みたいな男の声で反応してくれるなんて」

 

「は、離せっ、み、皆が見ているっ」

 

「突き離せばいいのに?」

 

「身体が・・・言うことを効かんのだ・・・。なぜ、突然、男に抱きしめられて、私はこんなに、安堵しているのだ・・・」

 

「俺は、君を知っている。君も身体が覚えてくれているんじゃないかな」

 

「さっきから、訳のわからないことを・・・」

 

「君の髪の手触りも匂いも、唇の柔らかさも全て覚えてる・・・愛紗。俺にこの世界で生きる意味を与えてくれた、大切な女の子」

 

愛紗の頬を両手で包みこんで、俺は真正面からその真名を呼ぶ。ありったけの思いを込めて。

 

「あ、あぁっ、あああああああ!!! この次々に浮かんでくる記憶は・・・あ、頭が割れっ・・・んんっ!?」

 

そして、困惑する彼女に、躊躇なく口づけた。

記憶の錯乱が起こった愛紗に、ある意味もっと精神的な衝撃で、それを緩和してしまう為。

 

「ん・・・んんっ、ちゅる、ちゅ、あ、んくぅ、じゅる・・・んはぁ・・・んんんんんっ」

 

息継ぎの為に離した唇の間に、唾液の糸が伸びる。

完全に呆けた表情の愛紗に、もう一度軽く口づけて、湿り気ごと吸い取っておく。

 

「はぁ・・・いいなぁ、愛紗ちゃん」

 

「な、なんと濃厚な・・・主は私にはあそこまでは・・・」

 

「ほぇー、だ、大胆なのだ・・・」

 

「私も左慈にあんなに激しく奪って欲しいものです・・・」

 

外野の感想が聞こえるが、とりあえず無視。愛紗のためになにふり構ってはいられないのだ。

あとで華琳にはちゃんと謝らないといけないけど。

 

「少しは、落ち着いたかな?」

 

「もう、相変わらず、強引ですね、ご主人様は・・・。しっかりと思い出しましたよ。

確かに頭痛やら記憶の混乱は収まりましたが、この火照りはどうして下さるのです・・・?」

 

語尾の部分は俺にしか聞こえない声で、俺に抱きつき、耳元で囁く愛紗。

確かに効果は絶大だったけど、お互いに生じる弊害を考慮していないのは失策だった。

 

・・・うん、やばい。瞬く間に存在を主張した息子が、明らかに愛紗の腹部をつついている。

何らかの事情で久しぶりに出会った恋人同士の感覚。図らずも、俺が露出させた愛紗の色艶に、抗える術を知らなかった。

 

「その感覚を思い出させた俺が、今晩責任を持つということで、一つ」

 

同じく耳元でそれだけを何とか口にする俺。

 

愛紗の色香の表現は不得手だった彼女に、元々俺が教え込んだものでもあり、いわゆる俺色という奴で。

・・・俺の嗜好を体現したようなもので。それが久しぶりに目の前にあるとなると、いろいろ自重するのも大変だった。

 

染まらずに我が道を行くのが華琳なら、染まる愛らしさが愛紗と言おうか。

 

「ふふっ、約束ですよ・・・」

 

熱のこもった声で、愛紗が俺を見つめながら、皆の死角になる部分でそっと、俺の滾るソレをズボンの上から撫でる。

お互いに知り尽くした身体だ、その軽い愛撫ながらも、俺は身を震わせた。

 

「くっ、愛紗。今はさすがに・・・」

 

「判っておりますよ。ご主人様に、今の私の状態を知って頂いただけです」

 

妖艶な微笑みを見せる愛紗に、その時の俺は空笑いで返すしかなかった。

 

この時に考えるべきだったんだ、愛紗がなかなか記憶を思い出さなかった理由を。

そして、人前でありながら、急に俺を求めてきた愛紗の異変を。

 

自分が壊れない為の、無意識下の精一杯の自衛行動なのだと、気づけなかった自分を、恨んだ。

 


 
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