No.227982

学園・鳳凰†無双 0.5話『振り向かぬ過去』

TAPEtさん

今回、雛里ちゃんは出ません。昔話(設定)です。
明命をもっと変態みたくしたかった(さしゅっ

2011-07-14 22:49:32 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:2761   閲覧ユーザー数:2390

「先に帰りますね」

「あ、はい、お疲れ様です」

「先輩、ごめんなさい、私、急に彼氏と約束あるとか言い出して」

「平気です。後は一面だけ片付けてればいいですし一人だけでも行けます。行って楽しんで来てください」

「ありがとうございます、先輩。先に失礼します」

 

がちゃ

 

「…はぁ………さて」

 

皆さん、こんにちは、

 

あ、今はこんばんはと言う時間ですけどね。

 

私の名前は周明命、フランチェスカ高校部の二年生で、新聞部部長代理を任されています。

元の部長さんはほぼ部室に顔を出さず、放置しているため、私がほぼ部長のような立場ですけどね。

今日あったすごい事件を記事にするため、今日は皆さんに徹夜させるつもりだったのですが、皆さん彼氏とデートだの待ち合わせだの色々あるらしくて、せっかくのラブラブな彼女らを止めることも出来ず、こうして一人で作業をしています。

 

・・・・はうあ!?

わ、私ですか?

私はまだ…彼氏はありません。

当分作るつもりはなかったのですか……

でも…もう作っちゃおうかなぁと思ってます。

多分多くの人たちがそう思い始めるかもしれません。

 

「一刀様……」

 

まさか…一刀様がご自分から告白なさような人が現れるとは思いもしませんでした。

しかも、彼女はこの学校に来たばかりの年下の人。その上すっごく幼女タイプです。

 

「私だってそんな豊かじゃ……中途半端なのがいけなかったのでしょうか」

 

自分もまだその領域に入ると思ったのですが、何がいけなかったのか…自分のどっちでもなく適当に膨らんだ胸に手を当ててため息をつきます。

と、いけない。明日の記事を終わらせないと…

 

 

 

「よっと」

「はうわあああああーー!!!」

 

いきなり首筋に冷たいカンを当てられて、私はおもいっきり叫んでしまいました。

それと同時に、昔の癖でつい太腿に忍ばせておいた手裏剣を後に投げました。

 

さしゅっ

 

「何者ですか!ここは新聞部部員と関係者以外は立ち入り禁止……」

「………」

「!」

 

か、かかかか、

 

「一刀様!」

「…まだふとももにそんなもの仕込んでいるのな」

「も、もももうしわけ…」

「ううん、いい。気にしてないから…」

 

と、おっしゃる一刀様の顔から私の手裏剣に掠って血が流れるのを見た途端私の顔は真っ白になりました。

 

「あ、あああ!!」

「ほーら、落ち着いて」

「ごめんなさい!ごめんなさい!私またこんなことしてしまって…一刀様があれほど努力してくださったのにこんな私で本当に申し訳ありません!」

 

座っていた椅子から降りて土下座しながら一刀様に謝ります。

私がやってしまったことは、それほどの重罪なのです。

一刀様に…またしくもこんなことをしてしまうとは……

 

「明命、立て」

「…はっ!」

 

ですが、一刀様の命令と同時に、私は土下座から直ぐに立ち上がりました。

分かっています。一刀様はこんな出過ぎたことが好きではないのです。

 

「はい」

「あ、…ありがとうございます」

 

一刀様は私にさっき私の首筋に付けたと思われる冷たいコーヒー缶を渡し、コンビニ袋を私が記事を書いていた机の横に起きました。

中身は夜食になりそうなものが入ってます。

 

「ごめんね、手作りじゃなくて。それはまぁ、後ほどに…」

「あ、あの、お体の方はもう大丈夫なのですか?」

「まぁ、それなりにはなったさ」

 

笑う一刀様の顔には少しいつもより健康美は欠けておりました。

やはり酷い風邪だったそうです。

今日一刀様が飛鳥さんに振られたという噂が入った直後、一刀様が欠席なさった理由が飛鳥さんのせいだという話が広まって飛鳥さんを狙う目をあったのですが、以後及川さんの情報によって風邪を引かれたことが判明されました。

飛鳥さんは昼過ぎで早退してましたが、私の思うには、恐らく一刀様のご自宅に向かったのではないかと……

私が家まで行くことも考えましたが、もうそういうことはしないって約束してましたので…それに、新聞部の方も大切ですし……。

 

「明命、絆創膏ある?」

「あ、はい!こちらに…」

 

鏡を見ながらそう言った一刀様に、私は直ぐ様鞄にあった救急箱から絆創膏を取り出して一刀様に出しました。

 

「ちょっと付けてくれない?鏡見ながらじゃちょっと付けにくいんだよね」

「あ…はい…」

 

一刀様の頼みを断る術もなく、私は両手で絆創膏を握ってを一刀様の顔に手を近づけました。

 

そして、一刀様に絆創膏をつけると同時に指が一刀様の顔に…!

 

「はぁ……はぁ……」

「明命、また発情してるわよ」

「はうわ!!」

 

し、しまったです!

 

「も、もうしわけありません」

「いいよ、今回のは俺が誘ったようなものだし」

「はうわ!」

 

本当に、私ったらあの時から全然成長してないように感じます。

 

「それにしても、明命は相変わらずだね」

「ひ、酷いです!私だってあの頃よりは成長してます!体的にも心的にも」

「……そうだね。明命は根が強い娘だからね」

「<<ぐしゃぐしゃ>>はうぅぅ……」

 

頭をグシャグシャしながらからかう一刀様でしたが、少し脆弱になっている一刀様の笑顔もまたステキで、私は何も言わずに顔を俯いていました。

 

一刀様と私の出会いは今から一年に遡ります。

 

 

 

 

 

私と一刀様たちがまだ一年だったとき、その事件は怒りました。

今の聖フランチェスカ―高校部の基礎を作り上げた三人の英雄、それ『覇王、三千院華琳』『軍神、坂本愛紗』そして、『魔王、北郷一刀』。

当時一年で突然現れたこの三人は、三年間高校部を自分の私物のように使っていた当時生徒会長、綾小路麗羽さんをその座から引き下ろしたことにより、学校で有名になりました。

是、『菅戸大革命』と呼ばれし事件にて、一刀様の伝説は始まったのです。

その後、新しい生徒会の発足の際、軍神と魔王は直ぐ様その座を覇王、華琳に譲り、自分たちは普通の生徒に戻りました。

でも、その普通の生徒生活というものも、ままならないものでした。

 

特に、既に人気人となった北郷一刀には、女子生徒がその姿を見るために誰もが集まったため、その末には…

 

「こら貴様ら、いい加減、自分のクラスに戻らぬか!」軍神と、

『以下の者に20m以内に中途半端なきもちで近づくものには退学処分する。

 

                     一年      北郷一刀

 

                第43回生徒会会長 三千院華琳 承認』

 

と言った感じで、武力と校則という盾によって、一刀様は守られたわけです。

ですが、あくまでも面白半分か、それともただのファンである人たちを防ぐための装置であったため、本気で付き合いたいと思った人たちは、どんどん一刀様にダッシュしていきました。

が、彼に『絶対』という修飾語を付いたように、一刀様は毎々それを断り、多くの女性たちが涙を流しました。

 

何はともあれ、これ以上一刀様に近づくことができなくなった人たちは、遠くから一刀様の姿を見ながら自分たちの欲望を満たす(抑える)しかありませんでした。

 

が、

 

その中では、それだけじゃ我慢できず、一刀様の私生活までも観察したいと思った者たちがあったわけです。

坂本愛紗さんは一刀様とは幼なじみで、帰る時もほぼ一緖、しかも家まで入る時もありましたので、その後を追うことは一般のものには相当難しいことでした。

 

ですが、そこで、ただ彼の生活を覗きたいという欲望だけでそれを成し遂げた者たちが居ました。

それが同時『諜報部』という組織です。名はそれっぽいですが、非公式部であり、ただ一刀様を盗撮するためだけに集まった人たちの部でした。

そして恥ずかしながらそのなかに『私も居ました』。今は反省しています。

 

とにかく、私はその部で自分の隠密行動に優れた身体能力を利用し、ようやく愛紗さんにも捕まらず一刀様の家までたどり着くことに成功したのでした。

 

「これでようやく……一刀様の姿を身近で見ることが出来ます……(*´Д`)ハァハァ」

 

あの時の私です。恥ずかしいですので何も言わないでください。

片手には音がしないように改造したカメラを持ち、もう片手には中を盗聴するための道具(録音可能)を持っています。

中に盗聴器や盗撮カメラを設置することを最初は考えたものの、坂本さんの目にそういうもんが通用するとは思えませんでしたので却下されました。下手して監視レベルが上がったら私でも忍びこむことが難しかったのです。

 

あの日は、二回目一刀様の家に到達した日でした。

一回目に来た時は、ロケハンみたいなもので中まで詳しくは入っていませんでしたが、あの日は挑戦しようと思っていました。

 

「まずは二階から……」

 

その日は一刀様が直ぐ様に家に戻らず、近くで食料品の補充に当たっていて、坂本さんもまだ学校に残っていたため、私は何の問題もなく一刀様の家まで来ることができました。

そして二階の窓を開けて(開け方は業界秘密です)、その中に入りました。

 

「ここは……何の部屋なのでしょうか」

 

外からの日差しを通さない厚いカーテンをめぐって中に入ると、暗い部屋には何か大きなものがたくさん盛ってあるような様の影が見えてました。

 

「灯りを……」

 

少し迂闊な気もしましたが、外はカーテンで塞がれてるし、家には誰も居ません。心配はないでしょう。

そう思った私は両手で壁側を探って灯りを付けました。

 

ガチっ

 

その時、私がさっきみた影は……

 

大きな縫ぐるみの山でした。

 

「な……!どうしてこんなものが…」

 

しかも、部屋の半分を示すほどのその量、種類もクマ、うさぎから私が大好きなお猫様の縫ぐるみまで、たくさんの種類がありました。

よくみると、人形の山他にも床にもほとんど人形が転がっていました。

そして、私の目に一つだけ釘つけになったものがあったのです。

 

「はうわー!あれは…!!」

 

超大型のネコネコ様の縫ぐるみがそこにありました。

全日本にて100個しか作られてないと有名なあの縫ぐるみでした。

 

「偽物…では……」

 

恐る恐るその縫ぐるみの背中を探ってみると、後にまだタッグがありました。

 

「製品番号……001!?」

 

つまり…これって、一番に作られた超大型ネコネコ様の縫ぐるみ……だと……

 

「はわーーー!!」

 

それに気づいた途端、私の中には自分の目的(一刀様の家を観察する)などすっかり忘れてその縫ぐるみにDIVEしたのでした。

その他にもかなりレアなお猫様の縫ぐるみたちが揃ってあって、私は一気に幸せな気分に陥られてしまいました。

 

「はうわああー!もふもふしますー!!幸せですーー」

 

縫ぐるみのもふもふな感じに堕とされてしまった私は、本来の目的を忘れてその縫ぐるみがいっぱいの部屋で超大型ネコネコさまを抱きついてその抱き心地の良さを満喫しました。

それだけだとまだよかったのですが、その人形を抱いていると、どんどんそこから一刀様の匂いが滲み出るのが感じられました。

特に、小さい縫ぐるみからは、一刀さまの匂いがむんむんと出ていました。

 

「はぁ……はぁ……」

 

そこんところから、もうお猫様とか種類関係なく一刀様の匂いを堪能し始めてました。

今考えると下着とかじゃなくて本当によかったです(汗)

 

 

 

がちゃ

 

どれぐらい時間が経ったのでしょうか。

あまりにもお猫様の感じに集中していた私は、いつもなら用心したはずの玄関の扉が開く音をそのまま耳に流してしまいました。

 

「はうーーもふもふですーー。本当のお猫様もいいですけど、こういう縫ぐるみのお猫様は好き放題もふもふできますから良いです」

 

がちゃ

 

「あれ、灯りが……」

「!!」

 

その時、私は気づきました。

誰かが部屋の中に入ってきたのです。

 

 

どうこう考える間もなく、私は他の縫ぐるみに塞がってまだ自分の姿が見えないうちに、もっと深く縫ぐるみの中に自分の身を隠しました。

 

「……また買っちまった……」

「(この声は…一刀様?)」

 

ここってもしかして一刀様の部屋……

こんなにたくさんの縫ぐるみをもっているなんて……

 

「はぁ……」

 

ため息をついた一刀さまが人形の山に身を委ねてくることが感じられました。

 

「……坂本…怒ってるかな」

「?」

「……はぁ…」

 

一刀様の深い溜息が続きました。

 

「……ねぇ、お前はどう思う?」

「!」

 

まさか、ここに居るのがバレてる?

 

「ずっと近くに居たんだろ?」

「………」

 

汗が額から流れ始めました。

ここでまさかバレてしまっていたら…私は…!!

 

「…まぁ、何も言わないなら仕方ないさ。これからよろしくね」

 

がちゃ

 

そう一刀様が外に出る音がして私はやっと外に出られました。

 

「ぷはーっ」

 

バレて…はいなかったのでしょうか。

とにかく、今日はこれで撤収しましょう。

 

「よいっしょっと……うわぁ!」

 

ドーン!

 

出ようとすると、中から縫ぐるみに足を掴まって前にこけてしまいました。

 

「いたた……はっ!は、早くでなければ……」

 

前にあった家具にぶつかってすごいがしたので、きっと下からも気づかれたと思います。

早く行かなければ……

 

「?」

 

ですが、ぶつかったその余波で、前にあった服を入れる箪笥が少し開かれていました。

そしてその中にあったものを見た私は、またしくも自分の目を疑いました。

 

「これって……」

 

そこにあったのは………

 

「……あ…」

 

それを見た途端、私はさっきの会話の意味を理解しました。

一刀様は……

 

がちゃ

 

「コーヒーは好きか?」

「!」

 

横を見ると、一刀様は何気もない顔で、両手には熱いコーヒーを持っておられました。

 

「……見たの?」

「……!」

 

私はその場で一刀様の前に跪きました。

 

「もうしわけありません!こんなこと、間違っているとは思っていたものの、一刀様のことをもっと知りたくて……」

「……部屋が汚いね。下で話そうか」

「いいえ、直ぐに出ていきます。もうこんなことは……」

「一年の周明命さんだよね」

「!」

 

私のことを……

 

「とっくに前から坂本が気づいていたよ」

「!!」

 

なのに…どうして……

 

「彼女は止めようとしたんだけど…俺がやめさせた」

「どうして……」

「……あれを見せてやるためだったよ」

 

一刀様は箪笥に入っていた『物』をさしながらおっしゃいました。

 

「一人だけだと…辛いんだ」

「あ……」

「……こんな人で、嫌悪するだろ?」

「!いえ、そんなことはありません!」

「嘘をつかなくていいよ。俺だって、自分のこと最低なんて思ってるから……あんなものをもらっといて、更に今までこんな風に仲の良い友たちのふりをして……」

「ぁ………」

「でもね…それでも良いんだ。俺は……彼女のことを一番の友たちだと思っていた。だから…そんな『坂本』のことを失いたくなかったんだ」

 

箪笥の中に入っていたもの。

それは、

 

一刀様と坂本さんをそっくり似てる縫ぐるみ。

二人で手を繋いでいるその縫ぐるみの前には、『あなたへの愛を込めて 坂本愛紗』

そんな手紙が書かれていました。

 

 

 

そのまま一刀様の部屋で縫ぐるみたちを片付けて床に座って、一刀様が淹れてくださったコーヒーを飲みながら、私は自分のことを話しました。

 

 

「そうか、中国からの留学生か……」

「はい、中国で聖フランチェスカ―学園と姉妹校である嶺上学園の武術ー隠密部分トップとして、ここに交換学生として来たわけですが……一刀さまの武勇談を聞いて一度お会いしたいと思ったものの、恥ずかしくてお会いすることができず」

「こうしてストーカーをやってたって?」

「もうしわけありません」

 

私はもう一度土下座をして謝罪しました。

 

「日本語はどこで学んだの?」

「学園で、日本人の母を持った方がいらっしゃいまして、その方から、言葉や文化など学びました」

「その土下座も?」

「はい」

「もうしなくていいよ」

「わかりました」

 

私が腰を上げると一刀様は周りを見ながら言いました。

 

「ここに入って来たのは、お前が四人目だな」

「四人め」

「そしてアレを見たのはお前が初めてだ」

「あれは………坂本さんが…?」

「……」

 

一刀様は苦笑しながら頷きました。

 

「ねー、俺がなんで誰の告白も全部断ってるか知りたい?」

「………」

 

坂本さんは、他の人たちとは違います。

今の学園で一刀様とたった二人同等な立場に居られる中の一人。

しかも、その方は一刀様の幼なじみです。

いったいいつからお慕いしていだだろうか、一目惚れの私には思いもつきません。

 

なのに、そんな思いを砕くほど、一刀様は酷いお方だったのでしょうか。

 

「俺の母は俺が小さい頃に亡くなったの」

「……」

 

一刀様は私の答えを待たずに話しを始めました。

 

「母はとても美しい人だったと覚えている。でも、そんな母がたった一人男として見ていた父はすごく病弱な人で、俺が五才の時に亡くなった。母はそれがとても衝撃で、直ぐに病気なって動けない体になった。俺は笑わなくなった母の笑顔を取り戻したくて、ありとあらゆることをした。大人たちが競う武術試合や投資試合みたいなところで優勝したり、縫ぐるみみたいなものを作って母にプレゼントしたり、子供に出来ることできないこと全てやりつくした」

「……」

 

私はその時気づきました。

 

あの縫ぐるみたちは、買ったものもありましたが、手作りのものの方が多かったです。一刀様の匂いが滲み出るほどの強い匂いのものも……

それらは全部、一刀様が昔母のために作っていた縫ぐるみなのだって……

 

「でも、母は三年ぐらい後死んだ。そして、母は死ぬ日まで一度も笑うことがなかった。父の死はそれほど母にとっては辛いことだった……子供の努力さえも無駄にさせるぐらい……」

「………」

「それで、それから俺は人を愛することが怖くなったんだ。だから……今まで誰が告白しても、学校の友たち以上には成りたいと思わなかったし、それ以上になることを嫌った。……怖かった」

「一刀様……」

 

こんな話、他に誰にしたでしょうか。

坂本さんは恐らく知っていらっしゃったと思います。

それでも、その上にあのような縫ぐるみを作って一刀様に与えました。

そして、一刀様はそれもまた断ってしまった。

辛い話…聞きたくもなく、話したくもない話。

 

「俺は一生恋なんてできないだろうな」

「……はい、そう思います」

「言われると流石に傷つくね」

「一刀様は勝手な人です。自分だけ傷つかないために、他の人たちのことはあれほど傷つけておいて、まだ自分一人だけ被害者みたいな顔をしています」

「……お前は俺が好きでなくても誰一人と付き合って騒ぎを鎮めるべきだったと…そう思ってるのか?」

「…………」

「お前たちは俺にあれほど好き好き言っておいて…俺は恋など感じもしない相手に恋人なふりをしていなさいって…?」

 

それは……

 

「…申し訳ありません…」

「……話した俺が馬鹿だったよ」

 

一刀様はそのまま立ち上がりました。

 

「それ、全部飲んだら帰りなさい。明日俺のところに来るように……」

 

そう言って、一刀様は部屋を出ていきました。

それが、この話の終わりです。

 

 

その後、一刀様は私をその時まで臨時閉部されていた新聞部の副部長にしました(部長になるためには、ある項目で一個以上S、そしてどの項目もCを持っていたはいけないという校則があるので、自分では部長になりません)。

一刀様は名前だけ部長にしておいてその後新聞部に来たことはありません。ですが、私は、一刀様との約束通り、自分の能力を使って熱心に新聞部を動かしました。

 

『情報元には必ず許可を得ること。手段を選ばなくていいけど、口上でも必ず許可は得なさい。それだけ守ってくれたら好きなだけやってもいいよ』

 

そう仰られた後、私はありとあらゆる方法で(ほんとありとあらゆる方法で)記事を書きました。もちろん許可は得ています(ありとあらゆる方法で)

 

一刀様は、その後全ての学園の仕事から手を放し、完全にフリー状態になりました。

慕う人たちもそんな一刀様の姿にどんどん遠くなって、一年が終わる頃には、一刀様の周りには坂本さんと及川さん二人しか残っていませんでした。

 

私は一刀様がそんな風になったのが一刀様が坂本さんの告白を断ったあの日の直後だと知っていました。

だから、一刀様がそんな無気力が姿になったのを見て、坂本さんのことを心の底から嫌っていました。

一番一刀様のことを良く知っていた方が、一刀様の最後の防壁さえも砕いてしまったのです。

同じ強度の二つの鉱石がぶつかって、両方砕け散ってしまったのです。

 

その後、坂本さんは一刀様のことをいつものように接しているように見えましたが、私にはその微妙が差が見えました。その後、坂本さんは一度も一刀様と登下校を共にしてありません。

一刀様も、以前のように坂本さんに接することを諦めていました。

坂本さん自身が、一刀様にとっては最後の防壁だったのです。これで、一刀様は学校でも、この世界にても一人になってしまいました。

そして、私はその一刀様が最後に自分の奥にあった自分の本当の気持ちを言ってくれた人。

どうして、一刀様は私にその言葉を言ったのでしょうか。

単に私がその日一刀様の部屋に忍び込んでいたからかもしれません。

単に、誰かに言いたかったのです。

自分の気持ちを……

世界の人たちが自分を愛してる暮れる度に、どんどん一人になっていく自分の気持ちを……

本当に一人になる前の、自分の気持ちを……

 

 

 

 

「…そして、今になって人のことが好きになったってわけだね」

「そうです…ね…」

「最低だよね、俺」

「公で言わせてもらいますと、最低過ぎます。犯罪です」

「…酷いこというのな」

「でも私語で言わせてもらいますと……よかった、と思います」

 

一刀様は、やっと一人じゃなくなられるのだと…

やっとその檻から出られるのだって……

 

「ところで、飛鳥さんのどこが気に入ったのですか?やっぱり幼女趣向なのですか?」

「それだと明命を見た途端に突き合ってと言ってない?」

「はうわ!酷いです!すごい侮辱です!」

「本当に俺が幼女趣向だったら、褒め言葉じゃない?」

「っ…!!」

 

どっちなんですか、もう!

 

「……俺も分からないさ」

「…………」

「お前は今になって俺のことなんて好きだったとか覚えてる?」

「……好きです。今でも」

 

好き"だった"とかじゃありません。

ただ、その思いが砕かれるのが分かっていたから、ぶつけるのを恐れていただけです。

私は、他の人たちよりも弱い女の子です。

 

「何で?」

「最初の時は、ただ噂に巻かれてただ一刀様のことを知りたいと思ってました。でも今は、また活気を取り戻しつつある一刀様の姿が凛々しくて、かっこいいと思います」

「…ありがとう…明命」

「……私は愛人でもいいです」

「明命……」

「冗談です」

 

だからそんな悲しい顔をしないでください。

私は、これからあなた様の幸せに満ちた顔だけが見たいと心の底から思っていますから。

 

「そういえば、ここまではどうしてご用件で…」

「ああ、実は……飛鳥さんの住所が知りたくてな。それと、明命に頼みもある」

「……私は明日までこの記事を書かなければなりませんが…」

「やってくれたら俺の部屋にあるネコネコ様の縫ぐるみ、あげるわよ?」

「地獄の底まででもお共致します!」

「…ふふっ、明命はほんと全然変わってないのな」

 

そういう一刀様は、あの時から一気に変わられました。

 

 

・・・

 

・・

 

 

 

 

 

 


 
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