成都
対晋戦の準備は大詰めを迎えている
蜀呉合同軍を形成する荊州には呉からの要望もあり
愛紗 翠 蒲公英 恋 ねねの5人が派遣されていた
今行われている軍議は漢中から北方へ攻上がる北伐である
北伐の全権は朱里に命じられていた
「もう一度おさらいをします。星さんは囮として敵主力部隊を引き付けてもらいます」
「承知」
「敵の主力が星さんに向かったことを確認したら、今度は私達主力組みの出番です
西へ軍を進め南安・天水・安定の3郡を制した後、そのまま長安へ進軍します」
「「「「おう!」」」」」
「成都、ならびに桃香様の守護役は紫苑さんと桔梗さんにお願いします」
「分かったわ」「うむ」
「そして焔耶さん、焔耶さんには街亭の守備を命じます。街亭は要所、必ず守り抜いてください」
「ふむ、それはよいのだが軍師殿、この地形を見るに山上から逆落としをかければ敵を殲滅できるのではないか?」
「だだだだめですーよ焔耶さん!山上に布陣するのは絶対にだめです!!」
「しかしだな朱里、この戦いを速やかに終わらせればそれだけ蜀の消耗も少なく済むのだ。敵を打ち破った私が颯爽と長安に攻め上れば」
「それは理想ですが危険な賭けになってしまいましゅ!いいですか?必ず道筋を守ってください。山上に布陣するのは絶対にだめです!」
「うむ~しかしだな」
北伐が実行されない原因、それは桃香に認めて欲しい焔耶とうまく説明できない朱里が原因であった
二人の喧騒が始まると、周囲もまたかとうんざりし始めた
しかし今日は違った
桂花が軍議に参加していたのだ
桂花は軍議の面々を見回すと1人に目をつけた
「・・・・賈駆、あなたはどう思う?」
「私?わ、私は・・・・私は侍女よ」
桂花の顔が歪む
桂花は椅子から立ち上がると桃香の隣で月と共に控えていた詠の胸倉を掴む
「私はね、あんたみたいに才能を持ちながら使わない人間が一番嫌いなの」
詠は桂花から顔を背けた
「あんたならこの北伐、失敗することが見抜けていたはずよ。なぜ何も進言しないの」
「・・・・何度も言わせないで、私は侍女よ」
「詠ちゃん・・・・」
月は詠が心配でならない様子だった
「華琳様ならあんたみたいなの絶対に許さないはずよ」
桂花は詠から手を離すと席に戻った
詠はショックのためか少しおびえているようにも見えた
桂花は呆れた風に言い捨てる
「残念だけどここは蜀。桃香、賈駆の処分はあんたに任せるわ」
突然話を降られた桃香
だが、桃香も王としての自覚を持ち始めた1人
彼女もまた成長していた
「詠ちゃんは朱里ちゃんの作戦に不備があることに気づいていたの?」
詠は無言で頷いた
「なら、詠ちゃんの考えを聞かせて欲しい。軍師賈駆としての意見を、ね?」
「でも・・・・」
詠は遠慮していた
桃香は月を、自分を匿ってくれた
その時、賈駆は死に、月と共に桃香の侍女として生きることを決めたのだった
そんな詠の気持ちを察し詠を動かしたのは月だった
「詠ちゃん、我慢しなくてもいいんだよ」
「月・・・」
「詠ちゃんがもう一度軍師をやりたいって思ってたの知ってたよ
だからもう我慢しなくていい、桃香様ならきっと受け止めてくれるよ」
「・・・・・私は月のために采配を振るいたくてがんばってたのに、全然守れなくて」
「蜀は私達の故郷。蜀のために采配を振るうのは私達皆のためだよ。詠ちゃん、さぁ」
詠は少し逡巡すると、頷いた
「朱里、この作戦は失敗する。人選に致命的な誤りがあるわ」
「はわわ!」
「街亭は要所中の要所、ここを落とされれば北伐そのものが失敗する。そこに功を焦る経験の浅い焔耶を置けば
どうなるか予測できないでしょう?」
「それはそうですが・・・・ですが焔耶さんを外してしまうといろいろ厳しいと言いますか・・・・」
朱里は頭がいい、人選に無理があることは承知の上だった
呉の要望を受け荊州に主力を割いてしまったことが重くのしかかる
今の蜀の人材を考えると道はなかったのだ
だが、そこに意味の無い朱里の遠慮があることを見逃す詠ではなかった
「あんたねぇ・・・・なら成都の守護に紫苑と桔梗を置く理由は?」
「はわわ、お二人はその・・・・紫苑さんには理々ちゃんもいますしあまり前線にお出しするわけには・・・・」
その瞬間、高みの見物を決め込んでいた紫苑と桔梗の頭上に大きな落雷が落ちた気がした
二人は明らかに怒っている
「ほう、それは聞き捨てならんな、なぁ、紫苑よ」
「あらあら、私達そんな風に見られてたなんてねぇ、桔梗」
まずい空気になってきた
「は、はわわ!違うんでしゅ!!そういう意味ではなくて!!!」
「なら、どう言う意味なのか教えてもらおうか、なぁ、紫苑よ」
「凄く興味があるわぁ、ねぇ、桔梗」
「はわわわわわわわわわ」
失神寸前まで行った朱里だったが、桃香が二人をなだめたことで事なきを得た
「はぅ~~~~~」
しかし精神的ダメージが大きかったようで、今は月の膝枕を背にダウンしていた
「あわわ、朱里ちゃんがこうなってしまった以上、新たに全権を委ねる者を指名しなければなりません」
桃香に進言した雛理
桃香は雛理の目を見るとその意味を読んだ
「その前に、まず桂花ちゃんが言っていた詠ちゃんへの処罰を与えないといけないと思う」
桃香の詠への処罰発言を聞くと月の体は硬直した
「と、桃香様、詠ちゃんに悪気はなく・・・・」
「月ちゃん、私は桂花ちゃんの言うとおりだと思う。もし桂花ちゃんがいなくて詠ちゃんが何も言わなければ
私達の大切な仲間がたくさん傷ついた。それは事実だと思う。なら、処罰を与えなくてはいけない」
「で、でも」
「いいのよ月、知っていて黙っていた。これは重罪よ」
桃香に食い下がる月を止めたのは詠だった
詠の表情に怯えは無かった
「さ、桃香。私に処分を」
「・・・・・賈駆、あなたを私付きの侍女から解任します」
月は飛び上がると桃香に縋り付いた
「桃香様、どうか、罰するなら私を、詠ちゃんのことをどうか、どうか捨てないであげてください。お願いします」
月に泣きつかれると今度は桃香が狼狽し始めた
「ち、違うの月ちゃん!そういうつもりじゃなくてーー・・・・はぅ~~どうしよぉ~~~」
一気に軍議が大混乱
侍女が解任を受け、それを訂正して欲しいと哀願するもう1人の侍女、その哀願を受け涙を流し狼狽する蜀王の劉備
その惨状に桂花は頭を抱えていた
「本当に大丈夫なのかしらこの国・・・・・・」
見るに見かねて助け舟を出したのは雛理だった
「あわわ月さん、桃香様は詠さんを侍女から解任するだけで捨てるなんて絶対にないです」
「そうなんですか桃香様?」
「はぅ~、これからは軍師としてがんばってね、てかっこよく決めようと思ったのにぃ~」
月の表情がぱっと明るくなった
「そ、それじゃ」
「ううう、北伐の全権は詠ちゃんに与えますぅ・・・・」
こうして、第一次北伐の総指揮権は詠に渡された
桃香の狙いは外れたものの
詠を軍師として復帰させると言う桂花と雛里の思惑は概ね狙い通りとなった
これでようやく軍議がまとまり一致団結のムードが漂っていたのだが・・・・
月の足元からうめき声が聞こえる
「あ~~~~う~~~~~~」
「しゅ、朱里ちゃん!」
膝枕をされていたのに月が突然立ち上がったため朱里が落ちた
その光景をみると桂花がまた頭を抱える
「もういやこの国・・・」
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