No.207348

そらのおとしもの二次創作ショートストーリー  今の私

1日でも早い復興を望みます。
個人的な都合でごく短い作品を投稿していくことが増えそうです。


そらのおとしもの二次創作作品

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2011-03-21 07:45:15 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:4841   閲覧ユーザー数:4537

そらのおとしもの二次創作ショートストーリー  今の私

 

 

「ねぇ、ニンフさん。お使いを頼まれてくれないかしら?」

 3月某日、授業が終わって帰りの準備をしていたらそはらに声を掛けられた。

「お使い?」

「そう。生徒会で文具店に注文しておいた品物を受け取って欲しいの」

 そはらが両手を合わせて私に頼む。

 そはらは卒業を控えた美香子に代わり今月から空美学園の生徒会長に就任している。

 その関係で毎日とても忙しい日々を送っている。

「良いわよ。私も一応生徒会の一員だし」

 私もそはらのお手伝いということで生徒会に一応名を連ねている。

 私の役職は会計。けれど、会計が動き出すのは新年度が始まってからということで現在はあまり仕事がない。

「じゃあ、お願いするわね。受け取った品物は明日の朝に生徒会室に運んでくれれば良いから」

 それだけ言うとそはらは走って教室を出て行ってしまった。

 本当に忙しいようだ。

「じゃあ、帰りに商店街に寄って行こうかしらね」

 鞄を持って歩き出す。

 すっかり学生生活に馴染んでいる自分。

 シナプスにいた頃と比べて全然違う生活。

 まるで夢のよう。

 でも、とても楽しい現実。

 私はこの日々がとても好き。

 学生生活を満喫できる今。

 今の私はとても幸せ。

 

 

 玄関で靴を履き替えて外へと出る。

 すると前方に背が低めの少年が眠そうに左右に揺れながら歩いていた。

 寝癖はボサボサで更にアホ毛まで立っている。

 そんなだらしない少年なのに、私はその後姿をみつけた途端にすごく嬉しくなった。

「智樹~っ!」

 気が付くと少年の名前を呼びながら走って追い掛けていた。

「うん? ニンフ?」

 智樹が振り返る。

 眠そうな顔。

 でも、そんな智樹の顔を見ているだけで私は嬉しくなる。

「智樹、一緒に商店街に行きましょ♪ 生徒会のお使いに行くから荷物持ちして♪」

 言いながら智樹の腕を掴む。

「おい……」

 智樹が目を細めて私を見る。

 逃がさない為の対策。そう思っているに違いない。

「別にそんな掴まなくても逃げないぞ」

 ほらっ、やっぱり智樹はそう思っている。

「信用できないわよ」

 勘違いしているのなら勘違いしたままでも良い。

「いいから智樹もたまには生徒会の仕事を手伝いなさいよ」

「おい、引っ張るなよ」

 腕を掴んだまま歩き出す。

 智樹は引っ張られるようにして歩き出し、ちょっと不恰好だけど2人は腕を組みながら歩いている姿勢になる。

 智樹と腕を組んで歩ける今。

 今の私はとても幸せ。

 

 

「注文された品物はこちらになります」

「ありがとう」

 以前プロレス大会に出ていた牧子とかいう若い女性店員に品物を渡されてお使いは終了。

 商店街に到着して僅か10分で用事は終わってしまった。

 このままだと智樹と2人きりでいられる時間もすぐに終わってしまう。

 家に帰ればお腹を空かせたデルタが居間で倒れているに違いない。

「ねえ、智樹? この後、一緒に夕飯の買い物をしていきましょうよ」

 だから私は空いている智樹の左手を握りながらもう1度誘った。

「また荷物持ちさせる気かよ?」

「今日は私が夕飯の当番なんだから良いじゃない」

「タクッ。しょうがねえなあ」

 嫌々そうな顔をしながらもちゃんと引き受けてくれる智樹。

 智樹みたいな性格をツンデレって言うんだよね?

 智樹の手を握ったまま歩き出す。

「おいっ、こっちは荷物持っているんだからあんまり早く歩くなって」

 文句は言いながらも手はちゃんと握っててくれる智樹。

 智樹の手の温もりを感じられる今。

 今の私はとても幸せ。

 

 

「おいおい。まだ買うのかよ?」

 智樹がゲンナリした顔で私の後をついてくる。

 その両手には抱えきれないばかりの買い物袋が下がっている。

「当然よ。今夜はご馳走にするんだから」

 智樹の荷物の重さには気付かないフリをして私は買い物を続ける。

「何でご馳走なんだよ?」

 本当は買い物に来なくても最低限のものなら作れる。

 今夜はそれで賄おうと思っていた。

 残念だけど料理の腕じゃまだまだアルファには敵わない。

 でも今日は智樹と一緒に買い物しているから。

 すごく心が弾んでいるから。

 だから、今までにないぐらいのご馳走にチャレンジしたい。

「そういう気分なのよ」

 振り返って智樹にニッコリ微笑む。

「何だそりゃ?」

 智樹は目を点にして驚いている。

「智樹が買い物に最後まで付き合ってくれたらご褒美あげるわよ」

「ご褒美……ねぇ」

 智樹は疑わしい視線を投げ掛けている。

「期待しないで待ってるよ」

 だけど文句を言いながらちゃんとついてきてくれる。

 智樹は何だかんだ言いながら一番大事な所でちゃんと私を守ってくれる。私を見てくれる。私と一緒にいてくれる。

 そんな智樹だから私は好きになった。

 意地っ張りで寂しがり屋の私は智樹を好きになった。

 大好きな人がいる。

 大好きな人が側にいてくれる。

 大好きな人と共に過ごせる今。

 今の私はとても幸せ。

 

 

「智樹っ、りんご飴の屋台が出てるわよ」

 買い物を終えて帰宅道の途中、私は公園に屋台が出ているのをみつけた。

 しかも私の大好きなりんご飴の屋台。

 私と智樹を結び付けてくれたりんご飴の屋台。

 智樹のことを大好きだと気付かせてくれたりんご飴の屋台。

「へいへい。どうせ俺に奢れって言うんだろ?」

「うん♪」

 大好きな人から贈り物は何でも嬉しい。

 だけど、大好きな人から大好きな物を贈られたらもっと嬉しい。

「ほんとにニンフはりんご飴大好きだよな」

 智樹に買ってもらったりんご飴を一口舐めてみる。

 口一杯に広がる水あめの甘さ。

 幸せな甘さ。

「私はりんご飴大好きよ」

 りんご飴をジッと見る。

「だって、大好きな人に初めてプレゼントしてもらったものだもの」

 りんご飴の水あめの部分に智樹の顔が反射して映っている。

「だ、大好きな人って……」

 水あめに映る智樹の顔がりんごの色と同じになった。

 今日は何だかいつもより素直になれる。

 きっと、りんご飴も私の背中を押してくれている。

「ねえ、智樹」

「何だ?」

 智樹は私から視線を外している。その頬は真っ赤に染まったまま。

「買い物に最後まで付き合ってくれたらご褒美あげるって言ったよね?」

「あ、ああ……」

 智樹は相変わらず横を向いている。

 私とは目を合わせてくれない。

 でも今はそれが好都合。

 智樹に気付かれないようにそっと近寄る。

 そして爪先立ちになりながら智樹の顔に両手を添える。

「これが、私からのお礼よ」

「えっ?」

 智樹の唇に自分の唇を重ねる。

 智樹が驚いた表情で目を見開いている。

 そのまま智樹の表情を確かめながら目を瞑る。

 それから10秒間、私はその体勢のままでいた。

「に、ニンフぅ……っ!?」

 唇を離し、手も離したら首まで真っ赤に染め上げた智樹の顔があった。

 智樹はとってもエッチなくせに、女の子からのアタックには滅法弱い。

 今も私にどう対応したら良いのかわからずに立っているだけ。

 智樹は女の子の本気に弱い。本気の想いに弱い純情な少年。

 そして今日の私はいつもより素直になっている。

 だから、今日だけはもっと素直になってみる。

「智樹、大好きよ」

 智樹が私を見ながら完璧に固まっていた。

 そんな智樹の様子を見ているのがちょっとだけ楽しい。

 智樹から何て返事が来るのかはわからない。

 でも、これだけ盛大に固まってくれるってことは意識してくれてるってことだよね?

 返事も少しは期待しちゃっても良いんだよね?

 大好きな人に大好きと言える今。

 今の私はとても幸せ。

 

 

 Fin

 

 


 
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