《ドッゴォォォォォン!!》
「なんだ今の音は・・・・?」
東門掃討部隊の後方で休んでいた螺羅は、突如響き渡った轟音に顔を上げる。
その数分後、兵士が数名ほど前線から下がってきた。
「うああああああ!!!!!」
彼等が一人残らず精神崩壊している様子を見て、彼女の疑問はより大きくなる。
螺羅は、その兵士の中で、一番取り乱していない者に声をかけた。
「おい、そこのお前。」
「は・・・・」
その兵士もまた、涙を流し、歯をガチガチと鳴らして怯えていた。
「お前も前線にいたのか?いたのなら、何が起こったのか教えて欲しいのだが・・・・。」
すると兵士は顔を俯かせ、細々と、呟くように口を開いた。
「妙な男が・・・・・立ってて、その・・・・何かを突き出した途端・・・・・・凄い大きな音が・・・・・」
「(男?)」
「そしたら・・・・何人かが・・・・急に・・・・・吹き飛んで・・・・」
螺羅は、まるで確かめるかのように『ある事』を尋ねた。
「その男・・・・・。どんな奴だった??どんな得物だった??」
「奇妙な格好でした・・・・・・体中に『何か』を着けているような・・・・」
彼の言葉で、螺羅の脳裏に『一人の人物』が浮かび上がった。
先刻、自分を『このような状態』に追い込んだ人物。
「・・・・あいつか。」
「漢忠様が、その者と対峙しています・・・・・。」
「ふむ、そうか。」
「無事でいろよ、晋。」
その東門では、逃げ惑う人々を背にする一刀と、数百人の部下を背にする晋が、立ち止まって相対していた。
「夜になる前に街から出ていれば、殺されずにすんだのに・・・・・。」
「気にすんな。殺されるつもりはねぇ。つーかよ・・・・」
「ん?」
「お前ら『何』がしてぇんだ??」
「ハハ・・・・内緒だよ。」
その後、二人の間に沈黙が訪れた。
互いに沈黙しあう中、一刀はペイロードの照準を定め始める。
「(距離は・・・・・30メートルくらいか。胴体に当てりゃ即死すんだろ。)」
照準を、晋の胴体の、さらにそのど真ん中にあわせる。
その時
〈ニヤッ・・・・・〉
晋が不気味な笑みを浮かべる。
「北郷。さっきの『アレ』、それでやったの??」
「まぁな。」
『アレ』とは、先程の突撃を止めさせた一撃のこと。
一刀は単調な返事をしながら、引き金に指をかける。
「そっか・・・・なるほどね。」
そして
「うおりゃぁぁぁああああああああああああ!!!!!!!!!!」
「っ!!」
晋が、柳葉刀の『鞘』を投げてきた。
一直線に飛んでくるその鞘へと照準を変える一刀。
《ドッゴォォォォン!!!》
《バキバキバキ・・・・・・!!!!》
放たれた砲弾が、鞘を粉々に破砕する。
「(弾は、このままアイツに向かうはず・・・・)」
一刀の弾道予測では、砲弾はこのまま晋の左胸に命中する。
だが、この予測は『謎の金属音』によって打ち砕かれた。
《ガッッッキィィ!!!!!》
「・・・・・は?」
晋が投げたのは、鞘だけはなかった。
晋は、立て続けに『刀身』も投げていたのだ。
《バッゴォォォン!!》
砲弾はそのまま柳葉刀の刀身を、粉々に破壊する。
着弾地点付近には、白い砂埃のようなものが漂う。
「(どうなった・・・・・!?)」
砲弾は、そのまま漢忠を仕留めたのか。
それとも・・・・・・・
「(もう一発・・・)」
『保険』のためにもう一発撃とうと、引き金に指をかけたその直後。
白い砂埃の中に『何か』が見えた。
「いやぁ凄いねぇ♪」
「っ!!」
それは、身を屈ませて高速突進してくる晋だった。
砲弾は、刀身を破壊した時点で『終わって』しまっていた。
晋との距離は、約10メートル。
「(くそっ・・・・!!)」
一刀はペイロードを手放し、素早くMP7を取り出す。
「へぇ、それが螺羅を負かした『得物』かな?」
「近ぇんだよ、漢忠。離れろや。」
《タタ―――・・・!!!》
素早く引き金を引く一刀。
晋は、この瞬間でさえ『笑って』いた。
放たれた銃弾の一発が、晋のわき腹に穴を開ける。
「ぐっ!!」
だが、晋は怯まない。
晋は一足飛びで一刀の懐に潜り込み、腕を蹴り上げる。
「っ・・・!!」
そして体勢を素早く立て直し、一刀の顎を横に殴る。
《ドゴッッッ!!!》
「ガッ!!」
顎を殴られた一刀は、ふらつきながらもMP7の『台尻』の部分を晋の頭に振り下ろす。
《ガツッ!!》
「うっ!!」
だが、晋は倒れなかった。
頭から血が流れるなか、振り下ろされた腕に絡みつき、銃口に注意を払いながら背後に回りこんで関節を極める。
「ぐあぁっ!!」
呻き声と共に、一刀の腕の力が少しずつ抜ける。
晋は間接を極め続け、『その時』を待った。
《ゴキンッ!!》
「っっっつぁぁぁああああ!!!!」
肩が『外れた』。
そして、『その時』が来た。
《ガシャン!!》
一刀の手から、MP7が落ちた。
晋は、足を払って一刀を蹴り倒し、頭を踏みつけながら、MP7を手に取る。
「黒くて、片手で扱う・・・・・うん。螺羅が言ってたのはコレかな??」
晋はグリップを握り、引き金に指をかける。
「ねぇ、北郷。君は確かこんな感じで持ってたよね??で、ここを引くのかな??」
銃口を逃げ惑う市民達に向け、引き金を絞る。
《タタタタタタタタタタタタタ・・・・・・・・!!》
射程が200メートル、軽量かつ低反動のMP7は、素人でも『扱いやすい』兵器だ。
ばら撒かれた弾丸が、無慈悲に市民の命を、次々奪っていく。
「やめろ・・・・・・」
「アハハ、これ面白いねぇ!人がパタパタ倒れてくよ!!」
晋の言うとおり、門の周辺では血飛沫が絶えず飛び散り、地獄絵図のような光景になっている。
「やめろ・・・・・・っ!!」
歯を食いしばるように訴える一刀。
だが、晋にそれを聞き入れる道理は無かった。
「こんな楽しいモノを独り占めなんて、ズルイなぁもうww」
『楽しいモノ』。
この一言が、一刀に『異変』をもたらした。
「たの、しい・・・・・・。」
一刀の眼が、鋭くなる。
「アハハハハハ!!!いいねぇいいねぇ!!」
「・・・・・ねぇ。」
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!」
「コイツはそんな『軽い』モンじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!」
一刀の叫びを聞き、晋は撃つのを止めた。
「うるっさいなぁ。」
《タァン!》
まるで鬱陶しい蚊を殺すような感覚で、晋は一刀の背中を撃つ。
「ぐぁ・・・・!!」
「もういいよ。さよなら、北郷。」
晋は一刀の髪を掴んで持ち上げ、そして放り投げた。
ドシャッ。という着地音と共に、待機していた兵士達から歓声が湧き起こる。
晋はペイロードを担ぎ、兵士に「殲滅しろ。」と指示を送る。
「剣は無くなったけど、『イイ物』が手に入ったな。」
晋はそのまま後方にいる螺羅の下へ向かった。
「螺羅、調子はどう??」
「相変わらずだ・・・・・で、どうした??」
「ケガの手当て。それと、お土産を持ってきた。」
そう言って、MP7を螺羅に手渡す。
「これは・・・・・。まさかお前・・・・・・!!」
「殺した。螺羅の言うとおりだった。」
「そうか・・・。」
螺羅は、晋と合流した際の会話の中で、『ある事』を話していた。
「あの男、たしか・・・・女よりも『速く気づいた』のに、女より『行動が遅かった』。」
一刀の身体能力に欠点があるのではないか。
この一言に賭けた晋は、一刀に『玉砕覚悟の肉弾戦』を仕掛けたのだ。
「一か八かの賭けだったけど、なんとか上手くいったよw使い方は後で教えてあげるね。」
「そうか・・・・・ありがとう。」
「もうすぐこの街は壊滅する・・・・『第一段階成功』だね。」
この街の破壊には、『二つの目的』があった。
一つは、この街の太守を殺害し、その首を朝廷に送りつけることで自分達の『存在』を主張すると同時に、『宣戦布告』をする。
もう一つは、自分達の『戦力』を誇示する。
『自分達は街一つを滅ぼせる程の力がある。』
これを周囲に知らしめることで、状況を有利にするのだ。
「・・・・我々がこの国を倒し、新たな国家を作り、『平和』をつくるのだ。」
「・・・・・うん。」
夜が明けるころ、街は静寂に包まれていた。
ゆっくりと昇る太陽が、街に光をもたらす。
「んっ・・・・。」
一刀は生きていた。
一刀は無言で、ボディーアーマーの『ある部分』を引っ張る。
するとボディアーマーが分解し、ベストの間から滑り落ちる。
そして背中の部分を手に取ると、一刀は少しだけ笑みを浮かべた。
「複合繊維とセラミックプレートが無けりゃ、俺ァ死んでた、か。」
銃弾は防弾繊維を貫通し、中に仕込まれたプレートに突き刺さっていた。
その先端が、一刀の背中にも刺さっていたようで、銃弾が血の色に染まっている。
辺りを見渡すと、『敗北』したことが理解できた。
門付近に散在する多数の市民の死体が、何よりの証拠だ。
それに、ペイロードとMP7も見当たらない。
「散々だなぁオイ・・・・・・・。」
市民を逃がしきる事ができず、武器も奪われ、自身も負傷した。
一刀は立ち上がり、ポーチから一丁の銃を取り出す。
「だが、まだ・・・・・終わっちゃいねぇ。」
銃口を天に向け、引き金を引く。
《パァァン!!!》
「宣戦布告だ・・・・・漢忠。」
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明けましておめでとうございます。新年早々ですが、投稿させていただきます。
細かい戦闘描写は今回が初めてです。
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