「・・・珍しい事もあるなぁ」
蜀の首都・成都城の二階の窓から中庭を眺めた天の御遣い・北郷一刀はぽつりと呟いた。二階から彼の視界に広がるのは白銀の世界と化した我が子達の遊び場である中庭。昨晩、子供たちが寝静まった頃から降り始めたなぁ、と思っていたらこの通りだ。
「大陸北部では冬はよく雪が降るって聞いたけど、南部でもこんなに降るなんて・・・みんな、どんな反応するかな」
はじめての子が生まれてから、一度も雪が降った事はない。一刀の子供達は、今日はじめての雪遊びを体験する事だろう。
どんな反応を示すかなぁ、とワクワクしながら一刀は自室を出た。
「ちちー!白くて冷たい、あれが雪なのか!?」
一刀が食堂に入ると、最初に彼に飛び付いたのは子供達の中で一番の元気印・張苞、鈴々の娘だ。短く切った赤毛に蒼い大きな瞳と母親そっくり。彼女が飛び付いたのをきっかけに、子供たちがわらわらと群がってきた。
「そうさ、あれが雪だよ」
父の答えに周りにいた子供たちから歓声が沸き起こる。やはりはじめての雪を目の当たりにしてテンションが上がっているようだ。
「せっかく雪が積もっているんだから、外で遊んでおいで?そうだな・・・雪合戦なんてどう?」
二組に分かれ、両組の陣の奥に立てかけた旗を奪った方の勝ち。事前に自陣に雪で作った障害物(身を隠す盾など)を設置しても良し―――それが今回の雪合戦のルールだった。
「よーし、関平達なんかに負けないのだー!」
『おーっ!』
それぞれ赤旗隊を率いる張苞と―――
「遊びといえどもこれは戦い、必ず勝つ!」
『おーっ!』
白旗隊を率いる関平の戦いとなり、各組の振り分けは公平に籤で決められた。
「くじ引きで決まった振り分けですが、なかなか似た者同士が集まりましたね」
東屋では厚着をした一刀と愛紗・星・朱里・鈴々が集まり、それぞれの陣で雪玉を固めたり、盾代わりの雪の壁を築いたりする子供たちを眺めていた。
「関平ちゃんの組に関興くん・馬承ちゃん・趙統ちゃん・賈穆ちゃん・劉禅様。張苞ちゃんの組に馬秋ちゃん・劉永様・魏長ちゃん・厳封ちゃん・呂紹ちゃん、ですか・・・」
朱里が卓に広げられた組み分けを書いた紙を覗き込んで呟く。
「勢いの張苞と知略の関平・・・ふふ、酒の肴になりそうな戦いですな、主」
「いけーっ!苞!関平なんてやっつけちゃえなのだ!」
「関平!関興!遊びといえども、負ける事は許さぬぞ!」
そそくさとどこからか熱燗を取りだした星と、我が娘にエールを送る鈴々にヒートアップして我が子達に声援を送る愛紗。
「よーし、じゃあ始めるよ!準備はいい!?」
『はーいっ!』
東屋から一刀が声をかけると、白き戦場から元気な応答があった。一刀はひとつうなずくと、小型の銅鑼を掲げて、三度銅鑼を鳴らした。
こうして、雪玉が飛び交う『成都城雪合戦大会』は幕を開けた。
(下)に続く!
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約1年3か月ぶりの『蜀の日常』です!
1年ほどこのサイトでは『紅竜王伝』にかかりきりでしたから、しゃべり方などの書き方をほとんど覚えていなかったり・・・とはあまりなりませんでしたね。不思議と。とはいってもちょっとおかしいところも出てくるかもしれないです。