――ニューヨーク州、マンハッタン
――ウォルドルフ=アストリア
マンハッタンを代表するランドマークの一室に、凜とした初老の女性と暗い男性が会談を行っていた。双方後ろには護衛が付き会談というよりかは交渉に近かった。
「ミセス・プレジデント。貴女は未だ我々の戦力を見誤っておりますよ」
「言ったはずです。私たちはテロリストには屈しません」
「テロリスト?我々はテロリストではない。革命家だ」
「革命?」
「ええ、ミセス・プレジデント。政治屋はもはや要らない」
暗い男性がそうささやいた瞬間、アメリカ最高級ホテルに穴が穿たれた。
「ミセス・プレジデント。もはや国家が民衆を率いるのは無意味だ」
翼を生やした強化外骨格。部屋に流れる高温の乱気流はその強化外骨格がいかに高性能かを物語っていた。
それを纏った人物は大統領に向かってグレネードランチャーの銃口を合わせた。
「貴方は……!?」
「己れはエンド・スネーク。英雄の息子だ。死ねとは言わない。礎となれ。時代の寄生虫」
エンドがトリガーを引こうとした瞬間、彼に向かってグレネード弾頭が突き刺さる。
「ぐっ!?」
強化外骨格で守られているので負傷は無いはずだ。しかし衝撃まで緩和できるまでもなく、外にたたき出されてしまう。
「ミセス・プレジデント。こちらです」
同じく強化外骨格を纏った……しかし風貌は蛇の双頭を持った……一人の男が大統領をホテル内部に引き込む。
「あなたたちは……FOXHOUND?」
「英雄の息子です……頼むぞ、ゴースト」
「アイサー」
かけ声と共に強化外骨格を纏ったゴーストが大統領を連れて行く。
そして窓の外にいるもう一人の息子に視線を向ける。エンド・スネークは黒煙を纏いながら空中を浮いていた。
「……レイジング・レイヴン(※1)のものと同等か」
「否、己れ専用の強化外骨格よ。兄よ、この場で己れと戦うのか?」
「アメリカ大統領を襲撃しておいてどの口が言う」
そのアメリカ大統領は既に待避しているだろう。あとはゴーストの仕事だ。
「飛行能力を持たないその強化外骨格で追いつけるかな」
エンドはRGL40を兄に突きつける。
「あまり兄を舐めるなよ。弟」
対するスネークはそう言い放つとM240の狙いをエンドに合わせた。
10Gears Skyscraper ~天空~
時は数日前に遡る。
「諸君、先日は正史と外史の渡し船、ご苦労だった」
スクリーンの横に佇むFOXHOUND司令が目の前の三人を労った。
既に彼らが連れてきた外史の住人は元の世界に戻っていた。そもそも三国の首脳がそう長い間留守にするわけにもいかないだろう。彼女たちの珍道中はまたの機会に。
「状況を整理しよう。一刀が出会ったエンド・スネーク。彼の所属は結局不明だ」
「まあこんな状況ですからおそらくPMC側の人間でしょうな」
ジェームスはそう判断した。この状況で一刀を引きぬく。それも力を行使してまで。それはエンド・スネークが少なくとも米軍と敵対していることだけは分かっていた。
「もっとも、奴の私的な理由か。それともPMCが優秀なエージェントを引きぬくためか」
「あちらにとって、我々三人の帰還は予想外だったのだろうな」
「私たち三人で戦況が傾く訳でもないのにな」
「だけど、みんな単騎でRAYを撃破できるんだから。ワンマンアーミーとはこのことだね」
オタコンが一刀の謙虚を書き換えた。
メタルギアRAYはアンチメタルギアの側面が強いが、それでも兵器としては驚異そのもの。間違っても歩兵が倒せるような相手ではない。強化外骨格のサポートがあるとはいえ、それを撃破できる三人……否、雷電も含めて四人はその名にふさわしいだろう。
「で、済まないが皆には一つ任務がある」
「まあ察しは付いてましたが……」
ジェームスが苦笑いで返す。仮にも自分たちは軍所属なのだ。外史に向かっているときは仕事をしていない。たまには恩師や上司に酬いておきたいところだ。
「大統領直々の命令だ。三日後に大統領とPMCUの幹部がウォルドルフ=アストリアで極秘に会談を行う。その護衛に付いてもらいたい」
「我々にシークレット・サービスのまねごとをしろと?」
ケインの言葉から刺が出る。もっとも彼の懸念はプライドの問題ではない。軍と警察。足並みを揃えることができず結果が最悪となるケースが多い。怏々と仲が悪いのだ。
「DHSも何を考えているんだか……」
「おそらく危機感だ。何せ相手は米軍を超える戦力に加えメタルギアの複数機所持。そして銃の戦略的、戦術的価値を低下させた強化外骨格も持つ……」
「おいおい、それじゃあまさか……」
「PMCUは大統領を暗殺して、アメリカの威光を地に……いや、この場合は地獄まで墜とすといったほうが当たっているだろうな。だがここで会談に応じなければPMCUは再び総攻撃をかけてくるだろう」
一刀の分析に場の空気が緊張に満ちた物となる。
「天下のアメリカが崖っぷちってか」
「何、PMCに追い抜かせればいい話だ」
ジェームスの苦言に返したケインのレッドジョークに、場にいる全員が失笑した。
* *
「おいおい、かなり派手にドンパチしてんじゃねえか。仮にもアメリカ最高級ホテルだぞ」
ホテル内部ではゴーストとフォックスが大統領を護衛していた。爆音は遠ざかっていくもののまだ近い。油断は禁物だ。
スネークアームを使用したパルクールを行える一刀が空中の敵に当たるのが一番いいだろう。
ゴーストの射撃も考えられるが、高速で空中をしかも自分より上にいる的を打ち続けるのは至難の業だ。
一方のフォックスも地上の英雄だ。空中の敵に蛇腹剣も鞭剣も届かない。
「……ゴースト、構えろ。既に囲まれている」
「ちっ、終わったらここに一泊させてもらおうぜ」
「安心しろ、最高級マットレスに寝転ぶことはできないが一泊くらいはできるぞ」
フォックスは足に装着された装置のスイッチを入れる。スネークがよく使用するファンデルワールス力を発現させる装置だ。
「結局鉛のシャワーしか浴びられないのかよ」
一方のゴーストもアンチマテリアルライフル、バレットM99を用意し、右目に装着していたソリッド・アイ(※2)を起動する。
「アンチマテリアルライフルとは物騒だな。レディがいるんだぞ、お淑やかにいかないか」
「強化外骨格然り、機動兵器然り。通常兵器では連中には通用しないのよ」
そういってゴーストは曲がり角に張り付き、ソリッド・アイで情報を確認する。
「旦那、奥に起動兵器1。四足歩行型だからおそらくウルフ型(※3)と思われる。狙撃戦なら負けんが、接近戦では旦那に頼るしかないな」
「了解した」
フォックスは壁走りと三角飛びを利用しながら一気に特攻をかけ、ゴーストは彼のカバーを始めた。
マンハッタンの通りでは空を駆ける蛇と、パルクールでそれを追う蛇が激戦を繰り広げていた。
明らかに一刀のほうが分が悪かった。しかも上空からはRGL40での重火力が降ってくるのだ。一刀としてはたまったものではない。
どんな戦闘でも下から上への攻撃は不利となる。重力に抗うという理由もあるが、弾丸の初速など様々な要因が重なるともはや手出しはできないレベルになる。
しかし一刀はそのディスアドバンテージを物ともしていなかった。スネークアームを駆使して駆け上り、エンドを捉え続けている。
ウォール街を突き抜けるエンドを、既に何度も被弾させているのは彼にしかできない芸当だろう。
「……さすがだな」
状況は不利ではないが、自分のアドバンテージを生かし切れていない。
そのためにもエンドは戦場を移すことを選択した。
「ちっ、やはり金融街の方に向かうか」
二本のスネークアームと強化外骨格のパワーを活かして空中に身を投げ飛ばす。同時に腰にマウントしていた高周波ブレードでエンドに斬りかかる。
「はっ!」
これに対しエンドは、彼にブースターを向け一気に噴かせる。ブースターから噴出された圧倒的な熱量は、強化外骨格を纏っていても危険だ。
スネークアームを体に巻き付かせた途端、ブースターから熱風が噴射された。
その衝撃に投げ出され、ビルの側面に張り付く。
「ついてこられるか!?」
「はっ!十年は早いぞ、弟!」
再びスネークアームを駆使してエンドに飛びつく。しかし彼は空中を自由に回避できる。そんな攻撃はいともたやすく回避される。
「……やはり主導権はあちらか」
再び追いかけっこが始まる。子供の遊びとは違い、本気の殺し合いだ。
時折銃弾が交差し、場所はエンドが決めていく。そしてエンドは戦いの場を高層ビル群に達した。
エンドにとっては自由に動け、スネークにとっては垂直にしか張り付けない場所だ。
その直角の坂をスネークはひたすらに駆け抜ける。
彼の走ったすぐ後……すぐ下にはグレネード弾頭が突き刺さり続ける。爆発と共に、美しく何よりも危険なガラスのシャワーが地上に降りかかる。
「非戦闘員を巻き込むな!誇りはないのか!?」
飛び散るガラス片は強化外骨格に包まれている一刀には無意味だが、下にいる人々には凶器そのものだ
「既に待避勧告は出している!」
「ちぃ!」
垂直に立っている自分と空中を浮いている敵では立場が違いすぎる。今は被害が出ないように尽力するしかない。
一気にビルを駆け上がり、屋上まで到達する方が先だ。
そんな彼の意図を知ってか知らずか、エンドはスネークの進路を阻む用にグレネードを突き刺す。
「くっ」
黒煙が充満しスネークの姿を隠す。その黒煙に向かってエンドはグレネードランチャーを乱射した。
「……しまった」
スネークの姿が見えない。エンドは急いで暗視ゴーグルに切り替えるが既に時遅しであった。
ビルの中、それもエンドよりも上の位置からスネークが飛び出した。加えて手には高周波ブレード。
「ちい!」
初めての鍔迫り合いだ。エンドも回避が間に合わないと踏んだか、ナイフでこれに応戦した。
しかしこれに応じた時点でエンドは不利になっていた。スネークアームがエンドを掴む。それを察知したエンドは一気に押し返すが、スネークアームを支点に再びスネーク
が斬りかかってくる。
「ちぃ!」
「はっ!この程度か!?」
二撃目もナイフで止める。だが開いている方のスネークアームにはM240が掴まれている。いくら強化外骨格でも超近距離での機関銃の斉射には耐えられない。途端に体を大きく回転させ、遠心力でスネークを吹き飛ばす作戦に転ずる。
予想よりも遠心力が強い。スネークは張り付くことを断念し、先ほどとは違うビルに飛び移る。だがこのビルこそスネークの本命だ。
「これ以上はさせんよ!」
鬼が一方的に有利な鬼ごっこの再開だ。再びスネークは屋上を目指して駆け上がる。
だが先ほどの展開を警戒してかそれとも弾丸の節約に努めるのか、攻撃の手が一気に弱くなる。
これは好機だった。
スネークアームにM240を任せ、一気に本命まで登り切った。その屋上には戦術支援バイクが待機してあったのだ。
「!」
「Wolf、レールガンを!」
『Yes, Sir.』
バイク側面のバインダーからレールガンが飛び出し、スネークの手に収まる。
「喰らえ!」
人類最速の弾丸は摩天楼を引き裂いた。
射程は30m程度だが、トリガーを引くとともに当たると言っても過言ではない。威力は要らない。翼に一撃加えればいいだけだ。
そしてスネーク待望の一撃は早く訪れる。タングステン弾頭がエンドの翼に付き刺さった。
「くっ!」
エンドが揺らいだ。体勢も状況も、そして動揺も。だがその揺らぎもつかの間。状況が不利と判断したか、彼は一気にブースターを噴かせる。
スネークはトドメを刺すべくビルから身を乗り出すが、エンドは既に射程外だった。
「また逃がしたか……」
『こちら雷電。大統領はとうの昔に脱出した。深追いはするな、帰投しろ』
二人が派手にドンパチしている間に大統領は戦場から脱出したらしい。手際の良さはさすがゴーストとフォックスといったところか。
「了解……」
スネークはエンドが飛び去った先を見つめた。再び戦わなければならないという意志を持ちながら。
注釈:
※1レイジング・レイヴン:MGS4に登場した飛行能力を持つ強化外骨格を装備した強化人間。多数の戦闘用無人機を随伴させている。戦闘中にオーバーヒートすることもあるが、エンドが使用している強化外骨格は連続2時間の戦闘が可能となっている。
※2ソリッド・アイ:MGS4においてオールド・スネークが装備する眼帯型情報端末。感覚センサーに双眼鏡、暗視ゴーグルの機能を持つ。もっとも重要なのは老化が進んだオールド・スネークに対する老眼鏡機能であろう。
※3ウルフ:同じくMGS4に登場したクライング・ウルフのこと。堅牢な装甲に加え四足歩行の機動力をもつ強化服、そして大火力のレールガンを装備する強化人間。ここでゴーストが言うウルフ型とは無人機として開発された新型の事も指す。
* *
萌将伝的おまけ3:知っていいこと悪いこと
華琳「私、桃香と雪蓮より年下……」
ケイン「はい、止めだ。作者はお前が桃香殿より年上だと思ってるからな」
(普通に桃香より年上だと思ってました。原作一刀くんの考えと同じく麗羽さんが同窓生っていう設定があったからな。今思えば年増年増って言ってましたもんね)
* *
おまけ:スニーキングが得意な裏話
ジェームス「はぁ……」
雪蓮「どうしたの?ため息なんてらしくないわよ」
ジェームス「いや……無性に箱をかぶりたい気分なんだ」
蓮華「猫みたいな事言うのね」
ケイン「……(計画通り)」
一刀「……(計画通り)」
明命「あの……お二人さん?」
(三国段ボール化計画進行中)
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この作品について
・MGSと真・恋姫†無双のクロスオーバー作品です。
・続きものですので前作一話からどうぞ。http://www.tinami.com/view/99622
執筆について。
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