「ねー、スネーク。どの服がいいかな?」
米軍基地の居住区の一室。その手前で待ちぼうけしていた一刀に中から声がかかる。
彼はスーツにハット帽と正史の服装となっていた。時期が真冬もあってかマフラーも巻いている。
「何でもいいですよ」
「えー、水着でいいのー」
「まず貴女が真冬のマンハッタンを水着でフルマラソンしてからお勧めください」
中の声は、かつてソリッド・スネークをサポートした海軍大佐、メイ・リン(美玲)だ。
美玲/メイ・リン
CV:桑島法子
中では桃香達が着せ替え人形と化しているだろう。
「一刀、女の着替えといえばやることは一つだろ」
「射撃訓練場まで付き合え。的が欲しかったんだ」
といってサプレッサー付きのM9を彼のこめかみに発射した。もっとも中身は麻酔弾なので死にはしない。
「なんの躊躇いもなく撃つとは……それでもきょうだいか……」
このままだと桃香達の着替えは時間がかかるのもある。時間つぶしを兼ねてケインの首根っこを掴んで引き連れていく。
「両親の墓参りを行かない外道はきょうだいとは思わん」
「外道まで言うか……」
「待ちなさい。一刀」
目の前に現れたのは華琳。脇には秋蘭が控えている。二人共正史からしたら浮世離れした服から、華琳はずいぶんと可愛らしい、秋蘭はスーツに身を包んでいる。華琳のものは一歩ズレればゴスロリである。どうみてもケインの趣味である。おそらく魏の各人は知らないのをいいことに魔改造されているだろう。
「今の、本当なの?」
「墓参りの話か?」
「ギクッ」
もう口で言ってしまっているため触れられたくないというのは華琳にも伝わっただろう。
「墓参りさえ行ってくれれば私もこんなに五月蝿くは言わないさ。これが長男なのは非常に遺憾なのでな」
ちなみにコレ呼ばわりの長男は、麻酔が効き始めたのか冷や汗が止まっていない。
「丁度いい。麻酔が効いているうちに縛り上げて日本に送ってやろうか」
「なるほど、そうならば手伝うぞ。北郷」
「麻縄は馬鹿力で切られるな。カーボンナノチューブのバンドあったかな……」
「待て、俺が悪かった!マジで悪かった!死んでも悪かった!だから墓参りだけは勘弁してくれ!」
麻酔が効いているのによくもまあしゃべるものである。
9Gears Confront ~墓地~
「で、ケインはなんでこんなに墓参りを嫌がるの?」
「そうだぞ、ケイン。ましてや両親なんだろう」
「そんな……春蘭が良いこと言ってるなんて!」
尋問という名の裁判に簀巻きの状態で連行されたケインは、風に踏まれたり、桂花に蹴られたり、季衣に飛び込まれたり、稟の鼻血を浴びされたりと散々な扱いを受けていた。
ちなみに最後の方には、新しい刺激が生まれる……とか叫び始めたのでやや怪しい行事になり果てていたが。
そんな魏勢の服装は正史を出歩くには違和感のない服装になっていた。
風曰く
「いやー。お兄さんに良心というものがあったんですねー」
とのこと。
「ケイン」
呆れたという表情の華琳がケインの目の前に靴を差し出す。どう見ても卑猥に見える。
「家族を養うために体を売った。それを知られるのもご両親に報告するのも嫌なんだろ」
一刀に嫌なところを一付きされたのが途端に華琳の靴を舐め始める。空気を変えたいのだろうがプライドはないのだろうか。
「華琳、墓は行くのが面倒臭いところにある。首だけでもいいから墓前に突き出すように調教してくれ」
そういうと踵を返して桃香達の部屋に足を向ける。
「あら、何か用事?出来ればこれの恥ずかしい話を聞かせて欲しいのだけど」
「私も墓参りだ」
* *
「おう、一刀。墓参りか?」
まるで遠足の引率説明をおこなっていたジェームスが一刀に手を上げる。
その注意を聞いていた呉勢も皆着替えを終えて正史によくある服装となっていた。
「ジェームス……まさかみんなを連れて街に繰り出すんじゃないだろうな?」
「俺も何人かに分けたかったんだが……いろいろごねられてだな」
困ったという苦笑いとともに肩を竦める。
肝心の雪蓮と祭は正史の酒に思いを馳せ、これまた冥琳と穏、亞莎は知識に現を抜かし、他は好奇心旺盛にあたりの景色を眺めていた。
「お前の墓参りは後日だな」
その光景を眺めていた一刀もジェームスに釣られ肩を竦める。
メイ・リンの着せ替え人形の行事はもしかしたら一刀に気を使ってくれているのかもしれない。
「まあいいさ。こんなに女連れてちゃアンジェになんて言われるか……」
時折見せる憂いの表情。ジェームスが滅多に見せない表情だった。
彼も参るべき墓がある。仇討ちが必要なのか。彼女がそれを必要としているのか。彼はなんと報告するのか。
「ねえ、玲二ー。早く行こうよー」
「ええい、今シリアスな雰囲気だったのに」
「何よ、しりあすって。早く行こ!」
雪蓮と小蓮が彼の腕を掴む。彼女たちもジェームスの身の上話は聞いているだろう。彼に憂いの表情をさせたくないのか、それとも他の女の事を想うのが気に入らないのか。
「ジェームス、今を楽しめ。お前の言葉だ」
「我ながら後世に残るいい名言だ。それ、お前のデートのお相手も準備ができたそうだぞ」
そういってジェームスは一刀の後ろを指さした。
結局あの後メイ・リンに解放されたのは、一番最初に見立ててもらった桃香だけであった。
墓参りなど面白くない行事に付いてくるのは、墓参りがいいのかそれとも一刀がいいのか。
「綺麗……」
たどり着いた無縁墓地。桃香はその光景を見てそう呟いた。
「けど……とっても悲しい感じ。なんでだろ」
「ここで私の祖父に当たる人が亡くなった。大往生とは行かないけど、全てを終わらせて」
一刀の手にはオオアマナの花束が。かつて祖父に当たる人物が愛した人の墓前に赴いたように。そして父親が全ての終わりを見届けたように。
偉大なる血統ではなく、自分にGeneを託した祖父として父親として墓参りするのだ。
通い慣れた墓前。その墓に用があるのは、かつてソリッド・スネークをサポートした面々くらいだ。
その墓前に佇む姿が見える。それだけで自分の中にある"Gene"が肯定するのだ。彼が誰か、ということを。
「……蛇か」
「弟……と呼ぶのが一番正しい。アトモス・スネーク」
振り向いた男性は一刀と瓜二つとはいかないもののよく似ている顔だ。
「私たちの……弟か」
手で桃香に下がるように指示を出す。
相手は同族とはいえ、ほとんどの蛇が敵対した過去を持つ。なにより明らかなのは友好の意志を感じない。
「己れは左慈。エンド・スネーク……最後の意味をもって生まれた蛇」
左慈元放/End・Snake
CV:緑川光
「随分な名前だな。大気と毒に続いて終焉とはな」
「兄よ。己れと共に来てくれ」
「随分といきなりだな。その袖にデリンジャーでも仕込んでいるのか?」
一刀は弟に一切の油断はしていなかった。
腰からナイフを抜き左手に持つ。右手は先ほどとは違い実弾の入ったM9だ。
「兄よ。我らきょうだいが生まれた計画の名……知っているか?」
「……何?」
計画の名は秘匿中の秘匿であったため、名がないと知らされていた。
名がないというよりも計画自体が非常に秘匿性が高く、研究者達ですら何の研究をしているのか知らなかったという話まで聞いている。
「知らぬようだな。計画の名はネクスト・ジェネレーション計画」
「次世代……だと?」
「そうだ、兄よ。我々は人間の進化した姿であり、次の世代に進むべき存在なのだ」
「傲慢だな」
「傲慢さ。傲慢によって生み出されたからな」
あたりを沈黙が支配する。桃香が安全な位置まで下がったようだ。
なんの合図も無しに双方一斉にハンドガンを連射した。一刀は自らの電撃により電磁場防御帯を作り出し、そしてエンドも相応の装置を身につけているのか、双方の銃弾が逸れていく。
1マガジンを撃ち切った双方は意味が無いと察したか、ハンドガンを棄て近接格闘戦のために間合いを詰める。
その刹那、エンドが一言呟いた。
「ゼロシフト(※)」
「!」
瞬間移動というべきか。彼の姿が消えたと思うとすぐさま彼の姿が目の前に現れる。
自分自身のサンダーボルト、きょうだいのアンデット。二つの異質な力を考慮すると彼にも何らかの能力が備わっていると考えてもいい。
それを考えていたとしても彼の能力は異質そのものだ。
迎撃が遅れエンドのナイフが首元に伸びる。だが構えていたことが幸いしたか、そのナイフは無事に弾き返す。
エンドが再び距離を開ける。次で喉を掻っ切るか、それとも心臓にナイフを突き刺すか。
「終わりだ、兄よ」
再び瞬間移動。
しかし一刀はそれに対して構えることはなかった。
「いくら瞬間移動をいえど……」
再びエンドの姿が正面に現れる。しかし一刀は構えない。その表情はあまりにも無表情で、エンドがその表情に一瞬戦慄を覚えた。
そして一刀は言い放った。
「全方位に大して迎撃できれば問題ない」
彼の体から電撃が全方位に走り、エンドを迎撃した。
兄の咄嗟の機転、そして能力の高さに驚いたエンドは攻撃を受けつつも大きく後退する。
腕には若干の痺れが残っている。
「なるほど、運だけで生き残ったという訳ではないということか」
「それに二度も喰らえば大体の原理はわかる。強力な暗示……催眠術で時間の感覚か遠近感を狂わせているのだな」
「僅か二度でそこまで見破るとは……」
「場所が悪かったな。ここはオオアマナの花びらが舞う無縁墓地だ」
「花びらの位置で感覚のズレを……流石。
そして如何にも。己れの能力はヒプノシス。ESP能力に長けている。加えて……」
エンドの眼が赤く染まる。見間違うことはあるまい。彼らきょうだいに与えられた人の壁を突き破る凶気の力。
「バーサーカー」
「如何にも」
エンドがナイフを構える。一刀は一向に構えず彼を見据えた。
「やめておけ、死者が目を覚ますぞ。それにお前も私を誘いに来ただけではあるまい」
そう言って顎で墓を指した。その墓は全ての蛇の根源とも言える人物の墓だ。
一刀の言葉にエンドは目を瞑り、武器を下ろした。
「……兄よ、いずれわかる。我々が生まれた意味を。我々が化物ということを」
「化け物が戦争を起こす。人は化け物じゃない。化け物は国、化け物は欲だ。そして俺達は……化物じゃない」
エンドは小さな笑みを浮かべた。
ヘリのローター音があたりに響き渡り、オオアマナの花びらが舞い始める。。どうやらエンドを迎えに来たらしい。武装を確認できないが、やる気であれば既に発砲しているだろう。
「さらばだ、兄よ。何れすぐに会う」
注釈
※ゼロシフト
ZONE OF THE ENDERSシリーズに登場する兵器群オービタルフレームの中でも最強の二機、ジェフティとアヌビスが使用するサブウエポン。
周囲の空間を圧縮、復元することで光速に近い瞬間移動を行う。
なお一刀が見切ったとおり、本来のゼロシフトとは原理が大きく違う。同じ原理を利用した人物にMPOの登場人物、ジーンがいる。
* *
おまけ:本当にやってる裏話
ケイン「どうした、一刀。難しい顔して」
一刀「いや、紙を特産物にしようと思っているんだがな……」
ケイン「ふむ・・・難しい話だな」
ジェームス「しかし何で紙なんだ?蜀はどちらかと言えば鉱物が豊富だろ?」
一刀「いや、再利用できたら外史でも段ボールを作れると思ってな」
ケイン「いいぞ!もっとやれ!!」
* *
萌将伝的おまけ3:目覚めろ、その魂
桂花「……」
一刀「……」
明命「……」
桂花「……」←猫耳
一刀「……(ジリジリ)」←猫好き
明命「……(キラーン)」←猫好き
桂花「い、いやー!」
恋「……」←動物長
桂花「もう勘弁してー!」
(一刀くんって絶対桂花の男嫌い気づかないタイプですよね)
ケイン「よし!じゃあ安全な俺の胸に飛び込んでこい!」←女好き
桂花「いっそ殺してぇ!」←男嫌い
華琳「桂花をあそこまで苛め抜くなんて……侮れないわね、あの連中!!」←飼い主
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この作品について
・MGSと真・恋姫†無双のクロスオーバー作品です。
・続きものですので前作一話からどうぞ。http://www.tinami.com/view/99622
執筆について。
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