――樊城付近
夜陰に紛れ、一匹の蛇が深緑の密林を行動していた。
音もなく、姿もなく、しかし確実に目的地に迫っていた。
「こちらスネーク、敵拠点付近に到着。全景は確認できず」
『こちらゴースト、天気は良好』
『こちらフォックス、通信機は正常だ』
『おいおい旦那。いくら機械音痴だからってナノマシンまでぶっ壊さないでくれよ』
『はっはっはー、そんなことあ……ま……』
ゴーストの戯言が現実になるようにフォックスの通信にノイズが入り始める。
「マジかよ」
『その徹底っぷりに感動した』
8Gears MotherBase ~三国~
事の発端は、樊城付近にこの外史では滅多に計測されるはずがない電波が観測されたことだ。三人の御遣いの読み通り正史側によって作られた転送装置だと考えられた。正史と外史との通信手段がない以上、転送装置さえ押さえてしまえば補給線を断ったと同じこと。そうすれば現地の協力がある分有利だ。
「ゴースト、全景はやはり見えないか?」
『ああ、どうやら鉱山か何かの跡地に作られるんだろう』
「なるほど、それなら納得できるな。しかし結局三人で固まっていくとはなぁ」
「お前のせいだ」
本来なら三方向から計測された地点を目指すのだが、機械音痴であるケインが通信用ナノマシンをぶっ壊したことによって一団で突っ込むことになった。
正史から兵士が……というより銃が送られているのであれば対抗できるのは強化外骨格に身を包んだ二人と、最強のサイボーグが適任だ。
もっとも三国の兵士によって周囲は包囲されているため、数に任せた制圧も可能だろう。
「っと……鉱山の入り口は発見できた……が見張りがいないな。それに熱源反応がないのも気がかりだな」
木の上から降りてきたゴーストが怪訝な顔を浮かべる。
「発電施設とかジェネレータが無いってことか?」
「連中も毎日風呂入らない生活をしているらしいな。同情するぜ」
この三人が、この外史で文化的に抵抗があったのはおそらく風呂だろう。戦場には風呂はないが、オフでは少なくともほぼ毎朝シャワーを浴びている。そのための湯を沸かすのには何らかのエネルギーを作り出す装置があるはずだ。
「地熱発電の可能性があるだろ。鉱山の跡地と考えるのであれば考慮に入る」
「あるいは施設全体のオート化。つまり警備はガードメカに任せているかもしれないな」
フォックスとスネークがそれぞれ自分の考えを示す。
「とりあえず、行ってみないと分からないってことか……」
* *
「こんばんわ、お二人さん」
「こんばんわ、雪蓮さん」
「あら、来たのね」
処変わって御遣い達三人の本陣には三人の君主が集まっていた。
一番遅かったのは雪蓮だが、三国合同の包囲網にゴタゴタがあったのかもしれない。遅かったことには誰も言及しなかった。
「一応玲二から説明受けたけど……訳分かんないわね。転送装置だったっけ?」
「要するに私たちの旅行先が増えるってことよ」
「じゃあじゃあ、ご主人様の故郷にも行けるってことですか?」
「ケインはそう言ってたわ。それにしても桃香、いつまでそんな呼び方しているの?」
「え?」
華琳の顔は何か企んでいる……というよりかは玩具を見つけた顔だ。
それを察した雪蓮もこれまた面白いものを見つけたのだった。
「一刀の呼び方よ。ご主人様、なんて呼んでたら何時までも結婚出来ないわよ」
「けけけけけ、結婚!?」
「やめてよ、雪蓮。これからからかおうと思ってたのに……」
「愛紗ちゃ~ん、助けてよぅ」
入り口はただひとつ。見た目は昔ながらの鉱山といった趣だが、少し覗けば機械的な作りが見える。
ビンゴ。どうやらここが転送装置のある施設らしい。
「……ここに来ても熱源反応なし。それどころか鉛のシャワーでのお出迎えもなし。冷たいねぇ」
「スネーク、どう見る?」
「ここまでくると怪しいと思ってしまうな。散々陽動をしてきた連中だ。最深部に到着した途端、ドンっていうのもあり得そうだ」
スネークが肩をすくめた。
「おいおい、怖いことを言うな。いくらサイボーグでも吹っ飛ぶぞ」
「強化外骨格も棺桶に片足突っ込んでいる状態だ。さあ片方も突っ込みに行くぞ」
スネークはM8を構え、スネークアームにはM240を持たせる。それを見たゴーストはP90を構え、フォックスも鞭剣を手にする。
「正面火力は私が一番だ。サポートはゴーストに任せる。役立たずは後ろを見張れ」
「役立たず……役……たたず」
そういうとケインは地面にのの字を書き始める。
しかしそのままの状態で前衛二人を追いかけるのは、流石であり滑稽であった。
そして前衛二人が見つけた分かれ道。スネークは手配せでゴーストとフォックスがワンツーマンで、自分は単騎で進むことにした。
M8とM240を同時に発射でき、近接格闘術をこなすスネークが単騎で行動するのが吉だろう。
そうして二手にわかれた先に、一刀は一つの違和感を発見する。
「……死体だ」
『なんだと?』
一刀は見つけた死体を観察する。血のかたまり具合。肉の腐敗具合。そして彼を死に至らしめた損傷など。
幸いHydraにはそういった解析装置は装備されている。バイザーに表示された情報を読み上げる。
「死後四ヶ月から五ヶ月といったところだ」
『ってことは……俺たちが正史に帰る前にここが襲撃されたってことか?』
「加えて裂傷。それに発砲した形跡もある。その上この先死体がごろごろ転がっている」
全て裂傷。つまり刃物で殺害されている。スネークが連想したナイフや刃物に結びつく人物は一人しかいなかった。
「まさか、アシッドが……」
ちらつくきょうだいの影。
ワイヤーとナイフを駆使して戦った狂戦士が脳裏に浮かぶ。
「スネーク」
後ろを振り返るとゴーストとフォックスがこちらに歩いてきた。
「随分と仏様が多いこと……」
ゴーストの言うとおり、道の先には大量の死体が転がっていた。
「外史の連中が攻めたとかいうのは聞いたか?」
「まさか……五胡がこんなところまで来るはずもなし」
ゴーストとフォックスが見解を示した。しかしここ樊城は三国の中心部といっても過言ではない。ここまで五胡が、それも正史の施設を制圧するほどの戦力が動けば、どんな凡愚でも気づくはずだ。
「スネーク、これを見てくれ」
考え込んでいるスネークを不意にゴーストが呼ぶ。
目を虚空に向けたまま動かなくなった彼の目を閉じ、声のした方に走る。
広い空間。その中央には小さなドームと言える装置……転送装置が佇んでいた。そしてその転送装置には血でこう書かれていた。
――I'm the murder.
――He KILL SNAKES without fail.
「彼が蛇を殺す。まるで自殺表明だ」
ゴーストが感想を漏らした。不謹慎とは言えなかった。
既に蛇は殺しに来たのだから。そして蛇は彼に敗れた。死なない体から解放され彼は燃え尽きた。
「死にたかったんだな、アシッド。死なない体から……解放されたかったんだな」
死なない体は彼にどんな狂気をもたらしたのか、どんな迫害をもたらしたのか、どんな苦痛をもたらしたのか。スネークにはわからなかった。
知る余地もない。知る必要もない。彼のような能力は……普通のヒトには無いのだから。
「戦場で死によって解放される。俺は少し……彼の気持ちがわかるかもな」
「死なない故に死を渇望した……俺たち一般人にはよくわからない心理だな」
後味の悪さはここにいる三人は感じているだろう。
彼はスネークに殺されたかったのだ。同じ境遇であるきょうだいに。それまでスネークを誰にも殺されてはならない。ここにいる兵は彼を殺すかもしれない。不気味とも偏屈とも言えるきょうだい愛だった。
おまけ:機械設計秘話
一刀「ゴースト!Wolfで走りまわってくれ!」
ジェームス「いいけど……電力の無駄遣いだぜ?」
ケイン「一刀!ダイナモの回し方はこれでいいのか!?」
一刀「ああ!!」
オタコン「超☆協力兵器!レールガン!!」
ジェームス「俺のWolf、ダイナモ付きに改造されてる!?」
(付いてません)
* *
萌将伝的おまけ2:相性最悪?
一刀「……」
ケイン「どうした?急にレンゲを落としたりして」
一刀「この料理を作ったのは誰だ!?」
流琉「わ、私ですが!?」
一刀「弟子にしてください!師匠!!」
流琉「え?え、えー!?」
ケイン「一刀の土下座とか初めて見たぞ」
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この作品について
・MGSと真・恋姫†無双のクロスオーバー作品です。
・続きものですので前作一話からどうぞ。http://www.tinami.com/view/99622
執筆について。
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