「君は正義についてどう思う?」
脈絡のない言葉を突然につぶやくのは最早彼の特性ではないかと尋ねられた助手は頭を悩ませた。
「言い直そう、君は正義というあやふやな基準を持って誰かを裁こうと考えたことはあるかね?」
助手が理解していないと判断したのか、彼はさらに問いかけた。助手はと言えば、理解をするというよりも彼がなぜそんなことを言い出したかのほうが気にかかっていたのだ。
「なんだね、その顔は。まさか君は私がこの積もりに積もった業務を投げ出す機会をうかがってるかとでも言いたいようだな。」
まさに、その通りです。とはさすがに言わなかったが、助手の考えたことはまさにそのものだった。
「いいえ、先生。僕は別に何も?」
「なんて助手だ…私は君の考えていることが対外私の職務態度への不満だなんてことはわかっているんだよ。わかりたくなんてこれっぽっちもないのにね。わかるかい?」
ああ、嘆かわしい。と、まるで舞台の上を大きな身振り手振りで歩く役者のように彼は狭い研究室を端から端まで使って歩いて見せた。
「先生、僕は正義について答えることはできません。」
にこりと言う効果音をつけるには冷たすぎる笑顔で助手は笑った。そして続ける。
「ですが、今先生をこの仕事から解放することが正義だというのならば…悪魔のようにそれを打ち砕いてみたいと思ってみたりするのです。」
どうでしょうか。と助手は彼に着席を促すように手を出した。
そんな助手の態度に、彼は心底疎ましそうな顔をした。まさに逃げ出すための口実だったとはいえ、まさかこんな仕打ちで席へ戻されるとは思ってもいなかった。正直に言えば、逃げることよりも助手をからかって気分転換をしたかったのだ。それがなんということだろう。気分が晴れないどころか、さらに重たい空気を作ることとなった。
そしてさらに追い打ちと言わんばかりに助手は彼に言った。
「先生は浅はかなんですよ。親を恨みはしませんが僕はこの名前で何度となくからかわれて、どれほどうんざりしてるか。それに気づかないなんてがっかりです。」
そんな助手の態度にがっくりと肩を下した彼は威厳も何もない、いつもは猫のように怪しく笑う顔も台無しにしてうなだれた。
「悪かったよ、まさよしくん…。」
助手の返事はない、どうやらしばらくは口をきいてやらないと決め込んだようだ。
日も落ちつつある、夕暮れ時のこと。
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くだらない会話第二弾。
人をからかうのもたいがいに。