No.175993

真恋姫無双二次創作 ~蒼穹の御遣い~ 第壱話

投稿35作品目になりました。
色々と意見や感想や質問、
『ここはこうしたらいいんじゃねえの?』的な事がありましたらコメントして頂けると嬉しいです。
では、どうぞ。

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2010-10-02 19:52:54 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:18686   閲覧ユーザー数:14941

蒼月の下、伸びる人影。

 

 

世界との境界線が消える。

 

 

世界が真白に霞む。

 

 

水面へと放られる角砂糖の如く。

 

 

水面へと昇る水泡の如く。

 

 

淡く。

 

 

儚く。

 

 

脆く。

 

 

虚しく。

 

 

透き通る身体。

 

 

溶けゆく意識。

 

 

終わりが忍び寄って来る。

 

 

黒より黒く。

 

 

闇より冥く。

 

 

一秒毎に。

 

 

一歩ずつ。

 

 

削るように。

 

 

蝕むように。

 

 

薄れゆく中、何故かはっきり見えた、その背中。

 

 

誰よりも大きく、

 

 

誰よりも小さい。

 

 

誇り高き覇王。

 

 

そして、寂しがり屋の少女。

 

 

共に、歩いた。

 

 

共に、探した。

 

 

共に、笑った。

 

 

共に、感じた。

 

 

共に、選んだ。

 

 

共に、背負った。

 

 

共に、迷った。

 

 

共に、築いた。

 

 

永久にと、願った。

 

 

永久にと、誓った。

 

 

永久にと、望んだ。

 

 

 

―――――でも、赦されなかった。

 

 

 

滲んだ。

 

 

 

溢れた。

 

 

 

伝った。

 

 

 

落ちた。

 

 

 

ぽつりと、

 

 

 

弾けて、

 

 

 

俺は、

 

 

 

消えた。

 

 

 

 

両目を見開くと、真っ白な天井が見えた。

 

溢れた雫で枕は濡れ、寂寥感で胸が埋め尽くされる。

 

重く感じる身体を起こし、前髪を掻き上げるように額に手を当て、呟く。

 

「また、これか・・・・」

 

微風にすら掻き消されてしまいそうな、弱々しい声。

 

締め付けられる心臓を抑えつけるようにシャツの左胸を握りしめ、汗だくの身体を丸めて深呼吸を繰り返す。

 

そうする事で昂る感情を落ち着かせ、やがて一つの嘆息と共に窓の外へと視線を移す。

 

遥か遠くの山々の間から街並を鮮やかに照らし出す朝陽。

 

その輝きを受けて茜色に映える空と雲。

 

しかし、それが何処か虚ろで遠いもののように感じられて、仕方が無かった。

 

幽霊にでもなってしまったかのような違和感。

 

自分一人だけが時間に取り残されてしまったような、そんな孤独感と嫌悪感に苛まれる。

 

 

 

何度、こんな朝を迎えただろう。

 

 

 

態と勢いよく立ち上がり、

 

態と勢いよく窓を開け放つ。

 

カラカラ、というサッシの音を合図に、冷たく澄んだ空気が肺腑の隅々まで行き渡る。

 

その冷たさは、間違いなく現実のものだった。

 

「畜生」

 

思わず漏れた呟きと共に、ベッドにどさりと腰を落とす。

 

「あれから、もう7年か・・・・」

 

両肘を膝に付き、力無く項垂れて、言う。

 

網膜に焼き付いて離れない、あの夜の記憶。

 

頭を振って、両手で視界を遮った。

 

「・・・・・・・・畜生」

 

どれくらい、そうしていただろう。

 

五分程度かもしれない。

 

あるいは、一時間以上かもしれない。

 

やがて枕元の携帯に手を伸ばす。

 

時刻はアラームをセットしたそれよりもずっと前の時刻を示していた。

 

「まだ、こんな時間か・・・・」

 

どうしようか、と一端思考を巡らせ、汗だくのシャツを摘まんで、

 

「取り敢えず、汗を流してくるか・・・・」

 

携帯を元の場所に戻し、徐に立ち上がって浴室へと向かった。

 

揺れるカーテンの向こう、広がる空は既に茜から蒼へと変わり始めていた。

 

 

時刻は午前六時を回った頃。

 

とあるアパートの1LDK。

 

浴室から出て来た青年、北郷一刀は濡れた髪をバスタオルで拭きながら、洗面所から台所へと向かう。

 

取り出したカップにインスタントコーヒーの粉末を入れると、予め火にかけておいた薬缶から熱湯を注ぎ、そのカップを片手にベッドに腰を降ろし、テレビの電源を点ける。

 

適当に点けたチャンネルのワイドショーは、定番の十二星座占いを放送していた。

 

『今日最高の運勢は―――――おめでとうございま~す、牡牛座のアナタです!!金銭、仕事、健康、恋愛、全てにおいて絶好調の一日になるでしょう!!ちょっぴり寄り道して帰ってみると、良い事があるかもしれません!!ラッキーカラーは白で――――』

 

その途中で、一刀は無言でテレビを消した。

 

「・・・・何が絶好調だよ」

 

コーヒーをテーブルに置いて苦笑を浮かべるその顔は、嘗ての面影こそ未だ残るものの、英雄豪傑達と共に乱世を駆け抜けたあの少年は、今や齢24の立派な青年への成長を遂げていた。

 

無駄の無い引き締まった肉体は、決して一朝一夕で身に付くようなものではなく、身の丈や肩幅も完全に成人のそれとなっている。

 

 

 

しかし、その左腕には、やたらと多くの痛々しい傷跡が残っていた。

 

 

 

切り傷、擦り傷、そんな類ではない。

 

 

 

斑点状に残る、数え切れない程の紅い痕跡。

 

 

 

明らかに、注射の跡であった。

 

 

 

 

 

 

―――――誰も、信じてくれなかった。

 

 

 

タイムパラレル。

 

性転換された英雄達。

 

確かに、荒唐無稽甚だしい話だ。

 

しかし、自分は確かにそこにいた。

 

この目で、

 

この耳で、

 

この鼻で、

 

この肌で、

 

はっきりと、あの世界を感じていた。

 

なのに、

 

たった二人を除けば、

 

教師も、

 

友人も、

 

両親でさえ、

 

口を揃えてこう言った。

 

 

 

―――――『お前は異常だ』と。

 

 

 

信じられないのも解る。

 

自分だって、実際に目の当たりにするまで、信じられなかった。

 

でも、

 

それでも、

 

だとしても、

 

 

 

大事な人達を、

 

 

 

大切な人達を、

 

 

 

愛した人達を否定されるのは、我慢ならなかった。

 

 

 

両親に精神科に放り込まれ、

 

カウンセリングという名の『否定』の日々が延々と続いた。

 

少しでも抗えば鎮静剤を打たれ、

 

その度に悔しさが込み上げた。

 

 

 

そして俺は『正常』の仮面を被る事を決めた。

 

 

 

普段は包帯で隠しているこの傷跡。

 

見ていると、時折思ってしまう。

 

『本当に自分の夢だったのではないか』と。

 

その度に自責の念に襲われ、

 

しかし、それでも心の何処かでそう思ってしまう自分がいる事に腹立たしくなった。

 

「・・・・もう、行くか。このままじゃ、気が滅入るだけだしな」

 

包帯を巻き、コーヒーを飲みほして立ち上がる。

 

クローゼットから着替えを取り出し荷物を纏めて、一刀は部屋を後にした。

 

 

訪れたのは図書館。

 

駅前という立地から交通の便は非常によく、鉄筋造りの地下1階、地上3階建て。

 

蔵書は優に10万を超え、多目的の視聴覚室や新聞・雑誌は勿論、読書テラスや広い展示コーナーなどもあり、個人のパソコンを持ち込み閲覧できたりと、かなりの設備が整った大型の図書館である。

 

中央には広いエントランスホールがあり、天窓から降り注ぐ日光が、館内の雰囲気を明るく爽やかなものに変えてくれている。

 

そこが、今の一刀の職場だった。

 

「お早うございます」

 

挨拶と共に事務所に入るが、返答は一つも無い。

 

「ま、いつも通りか」

 

ここの開館時刻は午前10時であり、職員が出勤してくるのはその30分前に集中している。

 

携帯の待受画面による現在の時刻『AM8:30』

 

必然、誰も出勤してきている訳もなく、何より早朝の静まり返ったこの空間が、一刀は割と気に入っていた。

 

「さて、と」

 

タイムカードを挿し、事務所に荷物を置いて、一刀は2階への階段を上る。

 

1階は文学書、児童図書や新聞や雑誌のバックナンバーのコーナーであるのに対し、2階には一般図書や参考図書コーナーとなっている。

 

一刀がここに就職した理由は、この2階が大きかった。

 

ここのラインナップは有名大学の教授すらも利用しに訪れるほどなのだ。

 

その中には当然、世界各国の歴史書も多く存在する。

 

大半は貸出禁止とされているような貴重な本も、職員であれば何時でも読む事が出来る。

 

知識を得たかった。

 

彼女達に近付けるように。

 

「今日は・・・・この辺りにするか」

 

歴史書コーナーの本棚の前で足を止め、並ぶ背表紙をなぞりながら興味を惹くタイトルを探す。

 

千万と詰め込まれた蔵書の中、

 

「・・・・・・・・・っ」

 

ふと、指が止まった。

 

 

 

『韓非子・孤憤篇』

 

 

 

そっと抜き取った。

 

少し埃がかったハードカバーの表紙を撫で、ゆっくりと開く。

 

既に翻訳された蔵書が多い昨今だが、これは原本そのままだった。

 

文章を目で追いながら、思い返すのは在りし日の騒ぎ事。

 

「あの時の春蘭は、おかしかったなぁ・・・・」

 

小さく笑い声を洩らしながら肩を震わせる。

 

「確か3回だったか、間違えたのは・・・・それも、全部エロ本で」

 

暫く笑った後、そのまま韓非子を脇に挟んで、

 

「読んでみるか・・・・今日は天気もいいし、テラスにでも行くかな」

 

天窓から降り注ぐ暖かな陽光にそう呟くと、一刀はテラスへの出口がある3階へと昇り始めた。

 

 

開館時刻を過ぎ、やがて正午も間近になると、平日とはいえ、利用者が現れ始める。

 

この図書館の貸し出しや返却の為のカウンターは各階にあり、一刀は2階の担当である為、開館中はここにいる事が多い。

 

とはいえ、ひっきりなしに貸し出しや返却が来る訳でもなく、基本的に暇な時間の方が多い為、ここの職員が持たされるブザー(カウンターのスイッチを押せばバイブレーションで知らせてくれる)を懐に、テラスで蔵書を読んでいたり、視聴覚コーナーで演劇や舞台などを見て過ごす事が多かった。

 

それは今日も同じく、一刀が蔵書を傍らに、日陰になるテラスの席で蔵書に目を通していた、その時だった。

 

「お、やっぱここにおったか、かずピー」

 

「ん? ・・・・ああ。また来たのか、及川」

 

振り返った先にいたのは、ラフに着崩したスーツ姿の眼鏡を掛けた青年。

 

学生時代からの悪友、及川祐である。

 

彼は近くの商事に営業リーマンとして務めており、昼飯時になると何かとここにやって来る事が多かった。

 

「今日は何読んでるん?」

 

「韓非子、っつっても解らないか。・・・・ま、昔の中国の法律家の本だよ」

 

「ふぁ~、またエライむずそうやな」

 

聞いた途端に及川は表情を歪ませ『うぇ~』っという表情になり、

 

「変わらんな、かずピー。・・・・高2の頃やったっけ、色々大変やったの」

 

「・・・・あぁ」

 

軽い嘆息の後、表情を和らげる及川に、一刀は短く返す。

 

 

 

及川は、自分を信じてくれた『二人』の内の一人だった。

 

 

 

皆が否定する中で、及川だけは真面目に話を聞いてくれた。

 

精神科に放り込まれていた時も、休んでいた間のプリントや宿題の報告という名目で、しょっちゅう顔を出しに来てくれた。

 

彼曰く『かずピー、嘘吐いてるように見えんからな』だそうだ。

 

この言葉に、俺はどれほど救われただろうか。

 

俺がこうして『正常』の仮面を被り続けていられるのは、コイツがいてくれるからというのも大きい。

 

「あの時は、本当に迷惑をかけたな」

 

「ええって。ダチなら当然やろ。それに、俺もかずピーには色々助けてもろたしな~、宿題とか試験勉強とか」

 

歯を剥き出しにして笑う腐れ縁の悪友に、一刀は苦笑で返す。

 

「困った時はお互い様や。・・・・って事で、かずピー?」

 

「ん?」

 

「今日な、昼飯奢ってくれへんか!?給料日前で金欠なんや、頼む!!」

 

「お前なぁ・・・先月も奢ってやんなかったっけ?」

 

「頼むって!!給料入ったら返すから!!なっ!?」

 

「はぁ・・・・ここの食堂でいいか?」

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおせやからかずピー好きやあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

「だぁっ、くっつくな!!本が汚れる!!・・・・言っとくが、600円までだからな」

 

「ええ、食えるんならもう何でもええ!!」

 

「そうか・・・・じゃあ『激盛りハバネロカレー鷹の爪×100スペシャル』(580円)でもいいんだな?」

 

「・・・・毎度思うんやけど、図書館の食堂のラインナップちゃうよね、それ」

 

肩を並べて館内へと戻る二人の表情は、心よりの笑顔そのものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――見~ぃつけたわよ~ぅ、ご主人様~ぁ♪

 

 

 

 

 

 

(続)

 

後書きです、ハイ。

 

突然ですが、こんなんうpしてみました。

 

全3~4話の予定です。

 

『盲目』の方がちょっと手間取っておりまして、気分転換に書いてたら何時の間にか6時間ぶっ続けでこっち書いてましたwwwww

 

まぁ、こっちならかなり短く終わらせる予定なので平行しても大丈夫かなぁと思いましてね。

 

『盲目』の方もちゃんと書いておりますので、もう暫くお待ち下さい。

 

 

 

で、

 

 

 

『蒼穹』は魏√アフターの一刀にスポットを当てた二次創作です。

 

蜀⇒呉⇒魏とプレイした為か、やはり魏√のENDはいたく印象的でして・・・・今でも偶にプレイして泣いてます。

 

実は初めて書いた二字小説はこの『蒼穹』なのです。

 

途中で『やっぱり無理だ~』と挫折したんですが、このTINAMIで書き始めて結構な月日が経ち、今日部屋の掃除をしているとこの『蒼穹』のノートを見つけまして。

 

 

 

(・・・・今更だけど、書いてみようかな?)

 

 

 

と相成り、そのノートに手直ししてうpした、という訳です。

 

次の更新が『盲目』か『蒼穹』かは解りませんが、完成次第直ぐにでもうpしますんで、今まで通り気長にお待ち下さい。

 

それでは、次の更新でお会いしましょう。

 

でわでわノシ

 

 

 

 

 

・・・・・・・・一刀の星座は俺の勝手なイメージです。


 
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