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真・恋姫無双『日天の御遣い』 第十五章

リバーさん

真・恋姫無双の魏ルートです。 ちなみに我らが一刀君は登場しますが、主人公ではありません。オリキャラが主人公になっています。

今回は第十五章。
色んな人の色んな心情、ですかね。

2010-09-18 03:46:12 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:6312   閲覧ユーザー数:5380

 

【第十五章 対峙】

 

 

『…………この世界の物語も、随分と進行しましたね』

 

 丘。

 魏の国境を臨める、柔らかな風が吹く丘の上に、一人の女性が立っていた。

 

『黄巾の乱。反董卓連合。官渡の戦い――イレギュラーを二つも有しておきながら、物語に歪みは生じていない。まあ、本当のイレギュラーのあの子が停止している以上、歪みが生じるはずもないですけれど……』

 

 綺麗な女性だ。

 しかし街中を歩けば十人が十人とも振り返るだろう美貌にも関わらず、同時に十人が十人とも気付かないだろう、目を瞑ってしまえば――いや、視線を彼女からほんの少しずらす程度でもいい。たったそれだけでそこにいるのかわからなくなるほど、さながら幽霊のように、女性の存在感は希薄なものだった。

 

『甘く優しいあの子のこと、すぐに周囲へ心を許すだろうと予想していたのに……未だ、心は過去に縛られたままのようですね。諸悪の根源の一人である私が言うのもなんですが、それだけ、あの子の抱えている闇は深いということですか』

 

 ふうっ、と。

 そこで彼女は、やれやれとばかりに溜め息を吐いた。

 

『……いけませんね、このままは。二重三重にも自分を誤魔化し、あるはずもなき鎖に縛られ翳った日に、何が照らせましょう? 自分自身を、家族を、ここにある大切なものを深い闇に沈ませることが、君の望みではないはず。君が真に望むことはなんです? 大切なものの先を照らせる、未来を築ける強さこそ――君が、真に望んだ強さではなかったのですか?』

 

 どこかにいる誰かを諭すよう、彼女は言う。

 

『いい加減に、君は気付くべきなんです。変わりつつあるのに変わることを拒み、大切な現在に大切な過去で蓋をする。そんな矛盾を重ねに重ねたその先に待つのは、君を大切に想う全ての悲しみだということを。君が救われることは、君の大切なものにとっての救いでもあることを』

 

 それは願いか、祈りか。

 届かないことを知っていても尚、空に浮かんだ日を仰ぐ。

 

『あの子の不安定な心に関係なく、物語は進む。こうなるとやはり、最強の最後の最高の最終手段、顕現させないことが最善の最悪の禁術……あれを教えてしまったのは、間違いでしたね。今のあの子なら、自分の心さえ満足にわかれてない今のあの子なら、迷いもせず使ってしまう。それが大切なものを守るどころか、傷つける結果になると――わからずに』

 

 日を仰ぐことをやめ、彼女はゆっくりと目を瞑り。

 

『もはや、今のあの子に私ができることはありません。あとは彼女達を、信じます。真意はどうであれ、あの子は彼女達の傍らにいることを選んだ。あちらの世界でひたすら孤独でいたあの子が、彼女達とは共にいる、そこにはきっと希望があるはずです。その希望を信じ、再び日が昇った時の為――私は、私にできることをしましょう』

 

 目を、開けて。

 

『できることなら迷惑をかけたくはなかったのですけれど、そうも言っていられません。あの二人にも協力してもらいますか。きっと許子将は喜んで手伝ってくれるはずですけれど……管輅を口説くのは厳しいものがありますね。真面目ですから、彼女。でもまあ、押しに押したら「しっ仕方ありません。今回だけですよ!」なんて、ツンツンしつつも了承してくれますね。ツンデレですから、彼女』

 

 そして――

 

『しかし……一番の問題はあの子の鈍感ぶりですか。どうしてああもフラグクラッシャーに育ったんでしょう? しっかり女心も教えてやるべきでしたね……そのくせ、ナチュラルにたらしなんですから本当にタチが悪いです。苦労するかと思いますが――――――どうかよろしくお願いします、魏の皆様方』

 

 ――そして、彼女は消えた。

 最初からいなかったかのように、幻のように、忽然と。

 

 

 

 

 官渡の戦いに曹操軍が勝利してから、しばらく。

 袁紹を打ち負かし、河北四州を手に入れたことで、華琳の勢力範囲は一気に倍増した。この広き大陸で、最大の領土を統べる最大の勢力になったと言ってもいい。真正面から戦い、勝てる存在はまずないだろう。

 本来ならば喜ぶべきことだ。

 しかし、それは同時に華琳が周囲の諸侯から、今まで以上に警戒される勢力になってしまった、ということでもある。おかげで現在、魏は黄巾の乱に匹敵するほどの多忙を極めており、霞と稟はつい先日に西へ何度目かわからない出撃をし、秋蘭は凪と沙和を連れて袁紹と関わりのあった豪族連中との折衝に、季衣と流琉は領内の盗賊討伐に走り回っていて。春蘭も一週間前から、官渡の戦いに乗じて独立を果たした孫策の動きを抑制する為に、南へと様子を見に行っている。

 つまり現在、城に残っているのは華琳、桂花、風、琴里、真桜とそして――

 

「華琳! さっき城門で報、告を……」

 

 ――旭日は玉座の間の扉を勢いよく開けたところで、そこに広がる桃色めいた光景にがくりと脱力した。

 豪奢な、けれどけして派手でない玉座に腰かけ、白く細い脚を伸ばしかけている華琳。そんな彼女の前にへたり込み、今まさに服を脱ごうとしている桂花。

 どんな経緯でこうなったかはわからないが……まず確実に、情事の一歩手前なのは間違いない。

 

「………………」

「あら、旭日じゃない。どうしたの?」

「え? ……ひっ、九曜!? な、なんであんたが!?」

「……そっくり返すぜ」

 

 長くはないが短くだってない付き合いだ、桂花だけでなく春蘭や秋蘭ともそういう関係だとは知っている。それが無理強いだったらともかく、合意の上ならば否定する気もない――けれど。

 

「…………………………部屋でやれよ」

 

 いの一番に伝えようとしていた報告をとりあえず我慢して、突っ込みを最優先に旭日は絞り出す。

 ここへ報告を持って来たのが自分だからよかったものの、もしも琴里あたりが来ていたら羞恥で気絶してしまいそうだ。……その先に待つだろう百合百合しい世界を想像すると、本当に自分でよかったと思う。

 

「っとに……やれやれだ。出直してきてやろうか?」

「何か報告があったのでしょう? 事を邪魔した以上、構わないから責任もって続けなさいな」

「そんなっ、華琳さまぁ……うう、九曜…………っ!」

 

 殺意の滲んだ目でぎろりと桂花に睨まれ、そんなに邪魔されるのが嫌なら場所を選べと言いたい気持ちを堪え、溜め息を吐きたい気持ちもどうにか堪え、ようやく伝えるべき報告を口にする。

 

「……ついさっき、城門で受け取った報告だ。南西の国境が――抜けられたらしい」

「そう……思っていたより早かったわね。相手は呂布? それとも、劉備?」

「両方、だとよ」

「なんっ、なんですって!?」

 

 三人だけしかいない玉座の間に、桂花の驚いた声が響き渡る。

 普段から声を荒らげることの多い彼女だけれど――普段より数段、まるで訪れた危局を示すように、大きなものだった。

 危局。

 危局で、同時に成功だ。

 今回の件は、華琳の大きくリスクを孕んだ作戦でもある。

 王である彼女自身を餌にすることで諸侯を誘い、周辺の諸侯を釣り上げる作戦。その点のみに着目すれば、劉備や呂布――恋などの大物が釣れたのは十分に成功だろう。もっとも、大物二つが二つとも針にかかってしまったというのが、十分の成功を上回って十二分の危局ということで。

 主要な面子のほとんどが出払っていて、片方だけでも厄介な相手が連合を組み攻め込んでくる。袁紹袁術の連合とは比較にならない、どころか今までのどの戦より苦く苦しいものになるのは確実だ。

 

「戦の準備はもう、風たちが始めてる。各地に散った連中にも伝令は出したが……間に合いはしねえだろうな」

「……この短期間で南部を平定するだけでなく、呂布まで抱き込むとはね。あの子の――あの子達の力、少し甘く見ていたということかしら」

「その割には、やけに嬉しそうじゃねえか」

「あら、ふふっ。そう見えるのなら、そうかもしれないわね。……桂花、貴女もすぐに戦の支度に加わって頂戴」

「えっ!? 華琳さま、これだけでは私っ………………わかり、ました」

 

 去り際、自分を射殺すように睨むのを忘れずに。

 乱れた衣服を正しつつ、桂花は玉座の間を後にした。

 それを見て――

 

「……邪魔されるのがそんなに嫌なら部屋でやれって」

 

 ――堪えていた溜め息がつい漏れたのはまあ、仕方ないことだろう。

 

 

 

 

 律義に彼を睨みつけてから出て行った彼女の後姿を見て、華琳は薄く微笑んだ。

 

「桂花ったら、やる気十分ね」

「……やる気っつうか、完全に俺を殺る気だったがな」

「男嫌いのあの子が睨むだけで済ませたのよ? 結構なことじゃない」

 

 溜め息を吐く旭日へ微笑を苦笑にして返す華琳。

 桂花の男嫌いは筋金入りだが、それでも、彼と対する時は幾分か和らいでいる。仮にここへ来たのが旭日以外の男であったなら、睨む程度で済ますはずがないのだ。……そのことにどうしてこの日色は全く気付かないのか、鈍いにもほどがある。

 皆、変わってきている。

 未だ変わらないのは――変わろうとしないのは彼自身と、そして。

 

「華琳?」

「……なんでもないわ。それより、他に何か報告は?」

「他には、あーっと……やたら熱い医者が入国したとか、どうでもいいことしかねえよ」

「そう。ならば旭日、貴方も戦の準備をなさい。それとも……桂花の代わりに私と続きでもする?」

「………………あ?」

 

 それは本当になんでもない、どうして口にしたのか自分でもわからない、なんとなくの言葉だった。

 もしかしたら、情事を邪魔されたことに少なからず苛立っていたのかもしれない。もしかしたら、自分たちの姿を見ても彼が顔色一つ変えなかったことが不満だったのかもしれない。もしかしたら、そんな彼を赤くさせてやろうと悪戯心が芽生えたのかもしれない。

 自分でも把握できてない感情の波に流され――流された後で、しまったと思った時には遅く。

 旭日は。

 

「人で遊ぼうとしてんじゃねえよ、ったく」

「………………っ」

 

 顔を赤くすることも、自分の発言に不機嫌になることも、喜ぶことも何もなく。

 まるでつまらない冗談を聞いたようにただ、やれやれだと笑うだけで。

 そこにあるのは――距離感。

 届かない。

 言葉の一つさえ、こんなにも。

 

「まあ、俺だって男だし、魅力的なお誘いじゃあるがな……そういうことがしたいんだったら桂花を呼び戻せよ。きっと、喜んで来ると思うぜ?」

「あさ……ひ」

「準備に行ってくる。次から、男への冗談は選べよな」

「旭日っ……………」

 

 立ち去る背中に手を伸ばしかけ――やめる。

 いつも、この距離だ。

 あと一歩でも踏み出せば触れられるはずなのに、その一歩があまりに遠い。

 わかってる。

 気を許してくれてはいても、心までを許してくれてはいないことに。

 わかってた。

 信じてくれてはいても、信じ合おうとまではしてくれていないことに。

 わからない。

 自分がどうして近寄らないのか、彼がどうして近寄らせないのか。

 

「……馬鹿」

 

 わかりたい。

 わかってほしい。

 届きたい。

 届いてほしい。

 それが覇王と華琳、どちらの願いなのかもわからないまま。

 

「……………………………………………………ばか」

 

 近くなった距離。

 けれどまだ、遠い距離。

 溢れ出した寂しさは誰に受け止められることもなく。

 伸ばすことすらできなかった手の中に落ちて、溶けた。

 

 

 

 

「………………ちっ。気に入らねえな、どうも」

 

 玉座の間を出て、長い廊下を歩きながら旭日はそう独白した。

 もし華琳に聞かれていたら完璧に誤解されそうだが、気に入らないとは別に、先の華琳の発言のことではない。旭日の中で、既にあれは冗談として消化されている。

 気に入らないのはただ一つ――今回訪れた危局についてだ。

 

「(華琳と桂花は北郷たちが釣れると思ってたんだろうが……俺は、攻めてくるのは恋だけだと思ってた)」

 

 勿論、北郷と恋の両方ともが釣り上がるのを度外視してはいなかった。可能性の一つに、いや、北郷の力を考えれば最も現実になる予想に挙げていた。それくらい、旭日は北郷一刀のことを高く評価している。

 敵味方問わず誰彼構わず有無を言わせず、北郷が放つ輝きは周囲の目を細めさせる。味方になりたい気にさせて、力になりたい気にさせて――ただそこにあるだけで実力以上のものを発揮させてしまう。(旭日も同じことをよく囁かれているのだが、それに全く気付いていないあたり流石は《天の御遣い》である)

 そういう男だ、北郷一刀は。

 琴里が言うには自分との悶着を契機に目を覚ましたらしいので、あの恋が仲間になったのも不思議じゃない。

 度外視はしていなかった。

 予想だってしていた。

 だが。

 

「いくらなんでも、都合が良すぎる」

 

 都合というより――流れが、良すぎる。

 北郷を高く評価しているのは確かだけれど、それは彼の甘さも含めての評価だ。自分との悶着や、華琳の「国を奪いに来る」という宣戦布告や、恋が仲間に加わったことがあろうと、あの甘く優しい男がこんなにも早く、こちらへ攻め込むなんて決断を下せるはずがない。例え孔明たちに、ほとんどの将が出払った隙を突くべきだと諭されたとしても、だ。

 

「……目を覚ましたことで気合いが入ったってか? 華琳が宣戦布告をした以上、歩く道が違う以上、逃げる選択肢は向こうにはない。劉備ちゃんの理想を護る為に、甘さを捨てたんじゃなく、あいつなりの甘さの貫き通し方が今回の侵攻だとすりゃ辻褄は合う。合うが……気に入らねえな。それが本当だったらまるで、華琳の宣戦布告も俺の苛立ちもあいつの目覚めも他の何もかも、今へ辿り着く為にあらかじめ、最初から用意されていた出来事みたいじゃねえか」

 

 偶然、かもしれない。

 しかし……ありえるのだろうか?

 北郷たちが袁術の侵攻を防いでいるところに袁紹が参戦して、華琳の領土を抜けて益州に行く選択をして、それを許されて、宣戦布告され叱責され目が覚めて、南に抜けたら恋がいて、彼女が仲間になって、官渡の戦いで華琳が勝って、その副産物で春蘭たちが出払うことになって、それを華琳が釣りに利用して――こんな、ほとんど偶然と綱渡りで成り立っているのにも関わらず、何かに導かれたようにぴたりと今回へ収束しているなんてこと、本当に。

 込み上げてくるのは、違和感。

 漠然として、釈然としない、巨大な流れに従わされている感覚。

 気に入らない。

 自分も、家族も、華琳たちも、世界にとってのファクターに過ぎないと思えて――ほんの少しでも思えたことが、何よりも気に喰わない。

 

「世界には強制力があり、矯正力があり、それらを生む物語がある。確かそう、先生は言ってたな。信じちゃいなかったが…………ん?」

 

 ちくりと刺すような視線を感じ、思考を中断する。

 知らず知らずのうちに俯かせていた顔を上げてみれば――殺意を剥き出しにこちらを睨みつける桂花が目の前に立っていて。

 

「桂花? 何やってんだよ、こんなとこで」

「……さっきのこと、もし誰かに言ったら…………わかってるでしょうね」

「さっきのことって……ああ、あれか」

 

 先ほどの情事(未遂)が頭に浮かんできて、つい苦笑する。

 

「心配すんな。わざわざ念を押さなくても言いやしねえさ」

「変態の言うことなんて信じられるわけないじゃない! そのへらへらと笑うだけが取り柄の口を滑らせてみなさい、今度の作戦で絶対に殺してやるから……!」

「……やれやれだ」

 

 その時は好きに殺してくれと意識的に冗談めかして呟き、旭日はいつの間にか止めていた足を動かし始めた。

 未だ苛立ちの収まらない桂花の罵詈雑言の数々を背中で受け止めながら、再度、やれやれだと呟き。

 

「…………結構、辛いんだがな。あいつらのいない世界でへらへらするってのは」

 

 続けて零れた呟きは幸いにも桂花の声に塗り潰され、誰の耳に入ることなく――溶けて、消えた。

 

 

 

 

 平野に構えた陣で敵方についての報告を聞き、一刀は傍に控えた朱里へ目を向けた。

 

「……そっか。曹操は近くの出城に移ったんだな」

「はい。そちらに手持ちの戦力を集中させているようです」

「良かった……さすが曹操さん。これで街に住んでる人は籠城戦に巻き込まれずに済むね」

「あの曹操がそこまで考えているのかどうか……単に少ない戦力を有効に使えるよう、場所を変えただけでは?」

 

 ほっと安心するように桃香が息を吐くも、それとは正反対に敵意を剥き出しにした愛紗が否定的に呟いた。曹操と――というよりは曹操の下に降りた彼と、ことあるごとに衝突(まあ、彼にそんな気は欠片もないのだろうが)したせいか、愛紗の曹操たちに対する反発心は極端に強い。

 

「もうっ、愛紗ちゃんてば曹操さんのこと悪く言い過ぎだよー」

「……そうでしょうか?」

 

 桃香が諫めても表情を顰め続ける彼女の頑固な様子に、重症だなと一刀は苦笑する。

 でも――少し、ありがたい。

 こうして強く自分たちを肯定してもらわなければ、ぶれてしまいそうだから。

 

「けど……朱里ちゃん。本当に、曹操さんと戦わなくちゃいけないの?」

「……曹操さんはこちらを攻めると既に予告していますから。現状、曹操さんに万全の状態で攻め込まれては、私達の戦力では一分の勝ち目もありません」

「それに、向こうから隙を見せたら噛みついてこいと言われているのです。その相手がわざわざ首筋を見せてくれているのですから、ここは誘いに乗ってやるべきかと」

 

 自分の背中をとん、と軽く触って星は言った。ここまで――後戻りできないところにきても尚、不安で握り拳を崩さない自分を心配してか、必要以上に声は明るい。

 そんな星に心の中でありがとうを述べ、握り固めていた拳を開く。

 

「罠の……可能性は?」

「いえ、主力の将が全て城を空けているのは事実です。向こうも相応の危険を承知で仕掛けているのでしょう」

「虎の穴に入らなければ虎の子は手に入りません。けれど……そこを乗り越えることができれば、得られるものはとても大きいはずです」

「………………うん」

 

 頷いて、空を仰ぐ。

 今の自分たちに行動は、矛盾しているのかもしれない。

 平和な世を望んでいながら、これからするのは自分たちが仕掛けての戦だ。

 怖いかと問われれば――当たり前だと答える。

 怖くないわけがない。

 気を抜いたらすぐにでもも身体が震え出してまうだろう。

 怖い、けれど……怖さに震えて何もできないほうがもっと怖い。自分の守りたい人を守れないほうが、桃香たちの夢を叶わないものにするほうがずっと、ずっと怖い。

 自分たちのせいで人が死ぬ。

 自分のせいで人が死ぬ。

 わかってる。

 それから逃げる気はない。今度こそ背負って、どんなに重くても背負って――目を逸らすことなく、全てを受け止めよう。

 彼のように甘さを捨て切れない自分は、迷いなく進めない自分はそれでも。

 甘さを捨てず。

 迷いながらでも、迷いすら背負って進もうと思う。

 みんなが笑って暮らせる平和な世界――桃香の夢は、間違ってないと信じているから。

 だから。

 

「――決着をつけよう、旭日さん」

 

 空にある日を見据えて。

 そこに彼の背中を重ね。

 眩さに目を細めず、真っ直ぐと。

 一刀は言った。

 瞳に輝き放つ――光を灯して。

 

 

【第十五章 対するは天の光、峙は天の日】………………了

 

 

あとがき、っぽいもの

 

 

どうも、リバーと名乗る者です。

いやぁ………………悩み疲れました。今回から徐々に旭日の過去やら、先の展開の布石をしなきゃいけなかったので、何度も何度もこれで大丈夫かと書き直しと見直しを繰り返しまして。正直、投稿した今でも不安で潰れそうです。本当難しいですね……小説を書くって。

ええと、次回からは原作の魏ルートでも山場な戦いに突入します。あの時の一刀君、本気で格好よかったなぁ…………まあ、『日天の御遣い』では逆のポジションに立つことになるんですが、一刀君にとっても山場になる予定です。ここまで十四話ほど書いてきましたが、一刀君と旭日が敵としてあいまみえるのって、思えばこれが初めてになりますし。

あ、あと、コメント返信はコメントのところに書き込むことにします。結構迷ったんですけど、あちらのほうがいいかなと考えまして。

 

では、誤字脱字その他諸々がありましたら、どうか指摘をお願いします。

感想も心よりお待ちしています。

 

 


 
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