No.171714

真・恋姫無双『日天の御遣い』 拠点:呂布

リバーさん

真・恋姫無双の魏ルートです。 ちなみに我らが一刀君は登場しますが、主人公ではありません。オリキャラが主人公になっています。

今回は拠点。
まあ、拠点というよりは幕間に近いです。

2010-09-11 02:26:48 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:7910   閲覧ユーザー数:6983

 

 

【拠点 呂布】

 

 

 朝にしては早く。

 夜にしては遅い。

 月がとっくに地平の向こうへ隠れ、もうしばらく時が過ぎれば日が昇る頃。

 薄暗く、薄明るい中庭で、恋は愛用の武器『方天画戟』を振るう。

 

「………………」

 

 皆がしんと寝静まっているだろう時間、微かに笑んで黙々と武器を振り回しているのはかなり怪しいのだけれど――しかし、そんな怪しさを微塵も感じさせないほど、風を切りながら舞う恋の姿は綺麗で、絵になっていて、きらきら輝いていた。

 鍛錬、というわけではない。

 一の労力で百の成果を手に入れることが可能な才を持つ恋にとって、鍛錬はあまり必要がなく、またするにしても日が昇って皆が起きた時のほうが一人よりずっと効率はいい。

 だからこれは鍛錬というには程遠い、言うなれば――

 

「…………………………遊び」

 

 ――そう、遊び。

 今の恋の内にあるのは、幼い子どもが無邪気に棒を振り回しているのと全く同じ感情。

 目の前には何も存在しないが、そこには確かにいるのだ。

 一人の男が。

 自分に遊ぶことの楽しさを教えてくれた、自分の寂しさを刹那の間とはいえ消し去ってくれた――日色の男が。

 

「………………」

 

 ぎゅっと、『方天画戟』を握る手に力が入る。

 まるで誰にも渡さないという風に、強く強く握り締めて。

 思い切り――振るう。

 大抵の者が吹き飛ぶ薙ぎを彼は避けた。避けて、満面の笑顔でこちらに剣先を向けてくる。鋭く重い一撃を柄で受け止めれば、次に襲ってきたのは蹴り。それを回避しても彼は終わらない。日色の刃の雨を自分に降らす。

 

「(これが…………楽しいという、こと……)」

 

 霞や華雄がどうしてあんなにも嬉々として戦うのか、以前はまるでわからなかったが――今ならわかる。

 彼女たちはきっと、これを求めていたのだ。

 この、心を震わせ身を奮わせる、ただただ笑顔ばかりが込み上げてくる、楽しさを。

 だけど。

 

「…………だけど、足りない」

 

 足りないのだ、全然。

 こうして彼との遊んだ一時を思い出すのも楽しいけれど、実際に刃を交えたあの楽しさに比べればちっとも足りない。

 記憶の中の彼じゃなくて。

 現実の彼と、遊びたい。

 今度こそなんの邪魔もされず、日が暮れるまでずっと、ずっと――と。

 

「――うおわぁっ!」

「………………?」

 

 恋が心ここにあらずといった状態で戟をぶんぶん振り回していると、不意に素っ頓狂な声が聞こえた。

 振り回すのを止め、声のしたほうに目を向ければ――そこには。

 

「や、やあ、恋。おっおお、おはよう?」

「…………………………ご主人様?」

 

 地面に尻もちをついた状態で乾いた苦笑を浮かべる、北郷一刀の姿があった。

 

 

 

 

「は、ははは……今日は随分と早いんだね、恋」

 

 ぽんぽんとズボンについた土を手で払いながら、立ちあがる一刀。

 なんとなく目が覚め、軽く散歩していたところで『方天画戟』を振るい踊る恋の姿を見かけたまではよかったのだが……間合いを計り損ねてつい近付きすぎてしまった。最近はみんなに頼んで鍛えてもらっているのに、やはり自分はまだまだらしい。

 

「それにしても、なんだか珍しいな。恋がこんな朝早くに鍛錬するってのも、さ」

「………………」

 

 自分の格好悪いシーンを過去のものにする為、当たり障りないことを言う一刀であったが、しかし恋は首を横に振って否定した。

 

「…………鍛錬じゃ、ない」

「へ?」

「……練習?」

「え、えーっと……それってどう違うんだ?」

 

 一刀にしてみれば同じものなのだが、どうやら彼女には違うもののようだ。

 どんな答えが返ってくるのか、とりあえず黙って待つ。

 益州へと無事に抜け、南部を平定する最中で自分たちの仲間に加わってくれた彼女は他の人よりかなりコミュニケーションが独特である。なので根気強く、焦らず話をじっくり聞かなければ、彼女の伝えようとしていることをわかることはできないのだ。

 そして、待つこと数十秒。

 

「…………………………遊び」

 

 ポツリと呟かれたのは、思いもがけない言葉。

 

「遊び?」

「……(コクッ)」

「練習で、遊び? ……遊ぶ練習ってこと?」

「ん……そう。練習、遊びの…………旭日と遊ぶ為の、練習」

「………………っ!」

 

 旭日。

 その名に一刀は――自分を奮い立たせるように、強く拳を固める。

 

「れ、ん…………旭日さんを知って、いるのか……?」

「……知ってる。虎牢関で、遊んだ」

「………………」

「楽しかった、すごく。また……一緒に遊びたい」

 

 笑って、恋は言う。

 虎牢関での戦いの時に会ったというのならば、おそらく敵としての出会いだろうに、それでも彼女は思い出して笑みを浮かべる。

 気持ちは――わからなくもない。

 敵味方問わず誰彼構わず有無を言わせず、彼の放つ眩しさは周囲の目を細めさせる。(ちなみに一刀も同じことをよく囁かれているのだが、それに全く気付いていないあたり流石は《天の御遣い》である)

 そういう人なのだ、彼は。

 彼と決定的に決別して、彼を超えようとしている自分だって、できることなら敵じゃなく味方でありたかったと、今でも思ってしまうのだから。

 

「……でも、だったら恋はよかったのか? 三日後のこと、本当に」

「……?」

「ほら、昨日の軍議で言ってただろ? 俺たちは――」

 

 ほんの少しだけ躊躇うも、すぐに覚悟を決め、言う。

 

「――俺たちは三日後、曹操へ攻撃を仕掛けるって」

 

 官渡の戦いで見事に袁紹を打ち破り、河北四州を手に入れた曹操は現在、周辺の諸侯への対応に追われている。自分たちが南方を統一したら奪いに来ると宣言された以上、そうさせない為にもこの機会に上手く乗じるべきだ。そしてそれはつまり、敵として彼と対峙することに他ならなくて。

 思い出して笑顔を浮かべるほどだ、恋は旭日とは戦いたくないのではないかと考えたのだが――しかし。

 

「…………平気」

「へ? い、いや、だけどさ……」

「ご主人様は月と詠、助けてくれた。恋たちのことも守るって……約束、してくれた。…………恩は、返す」

「恋…………本当にいいのか?」

「……(コクッ)」

 

 いつの間にか昇っていた朝陽に向けて『方天画戟』を振り下ろし――恋は。

 

「旭日とも、約束、した。また一緒に……日が暮れるまで、遊ぼうって」

「日が……暮れるまで」

「だから、いい。会えれば、会って遊べれば――他は、いい」

 

 それだけでいい――と。

 恋は。

 彼女は。

 遊びに出掛ける前の幼い子どものように。

 待ち焦がれるように。

 恋焦がれる乙女のようにはにかんで、微笑んだ。

 

 

【拠点 呂布】………………了

 

 

以下、前回のコメントへの返信になります。

 

 

はりまえさま>

 

コメントありがとうございます。強さとは何か?その答えは未だ自分にもわかりません。ただ、物語が進めばわかるのではないかと思っています。

 

村主さま>

 

コメントありがとうございます。

確かに、史実での関羽の強さは呂布の次にチートじみてますよね。旭日の居場所、そこは過去か現在か、果たして……

 

ヒトヤさま>

 

最初は捨てようかなと思っていたのですが……さすがに可哀相すぎなのでやめました。出番についても悩み中です。

 

サラダさま>

 

いえいえ、十分に言えてますよ!琴里に旭日に霞、活躍したキャラがちゃんと絡んでますし。

 

スターダストさま>

 

詩的で素敵です!そういえば、旭日の武器はキャラ紹介でしか明かしてませんでしたね……一応、これにも意味があったりなかったりします。

いいですよねグレラガ!劇場版もちゃんと観に行きました!


 
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