No.170182

真・恋姫無双紅竜王伝赤壁合戦編⑧~赤壁の戦い(疑惑の勝利)~

2週間ぶりの投稿です。いきなりですが、バトル・オブ・セキヘキの始まりです。
今回はいつもよりは長いですが、冒頭にあるように「あれ?」と思われるところがあるかもしれませんが、気にしないでくれたら嬉しいです。

2010-09-04 00:09:43 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:3038   閲覧ユーザー数:2697

今回の話しは少々ご都合主義なところがありますが、作者の腕のなさの賜物ですので、大らかな気持ちで見ていただければ嬉しいです。

「さて・・・では軍議を始めましょうか。桂花・風・稟」

『御意』

魏軍本陣の最奥の天幕で華琳と軍師たちは秘密の軍議を開いていた。

「今のところ、作戦通りに動いているわね・・・黄蓋の投降が予定外だったど。風、『後方』の準備は整っている?」

「諸々の準備、完了してます~」

「・・・しかし華琳様、私はこの策には反対です」

稟が眼鏡のブリッジをクイ、と上げて反対の意見を言う。

「わざわざ華琳様の御身をエサにせずともよいのではないでしょうか?敵は恐らく撤退する我らを追撃してくるはずです。その撤退する軍の中に華琳様が―――敗北すると予め決まった軍の中にいらっしゃる必要はないと愚考いたします」

「それは却下よ、稟。この度の戦いは、魏軍の総力を挙げた決戦と『見せかけなければ』ならないわ。その為にはこの曹孟徳の牙旗はもちろん、私が直接指揮を執らなければならない。稟、私は撤退戦で死ぬような運命は持ち合わせていないつもりよ」

「華琳様、次は私が・・・」

「これは・・・書簡ね?」

桂花が華琳に献上したのは一通の書簡。目を通してみると、その内容は―――

「蔡瑁が謀反を企んでいる・・・ね。桂花、あなたの策で周喩の幼馴染を呉の陣に送ったのよね」

「はい、華琳様。その者が掴んだ書簡なのですが・・・信用に値するでしょうか?」

華琳はフム、と呟いて形のよい顎に手を当てて考えだした。風と稟も件の書簡を覗き込んだ。

「う~ん・・・理屈だけで考えれば、風は偽物の書簡だと思いますねー」

「なるほど・・・蔡瑁を消してしまえば、魏の水軍の指揮を執る人物がいなくなりますからね。ただ、奴が外様の家臣で忠誠心をあまり持ち合わせていない人物だというのも事実」

2人の軍師の意見を聞き、華琳が下した決断とは―――

(一体何事であろう)

蔡瑁は軍事演習中に本陣に呼び出され、戸惑いとともに歩みを進めていた。兵の案内で本陣の陣幕に入った彼を出迎えたのは、総大将の曹操と3人の軍師だった。

「閣下、蔡瑁参上いたしました」

「忙しいところ悪いわね、蔡瑁。今回はあなたに重要な事を任せたいと思って呼び出したの」

「重要な事・・・でございますか?」

自分の記憶が正しければ、総帥の補佐という重役を任されたはずだったが。

「ええ。さきほど軍師達と軍議を開いたのだけれど、先陣を任せるに足る将がいない事が問題に上がってね。我が軍で一番勇猛な夏候惇も船戦ではあまり役に立たないからね・・・」

確かに魏軍で一番勇猛な夏候惇といえども、船戦は初めてだという。さらには夏候惇隊の兵もかなりの数が疫病や船酔いに悩まされているのだとか。

「そこで申し訳ないのだけれど、あなたには私の補佐から先陣に回って欲しいの」

「せ、先陣でございますか!」

先陣は武門の誉れ。それも大陸に名の響き渡った猛将夏候惇を差し置いての先陣とあっては、断らないわけにはいかない。

(大陸史に残る合戦の先陣を飾る―――こんな名誉なことはない!わしの名は後世まで残るだろう)

「御意!先陣の任、承りました!」

連合軍本陣では、周喩と諸葛亮、鳳統が額を突き合わせて決戦に向けての最後の打ち合わせを行っていた。

「祭殿からの情報によれば、敵軍の先陣は祭殿と蔡瑁。鎖でつなぎ合わせた船団の第二陣までが荊州軍で第三陣が魏軍のようだ」

周喩が見下ろすのは戦場の地図。その地図を覗き込んだ鳳統が意見を述べる。

「布陣をみる限り、魏の主力部隊は陸に布陣していますね。船上には二級、三級の将が布陣しているようですね」

「・・・夏候惇さんや、曹操さんの主力はまだ陸の本陣に軍を展開させていますよね」

「諸葛亮、何か気になる事があるのか?」

周喩の問い掛けに、「もし・・・もしもですよ」と言葉を選びながら、慎重に仮説を述べる。

「曹操さんが、この合戦に本腰を入れてないとしたら・・・?」

「三国の軍が総力を挙げて戦うのだぞ?曹魏が用意した軍船やここまで遠征してくるまでの費用、馬鹿にはなるまい」

周喩は一笑に付したが、諸葛亮の不安は拭えなかった―――

両軍の命運を決める赤壁の戦いは、諸葛亮の祈祷から始まった。

「諸葛孔明の名において命じる。東南の風よ、吹け。我らに勝利を与えたまえ」

彼女は小さな拳を握り、天に祈る―――フリをする。諸葛亮はこの地のこの季節のこの日には東南の風が吹く事を知っていたのだ。この祈祷により、『天はこちらに味方している』と味方に見せかけるためのポーズ。

「諸葛亮様!旗をご覧ください!」

兵の声に反応して閉じていた目を見開いて見れば、強風吹き荒れる風が向かうのは―――魏軍の艦隊が布陣する東南。

「全軍、出撃!」

連合軍艦隊総司令周喩の号令のもと、艦隊が動き出す。その船は、油をたっぷり染み込ませた薪が詰め込まれていた。乗船するのは船を動かすのに最低限必要な兵士のみ。

その船団が、寝静まった魏軍の艦隊に迫っていく―――

「黄蓋様!」

「来たか!お前達、火を付けろ!」

黄蓋は部下に自船への点火を命じ、先に部下に海に飛び込ませた。

「天よご照覧あれ!この炎が我ら孫呉の心意気よ!」

彼女は天に向かって叫び、自身も海に飛び込んだ。

「さぁお前達、後は全力で泳げ!この様なところで溺れ死ぬなど文台殿が許してもわしが許さぬぞ!」

『応っ!』

風に押されて進む連合軍の船団は、鎖で繋がれた魏の艦隊に近づくにつれ次々と舟が燃え上がり、文字通り炎の弾丸となって魏の艦隊に迫った。

次々と船頭に取り付けられた鉄釘が魏の艦隊に打ちこまれ、魏の船に燃え移る。兵士たちは敵船を引き離そうとしたり、消火活動に走り回るが焼け石に水状態であった。

大混乱に陥った第一陣の兵たちは次々と落水し、鎧を纏っている彼らは次々と溺れていった。続けて爆発。火が船に内蔵していた火薬に燃え移り、爆発したのだ。爆発で両軍の船は次々と沈んでいく。

その光景に連合軍の兵は勝鬨を挙げて勝利を言祝ぐ。しかし、ただ2人渋面を浮かべる人物がいた。

「おかしい・・・」

「あら、諸葛亮もそう思うの?」

希代の軍師諸葛亮と、動物的な感を誇る孫策。2人の意見は一致していた。

『あまりにも、あっさりと勝利を手にした』と。内面の疑問を抱えながらも、2人は魏軍追撃の為の指揮を執りはじめるのだった。

後に新たに建てられた王朝によって記された『赤壁合戦紀』によれば、敗北が決定した時の曹操及び魏の兵士たちの様子をこう記している

『魏王、いささかの動揺を示さず陸海の兵卒に撤収を命じる。兵も魏王に従い、心静かに北に退く』

―――まるで、始めからこうなる事がわかっていたかのような様子で撤退していったという。


 
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