No.161194 鬼ヶ島の鬼~血染めの刃~ 第二話紫炎さん 2010-07-27 22:50:25 投稿 / 全7ページ 総閲覧数:2570 閲覧ユーザー数:2205 |
「恋さん、知ってるって?」
「いつ知り合ったのよ!」
恋の爆弾発言に月と詠は戸惑いを隠せない。
「洛陽で……黄巾党を迎撃したとき。一緒に戦った」
「黄巾を?あの時は確か三万いたって聞いたけど、二人で?」
「……(ふるふる)三万のうち、恋は一万。他は……」
「その鬼さんが倒した、と?」
「そう」
詠は混乱していた。一騎当千などという言葉は現実では普通あり得ないことだ。戦いは数がすべてである。数がなければ策も成り立たず、いかに武勇に優れようとそれは覆せないものだからだ。例外もあるにはあるがごく少数。それこそ自分の前にいる恋並の力を持つことが最低条件だ。
混乱する詠を救ったのは
「恋殿、来ましたぞー!」
執務室の戸を勢い良くあけて入ってきた恋直属の軍師、陳宮―――――音々音―――――の登場で会った。
「ねね、この前の話、詠たちにしてあげて」
「ほへ?鬼ヶ島の鬼の話ですか?」
「そう」
「わかりましたです!」
「恋殿!黄巾三万、視認したのです!」
「こっちも確認したわ!」
「ん……ねね、旗の準備」
「旗」
「了解ですぞ!(任せなさい!)」
洛陽目前の荒野、そこに四人の男女がいる。小柄な緑髪の少女―――――音々音―――――、猫耳のようなフードを被った金髪の少女。身の丈を超える戟を携えた、赤い髪を持つ少女―――――恋―――――。そして男はこれまた身の丈超える双戟、背に朱塗りの大身鎗、七尺一寸の大野太刀、腰には三尺九寸の太刀を携え、その煌く銀髪は後頭部から幾重にも折り返す。彼らのそばには二匹の犬と、一頭の馬。少女の名は荀彧文若、男の名は徐晃公明。恋と徐晃は背中合わせに眼前に目をやる。
そこには荒野に翻る黄巾の旗。その数はおよそ三万。
「……恋、中枢に動きあり。桂花、少し離れて私の背中を見ていろ」
「わかったわ。怪我したら容赦しないから」
「ク、鬼が羽虫相手に怪我などするか」
「ねね、後ろに下がる」
「い、イヤですぞ!ねねは恋殿を守ります!」
「……背中を見守ってくれればそれでいい」
「だから、下がる」
「ねね、今の私たちでは邪魔になるだけよ。私たちにできるのは見守ることだけ」
「れ、恋殿ぉ~」
「……早く」
「急げ二人とも」
「は、はいですぞ!」
「ほら、こっち」
戦場とは思えないのんびりした空気の中、眼前の黄巾党から三人の少女が現れる。
「こんにちは~」
「…こんにちは」
「どうも」
「お姉さんたち、ここで何やってるの?」
「待ってる」
「雨をな」
「雨ぇ?」
「お天気も良いし、雨なんて降りそうにないと思うんだけど……」
「……(フルフル)」
「雨は雨でも……」
「赫い雨が降る。きっとな」
「……………」
二人の言葉に青い髪の少女が唸る。
―――――このとき、誰も気づかなかったが太陽に雲がかかり、わずかに日が陰っていた―――――
(ねえ、人和。やっぱりこの人たちおつむが弱い人なんじゃないの?)
(私もそうとしか思えなくなってきた。けどこんなところに犬と子供を連れて?)
(まあ、やさしい人たちみたいだから、お願いすればどいてくれると思うよ?)
(そうね。私がいってみる)
彼女ら三人のうちで意見を交わしているのをみて恋は首をかしげ、徐晃は瞳を丸くしている。
「あのね。このあたり、もしかしたら戦争になっちゃうかもしれないから、今のうちに安全な所に避難したほうがいいと思うんだけど?」
「私たちの行軍の妨げにもなりますし、道をあけてくれるとうれしいんですが……」
彼女たちは百パーセント善意でそういったのだろう。しかし彼らにとっては眼前の敵など眼中になかった。それ故にこう答えを返す。
「……(フルフル)」
「気にすることはない」
「えっと、てことは道をあけてくれないってこと?」
「そうなるな」
「いやいやいやここにいるとホントに危ないんだってば!」
「……危なくないよ」
「この程度、危機とは思えん」
「だーかーらー!お姉さんたちわからない!?私たち黄巾党だよ?兵隊連れて行軍中なの!」
「私たちたちにはお姉さんたちを傷つけるつもりはないけど、後ろには黄巾党のむくつけき男たちがわんさかやってきてるんだから!」
彼女らにとってみれば自分たちの率いる兵隊たちはすべからく民衆の恐怖の対象であると思っていたのだろう。今までの戦いにおいて敗れたことがなかったのだから。
「みんな戦闘前で気が立ってるし、あなたたちがここにいると男たちがどう出るか……。残念だけど身の保障はできません。」
「そうなる前にどこかに行ってほしいんだけど?」
「……(フルフル)」
「お心遣いには感謝する」
「はぁ~。これだけ言っても聞いてくれないならもう何言っても無駄だよ」
「そうね。忠告しましたから、何が起きても責任はとれません。……いいですね?」
「わざわざ前線まで出てきてもらってすまない」
「……(コクッ)」
「てことは了解ってことだよね。人和、この人は放っておいて先に進もう?」
「まって、ちぃ姉さん。……ねぇ、あなたたちの名前を教えて?」
「そんなの聞いたって仕方が」
「ちぃ姉さんはだまってて。……それくらい教えてくれるでしょ?」
「……そっちの名前は?」
「まぁ、名前を聞いたほうから名乗るってのは礼儀だな」
「あ~確かに。えっとね、私は張角だよ」
「ちょ、姉さん!不用意に名乗らないでって、いつも言ってるでしょ!?」
「でもこの子たちの言うとおり自分から名乗るのは礼儀だよ?」
「……張角?」
「ふぅん……」
「うん!でね、こっちの青い髪の子が張宝ちゃんで、こっちの眼鏡をかけたのが張梁ちゃんだよ。よろしくね!」
「……よろしく」
「よろしく」
三人の名を聞いた時、恋と徐晃の目に剣呑な光が宿ったことに三人は気付かない。
「さぁ、これでいいでしょ。次はあなたたちの番。名前、教えなさい」
「呂」
「徐」
彼らの口から告げられたのは自らの性。
「字は、奉先」
「同じく、公明」
そして字が告げられる。
「あれ?呂奉先と徐公明ってどこかで聞いたような……?」
「……あっ!呂奉先と徐公明って、まさか!」
その時、太陽にかかっていた雲が消え、陽光が背中合わせに立つ二人にさんさんと降り注いだ
「董卓軍所属」
「第一師団師団長、呂奉先」
「流浪の傭兵、徐晃公明」
『目的』
『北上してくる黄巾党の殲滅』
「だから、張角、張宝、張梁。」
「三人揃って……ここで死んでいけ」
「――――――――――!!!」
「ねね」
「桂花」
『はっ!!』
『旗をあげろ』
『御意!!』
「天公将軍、お逃げください!」
「ほかの二人も早く!!」
「う、うん!」
「くっ……」
「わ、わかった!」
「いいか、命に代えても三人をお守りするのだ!」
「応!」
『遠からん者は音にも聞け!近くば寄って目にも見よ!!』
「青天に翻るは血で染め抜いた真紅の呂旗!」
「青き空の下で風を受けはためくは、漆のごとき黒に鮮血で描かれた鬼一文字!」
「悪鬼はひれ伏し、鬼神も逃げる!」
「仏を退け、神をも殺す!」
「天下に名を轟かせる、董卓軍の一番槍!」
「昏い地獄より再臨せし、古今無双の戦人!」
「飛将軍、呂奉先の旗なり!」
「鬼ヶ島の鬼、徐公明の旗印!」
「天に唾する悪党どもよ!」
「その目でとくと!」
『仰ぎ見るがいい(のです)!!!』
「われらの使命は獣の屠殺」
「遠慮は無用」
『かかってこい』
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これで見習い卒業です。
恋のみた鬼ヶ島の鬼。それはいったい何者なのか……
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