パチパチと。
火花の飛び散る音だけが、静かにしていた。
赤々と燃える焚き火をはさみ、背を向けて座る二人の男女。
一刀と桃香である。
先の戦で川に落ちた二人は、かなり下流の方まで流された。
先に目を覚ましたのは桃香だった。
そして、すぐそばに倒れていた兄を見つけ、近くにあった洞穴に運び込んだ。
洞穴の中に散乱していた木片を使って、どうにかこうにか火をおこし、濡れた衣服を脱ぎ、腰紐を使って乾した。
・・・少々ためらったが、仕方なく兄の服も脱がせようと、手にかけたその時、
「う・・・。・・・とう・・・か?」
「あ」
目を覚ました兄と目が合った。
「おまっ!な、なんではだ・・・!!」
「きゃあああっっっっ!!!見ないでぇっっっっ!!」
バッチーーーーーン!!
思わずひっぱたいた桃香だった。
どれほど時が立ったろうか。
焚き火をはさんで背を向けたまま、何もしゃべらない二人。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
さらに続く沈黙の時間。
やがて、桃香が口を開く。
「・・・ね、お兄ちゃん。二人っきりになるのって、なんだかずいぶん久しぶりだよね」
「そう、だな。・・・まあ、二人ともこんな格好だけどな」
苦笑する一刀と、顔を赤らめる桃香。
「・・・あれから、どうなったのかな」
「さあな。・・・みんな、無事だといいけど」
「無事に決まってるよ、みんな」
「・・・だな」
・・・・・・・・・・
再び訪れる沈黙。
しばらくして、
「・・・あの人、強かったね」
「ああ」
一刀は先に戦った、貂蝉と名乗った女性を思い出す。
・・・実力差は、大人と子供。
それが、一刀自身の素直な感想だった。
「・・・次は、勝てそう?」
「・・・無理だろな。・・・”あれ”を使えば話は別だけど」
「!!でもあれは・・・!!」
一刀の発言に、思わず振り向く桃香。
「わかってるよ。”あれ”は負担が大きすぎる。下手をしたら、再起不能にだってなりかねない」
一刀は自身の靖王伝家を、じっと見つめる。
「無理はしちゃだめだよ。・・・おにいちゃんに何かあったら、あたしは・・・」
桃香の言葉に、なにも答えない一刀。
「・・・ね、お兄ちゃん。昔話したあたしの夢、覚えてる?」
「・・・大陸に住む人すべてが、笑顔で暮らせるようにしたい、だろ」
うつむいて、首を振る桃香。
「そっちじゃないよ。もっと小さいころに言った、あの夢」
「・・・」
やはり答えない一刀。
桃香は意を決し、
「あたしの将来の夢は、お兄ちゃんのおよ」
「言うな!!」
「・・・っ!!」
桃香の言葉をさえぎる一刀。
「・・・言っちゃ駄目だ。・・・俺たちは、実の、兄妹なんだ」
立ち上がり、乾してあった服に手をかける一刀。
「・・・服、もう乾いてる。ここを出たら、みんなを探して合流しよう」
衣服を身に着け、桃香の方は見ないように、出口へと歩き出す一刀。
と、
ポフ。
「!!」
その背に桃香が抱きつく。
「・・・なんで、あたしたち兄妹なんだろ。・・・なんで、兄妹として生まれてきたんだろ?」
その声が震え、いつしか、涙を浮かべる桃香。
「兄妹じゃなかったら、こんな苦しい想い、しなくてすんだのに、なんで、一刀はあたしのお兄ちゃんなの?」
嗚咽を漏らしながら、想いのたけを口にする桃香。
「桃香・・・」
「・・・え?」
突然、体を桃香の方に向け、抱きしめる一刀。
「おにい、ちゃん・・・?」
「・・・桃香。お前は俺が絶対に守る。・・・何があっても、何をしても、だ。・・・今は、これで勘弁してくれ。・・・な?」
桃香の顔を見て言う一刀。
「・・・うん」
一刀の胸に顔をうずめる、桃香。
「だからとりあえず、服を着て外に出よう。・・・目のやり場に困るから」
「ほえ?」
自分が、裸で一刀に抱きついていることを、ようやく思い出す桃香。
「き、きゃあ!!あっち!あっち向いてて!!」
「あ、ああ!!」
顔を真っ赤にして、慌てて振り向く一刀であった。
それからしばらくして、洞穴から外へ出た二人。
「さて、まずは現在位置の確認だな。川に落ちたのが、あのあたりだろ」
はるか上流のほうを見やる一刀。
「ずいぶん流されたね。・・・え~~~と、汝南・・・ん~、荊州に入っちゃってるかな?」
「多分な。・・・我ながら、よく生きてたもんだ。・・・ん?」
「お兄ちゃん?」
川を挟んだ、反対側の森を見つめる一刀。
「・・・誰か、来る」
「え?」
「・・・あれ?この感じ・・・。この気は・・・」
がさがさ。
木々が揺れ、そして、
「・・・・・・・・・・・・・・・・・一刀?」
「「恋(ちゃん)!?」」
思わぬ場所で、思わぬ人物との再会。
そこに現れたのは、真紅の髪の少女。
恋こと、呂布奉先であった。
Tweet |
|
|
112
|
9
|
追加するフォルダを選択
刀香譚、第十九話です。
虎豹騎との戦いのさなか、
川に転落した一刀と桃香。
続きを表示