No.156383

真・恋姫無双 刀香譚 ~双天王記~ 第十八話

狭乃 狼さん

刀香譚、十八話です。

いよいよなぞの軍勢とぶつかる一刀たち。

その正体は?

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2010-07-09 11:51:18 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:20598   閲覧ユーザー数:17395

 「見渡す限り、黒一色だな」

 

 一刀が眼下に広がる光景に、そう感想する。

 

 「顔も黒い布で隠していますね。やはり旗は無いようで」

 

 その隣で体を伏した関羽が言う。

 

 汝南での戦の後、華雄から報告を聞いた一刀は、兵士たちを休ませるため、そして、自身の目で相手を確認するため、関羽と華雄を伴って自ら偵察に出た。

 

 「どうだ二人とも。どこの軍か判るか?」

 

 同じく、一刀の横で伏せる華雄が二人に問う。

 

 「いや」

 

 「私もだ。強いて言えば、曹操どののところの軍勢に似てはいるが、もっとも特徴的な髑髏の装飾がない」

 

 「はずしているだけと言う可能性は?」

 

 華雄が関羽に問い返す。

 

 「ありえないな。それに、兗州はごたごたの真っ最中だし、華琳もいないんだ。ここにいる可能性は低いよ」

 

 関羽に代わり、答える一刀。

 

 「その線でいくと、荊州軍もないか」

 

 「・・・完全に、正体不明、ですね」

 

 

 

 その正体不明軍の陣中。

 

 「・・・王双が死んだわ」

 

 黒衣をまとい、鏡の前に座る女性が言う。

 

 「ふん。どうせ力しか能の無い男よ。私たちと同列にいること自体が、おこがましかったのよ」

 

 今度はその後ろに立つ、まったく同じ黒衣の女性が、吐き捨てるように言う。

 

 「・・・それは、彼を選ばれた仲達さまをも否定することにならない?」

 

 「・・・そうね。失言だったわ、訂正する。それより、近くにネズミが三匹ほどいるけどどうする?”あいつ”もそこにいるわよ?殺るなら今だと思うけど?」

 

 ピーーーン、と。立っているほうの女性が、手に持った琴を爪弾き、言う。

 

 「・・・無駄よ」

 

 「何故?」

 

 「あの男、今回はあくまで、この外史の住人よ。正真正銘の、ね」

 

 「つまり、あいつを殺っても、影響は無いと?」

 

 少しむっとする、琴を持った女性。

 

 「まったく無いとは言わないわ。けど影響はうすいわね。だから」

 

 「やつを殺すのは、あくまで過程のひとつに過ぎん」

 

 突如、天幕の中に響く声。

 

 「「仲達様」」

 

 座っていた女性も立ち上がり、二人そろって振り向き、拱手する。

 

 そこには、いつの間にか男が一人立っていた。

 

 やはり、その衣装は漆黒。顔も黒い仮面で隠していた。

 

 

 

 「”影”を我々の元に放たれるということは」

 

 「いよいよで?」

 

 「そうだ」

 

 二人に問われてうなずく、仲達と呼ばれた男。

 

 「仕込みはすべて整った。人形も洛陽で動き出す。お前たちも予定通りに動け」

 

 「「御意」」

 

 二人が頭を下げて返事をすると、フッ、と掻き消える”仲達”の姿。

 

 「さてと、久々の戦ね。・・・フフ、今回はどれだけの血が浴びれるかしら?」

 

 ぺろりと、舌なめずりをする琴を持った女性。

 

 「・・・戦か。私はあんまり好きじゃないのだけど」

 

 「殺すより、手玉に取るほうが得意だものね、あなたは」

 

 「だって楽しいじゃない。馬鹿な男どもがいい気になっているのを見るのは」

 

 にやりと笑い、傍に立て掛けてあった戟を手に取る女性。

 

 「悪趣味なことで。・・・では、そろそろいくとしますか、”貂蝉”」

 

 「ええ、いきましょう。”蔡琰”」

 

 天幕を出る二人。

 

 その二人の前には、総勢五万の漆黒の軍勢。

 

 「さあ、皆の者!!出陣のときよ!!」

 

 「われらが精兵たちよ!死をも恐れぬ死兵ども!!思う存分に舞うが良い!!」

 

 一拍おいて、

 

 「「虎豹騎、出陣!!」」

 

 

 「なんなのだこいつら!斬っても突いても、まったく怯まんぞ!!」

 

 自身に襲い掛かる黒ずくめの兵士たちを、次々となぎ払う華雄。

 

 だが、彼らは怯むどころか、声一つ上げず、味方が倒されても何の反応もしない。

 

 近くにいた兵士が、

 

 「しょ、将軍!味方は完全に押されています!!このままでは総崩れに、ぎゃあ!!」

 

 背後から斬られ、絶命する兵士。

 

 「っ!!貴っ様らあああああ!!!!」

 

 金剛爆斧をふるい、十人ほどを吹き飛ばす華雄。

 

 (一刀、無事でいてくれ。お前が死んだら私は・・・)

 

 そう思考する華雄に、さらに襲い掛かる黒衣の兵士たち。

 

 「くっ!全軍退けっ!!無理はするな!!体勢を立て直し、隊伍を整えて後退するんだ!!」

 

 

 

 偵察を終え、本陣に戻った一刀たちは、黒ずくめ軍への対応を話し合っていた。

 

 そこへ、その黒ずくめ軍が、汝南方面に進軍を開始したとの報告が、もたらされた。

 

 対応も策も何も決まっていなかったが、仕方なかった。

 

 汝南での戦いで取り込んだ、周倉、陳到の二人の将兵も含めて、敵にあたることになった。

 

 そして、大急ぎで出陣の支度を整えた、その時だった。

 

 「趙雲さん?!何故あなたがここに?!」

 

 一刀たちの下を、以前平原で知り合った趙雲が、突然訪れた。そして、

 

 「柊どの、琥珀殿に、翡翠殿も!その姿は一体?!」

 

 思わず声を上げる関羽。

 

 そう。

 

 趙雲は徐州で留守番をしているはずの、孫乾、糜竺、糜芳の三人を伴っていた。

 

 だがその姿は、着ている衣はボロボロ、全身は傷だらけという状態だった。

 

 「申し訳ありません!!」

 

 孫乾がその場に土下座をする。

 

 「柊さん?!」

 

 「すべては私の責任です!!陳父子を侮った私の・・・!!」

 

 ボロボロと涙を流す孫乾。

 

 「一刀様から頼まれたとおり、陳珪、陳登の父子に、一刀様に協力してくれるよう交渉しました。ですが・・・」

 

 そう、一刀は徐州を発つ前、先に反乱を起こして囚われていた、徐州の名士である陳父子に、徐州のために協力してくれるよう、孫乾に交渉を頼んでいた。

 

 そのとき、孫乾はなぜか肩を落としてため息をついていたが。

 

 「・・・渋りながらも、徐州のためならばと、協力を約してくれました。ですが・・・」

 

 「その三日後です。どこから集めたのか、全身黒ずくめの軍勢を伴い、城を襲ってきたのです」

 

 「黒ずくめの軍だと!?」

 

 「ああ。・・・どうかしたのか?」

 

 驚く華雄に糜芳が問う。

 

 「一刀、まさかと思うが」

 

 一刀のほうを見る華雄。

 

 「趙雲さんには、そこで助けてもらったってことでいいかな?」

 

 「・・・はい」

 

 うなだれる三人。

 

 一刀はその三人の傍に歩み寄り、そして、そのまま三人を抱きしめた。

 

 

 「か、一刀さま?!」

 

 「一刀さん?」

 

 「一刀?」

 

 「良かった・・・。三人が無事で・・・。ほんとに・・・」

 

 震える声で言う一刀。

 

 それを聞いた三人は思った。

 

 (((一生この人についていこう)))

 

 と。

 

 「「おっほん!!」」

 

 わざとらしく咳払いをする、劉備と関羽。

 

 「そ、そうだ。趙雲さん、三人を助けてくれて、本当にありがとう」

 

 慌てて三人から離れ、趙雲に頭を下げる一刀。

 

 「なに。もともと劉翔殿に仕官するつもりで、徐州に赴いたのです。手土産代わりにはなりましたかな?」

 

 笑顔で言う趙雲。

 

 「十分すぎますよ。・・・歓迎します、趙雲さん」

 

 「星、とお呼び下さい。この趙子龍、我が槍を貴殿にお預けいたす」

 

 そして、許方面から進軍してきた黒い軍団との、戦端が開かれた。

 

 

 

 「はあっはっはっは!!これがあの関雲長の実力か!?・・・ふざけてんのか、ごらあ!!」

 

 その美貌からは想像もつかないような、汚い言葉を関羽に向ける蔡琰。

 

 「ぐっ・・・。なんなのだこいつ。呂布や義兄上、いや、それ以上の武だと?」

 

 全身ボロボロになり、肩で息をしながらも、偃月刀を構える関羽。

 

 「ふん。これじゃあ、”月氏琴”を使う必要も無いわね。・・・死んどけよ、弱いやつあよう!!」

 

 剣を振り上げる蔡琰。

 

 「そうはさせないのだ!!」

 

 がきいん!!

 

 蔡琰の剣を弾き飛ばす、一つの影。

 

 「鈴々!!」

 

 関羽の隣には、いつの間にかやって来ていた張飛が立っていた。

 

 「愛紗!無事なのか!?」

 

 「ああ。助かったぞ、鈴々。・・・気をつけろ、こいつ、義兄上以上に強い」

 

 「わかってるのだ。・・・おまえ!!今度は鈴々が相手なのだ!!」

 

 蔡琰に蛇矛を向ける張飛。

 

 「あらあら、可愛いお嬢さんだこと。こんなおちびちゃんが張飛ねえ」

 

 フ。

 

 「え?」

 

 「にゃ?!消えたのだ!!」

 

 「こっちよ」

 

 どがっ!!

 

 「にゃあっ!!」

 

 突然背後に現れた蔡琰に、吹き飛ばされる張飛。

 

 「鈴々!!」

 

 「くっくっく。・・・さ、それじゃあ姉妹仲良く、逝っときな!!」

 

 

 「あらあら。そんな怖い顔しちゃだめよ?かわいい顔がだ・い・な・し・よ?」

 

 一刀と対峙するは貂蝉。

 

 「・・・お姉さんこそ。美人なのにやることがえげつないね」

 

 息を乱しながらも、貂蝉に対して笑ってみせる一刀。

 

 貂蝉は一刀に対して、わざと致命傷を与えず、ちくちくと傷を負わせていた。

 

 「お褒めいただき光栄だわ。お姉さんお願いがあるんだけど、その首、自分で落としてくれないかなぁ?そうしてくれたら、お姉さんうれしいんだけどな」

 

 にっこりという貂蝉。

 

 「・・・やなこった」

 

 「そう。それじゃあ仕方ないわね。・・・死になさい」

 

 笑顔から一転、冷徹な表情になって言う貂蝉。

 

 そこへ。

 

 「お兄ちゃん!!」

 

 「!!馬鹿!来るな桃香!!」

 

 駆け寄ってくる劉備を制止しようと、大声を張り上げる一刀。

 

 「ふーん。あれがこの外史の劉備ね。・・・くす。良い事思いついちゃった」

 

 ふっ、と。

 

 貂蝉の姿が掻き消える。

 

 「「え?」」

 

 と、一刀と桃香が思った瞬間、

 

 ガシッ!

 

 「キャアッ!!」

 

 背後から黒鎧の兵士に、羽交い絞めにされる劉備。

 

 「何!?いや!放して!!」

 

 劉備がもがく。しかし、一向に振りほどけない。

 

 「クスクス。だめよ、劉備ちゃん。おとなしくしてないと。でないと・・・」

 

 ビリリリィィィィィ!!

 

 「い・・いやあああああ!!!!」

 

 劉備の服を真っ二つに引き裂く。

 

 「桃香!!」

 

 「あらあら、かわいい声。それに、きれいな胸。クス。ねぇ、劉翔ちゃん?あなた、この娘が欲しくない?・・・もちろん、”妹”としてじゃなく、”女”として」

 

 「「!!」」

 

 「だって、劉翔ちゃんてば、実の兄妹なのにこの子を「黙れ!!」・・・!!」

 

 貂蝉の言葉を、大声でさえぎる一刀。貂蝉は思わず気圧される。

 

 「それ以上ぬかすな。・・・殺すぞ」

 

 「お兄ちゃん・・・」

 

 (この人、今なんて言おうとしたの?お兄ちゃんがあたしを・・・?本当に?)

 

 ほぼ全裸の状態で敵に捕まっているのに、喜色を顔に浮かべる劉備。

 

 その時だった。

 

 

 どおおおおおおーーーーんんんん!!!

 

 突然、大地が揺れた。

 

 「なに?!」

 

 貂蝉の気が、わずかにそれる。

 

 「!!このおっ!!」

 

 劉備が、兵士を背負い投げで貂蝉の方に投げ飛ばす。

 

 「な!しまった!!」

 

 体制を崩す貂蝉。

 

 「桃香!!」

 

 「お兄ちゃん!!」

 

 互いの元へ駆け寄ろうとする、一刀と劉備。

 

 「おのれぇ!よくも私の美しい顔に!!二人そろって死ねぇええええ!!!!」

 

 ブオンっ!!

 

 先ほどまでとはうって変わって、鬼女のような形相で、二人に向かって戟を投げる貂蝉。

 

 「あぶない!!」 

 

 「え?きゃ!!」

 

 戟をよけた弾みで、傍を流れる川のほうへ倒れこむ一刀と劉備。

 

 そして、

 

 ガラッ。

 

 「「え?」」

 

 がらがら、どどおおおおんんん。

 

 「うわあああああ!!」

 

 「きゃあああああ!!」

 

 二人の乗った地面が崩れ、そのまま、川の中へと落ちていった。

 

 「ちっ!!・・・まあいいわ。・・・それより、よくも邪魔してくれたわね、この偽者が」

 

 「あ~~ら。ご主人様を守るのが、私のす・べ・て・だもの。当然でしょ?・・・さて、やるのかしら?」

 

 「冗談。筋肉だるまと取っ組み合う趣味は無いの。じゃね」

 

 すう、と。

 

 それだけ言って消える貂蝉。

 

 「・・・懲りない人たちね、ほんと。・・・ご主人様、桃香ちゃん、生きてなきゃ、駄目だからね。仲達を止められるのは、あなたたちだけなんだから」

 

 

 その後。

 

 徐州軍は黒鎧の軍勢、虎豹騎によって壊滅。

 

 将たちも行方知れずとなった。

 

 それから数日後。

 

 洛陽で、元十常待筆頭、張譲によってクーデターが勃発。

 

 皇帝劉弁、相国董卓、賈駆文和の三名が死亡。

 

 劉弁の妹である協は、禁軍将軍・曹操の手により、兗州へと逃れた。

 

 また、涼州においても、大将軍・馬寿成、長安太守・慮植の二人が、匈奴の者たちによって討ち死にした。

 

 洛陽にいた馬騰の子、馬超と、その従姉妹・馬岱の二人は、洛陽からの脱出後、行方不明となった。

 

 時に漢の黄平三年。

 

 時代は混迷の渦へと、巻き込まれていくのであった。

 

 


 
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