「ご無沙汰してます、丁原さん。お体のほうはもうよろしいようですね」
一刀が主座に座る女性に、拱手して言う。
「劉翔殿も劉備殿も、ご無事で何よりです」
座したまま答える女性。
ここ、荊州は宛城の城主で、荊州刺史である丁原、字を建陽という。
体の治った丁原は、長安太守である櫨植の勧めで、現役復帰。呂布と陳宮を伴い、この地に赴任していたのである。
「改めて御礼を。私たちを保護していただき、感謝いたします」
深々と頭を下げる劉備。
「いえ、お気になさらず。お二人はいわば私の命の恩人。礼には礼を以って尽くすのが、人として当然のことですわ」
「・・・ん」
丁原の言葉に同調し、うなずく恋。
「それにしても、お二人ともよくご無事だったのです。徐州軍は黒い鎧の軍勢に壊滅させられたと、聞きましたのですぞ」
「ねね!!」
陳宮の発言を諌める丁原。
「あ」
陳宮は丁原にしかられ、はたと気づく。
一刀と劉備が、無念の表情でうつむいていることに。
「申し訳ありません、お二人とも」
頭を下げ、謝る丁原。
「・・・いえ。予想は出来ていたことです。・・・ですが」
「私たちは信じています。・・・みんな、無事であると」
顔を上げ、一刀と桃香が言う。
「とりあえず、お仲間のことはこちらで探させます。お二人は、しばらくここでごゆっくりなされませ」
「「ありがとうございます」」
一刀と劉備が丁原に保護され、その客将となってから、瞬く間に時は一月ほど過ぎた。
その間、いくつかの知らせがもたらされた。
洛陽では、元十常待の張譲が乱を起こし、劉弁皇帝、董卓、賈駆の三人が死亡し、劉協は曹操の手で脱出し、陳留へ逃れた。
涼州では、馬騰と一刀たちの恩師である慮植が、匈奴に討たれ、馬超・馬岱の二人も行方不明になった。
冀州では、どういうわけか、袁紹がその勢力を大きく回復し、幽州の公孫賛に宣戦を布告した。
揚州では孫堅が、州全体をその統治下に置き、今度は荊州を狙って動いているという。
また、陳留に逃れた劉協が十四代皇帝への即位を宣し、兗州・曹家における一族同士の争いも、曹操が戻ったことであっさりと収まり、曹操は劉協の後ろ盾を得て、勢力拡大に動き始めた。
大陸は、まさに群雄割拠の様相を呈してきたのである。
そんな情勢の中、一刀たちはというと。
「せりゃあああああ!!!」
「・・・!!」
ガキィッッッ!!!
一刀の靖王伝家と、呂布の方天画戟が激しくぶつかる。
一刀は今、宛城の練武場で、呂布と練武の最中だった。
言い出したのは一刀のほうである。
「・・・一刀、すごく強い。でも、恋はもっと強い」
そう言って、戟を次々に繰り出す恋。
一刀は受けるのが精一杯といったところである。
「恋ちゃん、すごい。お兄ちゃんをあんなに圧倒できる人、あたし見たことない」
そう感想を漏らす劉備。
「劉翔どのもなかなかのものですよ。あの子があんなに楽しそうなのは、久々に見ましたわ」
劉備の感想に、そう答える丁原。
「あ!!」
「・・・終わり」
「くっ!!・・・うわっっっ!!」
呂布の戟を靖王で受け止める一刀。だが、そのまま吹き飛ばされ、壁に激突した。
「おにいちゃん!!」
練武場の中へと入っていく劉備。
「・・・あいててて。・・・やっぱ、恋は強いな」
頭を振りながら言う一刀。
「大丈夫?お兄ちゃん」
手を差し伸べる劉備。
「ああ。・・・よっと」
劉備の手を借り、何とか立ち上がる一刀。
「・・・けが、してない?」
一刀の傍に近寄り、心配そうに言う呂布。
「ああ。大丈夫だよ。ありがとな、恋。稽古に付き合ってくれて」
「・・・ん。じゃあ、恋はセキトたちのご飯の時間だから、行く」
「うん。また頼むね、恋」
にこりと微笑む一刀。
その笑顔を見て、ぼっ!と、一瞬で真っ赤になる恋。
そしてそのまま走り去る。
「どうしたんだ?恋は」
「・・・おにいちゃん。ほんと、ちょっとは自覚もとうよ」
一刀の発言に、嫉妬を通り越して、思わずため息をつく劉備だった。
「ははうえどのー!一刀どのー!よい知らせですぞー!!」
「ねね?」
手を振りながら、一刀たちの下へ走ってくる陳宮。
「どうしました、ねね。よい知らせとは?」
丁原がはあはあと息をする陳宮に問う。
「たった今、この城に流れ着いた一団がいるのですが、聞いて驚くなかれ、それがなんと!愛紗どのたちなのです!!」
「「なんだって!?」」
驚きの声を上げる一刀と劉備。
「今、こっちに案内させているので、もう・・・あ、来たのです!!」
陳宮の示すほうを見る一刀と劉備。
そこにいたのは。
「愛紗!鈴々!星!華雄!輝里!」
「五月さん!藍ちゃん!蘭ちゃん!柊さんに、琥珀さん、翡翠さん!!」
徐州軍、全員の、無事な姿だった。
そしてその夜、全員の無事を祝う宴が催され、一同は再会を喜び合った。
そして、ここにいたるまでの事も聞いた。
関羽と張飛は周倉・陳到と輝里とともに、生き残りの兵たちとともに、揚州方面を抜け、荊州を北上。襄陽で一刀たちの消息を聞き、ここにいたった。
趙雲と華雄は孫乾、糜姉妹を守りながら、洛陽へと一旦は逃れたものの、張譲の反乱劇によって逃亡を余儀なくされ、何とか洛陽を脱出し、現在に至るというわけである。
そして、趙雲たちは、予想外の人物たちを伴っていた。
「よくご無事でした・・・陛下」
「陛下は寄せ。朕・・・いや、妾はもう皇帝ではない。陳留にいる協が今の皇帝じゃ。・・・ゆえに、今ここにいるのはただの死人。・・・劉封と言う名のな」
そう。洛陽で死んだはずの劉弁、いや、いまはその名を変え、劉封と名乗っているその人物と、そして、
「月も詠も本当によかった」
「ありがとうございます。一刀さん」
「・・・あ、ありがと」
劉封とともに死んだとされていた、董卓と、その軍師・賈駆も、無事生きてこの場にいた。
「ところで一刀よ。これからどうする?洛陽の謀反人を討伐するにしても、兵はぜんぜん足りるまい?」
劉封が一刀に問う。
「そうですね。・・・兵もそうですけど、ほかにもうひとつ、手に入れたいものがあるんです」
「ほかに・・・ですか?なんです?」
関羽が問う。
「・・・軍師」
「お兄ちゃん、軍師ならここに輝里ちゃんがいるじゃない?」
劉備がその場にいる徐庶の方を見て言う。
「確かに、輝里は優秀な軍師だよ。戦術家としてね。けど、俺が欲しいと思ってるのは戦術家じゃない。十年、二十年、さらにその先を見据えることの出来る、戦略家、そして、政略家なんだ」
一刀の視線は、はるか遠くを見ていた。
自分と同じ、もしくはそれを超える、大局を見ることの出来る眼を持つ人物。
それこそ、一刀がいま、求めてやまない人材だった。
「・・・あの二人なら、その希望に応えられるかも」
「え?」
ポツリとつぶやく徐庶の言葉に、一刀が反応する。
「いるのか、輝里?そんな人物が、本当に?」
「うん。その二人、あたしと同じ水鏡塾の門弟で」
「伏竜こと、諸葛亮孔明、そして、鳳雛こと、龐統士元。だよ」
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第二十話。
恋と再会した一刀と桃香。
彼女に連れられ、訪れた場所は・・・。
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