「なっ…!!一体何を言い出すのですか桃香様っ!!」
突然の劉備の発言に大声を上げる関羽
「落ち着け愛紗。桃香様とて考えがあっての事であろう。そのお考えを聞いてからでも遅くはあるまい」
そんな関羽を趙雲が宥めるが、今度は諸葛亮が声を上げる
「こんな状況で董卓さんが話を聞いてくれるとは思えません!!危険すぎます!!それに、もし話を聞いてくれたとしても何を話す気ですか!?今更謝罪をしても…!!」
そういって何とか劉備を押し止めようと必死に説得する諸葛亮
だが、対する劉備はそんな二人の目をしっかりと見据え答えた
「謝ろうなんて考えてないよ朱里ちゃん。今、私が謝っても董卓さんには届かないと思うから。ここで謝っても、それは私の自己満足だもの」
それでも、と劉備は続ける
「…ただ、私も董卓さんも、本心を分かり合って無いんだと思う。平和を望んでいたはずの董卓さんの、今の本当の気持ちが知りたい。私が思っていることを董卓さんに伝えたいの…!!」
そういって関羽たちを強い眼差しで見つめた
「で、ですが、危険でっ…!!」
「いや、朱里。桃香様がこの目をなされた時は、私達が何をいっても聞いては下さらぬさ。…なあ、愛紗」
それでも尚、劉備に諫言を言う諸葛亮を押し止めながら趙雲が関羽に振る
「…星の言う通り、こうなった桃香様を止める事はできんだろうな」
嘆息する関羽に続き、張飛が言う
「鈴々は、難しい事はわかんないのだ!!でも、お姉ちゃんのお願いなら鈴々は叶えてあげたいのだ!!」
その張飛の言葉をきき、関羽と趙雲は苦笑してしまう
「ふふっ、鈴々が一番分かっているようだ。…我等は桃香様の矛。桃香様が望むのであれば、その道を切り開くのが我等の役目だ」
「そういうことだな、愛紗。…朱里。お前の気持ちも分かるが、ここは桃香様に賭けてみんか?」
趙雲の言葉を聞いて、渋りつつも諸葛亮が答える
「…分かりました。ですが!!桃香様がお戻りになるまでは軍を退く事はできませんからね!!前線で指揮を取ってる雛里ちゃんに守りに徹して貰って、桃香様が帰ってきたら直ぐ退けるようには準備しておきますから!!」
「ありがとう。朱里ちゃん、皆」
そういって四人に礼を言いつつ、劉備が戦場を見据え言った
「董卓さんの元に向かいます!!皆、私に力を貸して!!」
「「「「応っ!!!」」」」
そうして劉備は三将軍を引き連れ、董卓軍の牙門旗を目指し本陣を出立するのだった
「ええいっ!!道を開けぃっ!!」
「邪魔するなー、なのだぁ!!」
「通して、通してください!!」
敵味方入り乱れる戦場を劉備達は突き進む
幸か不幸か、董卓軍は本隊ごと突き進んで来ていた為、董卓のいるであろう本陣との距離も自ずと近くなっていた
その上で関羽、趙雲、張飛の三人の力をもってすれば、辿り着くことも不可能では無いかとおもわれた
しかし、牙門旗が見えてきたところでその行軍を遮るものがあった
「見つけたでぇ!!」
「くっ!!…張遼かっ!!」
劉備たちの行く手を阻むかのように霞が切り込む
それを受けつつ、関羽は苦虫を噛み潰したような顔をして唸った
「劉備の牙門旗探して本陣向かっとったら、まさか自分から来るとはなあ。…覚悟せい、劉備!!」
そういって堰月刀を構える霞
「…仕方ありません、桃香様。…張遼!!無理にでも押し通らせて貰うぞ!!桃香様達はお先に!!」
そういって関羽も武器を構える…だが
「そうはいかん。…我々も混ぜてもらうぞ、関羽!!」
「……劉備!!」
「なっ!!」
いざ勝負を始めようとした矢先、そこに二人の武人が割り込んでくる
「華雄、それに呂布までとはな…!!」
董卓軍が誇る三人の将軍を前に関羽が冷や汗を流しつつ呟く
「なんや華雄。あんた等まで来ることは無かったっちゅうに」
不満そうに言う霞に華雄が答える
「敵は守りに徹していて、歯ごたえが無いのだ。そんな時に劉備本人が動いて来た…これを見逃す手はあるまい。指揮はねねに任せてきたし、恋もこの通りだしな」
華雄が隣にいる恋を見つつ言う
「……」
当の恋は無言ではあったが、その威圧感はいつもの比ではなかった
そんな三人の武威に押されながらも劉備は叫ぶ
「私は董卓さんに話があるんです!!通してください!!」
「今更何を話すっちゅうねん!!」
劉備の言葉に霞が怒鳴る
「霞の言うとおりだ。…貴様等はここで討たせて貰うぞ!!」
「…お前等、許さない…!!」
華雄と恋も、そう言うと武器を構える
「…桃香様。ここは我らが命に代えても止めて見せます。その間に…「そんなの駄目!!」っ!!」
関羽の言葉を大声で遮る劉備
その勢いのまま、劉備は叫び続けた
「誰かが犠牲になるなんておかしいよ!!そんなの、絶対許さない!!」
「桃香様…」
関羽が呆然としつつ言うが、劉備は更にあらん限りの声で叫ぶ
「董卓さん!!聞こえたら出てきてください!!私は貴方に言いたい事があるんです!!!!!」
「劉備!!あんた何自分勝手なことを…!!」
そういって霞が堰月刀を構え切りかかろうとする…だが、そんな彼女を止める声が後ろから聞こえてくるのだった
「待ってください、霞さん」
「なっ!?」
その声に驚いて後ろを振り向く霞たち
彼女達の視線の先には…彼女達の主君の姿があった
「何でここに…!!それに、何故止めるのです!!」
突然の主君の登場に華雄が驚きつつ聞く
そんな華雄に月が答えた
「華雄さんごめんなさい。でもここまできて、まだ言いたい事があるという劉備さんの話が気になったんです。…それで、この期に及んでなんのお話ですか?」
月は劉備に向き直って問いかける
その視線を真っ向から受け、劉備は話し始めた
「話を聞いてくれて、ありがとう董卓さん。…この戦、こんな悲しい戦、今すぐ止めましょう!!」
その劉備の言葉に、月は落胆の表情をしつつ答える
「その話は開戦前にしたはずです。それとも、まだ謝れば済むなんて…」
「謝って済む事では無いのはわかってます。それに、私の話はそれだけじゃありません!!」
劉備が月の言葉を遮る
その言葉に若干驚いた月に向かって、劉備が叫ぶように言い放った
「開戦前に貴女が非難していいって言ったから言わせて貰いますけど、何で兵を上げたんですか!?平和を目指していたんじゃないんですか!?」
「っ!!」
劉備の言葉に一瞬圧されつつも、月も怒気を放ちつつ答える
「何を今更…!!貴女達が先に仕掛けてきたんじゃ無いですか!!それを棚に上げて何を…!!」
「棚に上げてなんて無い!!私達が悪いのなんて分かってる!!でも、だからって戦を起こして、荊州の人達を巻き込んで!!貴女は平和を望んでたんじゃ無いんですか!?」
どんどんヒートアップしていく二人
その声は最早戦場全体にすら響くほどの叫びとなっていた
「平和を望まない訳が無いじゃないですか!?私たちはその為に今まで頑張ってきたんです!!貴女に、部下も統率出来ない貴女にそれを言われる筋合いはありません!!!」
「だったらなんで戦を起こしたの!?戦じゃなくて、私自身を責めればよかったじゃない!!」
「貴女に何が分かるって言うんですか!?私たちの気持ちが分かるとでも言うんですか!?大切な人を目の前で傷つけられた私達の気持ちが、悲しみが!!貴女に分かるはずありません!!!」
「確かに分からないかも知れない!!でも、それだって貴女が言ってくれないからじゃない!!」
「自分勝手なこと言わないで下さい!!」
「自分勝手なのは董卓さんも同じでしょ!?私達は神様じゃ無いんだから、何でも分かるわけじゃないの!!だからこそ、戦を起こす前に気持ちを伝えて欲しかった!!!」
「そうしたって私達の悲しみが無くなる訳じゃないでしょう!?結果は同じです!!」
「同じじゃない!!少なくとも、お互いの気持ちが分からないまま戦いを始めてしまうことは無かった!!こんな悲しい戦いになる事は無かった!!!」
二人の気持ちのぶつかり合いは留まる事を知らなかった
その二人の言葉に、関羽たちや霞たちはおろか周りの兵達も手を止めて二人の言葉に釘漬けとなる
蜀兵は月の思いと、自分の君主の本心に触れ
董卓兵は劉備の必死の言葉と、今まで見たことの無いほど叫ぶ月を見て
二人を中心に、兵達は次々と戦の手を止め、二人の言葉に聞き入っていった
「連合の時だってそうじゃない!?袁紹さんが檄文を出した時は何も言わなかったのに、いざ戦が始まってから本当の事をいい始めて!!もっと早く本当の事を話せば良かったじゃない!!!」
「今はそんなこと関係ないでしょう!?それに、あの時点で誰が私達を信用してくれるって言うんですか!?」
「少なくとも私は信じたよ!!皆もそうだったかも知れないじゃない!!」
「甘い事ばっかり言わないで下さい!!貴女のいっている事は奇麗事ばかりです!!」
「奇麗事もいえないよりはマシだよ!!人を信じることが出来なくなるよりはよっぽどマシ!!それに董卓さんだって間違ってる!!御使いさんだってこんな事望んで…!!」
「貴女が、貴女なんかが一刀さんのことを知ったようにいうのは止めてください!!!!!」
一際大きな月の叫びに、劉備が一瞬竦んでしまう
「間違ってるのだって分かってる!!分かってますよ!!!それでも貴女が許せなかった!!!貴女だけは許せなかった!!!!!」
そう、有らんばかりの声を張り上げ、月は叫んだ
「そこまでよ、月、劉備。…全軍展開!!!両軍を包囲せよ!!!」
「「え…?」」
月と劉備の疑問の声が重なる
その声が響いたかと思った矢先…いつの間にか蜀軍、董卓軍共に二つの軍を超えるほどの大軍に包囲されていたのだった
「蜀、董卓軍共に動くな!!動いた奴は私達がぶっ飛ばす!!」
「お姉様、それじゃまるで悪役だよ…」
「全く…桃香も、月も、私に相談してくれたっていいじゃないか。私は両方と知り合いなんだから」
「月~?早まるなっていったじゃない。いくら一刀が刺されたからって、貴方らしくも無いわよ」
「まあそういうな。先走った事は責められて然るべきだが、それだけ北郷を想っていたということだ」
「なっ、何で皆さんがここに…!!」
そこには翠、蒲公英と二人が率いる涼州軍
白蓮と幽州軍
雪蓮と冥琳、さらに呉の武将達率いる呉軍
そして
「何で、ですって?貴女が言った事じゃない。自分が間違いを犯した時、それを止める友となってくれと。臣として、何より友として、貴女を止めに来たわ」
魏軍を率いる、華琳の姿があった
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董卓軍√三十話です
…前回作品についてもう少ししっかりと考え直すと宣言した癖に、今作も混沌とした出来になってしまった気がします
ただ、自分らしくというありがたい励ましを多くいただいた事もあり、自分らしくご都合主義な展開でお送りする事といたしましたw
誤字脱字、おかしな表現等ございましたら報告頂けるとあり難いです