No.151776

「絶望、希望、私、貴女」第四話:少女二人の奮闘

getashさん

自分の思いの為に少女二人が奮闘する話です。
この話の主人公はまといと霧です。
今回可符香が出てきません…
何かの為に協力し合っている時のまといと霧は特に凄く可愛いと思うんですよ。

2010-06-19 23:03:38 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:893   閲覧ユーザー数:873

 

常月 まといは悩んでいた…

(先生ったら最近ずっと可符香ちゃんしか見てない気がする…)

まといは以前、望に好意を抱きそれからずっと望につきまとっている。

しかしまといの好意は空回りするばかりであった。

たしかにまといの行動はストーカーと割り切るには少しやり過ぎているかもしれない。

望には愛が重いと言われる始末である。

だがそれはもはやいつも通りの事である。

しかし最近ではまといの事を相手にすらしない時があるのだ。

そんな時にはいつも一人の少女が関係している。

(先生、あの子の事がやっぱり好きなのかな…)

風浦 可符香、謎の多いこのクラスの人達の中で最も謎が多い人物である。

望が彼女に惹かれている事にまといは薄々だが感ずいていた。

その時はまだ少し気になる程度だった。

望が正反対の彼女に抱いた憧れか何かと思っていた。

しかし最近になって望と可符香の距離が一気に縮まった気がした。

二人が一緒にいると入り込む事ができない。

まといはいつも望の数センチ後を追うように行動している。

しかし可符香がいる時は何故か体が動かなくなってしまうのである。

数メートル離れたところで眺める事しかできない。

「ハァ……」

まといは溜息をつく。

「やっぱり、私じゃ無理なのかな…」

分かっていたけど認めたくなかった…

望はまといを選ぶ事は無い。

気持ちを紛らわすために昔の彼氏達の写真を眺める。

(思えば今まで恋がうまくいった事なんて一度もなかったな…)

「「ハァ…………」」

「えっ?」

まといは自分以外の溜息が聞こえた事に驚き後ろに振り返る。

そこにはまといのライバルでもある霧の姿があった。

「どうしたの…?」

「あなたこそ…」

今の二人には喧嘩をする気力もないようだ。

疲れたように霧が呟く。

「先生が私達の事を見てくれない事、あなたも気付いてるでしょ?」

その言葉にまといは小さく頷く。

こんな時の二人はまるでとても仲がいい姉妹のようだ。

「もう駄目なのかなぁ…」

まといが悲しそうに呟く。

「そんなことないよ、きっと…」

その先の言葉が出てこない…

結局何をやっても無駄なんじゃないだろうか…

そんな気持ちが頭によぎる。

霧は声を無理やり明るくしてまといに言う

「そうだ、他の人に相談してみよう、 …ね?」

霧は半ば強引にまといの手を掴んで走り出した。

 

 

SC室…

生徒が悩みを打ち明ける時などによく来る場所である。

「智恵先生、相談があるんです!」

「何ですか?」

智恵は必死な顔の二人を見て、冷静な表情で対応する。

「先生は、人を好きになった事ありますか?」

「ええ、もちろんありますよ」

「じゃあ、もしその人が自分とは別の人が好きだったとしたらどうします?」

「そうですね……」

智恵は少し考えこむ。

智恵は二人の言う好きな人の事は分かっている。

(糸色先生も罪作りな人ね…)

「私なら、その人の思いが本物なのか確かめようとしますね」

「「………………」」

二人は一文字も聞き逃さないように真剣に聞く。

「その方法は人それぞれね、思い切って告白してしまうのもいいかもしれないけど

それ以上の物もあるかもしれない」

「でも、その人の思いが本物ならきっと何をやっても揺るがないでしょうね…」

その言葉に二人は唾を飲み込む。

「しかし、ずっと何もしないよりは絶対に良いと思いますよ、あなた達にとっても

その人にとってもね」

黙っていたまといが口を開く。

「もし、その人の思いが本物だったら、先生はどうするんですか?」

智恵はその言葉に笑って言う

「その時は、その人を心から応援します。」

その答えに霧が驚く。

「何でですか?」

智恵は霧の頭を撫でて言う

「だって、好きな人には幸せになってほしいでしょう?、たとえその傍に自分がいなくても…」

霧とまといはコクリと頷いた。

智恵は二人を見て笑って言った

「まずは、行動しなさい」

「未来を恐れずに、あなた達の精一杯の気持ちをぶつけなさい!」

智恵はそう言って二人の背中を優しく押した。

「「智恵先生、ありがとうございました!!」」

二人は同時に言うとSC室を出て行った。

 

 

「今日はいい天気ですね~」

望は窓から外を眺めながら体を伸ばす。

いきなりドアがものすごい勢いで開かれる。

「先生!」

ドアの向こうにはまといが立っていた。

「何ですか常月さん」

望は顔を強張らせた、まといがいつになく真剣な顔だったからである。

「先生、落ち着いて聞いてください」

まといは迷いを断ち切るように一気に言った

「先生、私は先生の事を愛しています!」

その言葉で望は少しうろたえながらも考える。

(常月さんの表情からして、いつもの悪ふざけって事ではなさそうですね…)

望はまといの真剣な思いを感じ取った。

「常月さん…あなたがどんな気持ちでここに来たのか私には想像の範囲でしかわかりません。

きっとかなりの覚悟を持ってここに来ているでしょう」

だからこそ逃げずに正直な気持ちを言う

「ですがあなたが私をどんなに愛していようと、私はそれに応える事ができません」

非情な言葉だが情けのある愛なんて悲しみを生むだけ…これが一番の答えなのだ。

「先生………」

まといが力なく座り込む。

「すみません、常月さん…」

「私はあなたを大切に思っています、だからこそあなたに中身のない恋愛をしてほしくないんです」

「私はあなたを愛す事はできない…」

望はそう言って部屋から出て行った。

 

 

望は宿直室のドアを開ける。

望が入ってドアを閉めた瞬間に勝手に鍵がかかった。

「なっ!?」

とっさの事に望は驚く。

「先生…さっきまといちゃんに言ったよね?…愛す事ができないって」

「今度はあなたですか…」

望は目の前に立つ霧を見つめる。

「先生…私は先生が傍にいるだけでいいよ」

その言葉に望は寒気を感じた。

「小森さん、あなたは…」

「だから一緒にここに引き籠ってて」

ドアを見るといつの間に付けたのか鎖がかかっている。

「ドアを開けるのは無理だよ、鍵でもないとね」

(たしかにこれはどう頑張っても開ける事は出来なさそうだ)

望にはドアを壊すくらいの力も無い。

もともと非力だった望にそんな事は出来るわけがなかった。

しかし望は焦らなかった。

「小森さん、あなたは間違っています、こんなことで幸せになれる訳がない」

「そんな事は無い!私には先生しかいないの」

「いいえ、違いますね!あなたも実は気付いているのでしょう?」

「…………………」

霧が長く沈黙する。

「……じゃあ、先生が万が一ここから出られたら私はあきらめる」

出られる訳がない…

霧はそう確信していたからこそだした言葉だった。

望は悲しそうな表情をする。

「小森さん、あなたは優しい人です…」

「えっ!?」

望の意外な言葉に目を丸くする。

「本当に出られない状況を作る事も出来た筈なのにあなたはそれをしなかった…」

「そんな事は…」

霧は望の言っている事が分からなかった。

この密室は完璧なはずである、ドアに何重にも鎖をかけ、窓という窓を補強して塞いだ。

望では絶対に出られないように作ったはずである。

「無意識にあなたは逃げる為の方法を奪わなかったんですね…」

「だからあなたは優しいのです…」

望は微笑んでドアの前に立った。

「このドアは引き戸なんですよ、だからこうやってしまえば…」

望はそう言うとドアを外した。

「そんな!?」

「では小森さん、また明日お会いしましょう…」

望は宿直室から出て行った。

霧はそれを黙って見ている事しか出来なかった…

 

 

どのくらい時間が経ったのだろう。

数時間か、数十分か、それとも数十秒かもしれない…

霧は宿直室から出ると座り込んでいるまといを見つけた。

まといは霧に気付くと力なく笑った。

「ふられちゃった…」

「そうだね…」

「これからどうする?」

「いつも通りでいよう…」

「えっ?」

まといは霧の言葉に振り返る。

「先生は私達を選ばなかった、それだけでしょ?」

「うん…」

「でも、今までの事をなくす必要はないと思うんだ…」

霧はまといの手を握る。

「私はそうしながら先生を応援しようと思う」

「そうだね…そのほうがいいかもね、でもけじめはつける…」

まといは何かを決心したような表情をする。

「そう…」

霧はそれ以上何も言わなかった。

 

 

翌日…

「先生、おはようございます」

後ろからするまといの声に望は振り返る。

望は少し驚いたような表情をしたがすぐに微笑んだ。

「常月さん、おはようございます」

「先生、早くしないと遅刻しちゃいますよ」

まといはそう言ってセーラー服をなびかせながら学校へと走って行った。

 


 
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