望は学校の図書室で本を読んでいた。
(私もそうですが彼の本好きも相当ですね)
望の視線の先にいるのはこの学校の図書委員の久藤 准。
彼は学校の本を殆ど読んでしまっているほど本が好きな少年である。
以前、望はそんなに本を読んでいるのだから心も読めるはずだと根拠の無い事を言って彼を避けていた。
(まあそんな事はあるはず無いんですが)
彼は、高校生らしくない大人びた態度をとる事が多い。
(まあそこも久藤君の良いところでしょうね)
望は准から視線をはずし辺りを見渡した。
ここに来る人は限られている。
あまり本を読む人が多くない学校だった。
まあ読む人はみんなすごい量を見ていくのだが。
図書室には今は望と准しかいない。
(あとここに来る確率があるのは風浦さんぐらいですかね)
その三人は図書室の常連だった。
その他にも来る人はいるのだが、三人に比べたら少ないくらいである。
望はふと時計を見る。
(おや…もうこんな時間ですか)
時計はもう6時を過ぎていた。
「久藤君、そろそろ帰ったほうがいいんじゃないですか?」
望は本に夢中の准に少し申し訳なさそうに言った。
「片づけは私がやっておくのでお構いなく」
「ありがとうございます、ではお言葉に甘えて…」
准は読んでいた本を閉じて図書室を出て行った。
(さてこれからどうしましょう…)
目の前に広がる本の山。
「久藤君にはああ言いましたが少し骨が折れそうですね…」
望は少し後悔しながら一番近くにあった本を持ち上げた。
あれから二時間が経った…
山ほどあった本も今では残り僅かである。
「あれ?本が一つ足りませんね」
あと一つで終わりというところで詰まってしまった。
「どこにいったんでしょうか?…」
望は図書室内をくまなく探す。
「ありませんね…っとあれは?」
望は一瞬だけ視界に映った物を見なおした。
そこには見つからなかった本を抱いたまま眠っている可符香がいた。
(風浦さん…一体いつからいたんでしょうか?)
望達がいた頃には扉の開く音なんてしなかった。
(もしかして、私達が来るずっと前からいたんでしょうか)
(教えてくれればよかったのに…)
そんな事を思いながら寝ている可符香を見つめる。
今までこんなに無防備な彼女を見たことがある人がいるだろうか…
無意識に望は可符香に釘付けになっていた。
時間がとても長く感じられる。
(それにしても、綺麗な肌していますね…)
望の思考があらぬ方向にずれてしまっていた。
数分経って望は我に返った。
(いけません、私は何を考えているんですか!)
いくら望が教師といえどそこは男である、そういう事に目が行くのは仕方ない事だ、それが自分が好意を
抱いている人ならなおさらである。
望は湧きあがる煩悩を消し去ろうと自分の頭を叩く。
(しかしどうしましょう…)
望は可符香をどうしようかと考えた。
(起こしてしまえばすぐに済む話なんですが…)
幸せそうに眠る可符香を見たらなんだが気が引けてしまう。
(起こしてしまうのは、もったいない…じゃなくて! 少し可哀想ですね…)
だからといって可符香を一人置いていくわけにもいかない。
(しょうがない…起きるまで本でも読んでいますか…)
そして望は先ほどまで見ていた本を手に取った。
しかし日ごろ溜まっていた疲れが襲ってきていつの間にか望は眠りについてしまった。
「んっ……」
可符香は目を覚ました。
「あれ?私眠ってたんだ…」
寝ぼけた目で時計を見るともう12時になっている。
近くを見渡すと望が静かに寝息を立てていた。
「先生、ずっと待っててくれたんだ…」
望を見て可符香は微笑む。
(先生の寝顔可愛いですね)
可符香は望の顔にゆっくりと触れた。
疲れが溜まっているのか望に起きる気配がない。
それを確認して可符香は耳元で囁く。
「先生、起きてください…」
起こそうとする気のない小さな声だった。
「先生、起きないと大変な事になりますよ」
やはりそれは小さな声だった。
「うーん、仕方ないですね」
仕方ないと言いつつも可符香の顔は嬉しそうだった。
可符香は望の顔にゆっくりと近づき唇を重ねた。
それはたった数秒の出来ごとだったが可符香には何十分にも感じられた。
顔を赤くした可符香は望の耳元に囁いた。
「先生が起きないから悪いんです」
今起こっている事も知らない望はただ寝息を立てるだけだった。
そんな望を見て可符香はもう一つ悪戯を考え付いた。
(先生、今度こそ起きないと本当に大変ですよ)
可符香は楽しそうな笑みを浮かべながら望を起こさないように仰向けに寝かせた。
翌日…
准はいつも通り図書室に向かっていた。
朝に図書室に行くのは、彼の日課だった。
「あれ?電気が付いてる…」
いつもなら消えているはずの電気が付いている事に疑問を抱く。
まあいいかと准はドアを開ける。
「んっ?」
ドアを開けたその先の光景に思わず声が出る。
昨日、図書室に残っていたはずの先生が、いつのまに来たのやら分からない同級生の可符香を抱いて寝ている。
誤解しか出来ないような光景だった。
見つけたのが准じゃなかったら大騒ぎが起きていただろう。
(…へぇ、二人ってそんな関係だったんだ)
准は読みたかった本を棚から取り出した後に意味ありげな笑みを浮かべて図書室を出て行った。
おそらく望を起こさなかったのは彼なりの意地悪である。
「あら、久藤君おはよう」
准に声をかけたのはクラスの学級委員長みたいなポジションにいる少女である。
「千里ちゃん、おはよう」
准はさっきあんなものを見たというのに冷静そのものだった。
「そうだ、先生見なかった?」
彼女もつくづく地雷を踏む少女である。
「先生なら図書室にいるよ」
准は迷いなく望の居場所を教えた。
「そう、ありがとう」
そう言って千里は図書室に行く。
准は図書室に向かう少女を呼びとめた。
「そうだ、千里ちゃんに実は頼みがあるんだ」
「何ですか?」
千里は首を傾げる。
「教室を片づけようと思うんだけど一人じゃ少し大変なんだ、手伝ってくれるかな?」
「いいですよキッチリと片づけましょう」
「よかった、助かるよ」
千里は望に用事があったようだが急がなくてもいいらしい。
(先生、命拾いしましたね…この借りは大きいですよ)
准はクスリと笑いながら千里と一緒に教室に向かった。
その頃宿直室では…
奈美が占いを食い入るように見つめる。
「ふむふむ、今日のラッキーアイテムは本か…よーし久しぶりに読むかぁー」
隣で一緒に見ていた霧が呟く
「占いの結果でやる事を決めるなんていちいち普通だね」
「普通ってゆーな!」
霧に少し怒った後に奈美は本を読むために図書室へと向かった。
(そういえば先生どこに行ったんだろう)
望の危機はまだ過ぎ去っていなかった。
(寒いですね…)
朝の図書室は暖房がついていないので少し肌寒い。
より多くの熱を手に入れようと、望は無意識に自分の近くにあるものを抱きしめる。
そこで望に疑問が浮かぶ。
(私、寝る時に何か被ってましたっけ?)
(そもそも椅子に座っていたはずですが…)
記憶と正反対の自分の状況に違和感を感じゆっくりと目を開ける。
(んっ?寝息が聞こえますね…)
自分の腕の中に一人の少女がいた。
「何だ、風浦さんですか…」
望は完全に寝ぼけている。
(ふうらさん…風浦さん…風浦さん?)
「風浦さん!?」
望の声に可符香が目を覚ます。
「びっくりした…先生いきなり大声出さないでくださいよ…」
目を擦りながら可符香は呟く。
「な、なんで風浦さんが私と一緒に寝ているんですか!」
望は顔を赤くして可符香に聞く。
「いやだなぁ、ほんの冗談のつもりで隣に寝てみたら先生いきなり抱きついてくるんだもの」
「なっ!?」
その言葉に望の顔がさらに赤くなる。
「先生、意外と大胆なんですね」
「もうそれ以上言わないでください!」
望は可符香の口を手で塞ぐ、その時バランスを崩した二人が倒れる。
「失礼しまーす!」
いきなり図書室のドアが大きく開かれる。
「えっ?」
「あっ、せん…せ…い?」
目の前の光景を見て奈美は硬直する。
二人の赤い顔、可符香の乱れた服装(望がさっきまで抱きしめていたから)、可符香の口を塞ぎながら押し倒している望(奈美からはそう見える…)
望の顔が青ざめた。
「あの、日塔さんこれはですね…」
「先生がーーーーーーーーーーー!!!!!」
「やっぱり、こうなるんですかーーーーーーーー!!!!」
成す術もない望はそう叫ぶ事しか出来なかった。
その後、千里の耳に入り望が追いかけまわされたのは言うまでもない…
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学校の図書室での話です。
准君もでてくるよ!