No.151773

「絶望、希望、私、貴女」第二話:修学旅行

getashさん

下見の時の話です。
重要キャラじゃないですがオリジナルキャラがでます。
ご注意ください。
まあこの話以外でないんですけどね。
千里が色んな意味で大活躍します。

2010-06-19 22:58:33 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:677   閲覧ユーザー数:668

 

望は修学旅行の下見に京都に来ていた…

クラス全員で。

可符香に頼んだところ旅行会社の裏取引を発見したので弱みを握ってクラス全員の旅行費用を

チャラにしたのだ。

「先生、全然楽しくないです」

「楽しんだら下見じゃ無いじゃないですか!」

望の超理論に全員のテンションが下がる。

「ちなみに先生は本番には行きませんから」

「下見の意味無いじゃないですか!」

奈美が顔を青くして言う。

千里の2分おきに区切られた予定表(厚さはタウンページの倍以上)を配られた時から嫌な予感はしていたらしい。

「クラスの空気がもの凄く重いです…」

それもそのはずクラス全員が予定通りに行動しているか千里にずっと見張られているのだ。

(ふむ…しょうがないですね…こうしましょう)

千里を式場(葬式)を見に行くという口車に乗せて自由時間を取らせることにした。

ちなみに千里は結婚式の式場と勘違いしていたので千里が暴れて望は一回死にかけることになった。

 

(酷い目に会いました…)

望はあたりを見渡す。

(おや…今度は風浦さんがいませんね…)

自由時間終了までまだ時間があったので可符香を探すことにした。

 

 

そのころ可符香は公園のベンチに座っていた。

(はぁ…なんで京都なんかに…)

ここが修学旅行の定番である事は可符香も分かっている。

(来たくなかったな…)

可符香は昔ここに親戚の都合で数カ月ほどだったが住んでいたのだ。

どうしても思い出してしまう昔の辛い記憶。

「あれ?あなた杏ちゃん?」

いきなり本名を呼ばれて心臓が飛び上がるくらいに驚いた。

後ろを振り向くと昔見た顔が目に映る。

京都で可符香を受け取った親戚のおばさんだった。

可符香は京都ではあまり歓迎されていなかった。

たび重なるいじめや目の前にいる女の仕打ち。

暴力による虐待とまではいかなかったもの、同じようなものだった。

(い、いや………!)

可符香から拒絶の顔が浮かぶ…

「びっくりした、自殺して化けて出てきたのかと思ったわ」

そう女は冷たく言い放つ。

「…………………」

可符香は黙っている事しか出来なかった。

「あんた、私に見捨てられてからまだ生きてたんだ」

「いまどうやって暮らしてんの? 売春?ギャッハはははははははははぁぁぁ」

「冗談よ、冗談…くっははははぁぁ」

女の笑い声が響く。

(ここで言い返したら、クラスのみんなにこの事がバレてしまうかもしれない…)

目の前の女よりその事の方が可符香には恐ろしかった。

今までの事が全て壊れてしまうのは可符香にはもう耐えられないかもしれない。

だからなにもできない。

「下品な笑い声ですね、一体どこからですか?」

可符香の後ろから声がした。

振り返るとそこには望の姿があった。

「はっ?」

女は一瞬、間抜けな顔をする。

「大人として恥ずかしくないんですか?…悪影響の塊みたいな人ですね」

望はこれでもかというぐらいの皮肉をぶつけた。

「まぁ私もそうなんですが…」

「あんた…誰よ…」

女は望を睨みつけて言う

「私ですか?私はその子の教師です」

(…先生)

可符香は少し安心したような表情をする。

「教師だぁ?」

女はにやけながら望を見る。

(こいつがそんな事を言うわけないか)

「あんた、こいつがどんな奴か知ってるんかい?」

可符香の顔が青ざめていく…

女は望が知らない事を確信しながらわざとらしくゆっくりと溜めるように言う。

「この子はねぇ…」

(やめて………)

「両親がくたばって、多額の借金を抱えていたんだよ!笑っちまうよ!アッハははははは」

(いやぁぁーーーーー!)

望は女を馬鹿にしたような顔をして言う

「そんなの、ずっと前から知っていますけど」

「はっ!?」

「えっ!?」

可符香と女は同時に口を開ける。

「先生…なんで…?」

驚く可符香に望は優しく言う

「わけはあとで話します」

そして冷やかな表情をして女を見つめる。

「あなたの言い分は終わりましたか?」

「では、私たちは忙しいので…」

望は可符香の手を握りその場から立ち去っていく。

「ああそうそう、もう二度と彼女に近づかないでください!!」

最後に女を睨んで公園を出ていった。

 

 

望と可符香は近くにあった喫茶店に寄っていた。

「……………………」

「……………………」

長い沈黙が続いていた。

「あの…」

沈黙を破ったのは可符香だった。

「どうして…知っているんですか?…その」

「あなたの昔の事情についてですか?」

「……はい」

「偶然に身上調査書を見つけましてね、それで知ったんです」

望は正直に話す。

「いつから…ですか?」

「三週間ほど前からです」

「そうですか…」

「「………………」」

再び長い沈黙。

今度は望が沈黙を破った。

「私は…それを見たとき、いつかこんな日が来るとは思っていました」

「まさかあんな形だとは思いませんでしたが…」

望はあの女を思い出し顔をしかめる。

だがすぐに可符香を見て優しく微笑んだ。

「あなたはその事を知られるのに恐れを抱いていたんですね?」

「はい…先生も嫌ですよね…こんな人が近くにいるなんて」

そう言った可符香の体は震えていた…

「風浦さん?」

「私が近くにいるだけで…みんなに迷惑がかかるかもしれない。 私がいなければ…」

「風浦さん!」

望は大きい声をだして可符香の声をさえぎる。

周りがこっちを見ていたが望は無視した。

「風浦さん…あなたの思っている事は見当違いです その事を知ったところでなにも変わりません」

「えっ?」

可符香は涙に濡れた顔を上げる。

「現に、私は今もあなたを大切に思っています」

望は可符香の涙を指で優しくぬぐう。

「先生…」

可符香が望に抱きつく。

望は可符香の体を腕で抱き返しながらもう一つの手で頭をなでる。

「あなたから離れないと約束します…」

(ん……?)

少しして望は嫌な考えが浮かんだ。

(これって他の人から見たらどう映るんでしょうか…)

(風浦さんは私の事を先生と呼んでいたし、もしかしてもの凄くまずいのでは…)

望の顔が複数の視線によって青ざめていく。

硬直する望に気付かず抱きしめていた可符香が望を離すのはそれから十五分も後の事だった。

 

 

「では先生、みんなのところに帰りましょうか」

「はいそうですね…」

ご機嫌の可符香を余所に十五分間他の人(客、店員)の視線を浴び続けた望はぐったりしていた。

(プレッシャーで死にそうでした…)

(まぁいいでしょう…)

望は嬉しそうな可符香の笑顔を見て小さく笑った。

 

 

「あっ!先生どこにいってたんですか?」

「すいません遅くなって、風浦さんを探していました」

千里は可符香を見て少し目が赤くなっているのに気付く。

「大丈夫可符香ちゃん!先生に変なことでもされたの?」

「えっ!?」

望はその言葉に動きを止める。

「うん…先生にいきなり抱きしめられて…」

「ちょっと風浦さん!」

思いもがけない返答に焦る望。

「ほほーう」

その言葉で場の空気が変わる。

「先生、随分と大胆な事出来るんですね」

千里の手にはどこから出たかも分からないスコップが握られていた。

(ひっ!あれはキッチリスコップ!)

「風浦さん、あの…これは…」

可符香の顔は満面の笑顔だった。

(は、はめられた!)

「木津さんこれは誤解で…」

「うなっ!」

千里の奇声が聞こえた瞬間に望の意識が途絶えた。

 

 

 

 

「えー、今回の修学旅行は沖縄になりました」

「下見の意味無いじゃない!」

「下見で十分でしょう」

望はクラスの文句を全て無視する。

「そんなぁ~」

奈美が机に顔を埋める。

「八つ橋食べたかったのに~」

「京都に求めるものが普通ですね」

「普通って言うなぁー!」

望がかなり強引に行き先を変えたのはもちろん理由がある。

(もう二度と風浦さんを京都に近づけさせません!)

(あの女については関わりたくありませんからね…)

(あとまた木津さんに殴られるのは御免です…)

望は可符香の事を(少し自分ごとも)思って変えたのだ。

(これは本番もついていく必要がありそうですね、ですが…)

あの時の千里の姿を思い出し体を震わせる望だった。

(うーん、少しやりすぎましたかね?)

望の姿を遠くから見てそんな事を思う可符香だった。

 

 

 

ちなみに旅行先の変更が決まった次の日には、沖縄行きの千里のしおりがもう完成していたのは別の話…

 


 
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