俺は部屋の天井を見つめながら思った。昨日の宴では、馬騰さんに馬超と馬岱のことを連れてってくれって頼まれて、俺は快く引き受けた。しかし、その二人の気持ちを確かめてはいなかった。実際、本人が行きたくないと言えば、強引に連れて行くなんてことはしない。そこんとこを確かめなくてはいけない・・・さて、どうしようか。
・・・よし!まずは寝床から起きて、朝日を浴びながらゆっくり考えるとしよう。幸い、修行中の癖で早くに目が覚めてしまっていることだし。
そう決めると俺はゆっくりと身体を起こし、いつも通り着替え終わると、朝日を浴びに外へと出てみると・・・。
「・・・し!・・・公英、次・・・み手百本・・・くぞ!」
俺の部屋から、少し離れたところにある庭から声が聞こえてきた。
俺は声の主が誰なのか気になったので、庭の方に向かってみた。
「ええー!?いくらなんでも、朝からその量は多すぎるよ~・・・」
「これくらい出来なくちゃ、戦じゃ足手まといになるぞ!ほら、構えろ。」
「・・・よっ。朝から張り切ってるな。」
庭にいたのは、槍を持って鍛錬をしている途中の馬超と馬岱だった。俺はその二人の横から挨拶をする。
「あ!お兄さんじゃん。おっはよ~♪」
「あ、あんたは!ど、ど、どうしてここにいるんだよ!」
「ちょっと日を浴びようと思って外に出てみたら、ここから声がしてきてよ。誰だろうと思ったから来てみたわけ。」
「そ、そうか・・・」
馬超は簡単に返事を済ますと、再び手に持った槍を構える。それを見て俺は、
「・・・そうだ!俺も鍛錬に付き合っていいか?さすがにずっと見てるだけじゃ、暇だからな。」
少し寝起きの身体を叩き起こすために、馬超達の鍛錬に参加しようと考えた。
「え!け、けど・・・」
「お兄さんもやってくれるの!やった~!じゃあ、最初はお兄さんと翠お姉さまとでやっててもいいよ。その間に蒲公英は休憩~♪」
「あ!おい、蒲公英!誰が休憩していいって・・・」
「まあまあ、休憩も鍛錬の一つだよ。無理して怪我をしちゃ、元も子もないからな・・・さて、馬超。いっちょやるか!」
勝手に休憩しようとする馬岱を怒ろうとする馬超を、俺はなだめて、こんなこともあろうかと持ってきていた葬刃を構え始める。
「わ、分かった・・・じゃあ、よろしく頼むぜ・・・っ!」
俺達が構え始めたと同時に、馬超は先手必勝の一突きを俺に向ける。
「おっと!さすが、あの愛紗や鈴々が絶賛するわけだ。なかなか鋭い突きだ・・・さて、今度はこっちの番だ!」」
俺はその突きを瞬時に避け、今度は俺が馬超に中段の振り払いをする。
「くぅ・・・!あんたも、けっこう重い一撃をするじゃねえか・・・」
馬超は突きを放った後の隙を突かれて、俺の振り払いの対応が遅れしまい防御する側になってしまった。その衝撃に、馬超の身体が少し後退する。
しかし、怯まずすぐに反撃の一撃が飛んできた。
「・・・ぐっ!馬超こそ、いい攻撃じゃねぇか・・・だが、大振り過ぎるぜ・・・っ!」
「え・・・きゃあっ!」
俺は大振りになっている馬超の一撃を受け止め、そのまま身体を前に押し出して、その突進を受けた馬超の身体は仰向けに倒れこんだ。
「これで・・・俺の勝ちだな。」
そして、俺は倒れこんだ馬超の鼻先に、刃の先を向ける。
「くそっ・・・あたしの負けだ・・・」
「わあー、すっご~い!あのお姉さまに勝っちゃうなんて!」
「たまたま大振りになっていたところを狙っただけだよ。それ以外は危なかった・・・」
「けど、あたしより強いヤツがいるなんて・・・」
馬超は俺に負けたことを、悔しがってはいるが、なによりも驚いていた。
「そりゃそうさ。上には上がいる・・・大陸にはお前より強いヤツはたくさんいるさ・・・どうだ、馬超。お前が良ければ、俺たちと一緒に来ないか?」
「え・・・・・?」
俺のいきなりの誘いに、馬超は目を丸くして驚いた。
「俺達は・・・いや、俺は今、五胡に捕まっている親友を助けるために、五胡と戦おうと思っている。けど、俺だけの力じゃ無理だ・・・だから、お前のその力を俺達に貸して欲しいんだ。どうだろう?」
「けど・・・今みたいに負けるようじゃ、きっと足手まといなるよ・・・」
さっきの蒼介との戦いで、馬超は今まで自分は、井の中の蛙だったんだと気づいてらしく、自信が湧いてこない。そこに蒼介が、
「何言ってんだよ。今から強くなればいいんだよ・・・あせらず、ゆっくりな。」
「あ・・・・・」
馬超にそう言いながら、頭をそっと撫でる。馬超は少し瞳に涙を浮かべながらも、今の自分の状況に気づき、顔を真っ赤にしながら俺の手を振り放す。
「ば、ば、バカっ!なに触ってんだよ!」
「あぁ~お姉さま、顔が真っ赤ですよ~♪」
「う、うるさいっ!」
「で、どうだろう。力を貸してくれるか?」
「・・・いいぜ、あたしで良かったら、いくらでも貸してやるよ!」
「じゃあ、お姉さまが行くなら、蒲公英も行くー!」
蒲公英は勢いよく手を挙げる。
「大歓迎だよ。実はもう、馬騰さんから許可が下りているから、『娘達をよろしくお願いします』ってね。」
「そうか・・・なら、あたしの名前を真名で呼んでもいいぜ、翠ってんだ。よろしく!」
「蒲公英のことは普通に蒲公英って呼んでね。よろしく、ご主人様~♪」
「ご、ご主人様ぁ!?」
蒲公英が、蒼介のことをご主人様って呼んだことにかなり驚いた。
「そうだよ。関羽と張飛がそう呼んでたらから、蒲公英もこれからそう呼ぶことにする~!ほら、お姉さまも!」
「えっ、あたしも!?え、えっと・・・そ、そ、その・・・あの・・・ご、ご主人様・・・/////」
こうして俺達の仲間に、翠と蒲公英の二人が加わることとなった・・・一方その頃。
魏の都に着いた一刀は、
「やっと帰って来たっていうのに、これはないだろ~!!!」
「あら?一か月もいなかったんだから、これくらい仕事してもらわなくちゃ・・・さて、今度はこっちもお願いね。」
帰って来て早々、書類の山と必死に格闘していた・・・うぅ、華琳が手伝ってくれているからいいものの、この量はかなりのもんだぞ。
「・・・そういえば、みんなは?城にはいないみたいだけど・・・」
「ええ。春蘭と秋蘭と季衣はご飯を食べに行ったし、凪達三人組はいつも通り警邏に出かけているわ。」
「桂花は?」
「確か・・・本の買いに市へ行ったわ。かなり量を予約したみたいで、遅くなりそうだって。」
「そうなんだ・・・」
・・・って、あれ?ということは・・・。
「今城には、俺と華琳しかいないということか・・・!」
「ええ。そうなるわね・・・フフッ。どうしたの、顔が赤いわよ?」
「イエ。ナンデモアリマセン。」
これはやばい・・・!色々とやばい・・・!久しぶりに華琳に会って、何とか抱きしめたいの我慢しているというのに、誰もいないとなると、止めてくれる人がいないじゃないか!・・・理性が壊れる。
「そう・・・ねぇ、一刀ぉ。」
「な、なに?」
華琳はいつも以上に色っぽい声を出しながら、俺に尋ねてくる・・・止めて、これ以上僕の理性を壊さないで!
「私、少し疲れたからちょっと横にならせてもらうわ・・・」
そう言うと華琳は、後ろに置いてあるベットにそっと横になった。
「あ、ああ・・・分かった。」
こ、これは千載一遇のチャンス・・・!背中からギュッと抱きしめて・・・ってだめだ、だめだ!今はこの書類に集中しなくては・・・。
「ん・・・んぅ・・・」
と、書類に集中しようとしたその時、華琳が寝返りをうち、俺の方へと顔を向けてきた。その目は閉じられており、静かな寝息が聞こえてくる。
「寝てる・・・のか?おーい・・・」
俺は椅子から立ち、華琳の前に寄る。一応、確認のため顔に向けて手を振ってみる。
「・・・・・」
「寝てるみたいだな・・・」
「・・・・・すぅ」
くそ・・・っ、この寝顔は反則だぞ!手が、手が吸い込まれいく・・・!
俺は自分で自分の手を抑えながら、何とか抱きしめようとするのを踏みとどまった・・・ふぅ、危ない、危ない。
「(何でそこでギュって抱きしめないのよ・・・バカ・・・っ!)」
実はというと、華琳は起きていた。狸寝入りというヤツだ。華琳も一刀のことが気になっていたらしい。
「(この二人きりの状況だって、なんとかみんなに理由を作らせて出掛けさせたんだから!)」
華琳は心の中でそう呟く。けど、もう抱きしめようとは思わないでしょうと高をくくって、背中を向けたその時だった。
「・・・ごめん!華琳・・・!」
「(・・・え?)」
背中から温かい体温が伝わってくる。
「もう、これ以上自分を抑えられそうにない・・・!」
「(えっ!?・・・えっ!?)」
突然の抱擁に、華琳は思わず目を開ける。すると、
「(ちょっ!?ちょっと一刀!いくらなんでもいきなり・・・!」
自分の唇と一刀のそれが今まさに、重なり合おうとしていた。身体はギュッと抱きしめられていて、離すこともできない。それを瞬時に理解した華琳は、
「・・・一刀。」
全てを一刀に委ねようと体中の力を抜いた。そして、唇が重なり合う距離は、もう紙一重まで迫っていた。
その時だった。
「おーい、北郷!せっかくだから土産に肉まんを____________________________________。」
勢いよく扉が開かれ、入ってきたのは、片手に肉まんを入れた袋を持っている春蘭だった。場の空気が一瞬凍りつく。
「しゅ、春蘭っ!?こ、これはだな・・・」
「き、き、貴様ぁっ!帰って来て早々、華琳様を襲うとは何事だ!!・・・少しはマシになって帰って来るだろうと、期待していた自分がバカだった!今度こそ、その首、切り落としてくれるっ!」
「ま、待ってくれ春蘭!これにはわけが・・・!」
「わけもくそあるかぁー!」
春蘭は鬼の形相で追いかけてくる。これは捕まったら、本当に首を切られるかもしれない・・・!
「(はぁ~・・・なんでこういう時だけ、間が悪いのかしら・・・)」
「本当にすまない・・・北郷、華琳様・・・」
ただ一人だけ真実に気づいていた秋蘭は、扉の後ろに立ちながら、ため息を吐いて二人に謝った。
※どうもお米です。実はというと、今回の話のメインは一刀の話でした。まあ、蒼介の話も大切ですよ?けどやっぱり、華琳は可愛いですね・・・悶え死んでしまうくらいだ。さて、次回の更新は水曜になると思いますので、よろしくお願いします。それでは失礼します~。
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第二十八話目となります。今回は最初、少し蒼介視点をやりまして、次に一刀という順番になっておりますので、少々読みにくいと思いますが、よろしくお願いします。
※追記 多忙により、水曜に更新できそうにありません。次回の更新は土日になると思います。本当に申し訳ありません。