「よっと・・・ただいま。」
空から降ってきた人物は、ここにいるはずのないあの人だった。
「ご主人様っ!?」
「お兄ちゃんっ!?」
突然の蒼介の登場に、愛紗と鈴々は目を丸くして驚いていた。
「ご、ご主人様ぁ?」
しかし、蒼介のことを知らない馬超は、誰だと言った風に頭上にハテナマークを浮かべている。そこに愛紗が、
「そうだ。あのお方は天城蒼介様。お前も知っているだろう?天の御使いの存在を。」
「あ、ああ。けど、それに何の関係があるんだ?」
「あのお方こそ、天の御使い本人なんだ。」
「「ええっ!?」」
その事実を知った馬超と馬岱は、目を見開いて驚いた。そこに蒼介が、少し小走りをしながら愛紗達の下へと向かってきた。
「悪い・・・遅くなったな。」
「い、いえ!先ほどはありがとうございます・・・本当にお強くなれましたね。」
愛紗の頬に、小さな水の粒がゆっくりと伝う。それは決して悲しみによって流れたものでなく、ただ会えて嬉しいという気持ちが流してくれている、感激の涙だった。
「いや、俺は人の命を奪ってしまった・・・正直言うと、いい気分じゃないよ・・・」
俺は人を殺めてしまった。こんな暗い気持ちを、愛紗や鈴々達はいつも味わっているんだな・・・俺は自分の力に、少し恐怖を感じてしまう。自分の手をじっと見つめる、そこに愛紗が、俺の手をそっと握り込んできた。
「お辛いことでしょう・・・ですが、今は前を向いてください。悲しんでいる暇は、我らにはないのですから・・・」
「愛紗・・・・・」
俺は思った。この戦いで俺達は、たくさんの人を殺すことになるだろう。しかし、相手も俺達のことを殺そうと全力で立ち向かってくるだろう。
どちらかが死に、どちらかが生きる・・・だったら、生きたいに決まっている。生きて、みんなと幸せに暮らしたい。だから俺は、この刃を振り続けてみせる。そう心に誓った。
「愛紗の言う通りだな・・・こんなの俺らしくないなっ!」
パンッ!と頬を叩いて、暗い気持ちにケリをつける。
「さてと・・・そういえば、そこにいる二人の女の子は?」
「・・・え?あ、あたしは錦馬超!で、隣にいるのが、従姉妹の馬岱だ。」
今までの会話を聞いていて、ボーっとしていた馬超は慌てて、自己紹介をする。
「どうも~!♪それにしても、お兄さんって強いんですね~・・・わぁ!腕すっごくふとーい!」
馬超とは対照的に、馬岱は挨拶そこそこにして、蒼介の腕をペタペタと触り始めた。
やっぱり、あの有名な馬超と馬岱も女の子なんだなと改めて実感する・・・ちょっとイメージと違うけれど。
「こ、こら!蒲公英!天の御使い様になんてことしてるんだっ!」
「ははは。いいよ、馬超。こういう子は鈴々で慣れているから・・・」
そう言ってそっと馬岱の髪を撫で上げる・・・と、こんなゆっくりしてる状況じゃなかったな。
改めて状況を確認し、引っ付く馬岱をゆっくり離す。
「さあ・・・いっちょ、大暴れしていくか!」
大きく葬刃を構え、気合を入れ直す。そして愛紗達も、
「はい・・・!各員、戦闘準備!」
チャキッ!と武器のなる音が一斉に響き渡る。
「反撃なのだーーーーーーーーー!」
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!
愛紗と鈴々の号令と共に、兵士達は猛々しい雄たけびを上げ、敵軍へと突撃していった。
「あいつは・・・天城蒼介!?この戦場にいたのか!」
紅泉の目に蒼介の姿が目に入る。しかし、そこから感じる闘気は、まるで別人。それを感じた王湾は、
「何があったか知らねぇが・・・久しぶりに血が滾ってきたぜええええっ!」
目を鋭く細め、狂気な雄たけびを上げ、疾風のように蒼介のところへと駆け抜けていった。
全体的な戦場の様子を見渡すと、兵数は圧倒的に五胡の方が上。しかし、蒼介という天の御使いの加入により、蒼介達の軍の士気は格段に上昇した。さらに、愛紗や馬超などの猛将もいるおかげで数では劣るが、質では優勢に立っている状態となった。
「うおおおおおおおおおおおおっ!」
今では蒼介自身も、愛紗達と変わらないくらいの実力を持っている。次々と敵兵士をなぎ倒していく。しかし・・・。
「キタかぁ!天城蒼介!さあ・・・その強さ、確かめさせてくれよぉ!」
目の前に現れた王湾は、蒼介に向けて鋭い突きを繰り出してきた。
「く・・・っ!子どものくせに、なかなかやるじゃねぇかよ・・・!」
「ハッ!強がっていられるのも今の内だ・・・オラオラオラオラァ!」
次々と繰り出される拳の雨。大きな刀身を盾にし、支えている両手が痺れ始めてきた。
(くそ・・・っ!このままじゃまずい・・・一か八かで、賭けてみるか・・・!」
「うおらああっ!」
「な・・・っ!?」
賭けは見事に成功。横に構えていた刀身を前に押し出し、王湾の体勢が一瞬崩れる。俺はその一瞬を見逃さなかった。
「はあああああああああああああっ!」
俺は王湾の腹へとめがけて、斬りかかろうとしたが、
「・・・ちっ!」
王湾は持ち前の反応の良さによって、瞬時に両手をクロスさせ、斬撃を防いだ。が、衝撃により身体ごと大きく後退していった。
「くぉ・・・っ!」
「どうだ!大人しく降参する気になったか!」
俺は王湾に降参を促すが・・・。
「・・・くくくく・・・ヒャハハハハハハハっ!いいね、いいねぇ!天城蒼介ぇ!俺はお前みたいなヤツと戦いたかったんだよ!」
王湾は降参をする気など全くないらしく、不気味な高笑いが鼓膜に響く。
「はぁ?気色悪っ!俺はお前みたな変態となんかと戦いたくはねぇんだよ!」
「そうか、まあいい・・・楽しみは後々に取っておいてやるよ。好きな食べ物は最後に食べる派なんでね。」
そう言うと王湾は後ろに振り返り、スタスタと歩いていく。
「あ、おい!逃げるのか!」
「逃げるぅ?何言ってんだ、生かしておいてやるってことだよ・・・計画の大事な駒だしな。」
「計画・・・?おい、お前達の目的は何なんだ!飛鳥を一体どうするつもりなんだ!」
「それは自分の目で確かめな・・・じゃあな、天の御使い様♪」
「あ、待て・・・!」
ただ一言そう告げると、王湾はまるで霧が晴れるかのようにスッと消えていった。
王湾が消えた同時刻、愛紗達が戦っていた五胡の軍勢も一斉に退却していった。
「ハァ・・・ハァ・・・勝った、のか・・・?」
「もう・・・腕が上がらないのだぁ~・・・」
「ハァ~・・・つかれたぁ・・・」
鈴々と馬超と馬岱は、一緒になって勢い良く腰を下ろした。
「だが、これではまるで勝たせてやったみたいだ。一体、何がやりたかったのだ・・・?」
そんな風に愛紗が、この戦いに疑問を感じていると、
「おお・・・!翠、蒲公英。無事でよかった・・・」
「「父上!(お父さま!)」
後ろから馬超達の父親、西涼太守馬騰がこちらに向かってきた。
「これは馬騰殿!ご無事で何よりです。」
「これは、関将軍!よくぞこの西涼の大地を守ってくれた・・・本当に感謝してもしきれない。」
「えっ!?い、いえ、そんな私は・・・!」
馬騰は愛紗にペコリと礼をするが、礼をされた愛紗の方は、偉い人に頭を下げられてどうしていいのやらと慌てていた。
そこに、少し俯き気味の蒼介が愛紗達のいるところへと歩いてきた。
「あ、ご主人様もご無事で何よりです!」
「関将軍・・・この青年は?」
「このお方は天城蒼介様で、最近大陸中で噂になっている天の御使い本人なんです。」
「なんと!この青年が、あの天の御使い様とは・・・」
そう言うと、馬騰は蒼介の近くに寄り、物珍しいそうな目で見つめてくる。それに気づいた蒼介は、
「・・・この人は誰?」
なんかすっごくジロジロと見られてるんですけど・・・。
「おおっと・・・これは失敬。私は西涼太守馬騰と申す。この度は我らの大地を守ってれて、本当に感謝する。」
「いえ・・・俺はみんなの手助けをしたに過ぎませんよ。感謝するなら、関羽達にしてやってください。」
「ですが、あなた方が助けてくれなければ、この西涼は五胡によって侵略されていたことでしょう・・・そうですね、今日のところは私の家に泊まっていってください。みなさんなら大歓迎ですよ。」
「えっ!?い、いえ、ですが・・・!」
そこまでされると、なんだか逆に居心地が悪いというか・・・なんというか。
「気にしないでください。これくらいしかできないのが、残念なくらいなんですから・・・皆の者!都へと帰還するぞ!」
半ば強引気味に、俺達は馬騰さんに連れられて都へと帰還していった。
都へかってくると、盛大に凱旋が行われていた。俺達は一度は断ったのだが、馬騰さんがどうしてもということで、その凱旋の主役として中央を馬で歩いていた。
最初は気恥ずかしいので一杯一杯だったが、少し気持ちに余裕がでてきた頃、周りを見渡してみると人々の顔は満面の笑みで溢れかえっていた。
それを見ていると、本当に自分達の力が役に立ったんだなって実感した。
そして凱旋が終わったその夜、馬騰さんの家では宴が始まっていた。
「いや~しかし、天の御使い殿は、本当にすごいお方ですな!お一人であの数を相手にするとは・・・どうです?娘の馬超の婿殿にでもなりませぬか?」
「ブッ!?な、何言ってんだよ父上!あたしはまだ婚約なんて・・・!」
「しかし、さっきから御使い殿の顔をチラチラと見ているではないか?少しは気があるのではないのか?」
「うg@ちhc〆hkほgbぁyt*l#wqjす☆hybv!?!?」
馬超は声にもならない声を出し、まるで茹蛸のように顔を真っ赤に染めている。
「あっれ~?お姉さま、もしかして図星なんですかぁ~?」
そんな馬超を見た馬岱は、笑いながら馬超のことをからかい始めた・・・この子、父親似だな。
「ば、バカ言うな蒲公英!だからまだ婚約する気なんて・・・!」
「‘まだ,ということはいつかはしてみたいということか?」
「ああもう!・・・寝る!」
「ああ~!お姉さま待ってくださいよー!」
まだ顔が赤いまま、馬超は早歩きで自分の部屋へと向かっていき、馬岱その後ろを追いかけていった。
「・・・ちょっとやり過ぎじゃありませんか?」
なんかぶっ倒れるんじゃないかってくらい、赤くなってたけど・・・。
「あいつは母親似ですから、つい同じように接してしまって・・・」
「そういえば・・・お母さんは?まだ見てませんけど・・・」
「・・・二人が幼い頃に、病で先に逝ってしまわれましてね・・・ははっ。」
馬騰さんはサラッと笑いながら、話してくれた。
「・・・すいません・・・野暮なこと聞いちゃって。」
「気にしないでください・・・男手一つで育ててきたもので、あんな男らしくなってしまいましたよ・・・二人には幼い頃から苦労させてばかりでした。」
「馬騰さん・・・」
馬騰さんは手に持った杯の酒を一口飲むと、急にこんなことを持ちかけてきた。
「ですので御使い殿。あの二人をあなたのお供として、一緒に連れてってもらえませんか?」
「え・・・?」
突然の話題に、俺はどう答えればいいか分からなかった。
「あの二人は世の中をあまり知らない・・・ですから、もっと視野を広げてもらいたと思いましてな。それに大陸は広い・・・あいつらの知らない強いヤツがたくさんおるかもしれませんからな。」
「俺達でいいんですか・・・?」
「あなたたち‘だから,です・・・それでは娘達のこと、よろしくお願いします。」
「・・・分かりました。こんな俺達で良ければ。」
そして、俺と馬騰さんはガッチリと握手を交わした。
どうもお米です。今回は馬超達がいる西涼でのお話でした。やっぱり翠は可愛いね、うん。それでは次回は多分、一刀達の話になるのかな?最近は蒼介視点が多かったので、ちょっと新鮮に感じます。それでは失礼します~。
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第二十七話目となります。最近は内容を考えるよりも、タイトルを考える方が難しいんじゃないかと感じています。こんな調子でいつも書いております・・・(´・ω・)