「・・・そして、天の御使いの出現により、敵の士気が一気に向上・・・敗退したというわけですか。」
暗い一室。環の召集により、紅泉、牙猛、王湾の三人は集められていた。
「はい・・・数ではこちらが優勢でしたが、質では向こうの方が上のようでした。本当に申し訳ありせん・・・」
「いえ。残念ながら西涼を手に入れることはできませんでしたが、代わりに良い情報を頂きました・・・王湾。」
紅泉が申し訳なさそうに謝るのを、環は手で止める。そして今度は王湾に問いかける。
「はい!僕、天の御使いの一人・・・天城蒼介と対峙したんですけど・・・思わず体中がゾクッとしましたね。」
「と、言いますと?」
「あの溢れ出る闘気と洗礼された剣筋・・・前に会った時とはまるで別人のようでした・・・ああ、思い出す度に・・・ジュルリ・・・」
恍惚な表情を浮かべ、思わずよだれを垂らす王湾。その姿はまるで、好物を食べる前の子どもようだ。
「おい、王湾。よだれが出ているぞ。」
「ハッ・・・!っとと・・・それで、天城蒼介の実力はなかなかのものでしたよ。」
「なるほど・・・姿を見ないと思ったら、そのような力をつけてくるとは・・・ますます欲しくなりましたね、フフッ・・・」
口元を手で押さえてながら、不敵な笑みを浮かべる環。しかし、
「ですが、もう一人の天の御使い・・・北郷一刀はどうしているのでしょうか・・・」
一刀の詳細はまだ分からないまま、蒼介と同じように行方不明になったままで情報がない。紅泉は疑問を浮かべる。そこに環が、
「なに、簡単なことですよ。天城蒼介が消えた頃に北郷一刀も消えた・・・おそらく、一緒に行動していたと考えるのが妥当でしょう。」
「えっ!?じゃ、じゃあ北郷一刀も強くなってる可能性があるってこと?」
「ええ。二人とも、私達に狙われていると気づき、力をつけたのでしょう。」
「ホントに!やったー!これで、退屈せずに済みそうだ。」
王湾は大喜び。ガッツポーズしながら飛び上がった。
「・・・だが、環よ。これでは前のように簡単にはいかなくなったぞ。これからどうするつもりだ?」
計画の思わぬ支障に、牙猛は今まで閉じていた目をそっと開き、環に今後の作戦について問いかける。
「そうですね・・・西涼を手に入れて、勢力を大きくしてから行うつもりでしたが・・・まぁ、今の兵数でも十分いけることでしょう。紅泉、牙猛。」」
「「ハッ・・・」」
「あなた方は兵を率いて、牙猛は天城蒼介のいるところへ、紅泉は北郷一刀がいる魏へと攻めてください・・・しかし、それぞれの天の御使いを、私がいるところへおびき寄せるだけで結構。いいですね。」
「「御心のままに・・・」」
二人は今後の作戦を環から聞くと、その場から消えていった。残された王湾は、
「僕は何をすればいいんですか?環様。」
「王湾は、私と飛鳥とであるところについてきてください。よろしいですね?」
「ハッ・・・・・」
「は~い・・・僕も戦いたかったなぁ~・・・」
王湾は一緒に来るようにと言われ、心底残念そうに返事をし、逆に飛鳥は素直に従う。そして三人も、前の二人と同じように消えていった。
「はぁ~・・・討っても討っても数は減らず・・・これじゃキリがないわね。」
玉座に一人座り込んで、大きなため息を吐く孫策。しかし、それも仕方のないこと。ここ数ヶ月、いくら五胡を討伐しても勢力は衰えるどころか、日に日に数が増えていく一方。ため息の一つは吐かないとやっていけない。
「まさかここまで、世の中が疲弊しきっているとは思わなかったわ・・・」
トントンッ・・・
そんな風に考え事をしてると、突然扉の叩かれる音が聞こえてきた。
「誰?開いているから入ってきなさ・・・・・」
「どうも、お初にお目にかかります。江東の小覇王、孫伯符殿・・・」
「なっ!?あなた何者・・・!」
扉から入ってきたのは、仲間の兵士ではなく、黒い装束姿の男だった。それを見た孫策は、近くにあった剣を抜き出す。
「名はとうの昔に捨てました故、名乗るとしたら‘環,でしょうかね。」
「あ、あなたが五胡の首領の・・・首謀者自ら、私に何の用かしら?」
「そうですね・・・あまり時間がありませんので、率直に申し上げましょう。」
その告げた瞬間、環の姿が視界から消えた・・・と感じたその時、
私の計画の駒となれ
「・・・っ!?」
そう耳元で囁かれた瞬間、目に妖しげな光を当てられる。その光が、環の指輪による光だったと気づいた頃には、もう遅かった。
「なにを・・・一体・・・なにを・・・した・・・」
「いえいえ、ただ眠っていただくだけですよ・・・まぁ、眠ると言っても目覚めることのない、永い永い眠りですがね。」
「く・・・だれ・・・か・・・」
そう言うと、孫策は前のめりに倒れていった。床に剣の落ちる音が響く。
「何だ!何の音だ!」
「雪蓮!一体どうし・・・」
その音を聞いた黄蓋と周喩は、扉を開け驚愕した。
「おやおや・・・招かれざる客ですか・・・」
環の足元に倒れている孫策。誰がどう見ても、襲われたようにしか見えない。
「き、貴様っ!伯符殿に何を・・・・・うっ!」
黄蓋が言葉の続きを言おうとしたが、なぜか糸が切れた人形のように倒れていった。
「さ、祭っ!?何があっ・・・・・くっ!」
黄蓋に続き、周喩も同じように倒れていった。
「よくやってくれました・・・王湾。」
「はぁ~・・・やり甲斐がなくてつまらないよ・・・」
「まぁまぁ、そう言わず・・・おや?」
環が目を向ける先には、孫権と甘寧がこちらに歩いてくる姿が見えた。
「見なさい、王湾・・・いいエサがあちらにありますよ?」
「殺っていいんですか・・・?」
王湾の目が鋭く光る。
「いいえ。大事な駒なのですから、気絶させるだけにしてくださいね。」
「は~い・・・じゃあ・・・行くかぁっ!」
「ん?・・・あ、危ないっ!」
「おらあああああっ!」
甘寧の咄嗟の対応のおかげで、何とか王湾の拳を防ぐことができた。しかし・・・。
「・・・くぅぅっ!」
「し、思春っ!?お前、何者だ!」
「そんなことよりも、自分の心配をしたらどうだ?」
「え・・・・・?」
王湾の気になる言動の意味を気づいた頃には、
「失礼・・・お姫様。」
すでに環の指輪の光が、自分の目に入り込んできた。そして、声も出ないまま静かに倒れていった。
「なっ!貴様、何をし・・・たっ」
「ほら、余所見してからだよ・・・」
甘寧が孫権に目を奪われている間に、王湾の手刀が首筋に入り、そのまま力なく倒れていく。
「ふぅ~・・・見当違いもいいとこだよ。まさか呉って、すっごく弱いんじゃない?」
そう言いながら、倒れている孫権と甘寧を見つめる。その目には、興味がなさそうな冷たい目をしている。
「(わわわわ!?!?ど、ど、どうしましょう~隠様ぁ!)」
「(どうするもなにも、あの思春ちゃんを倒すくらいの人を、私達がやっつけられるわけないじゃないですかぁ~!)」
声を潜めて、壁の端に隠れている隠と明命は今までの一部始終を見て、慌てふためいていた。
「(このままじゃ、孫呉が内部から侵略されてしまいますねぇ~・・・ここはまず、外から応援を要請しましょう!)」
「(は、はいっ!分かりました!)」
そう考えた二人は、城を出ようとそっと早足で出口へと向かっていった。
「・・・・・」
「いいんですか?追わなくても。」
「いえ、これで私の思惑通りに進んでくれるはずでしょうからね。」
すでに明命達の存在を知っていた環は、あえて追わずに行かせていった。思惑通りに、あの二人が事を運んでくると確信して・・・。
※どうもお米です。今回はいかがだったでしょうか?呉という観点自体、書くのは経験がありませんので、口調がおかしいところがあるかもしれません。呉大好きのみなさん、本当にごめんなさい・・・。さて、次回は・・・まだ考え中です。ごめんなさい・・・なんだか謝ってばかりでごめんなさい・・・それでは今日はこれでさようなら~。
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第二十九話目となります。最近、リアルが忙しすぎて更新ができない・・・orz
こんな私をお許しください・・・。