No.140344

『偽・悲恋姫†異聞録』11

Nightさん

GW特別企画、本日朝の一本目です

どなたか一人でも面白いと思っていただけたら僥倖です

追伸、魔王兄妹がようやく出てきましたが…相変わらずです

2010-05-02 10:38:34 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:4930   閲覧ユーザー数:4186

 幽の突撃はまるで再度敵後曲に向けて、横合いから突撃を仕掛けるように見えた。

 見様によっては、それは敵後方をかすめ、そのまま麗の後方に着き二匹に分かれた蛇が一匹の大蛇と再びなるように見える

 

 初撃で崩れないか・・・

 

 輜重段列や、予備兵力を最初に潰したのは、いくつかの意味がある。

 敵後方へと抜け、それらをつぶされると、退避経路が脅かされ、大概の軍・・・とりわけ兵達には動揺が走るが、それがほとんどない・・・良い兵隊だ。

 

 ・・・つまり、こいつら倒したきゃ、頭潰すしかないってわけか。

 

 敵本体と幽の指揮下である陰隊との間に割ってはいる敵の右翼部隊、展開は速いうえに正確だ、訓練した者も、今率いている指揮官も、優秀ということがよくわかる。

 こちらの突撃を、急速に展開した部隊の中央で受け止めようと、隊を動かしている

 

 さて、それじゃぁ今まで戦場でどれだけ揉まれて来たか、お姉さんが試してあげようかねぇ

 

 小さく唇を舐め幽が大声を張り上げる。

 「目標変更、敵左翼。食い散らかすな喰らい尽くせ」

 『応』の低い声の連なりに急角度で進路を敵本陣前曲方向へと変える。

 

 進んでいる部隊を、急がせることは出来る。

 

 さて、立ち止まらせて、引き戻すことは出来るかい

 

 出来なきゃ・・・あんたらは蹂躙されるだけの、藁だ。

 

 

 

 俯瞰するように頭の中で状況を描く朧には、幽と麗の動きが手に取るようにわかる。

 麗の部隊運動にまで優雅さと美しさを求め、それでいてそれを重視するあまり、ことの本質を軽視するというようなまでには行かず、心理的な効果を敵にたたきつける用兵。

 対する幽は、部隊の展開や運動曲線の細かなところには、まったく頓着せず。

 雑然とした部隊運営をしながらも、戦場を見渡し、敵の思惑を逆手に取り・・・その雑然さを恐怖へとすり替えていく。

 

 各隊がそれぞれ別の生き物のように勝手な思惑で動いているように見えて、全体で見ると、それは両の腕のように全てが連動している。

 敏腕と剛腕の二つの腕を持つ『魔王』の意思の元、全て描かれたとおりの展開。

「敵は、どう出る朧」

 鋼の声による呟きは、風に消されることなく朧の耳に静かに届いた。

 密着している体が声を伝えたのか、もしかしたら・・・声など初めから口に出していないのかもしれない。

「お兄様には、すでにお解かりのはずです。

 足止めに少数精鋭が正面から当たります、全軍で当たって来ないところを見ても

 敵は何かを、待っている」

 その何かが、勝利をもたらすと、敵は確信している・・・

「なら、やることは一つしかない・・・お兄様は、それを成させ、その上で踏み潰すおつもりなのでしょう」

 希望を、摘み取り、恐怖で心を折ることで、無駄な犠牲を出さない為に。

 ふにっと頬を一影の胸板に押し付けながら、朧はちょっと拗ねた様な目をして小さくつぶやく。

「敵にまで優しくなくていいのです」

 一影は、まっすぐに敵先鋒部隊を見据えていた目をはずし、髪の上から朧の額に唇を押し付ける。

「なななななっ、お、おに、お兄様、てってて敵、敵の目の前で・・・ぁぅぁぅ」

 慌てる朧に一影がわずかに戸惑ったような目を向ける。

「汜水関で、朧がした呪いだが・・・作法がちがったか」

 あっ・・・と、一影の指摘にあのときのあれはそういう受け取られ方だったのか、と妙に納得をした朧の頭は瞬時に巡る。

「作法が違うのです、だから、朧がちゃんと・・・教えてさしあげます」

 言うなり、首にしがみついて・・・朧は唇を重ねる。

 

 敵が目の前に迫り、味方の先頭に立って突撃している、騎馬の上で。


 
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