「よーし、これでHRを終わる。解散!」
撫子の宣言の許、学生の約半数にとっての学園での一日が終える。
この後は、掃除当番は割り振られた場所の清掃を、
日直は教室の点検と記入事項を日誌に記録し担任に提出を、
クラブ・同好会に所属しているものは活動を、
そしてそれらのどれにも当てはまらない者、所謂帰宅部は、
遅早の差はあるが帰路に着く。
稟やルビナス達は最後の組だ。人間界に来たばかりだと言うのもそうだが、
皆稟がどの部・会にも所属していないからと言うのが理由である。
先輩二人は料理部に所属しているのでこの場にいない。
荷物をまとめ全員が揃ったのを確認し帰宅を開始。
普通ならばなにかしら談笑しながら下足場へ向かうつもりだったが、
ここに来て、改めてルビナスの凄さを全員が実感することになった。
体育の授業でのルビナスの活躍を聞きつけた運動部に所属する生徒による部活勧誘、
一部同年代&下級生(と何故か上級生ごく一部)からの「お姉さまと呼ばせてください!」発言(女:男=6:1)。
勧誘には稟は所属していないからと言う理由で却下。ならば稟ごと入れてしまえという奴もいたが、
稟に無理やりさせるような所は絶対拒否と言われ泣く泣く断念。
呼ばれ方に関しては、男は却下、普通に呼ぶように。
女には好きに呼んでよいと返していった。
普通ならば5分もせずに行ける距離を、この日は30分かけて行く破目になってしまった。
そして下足場にて。
「ハハハ、転校初日から凄い人気だな」
「て言われてもね~。私は稟以外そんなに興味ないし」
何気に親衛隊をプッツンさせるような会話と続けながら、それぞれの下駄箱の前までたどり着き、
ルビナスが扉を開けようとしたところで、
「あれ?」
「どうしたんですか?」
「いや、何故か開かなくて…壊れたのかな?」
「いくらなんでもそれは無いんじゃない、何か挟まってるんじゃないの?」
「少し強めに引けば開くのではないでしょうか?」
「そうね。せーの!」
バキィ! ドサドサドサドサ…
力任せに引っ張られ抜き取られた”ルビナス”と書かれたネームプレートが付けられた戸、
その支えが失われ、あふれ出ては落ちていく手紙の数々。
周囲にいた者は皆唖然としながら、ルビナスの手にある戸と落ちる手紙を交互に見やった。
本人もしばらくそれらを見ていたが、やがてため息を解きながら口を開く。
「ハァ…まさか初日から物壊しちゃうなんて」
ルビナスの言葉を聞き、他の者も硬直が解けた。
「いや、これはルビナスじゃなくて、この手紙が悪いんだろ」
「確かに。これだけ詰められていたら、開けようにも動かせないだろうしね」
「う~ん…てか、こんなにたくさんの手紙どうやって入れたのよ?」
「入れ方は普通に突っ込んだんでしょ?手紙の内容は…
王道に行くとラブレターだと思うけど…」
呟きながら、麻弓は女性陣を見る。思い返してみれば三大プリンセスこと楓・シア・ネリネは、
いずれもラブレターをもらったという話は殆ど聞かない。
と言うのも、三人とも「私は身も心も稟(君・様)に!」と、無意識条件反射で答えるだろう者達。
渡しても断られるのが目に見えている。
もう一つの理由として、シア・ネリネが王族であるからだ。
認めたくはなくとも、現二王がもはや決定事項とばかりに、稟を婿にと言っている。
万に一つも可能性は無いが、仮に告白し想いが通じたとしたら、その先にあるのは次期王という過酷であろう道。
それはイヤだと誰もが告白しようとしない。要は皆、言い方はあれだがチキンなのだ。
で、親衛隊ならば公然と傍にいられると足りない脳で考え、それを名乗り身を置いているという訳だ。
そこに新たに現れた転校生、ルビナス。
休み時間の会話などを(盗み)聞いたところ、彼女は魔界から越してきたばかりで、
人間界には疎いとまでは行かなくとも、慣れてないところがあると考えられ、
親しくはあれど王族関係者ではない。
稟の家族と言っているが、血の繋がりは無し。
以上の理由から、ルビナスは三大プリンセスに送れなかった分を全て送ろうとするかのようにラブレターが送られてしまったのだ。
そして、それを受けた本人はと言うと…
「手紙ねぇ…無機物って思考読めないのよね~。どうしようかな?
てか、それよりも下駄箱直してもらわないと」
特に気にしておらず、むしろ戸の方を気にしていた。
その言葉を聞いた者達は思い出す。先ほどの「稟以外興味ない」発言を。
「まぁ、無視しても問題は無いだろうけど、ルビナスの場合全部を無視はできないだろうな」
「なんで?」
「教室からここまで来る間に女子からも声掛けられただろ?
てことは、この手紙の山の中にも多分告白以外の内容もあると思う。
まぁ、これに関しては樹の出番か」
「何がだい?」
「樹、この手紙の差出人男女別に出来るよな?自慢の嗅覚で」
「人をなんだと思っているんだ…まぁ、もちろん出来るけどね。じゃ早速…」
言いながらすさまじい速さで、手紙を持っては男女別に分けていく。
一分後…男:女=7:1の手紙の束に分けられた。
「…手紙を送られてきたのもそうだけど、同姓からこれだけ送られてきてるってのも凄いな」
「あんまり実感無いけどね。内容はっと…」
封筒に入れられているものは他に開けてもらいつつ、次々と手紙を読んでいく。内容は大体三つだ。
友達になりたいというもの、お姉様と呼ばせてくださいと言うもの、そして百合希望のもの。
流石に最後のものは返答しかねるが、他の手紙に関しては、ルビナスは本人に返事するつもりでいる。
これは昔稟と共に過ごしたときの影響か、律儀な所がある性格ゆえだ。
その後、下駄箱修繕依頼と男性からの手紙の処理に行こうとした所で、手紙の一枚が手から零れ落ちる。
ポイ捨てするわけには行かないからと拾ったところで、単に折りたたまれていた簡素なものだった為、
内容が直ぐに見えた。それを見て…ルビナスの表情が変わった。
「どうかしましたか?ルビナスさん」
ルビナスの変化を不思議に思いネリネが問いかけると、ルビナスは無言でその手紙を見せる。
それを読んだネリネは、途端怒りを露にした。
それを見て、楓とシアも手紙を見せてもらい、ついに四人とも機嫌を大いに損ねる。
書かれていた内容は要約すると「稟なんかと付き合うより俺と付き合うほうがいいぜ」
と言った感じのものだ。最後の方に体育館裏で待ってると書いてある。
只ならぬ様子に手紙を見せてもらうと、良くまぁ手紙とは言えここまで言うもんだと、
稟は呆れてしまった。稟本人はある意味慣れているので特に気にしていないが、四人は違った。
「稟…私、ちょっと行って来るから。下駄箱のこと、お願い」
「え?行くってどこにだ?」
「体育館裏に…ちょ~っとオハナシしてくるわ」
「私も行きます。この様な手紙を書くような輩…万死に値します…」
「「私も…」」
あっという間に歩き出された為に表情を見ることは出来なかったが、
醸し出すオーラからかなり怒っていることが窺える。
とりあえず、残された稟達は職員室へ修繕を頼みに行くことにした。
そして、職員室にて事情を説明していると、体育館の方から男性の断末魔が聞こえてきた。
稟達は合掌した。気持ちを全く込めずに…
ちょっとしたハプニングがあったが、特に気にせず、皆が揃った所で帰宅開始。
授業はどうだった~とか話しながら歩き、途中樹と麻弓は別方向な為別れ、
同じ場所に家がある5人は、今夜のことを話しながら帰路を辿る。
「今夜って、やっぱ来るのかね?おじさん達」
「来るんじゃない?おじ様達の性格だから私の入学祝だー!って言いながら」
「そう…なるでしょうね。すみません稟様…」
「いや、そこで謝られてもな~…ネリネが悪いわけじゃないし」
「でも、ルビナスさんの入学祝いは私もしたかったです」
「だな。で、誰の家にする?やるならやるでちゃんと決めとかなきゃな」
「私は出来れば稟の…楓の家がいいんだけど。幹夫おじさんにも会いたいし」
「あ、すいません。お父さん今日は忙しくて帰れないそうで。
うちでやるのは別に問題ないですけど」
そんな感じで話しながら家に着くと、何故か揃っている三大親馬鹿パピーズ。
その後ろでは仕方ないな~と言った感じのハリーとマオもいた。
「おかえりなさい、ルビナス」
「皆もおかえりなさい」
「ただいま、マオ、ハリー」
普通の家族間では無意識と言ってよいほどに自然な会話。だが、三人は幸福感を感じていた。
家族や故郷を失ったルビナス、娘を失ったハリーとマオ。
一緒にいることで、家族でいることで互いの心を癒しあった。
魔界にいたときは、どこか研究員達から隠れていると言う意識が強かったが、
それとは殆ど無縁の人間界で、同世代の友人や稟と共に平和に過ごすことができ、今その1日目をやり通した。
そのやり取りを、”良かったな”と心の中で思いながら、しかし、
それを言葉にしたら変にシリアスになってしまいそうだったのであえてせず、
視線をパピーズの一人に移し、気になることを質問した。
「で、幹夫おじさんはなんでここに?今日も仕事が入っていたんじゃ」
「ああ。それなら神ちゃんとまー坊が代わりをよこしてくれてね。
なんたって稟君の家族の入学祝、参加しないわけには行かないだろう」
「おじ様…また職権乱用。まぁ、今回はありがたいかな。
お久しぶりです、幹夫おじさん。私のことは?」
「ああ、話は聞いているよ。久しぶりだね、ルビナス。
それから…改めて、お帰り」
「はい、ただいま」
血が繋がっていなくても家族になれた。稟のお陰で家族になれた芙蓉家。
人間界に、稟の許に戻ってきてまた家族として接せる。
そのことにまた、ルビナスは喜んでいた。
「いやー、それにしても…最後に見た時は、まだ腕に収まるくらい小さかった子狼だったのに、
見ない間に稟君と同じくらい大きく、そして美人になるなんてね。世の中分らないものだ」
「う~ん、私としては楓達の体格の方が少し羨ましかったりするけど」
「何故だい?」
「体格が大きいと稟に抱きしめてもらって包まれるってのが出来ないから。
その点楓達くらいならこ~…」
言いながら、ルビナスは傍らにいた楓を抱き寄せ、
片手を肩に回して抱きしめ、もう片方の手で頭を撫でる。
突然の撫でられながらの包容に、楓は少し混乱する。
「て感じで出来るでしょ?その点私の体格だと稟にこんな風にしてもらいたくても出来ないから」
「ふむ、なるほど…ルビナスの体格、稟君の隣にいて凄く自然に見えるからかなりお似合いと思ったが、
実際に見てみるとこれはこれでと言った感じだな。良かったじゃないか楓!」
「お、お父さん///」
身長がほぼ一緒な稟とルビナス、二人が並んでいるととても自然に見える。それは、稟の傍にいる誰もが感じていたことだ。
それを羨ましく思っていた楓含む三人であったが、本人から教えられ実践された新事実?に三人はその光景を妄想する。
恥ずかしそうに、しかし幸せそうに顔を赤らめながら、やってくれないかな~といった視線を稟に向ける。
”抱きしめて、なでなでしてくれますか?”という三対の視線を向けられた稟は、
なんとも言いがたい恥ずかしさから逃れる為に、話をそらすことにした。
「え、え~っと、おじさん達が勢ぞろいしてるってことは、あれですか?
ルビナスの入学祝ですか?」
「ああ、そうさ。場所は何処にしようか?」
「ここはやっぱ主役の家でいいんじゃないか?
稟殿の家は全員入ったことがあるが、そっちにはまだ行って無い奴がいるからな」
言いながら神王は、その家主であるハリーとマオに問いかける。
「ウチは問題ないですよ」
「この人数なら広さも特に問題ないです。早速行きますか?」
「ああ。料理の方は任せてくれたまえ。腕によりをかけて用意しよう!」
「じゃぁ私も行くっす!」
「私も」
「その前に荷物おいて着替えてこようぜ」
一旦別れてそれぞれの家に帰っていき、私服に着替えた一同はルビナスの家に向かった。
ルビナス宅で開かれた入学祝兼やっていなかったルビナス一家の引っ越し祝い。
楓・シア・マオ・フォーベシイが料理を作りそれを皆で食し、
パピーズが各々持ち寄った酒を交し合い、全員が騒ぐ。
会が進み、稟がルビナスやラバーズのことで応援されたり、褒められたり、からかわれたりしている中、
「よっしゃぁ、稟殿飲もうぜー!」
「だから、未成年に酒を飲ませないでくださいよ…」
「んだぁ?近ぇ将来の親父になる俺様の酒が飲めないってぇのか?アァン?」
「いや、だから「ちょっと待った神ちゃん!」…魔王のおじさん?」
「稟ちゃんにはウチのネリネちゃんと結ばれ、将来親子となるのは私だよ!」
「い~や!それはうちも譲れませんな!」
「お、お父さん…」
「稟君が我が芙蓉家に住むこと10年近く、稟君と楓はもはや夫婦同然!
稟君が芙蓉稟、もしくは楓が土見楓となるのも、もはや時間の問題!」
酔っているのか顔を赤くしながら火花を散らして睨みあうパピーズ。ハリーとマオは少しはなれたところで苦笑している。
横でパピーズを抑えながら話を聞くラバーズは、三人とも顔を真っ赤にしながらチラッチラと稟を見る。
その視線をむずかゆく思い、「外の空気を吸ってくる」と逃げるようにその場を去り、
ルビナスもそれについて行った。二人は自然に寄り添いルビナス宅の縁側に座る。
「フゥ…全く、おじさん達にも困ったな」
「稟はうれしくないの?」
「いや、そりゃうれしいけど…まだちょっとな」
「ふ~ん…まぁ、私は稟が誰を選ぼうと稟の傍にいるけどね」
「…ありがとうな、ルビナス」
「礼なんていいわ。私がそうしたいだけだから」
「…そうか」
「ええ…もう、稟の傍から離れない。何があっても、私は稟と一緒にいる…この先ずっと」
「ああ…一緒にいような」
ルビナスは稟の手を重ねながら肩に頭を置き、稟は重ねられた手を握りもう片方の手で肩に置かれた頭を撫でる。
二人は寄り添い、互いの身体を、心を暖めあった…
…と、ここで終わればいい話だが、そうは問屋が卸さない。
「…フム、随分といい雰囲気じゃないか?稟ちゃん」
後ろから掛けられた声に、稟は反射的にルビナスから離れた。
ルビナスは特に気にせず、むしろ離れてしまったことを残念に思っていた。
稟が振り返ると、ニヤニヤしたパピーズと嬉しそうなハリーとマオ、
そしてちょっと不満ですといった感じのラバーズがいた。
「い、いや、あの」
「稟君、別に誤魔化すことなんか無いよ。僕もマオも君達には幸せになって欲しいと願ってるからね」
「ルビナスの願いは稟君の傍にいること。そして私達もそれを望んでいるんだから」
「あ…どうも」
一同の中でただ二人穏かでいる空気に当てられたのか、稟はだんだん落ち着くことが出来た。
が、ハリー・マオ・稟・ルビナスの様子に面白く無いと思う三人がいた。
「っく~!こうなりゃ早い者勝ちだ!稟殿!俺と親子の杯を!!」
「おっと、抜け駆けはいけないよ神ちゃん!稟ちゃん、その杯はぜひともボクと交そうじゃないか!」
「そういえば、稟君とは飲んだことがなかったね。これを期に飲もうじゃないか!」
ユーストマが焼酎、フォーベシイがワイン、幹夫がテキーラを片手に稟に詰め寄る。
どれもが年代モノ高級品で純度も高め。
一学生が飲めるようなものではないし、なによりその目的がいただけない。
「だから、未成年に酒はやめてくださいって!てか、おじさん達を止めてくれ!」
頼みの綱にと、稟は楓達に視線を向けるが、三人は止めるどころかそれぞれの父の隣に立って共に詰め寄ってくる。
6人に詰め寄られ、あれやこれやと言いながら断ろうにも6人は勢いを緩めない、むしろ強めてくる。
そんな光景をルビナス一家は楽しげに見ていた。
「あはは、これからはこんな楽しい毎日になるんだろうね」
「ええ、良かったわね。人間界に来て」
「うん」
暫く楽しげに眺めていたが、ふとルビナスがあることを気にする。
「そういえば…私ってお酒飲んだこと無いんだよね。ハリーもマオもあんまり飲まないし」
「僕もマオも余り強くないからね。飲んでみるかい?」
「うん」
「ちょっとハリー…」
「まぁ、少しだけなら大丈夫だろう。それに、もしかしたらフォーベシイ様たちのことだから、
流れで飲まされることになるなんてこともあるかもしれないし」
「そうね…味見程度ならいいかしら」
縁側を後にし、テーブルに乱雑に置かれた酒瓶の中から、それほど強くない酒を選び出す。
「まぁこのワインなら大丈夫かな?はいルビナス」
「ありがと」
グラスの1/4程まで注がれたワインを、ルビナスは香りを嗅いでから喉へ通す。
「ふーん、ジュースとはやっぱ違うのね」
「そりゃぁね…あら?」
ルビナスのコメントに返していると、稟達が戻ってきたところだった。
「争奪戦は終わったんですか?」
「いや、争奪戦て…とりあえず、親子の杯じゃなくて家族の杯ならってことで妥協してもらいました…」
「家族の杯?」
「ああ、稟殿もいいこと言うじゃねぇか!血が繋がっていなくても、
ここにいる全員は家族だってな!」
「では君たち三人も加わりたまえ」
「「「はい」」」
それから全員がコップやグラスを持ち互いに注ぎ合い、全員が持ったのを確認してから、
その役を全員に推された稟が宣言する。
「えっと、それじゃぁ…ここにいる全員に、家族に!乾杯!」
「かんぱーい!!」(全員)
一杯を飲んだ後、パピーズは無礼講と言わんばかりに飲みまくった。
そして、詰め寄る対象には不幸にもルビナスも狙われていた。
家族になったんだから、と言った感じでどんどんルビナスに飲ませていく。
ルビナスは、家族が増えたことを喜び、それに乗って勧められては飲んでいった。
外見でわかるほどに酔っているのが分るほどに赤くなっていく顔。
ハリーとマオは止めようとするが、本人に大丈夫だから~と言われてしまう。
そして、悪ふざけなのか自覚が無いのか、パピーズが三人とも各々持ちえる最高純度の酒を飲ませたところで、
ルビナスはバッタリと倒れた。稟が慌てて起そうとするが、その前に素早くルビナスが立ち上がった。
「だ、大丈夫か?ルビナス」
「………………」
「ルビナス?」
呼びかけても反応せず俯いている。不安に思った稟が近付こうとし、
ガバっと顔を上げたルビナスに動きを止める。ルビナスは顔を真っ赤にしていた。
「…酔ったのか?」
その問いかけに対して、帰ってきたのは、何故か発光、肉体変化であった。
目の前の光に、稟は思わず目を瞑り、光が晴れたのを感じて目を開ける。
そこには荒い呼吸で舌なめずりしながら、まるで獲物を狙う狼の視線で稟を見る獣人形態のルビナスがいた。
突然の変化とルビナスの様子に全員が呆然とする中、
ガシ
「へ?」
一瞬で稟に距離を詰めたかと思うと、片手で担いで跳躍した。
一跳でリビングにいる全員を飛び越え、二跳で廊下まで行き、三跳で階段最下にたどり着き、
四五跳で壁を三角飛びして二階まで上がり、六跳で自室に飛び込み、派手な音を立てて扉が閉められる。
誰もが呆然としていた。いち早く復活したのはハリーとマオだ。
「…なぁ、マオ。ルビナスのあの様子、あれってやっぱり…」
「ええ…多分だけど。あれって…発情してたわよね」
”発情”その言葉にその場にいた全員が反応する。
「う~ん、狼な所もあるからそういう時期があるんじゃないかって思って、今まで無かったけど」
「考えてみれば当然のことなのかもね。発情する対象がいないんだから」
「あ、あ、あ、あの!ちょっと待ってください!と言うことは、今稟君は…///」
慌てて確認を取ろうとするが、言おうとする先を想像してしまい顔を赤らめる。シアとネリネも同じだった。
「多分、想像通りになるんじゃないかな」
「人間界では、男の子の中には狼がいて女の子に迫っちゃうって言うけど…女の子でも有り得るのね」
顔を赤らめる三人とは対照的にハリーとマオは落ち着きまくっている。
茹蛸状態になった三人はもはや言葉を発することもできない。そこに見かねたパピーズが発言する。
「おいおい、なんとかなんねぇのか?」
「そうだよ、稟ちゃんとルビナスが、まぁ両想いなのはいいが、
流石に酔って発情した勢いで…っていうのは」
それを聞き、ハリーとマオは考え込む。
「そうですね…マオ、ここはあれだね」
「ええ」
6人は何か言い案が浮かんだのかと期待の眼差しを向ける。んが…
「明日は赤飯を出さないとね!」
「うん、そうだな!」
それを聞き、止めるつもりが全く無いことを悟り盛大にずっこけた。
「っく、こうなりゃ俺達で止めに行くしかねぇな!」
「ああ!ミッキーも一緒に行こうじゃないか!」
「もちろんだとも!」
闘気を醸し出しながらパピーズは歩き出す。ちなみにミッキーは幹夫のあだ名(パピーズ間のみ)。
だが、それよりも早くハリーとマオが動き出し、あっという間にルビナスの部屋の扉の前まで走り、
ここは通さないとばかりに二人並んで立ち塞がった。
後から来た6人は、どういうつもりかと二人を見る。
「悪いですが…ルビナスと稟君の逢瀬を邪魔させるわけには行きませんよ」
「ルビナスの幸せは私達の幸せ。ここは通しません」
睨みあう六人対二人。緊迫した状態が続く中、ルビナスの部屋から稟の声と何かの音が聞こえてくる。
それを聞き取った一同の興味は中の様子が気になり、そちらに集中する。
※ここからは音声のみでお送りいたします。 念のためセリフが誰が言っているかも書いときます。
稟のセリフは扉の中から聞こえ、もはや音と化してるので「」は付けません。ルビナスは理性無くなってるんでセリフなし。
(ハ:ハリー,マ:マオ,楓:楓,シ:シア,ネ:ネリネ,ユ:ユーストマ,フ:フォーベシ, 幹:幹夫)
ブチブチ、ビリビリビリビリ
ちょっ、ま、ルビナス!服やぶかないでくれー!
ハ「…まさか、ルビナスがこんなに強引だったとはね」
楓「ご、強引というか…と、止めないんですか!///」
マ「大丈夫よ。ルビナスなんだから、稟君を襲うようなことはしないわよ。別の意味で襲ってるけど」
うわ、る、ルビナス…く、くすぐったいって!
マ「ほらね、痛いとか言って無いでしょ?」
シ「でも…くすぐったいって、何やってるのかな?///」
ユ「っく、ここからじゃ中の音まではわからねぇな…」
って、それは!ベルト外すな、ズボンずらそうとするなー!!
ネ「っ!も、もうそこまで!?///」
フ「っく、こうなったら力ずくでも…魔法を使っても押し通らせてもらおうか」
ハ・マ「ッフ、そうはさせませんよ」
パチン(指を鳴らす音)
フ「何を?…な、魔法が…使えない!?」
ユ「なにぃ!?」
ハ「対研究員が襲撃してきたとき用に施していた魔法無効化結界、この家の中では魔法は使えませんよ」
マ「まさか、こんな形で使うことになるなんてね」
幹「そこまでしますか!?」
マ「ええ、ルビナスの幸せのためならこれくらい…」
あれ?ルビナス、なんで狼の姿に?
ハ「…どうやらルビナスにも影響してしまったらしいね」
マ「肉体変化も魔法の一種。だから元の狼の姿になっちゃったのね」
ビリビリビリビリビリビリビリ
って、止まれやめれ!これ以上やぶくなーーー!!
楓「!稟君!?」
ネ「まさか、今度は本当に!?」
マ「それはないわ。本当に傷つけるつもりでいたら、もうただでは済んで無いわ」
ハ「ああ、聞いた限り服を破いているだけなようだし」
シ「いや、それでも…」
わ、っっく、くすぐったいって!だから舐めるのをやめてくれ~!
楓・シ・ネ「舐め!?///」
フ「なるほど。これは一種の愛情表現なのか?」
ユ「っぽいな」
幹「いや、納得してる場合じゃないだろう」
うっ、っく、まマジ勘弁…わき腹は苦t…ホントマテ!さ、さすがにそこはぁっ、ぅぁあ
楓・シ・ネ「い、一体何処を///」
フ「何処って、それはやっぱり…」
ユ「だよな~。あそこしか考えられねぇよな?」
幹「まぁ、それしか浮かばないね」
うぁ、もうマジ限k…あれ?ルビナス?おーい
マ「あら?どうしたのかしら」
…ハァ、助かった。…酔いつぶれたのか?
ハ「フゥム、どうやら眠ってしまったみたいだね」
フゥ、ヤバかったな…いろんな意味で。よっこいしょ!…また明日な。
ガチャ
※これで音声のみの文を終えます
ノブが回され、扉の前にいた全員は何があったのかとゴクリと喉を鳴らす。
扉が開けられ、そこにはビリビリに破かれた服、と言うより布切れを纏った稟がいた。
顔はまだ僅かに赤く、服が無い肌が露出している部分は一箇所残らず濡れていた。
部屋から出る前に、ベッドに寝かせたルビナスを見てから扉を閉める。
振り返るとそこには茹蛸状態の楓達三人、どこか面白く無さそうなパピーズ、そして満面の笑みのハリーとマオがいた。
「な、なんですか?」
「随分変わり果てちゃったけど、中で何があったんだい?」
「…できれば聞かないでください///」
「まぁ、今の稟君の姿を見たら少しは想像出来ちゃうけど」
「…と、とりあえず。貞操は守りました…」
「おや、別に良かったのに」
「いや、流石に狼と人間は無理です…」
「まぁ、それもそうか。今日は、もうこれでお開きにしませんか」
「だな、流石にこんな状態じゃ続けられねぇな」
稟の状態を見て茹蛸になりながら気絶する娘達三人を見てパピーズは賛成する。
娘三人とルビナスを除いた全員で片付けをし、それぞれの家に帰っていった。
こうして、ルビナスの転校1日目が終了した。
因みに、稟はもうルビナスに酒を飲ませないことを決心し、
ハリーとマオは逆に最終手段としていつか飲ませるかもしれないと考えていた。
~あとがき~
第21話『放課後のドタバタ』いかがでしたでしょうか?放課後と言うより帰宅後って感じですが…
今回ハリーとマオがルビナスに稟と恋仲になることを期待していますが、
ルビナス本人は稟と(死ぬまで)一緒にいることだけを望んでいるので”まだ”恋愛まで”完全”には発展してません。
といっても、メインヒロインは彼女ですから、いずれは…
ルビナス宅に施された魔法無効化結界は家内のあらゆる魔法を無効化します。
発動はハリーとマオのみが出来、発動中に使える魔法は二人の解除魔法だけです。
それ以外は全て無効化されます。無効化できる魔力にも限界はあり、プリムラクラスだと無効にできません。
さて、皆さん気になるだろうルビナスの部屋の中で、稟が何をされたかは…想像に任せます。
ゲームではヒロインに対し稟は攻めのみだったので、たまには受けに回った稟をと思ったのですが…
なんというか…もはやそれ以前の問題にwww
では、この辺で。
次回第22話…タイトル未定です。すません
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ども~、お久しぶり?です。
今回の話しでルビナスは…そして稟は…
まぁ読んでからのお楽しみで。では、どうぞ!