No.121723

恋姫と無双 ~恋する少女と天の楯~ 其の九

柳眉さん

この作品は真・恋姫†無双の二次創作です。
そして、真恋姫:恋姫無印:妄想=3:1:6の、真恋姫の魏を基に自分設定を加えたものになります。

ご都合主義や非現実的な部分、原作との違いなど、我慢できない部分は「やんわりと」ご指摘ください。

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2010-02-01 00:38:17 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:8414   閲覧ユーザー数:6084

恋姫と無双 ~恋する少女と天の楯~ 其の九

『2歩退いて3歩進む』

 

<side一刀 始>

 

穏やかな波の上にいるようなゆらゆらと漂っている感覚に浸り、何も考えられなくなっていく。何をしていたのか。これから何をしていくべきか……そんなことはどうでもいい。進むという痛みがないなら、たとえ空っぽでも止まることを選ぶ。

何にもない、この気持ちが続くならそれでいい。

 

今回のことで思い知った。……俺は強くなんかない。ただ、守護られていただけなんだって――

 

斬撃の暴風の中で、今までの積み上げていたものが壊れていった。

自信だったり、強さだったり、自分の技だったり、もっと多くのものが砕けた。

もっと…できると思ってた。勝てると……思ってた。負けるはずないと思ってた。

それがどうだ?向こうは手を抜いててもこっちはボロボロ、あっちはほとんど無傷。

手も足もでない……ほんと、その通りだ。

 

――俺はこんなにも弱い……

 

業を修めても活かせなかった。そんな結果しか残せなかった鍛錬に明け暮れた日々も無駄だった。

これまで俺の費やしてきた時間はなんだったんだろう……同じ年齢の子が遊んでいる間、大人に囲まれてぼろぼろになりながら剣を学んだ。当然、普通の子の当たり前が俺には何一つなかった。それでもよかった、剣が好きだったから。上達していくことが嬉しかったし、これまで勝てなかった師に勝つようになって至高への階が見えた気がしたから、自分が多くのものを犠牲にしてそれが間違いじゃなかったんだって思えた。

でも、あの一戦で全てが崩れてしまった。得物が違うというだけで、あんなにも差がでた。俺の積み上げてきたものは、たったそれだけで敵わなくなるような薄っぺらなものだった。垣間見た至高への階も幻に過ぎなかった。それなのに俺は、周りから神童と騒がれたのに気をよくして意味もない時間を莫迦みたいに積み重ねて、そして至高に近づいたと自分の力も測れず自惚れていたのだ。

 

負けないために、強くなるために……そのために過ごしてきた毎日はその程度だった――

 

ああ、なんて情けないんだろう。悔しくて惨めで閉じこもりたい。

今はどこか誰もいないところで、ただ一人になって何もなく勝手に生きて勝手に死んでいきたい。

俺の意味は無くなったんだから。

 

どんどんと体の温度がなくなっていく。悲しいと感じることもなく、寒いと思うこともなく、何もしない、何もできない。 

ただ、明るいのか暗いのかそれすらわからない世界で額だけに安らげる温かさがあった。

 

……………

 

体に感じるわずかな重みと拘束感、目を開けると赤みの差している部屋の天井が目に入った。

ああ、気絶したのかと自分の不甲斐無さを呪う。冷静になろうとして状況を把握しようと、自分の部屋か確認しようとしたが、

 

「っつーー」

 

少しでも動かそうとしただけで体が悲鳴を上げる。まったく、こんなんじゃ起き上がれそうもない……動かなくて済む態のいい理由ができて安心する。―――これで何もしなくてもいいと。

 

そんな束の間だった。

 

「起きたみたいね」

 

と、こっちに来てから毎日顔を合わせてる桂花の声がした。看病してくれたのかとこの場にいることに感謝している俺と、できることならいてほしくなかったと思う俺がいる。

 

「手を焼かせないでよね。半日よ、半日!どれだけ寝れば気が済むのよ、あんた」

 

首を動かせなくて、桂花がどんな顔をしているかわからなかったけど、なんとなく怒っている様な気配じゃなかった。

 

「……看てくれてたの?」

「そんなわけないでしょ、私は今日から仕事なんだから。こっちに来たのは、あんたが起きるちょっと前くらいよ」

「そっか…ありがと、な」

 

今の俺は笑えているだろうか……醜いこの気持ちを隠し通せているだろうか。

 

「ふん……まぁ、いいわ。それじゃ、もう行くわ。誰かと違って私はこの後も忙しいんだから」

 

と、ダレカを強調した桂花が離れていく。そして、数歩ほど歩いたところで立ち止まった。

 

「あんたがどんな気持ちなのか興味なんてないけど、見ていて不快だからそんな顔を見せるな。あんた程度の頭なら何を考えても無駄なんだから、ヘラヘラしてるのがお似合いよ」

 

それだけ言って、扉の閉まる音とともに足音は離れていく。

 

「気付かれちゃった…かな?」

 

ひとりしかいない部屋に俺の声だけが響き、そのことにホっとしている。

 

「ああ、ほんとに最低だ」

 

それだけ残して目を閉じる。次に目が覚めたときには朝を迎えていることを願いながら。

 

<side一刀 終>

<side桂花 始>

 

部屋をでて徐々にその速さが上がる。角を曲がるあたりから駆けているほどになった。そして、だいぶ離れてから振り返る。

 

あいつは何であそこまで立ち上がったのだろう。ボロボロになって傷ついて、それでもあいつは何度と無く立ち上がった。

苛烈な攻撃に曝され吹き飛ばされて、それでも剣を手放さなかった。

 

なんで、立ち上がるの―――

 

なんで、諦めないの―――

 

 

私はわからなかった。そこまであいつを支えるものが――何があいつを駆り立てるのか――

向って行っては飛ばされて……また立ち上がっては向っていく。

その姿は希望の叶わない子どもが泣いて駄々をこねているように見えた。

あまりにも場違いな像と目に見えるあいつが重なることに不思議に思ったけど、今起きたばかりのこいつの顔を見て何となくわかってしまった。

 

あいつにとっての強さは、自分が自分である為に支えにしているものなのだと。そうだ、あいつのどこか落ち着いて見えていたところは、強さという自信に裏付けされたものがあったからで、春蘭に負けたことで強さという自信をなくしてしまったんだ。

 

……だから、あんな空っぽな笑い方をした。

自信をなくして何もかもが嫌になって、笑えないのに笑おうとして……無理をしているのが痛いくらいわかってしまう。

 

どうして、そんな笑い方をするの……

 

どうして、無理に笑おうとするの……

 

どうして、何も言ってくれないの……

 

 

私は一度でも口にしてしまった事を取り消すような事はしない。それくらい自分の発言には責任をもっている。だから、あいつに言った「どんな顔しても私の態度は変わらない」は言うつもりのなかったことではあったけど、言ってしまった以上私からそれを違える事はしない。

 

「……なにかいいなさいよ」

 

あいつの前だと言えなかったことがこんなにも簡単にでてくる。

……変わらないといった私は普段と違うあいつの目を見て逃げ出した。精一杯の強がりだけ残して逃げ出したのだ。誰の前に出ても人を怖いと思ったことの無かった私が、初めて人に対して怖いと思った。仕える事になった華琳様でも私をここまで恐怖させることはないだろう。ただ今の私にとって、あの目が…北郷一刀だけが得体の知れない恐怖を与える。

 

「ほんとに、どうしちゃったのよ……私」

 

零れていた言の葉は誰の元にも届くことなく、風に飛ばされて私から離れていった。

 

<side桂花 終>

桂花が部屋を出て行って、眠りについた一刀。

 

しかし、翌日に目覚めるという一刀の願いは叶うことなく、

 

夜の帳が下りる頃には目覚めてしまった。

 

これまで感じたことのない陰鬱な気分を持て余している一刀は、

 

痛みがいくらか和らいだこともあり、ボロボロになった服を脱いで

 

用意された服に着替えてから部屋を出ることにした。

<side一刀 始>

 

「はぁ~~」

 

藍と薄い紫が空を彩り、白い月とまだ残っている陽光の朱。そして、もうすぐ訪れる夜を感じさせる冷えた風。

そんななか、外にでてきたものの何をするべきか……ってか、そもそも、こんな時は何をするんだろう。

今まで、時間のあるときは鍛錬しかやってこなかったから、その以外で何をすればいいのかがわからない。それに今は、剣であれ何であれ武器は持ちたくないし……『普通』はなにをするのかな?こうやって、振り返ってみるとホント俺には剣しかなかったんだなって思う。

 

……まぁ、薄っぺらなものだったけどさ。

 

目的もなくブラブラと歩く。敷地内を散歩なんて簡単に考えていたけど、想像以上に広くて驚いた。それに何人もの人が忙しそうに歩き、すれ違う人すれ違う人みな何かを多くの荷物を抱えていたり、少し聞いただけでは何を言っているのかサッパリな話をしていた。

 

「皆、一生懸命何かをしてるんだな……」

 

何にもやりたくない、何にもしたくないと部屋を出たものの、人が何かをしているところを見ると何かをしなくちゃいけないという気になる。そして、その姿にあこがれる。

 

今の自分がわからない。結局なにをしたいのか……何もしたくないと言っておきながら何かをしたい気持ちがあり、その反面、何かをしなくちゃって思いながら何もしたくはない。まったく、自分のことながらサッパリだ。

 

「はぁ~~~」

 

何度目かになる溜息をついた。それでも、気持ちは軽くなるどころか重くなる一方。

 

「はぁ~~~~~」

「なにをしているの?あなたは?」

「?」

 

と、後ろから声がした。聞いたことのある声に振り向くと、ここの主の華琳がそこにいた。

 

「何って、散歩…かな」

 

言った途端、華琳の眉が角度を変える。

 

「莫迦にしているの!?それくらい見ればわかるに決まっているでしょう!人の部屋の前でなんどもなんども溜息ついて何のつもりか聞いているの!」

「えっと……一日療養を言い渡されたんだけど、部屋にいると落ち込んでいくからさ。だから気分転換にと思って――」

「散歩しているとでも?」

「うん」

「呆れた。勝敗は兵家の常。落ち込む時間があるのなら次に勝てるよう腕を磨けばいいじゃない」

 

当然のことをなぜわからないのか、とそんな雰囲気がにじみ出ている華琳が言う。……そうなんだろうけどさ

 

「いつもならそうしてきた、負けても次勝つんだって。でも、今回はなんで勝てなかったんだろうって、俺のこれまでの時間は無駄だったんじゃな……痛っ!ちょっと、華琳!華琳さん!?いたたたたたたた」

 

言葉は華琳の容赦のない行動によって止められた。一片の慈悲もなく耳を引っ張り、そのまま歩き出した。

 

 

そして、文字通り引っ張られて来たのは、城を守る城壁の上。ようやくそこで耳が開放された。

形の変わってしまいそうな耳をさする。引っ張られた熱さの残る耳には冷えてきた風が気持ちいい。

 

「見なさい」

 

と、目の前にいる華琳は視線を城にではなく反対の街へと向けた。

 

「……」

 

つられる様にしてみた街には、人の生活が表されていた

家々には人が生活していると窺える灯りと、薄く立ち昇っている煙が見える。

かろうじて見える道には足早に歩く人。家路を急いでいるのだろうか。

また、多くの人が集まっているところに市があるのかもしれない。徐々に減っているのは今日の営業が終わって店仕舞いの最中だからだと思う。

 

「何が見えるかしら」

「街…かな?」

「……それで?」

 

はずれてはいないみたいだ。それで…具体的に言えか

 

「家があって……人がいて………」

「それを狙って、戦が起こる」

「あっ!」

 

そこで気がついた。平和に見えるこの街でも、あの邑のように襲われる可能性があることに。それを今まで感じさせなかったのは、偏に――

 

「少し考えれば分かるでしょう?豊かな街があって、そこを制するだけの力があれば……力ずくで食料なり金なりを奪い取ることができるなら、そいつは一生遊んで暮らせるでしょうよ」

「あの邑が襲われたように?」

「ええ。あなたの住んでいたところは知らないけれど、この国……いや、この世界ではそれが日常的に起こっている」

「……」

「それでも、この街では起こらない。何故か分かる?」

「君が……曹孟徳が王としてこの街を守っているから」

「ふふ。もう少し説明しなければいけないのかと思ったけれど……まずまずと言ったところかしら」

 

そういって、出会ってから険しかった華琳の顔がわずかにだけど綻んだ。

 

「民とは弱いもの。だから、国がそこで暮らしている庶人の盾となり、矛とならなければならない。その対価に労働力や資金を提供してもらうことで国として存在することができる。分かる?」

「税か……」

「そうよ。私の服も、食事も。この城さえも、税によって……すなわち、庶人の血で成り立っている」

「…そっか。ここに来てからの食事だって――」

「そうよ。私が言いたいこと、分かる?」

「……ああ」

 

華琳に仕えるということは、庶人を守る華琳の仕事に携わること。そして、それは守るべき庶人の税から支えられている。

だから……

 

「無駄にダラダラと時間を過ごすなってことか」

「……落第とは言わないけど、及第とも言えないわね。まぁ、今回はこれくらいでいいでしょう」

 

そうして、一度話を区切り正面から俺と向き合った。その朝空のような澄んだ青色の瞳に俺を映して。

 

「聞きなさい。あなたが私に仕えると言うことは、その身を私の矛となり盾となって庶人のために使うということ。だから、その武の意味は私を、庶人を守るためにあるの」

「ああ」

「見なさい、一刀」

 

再び街へと視線を向ける。少し時間が経ち暗くなってきたけれど、そこには確かに人が……目の前の小さな王が守ってきた証が在る。

 

「暮らしているのは、守り慈しむべき民。……人とは宝。その宝を守るためにあなたができることは?」

「……強くなること」

「ええ。でも、武力だけではだめ。あなたには期待していると言ったでしょう?人や物を活かす術も身につけてもらわないとね」

「そっか……やるべきことが多すぎて、立ち止まってる時間なんてないじゃないか」

「そうよ。その身に刻み付けなさい。税は豊かで平和であることへの民衆の祈りや願い。その祈りに支えられている私たちは、歩みを止めることなど許されないのだから」

「ああ。……全力でその期待に応えるよ」

 

今、胸には豪風によって弱くなり消えかかった火が再び燃え始めた。目の前の華琳と視線が交わると

 

「ふふっ、楽しみにしているわ……北郷一刀」

 

と、笑っていた。一瞬、確かにその笑顔に見とれてしまったけど、もう足を止めることはできない。まだ何も見つかってはいないけど、行動を始めようと思う。いつまでも見ていたいと思った、綺麗に笑う少女の顔が変わらないうちに。

 

<side一刀 終>

<side華琳 始>

 

薄く夜の帳が下りた中、一刀は顔を赤くして走り去って行った。

 

「ふふっ」

 

走り去る一刀の背中を見て自然と笑いがこぼれた。

やはり、あの男は面白い。春蘭の本気を引き出したこと、春蘭に負けて落ち込むところ、耳を引っ張って連れてきた時のこと、考え方が少し独特なところなど……他にも面白かった点を挙げようとするならきりがない。

 

面白いと言えば一番は桂花かしら。あの子の可愛いところは変わらないけど、『ここ』での桂花は『夢』とは違って、動きの端々から女の艶かしさが増しているように感じる。桂花の一刀を見る目は、『夢』の桂花が私を見ていたときのものと言うより、むしろ……ふふっ、やめておきましょう。これ以上は無粋というものね。

 

 

 

一刀が加わったことで、少しずつだが変わってきている。それは、私にとっても、『魏』にとっても良いものだろう予感がある。これからの群雄割拠に私はどう変わっていくのだろう。

戸惑いは確かにあった。でも今は進むことに焦がれている。

 

もはや天などに左右されぬ私は、私らしく在ろうと決めた。ならば、一刀に言ったように私もまた、立ち止まることはもうしない。

 

一歩踏み出した景色は、夜であったのにも関わらず鮮やかな彩りに変わって見えた。

 

<side華琳 終>

<side桂花 始>

 

灯が揺らぐ音がして顔を上げた。ずいぶんと暗くなったわね、となんとなく窓に視線を向ける。そこには薄く照らす月光の白。見慣れているはずの月明かりに安らぎを感じる、不思議な気分。

 

ここ最近で月を見る機会が増えた……と思う。昨日は部屋で、その前は外で見ていた。

それまで外で月を見ることはあっても、部屋では書物を読むことが多くて特に気にする事はなかったはずのに……

 

「今日はここでおしまい」

 

月を見る機会が増えたように、どうでもいいことを考える時間も増えたような気がする。……でも、嫌じゃない。

別に、これまでが嫌だったわけじゃない、ただ今までとは見方が違ってきたと思うだけ。

 

「そういえば、月に兎なんて居るのかしら?」

 

なんて言っても、居るわけないって分かっている。ただ、あいつは何を思って月に兎が見えたなんて言ったのかが気になっただけ。昨日は見えなかったけど、今日はその理由がわかるかもしれない。

窓に向おうとして椅子から立ち上がったとき、とんとん、と戸を叩く音がした。

 

「ひぅ」

 

突然の音に驚いたけど、これは『のっく』だったか……そんなことをする奴は一人しかいない。きっと、あいつだ。

でも、今は顔をあわせたくない気持ちが強かった。

それで、しばらくじっとしていたら、戸の外から

 

「もう、寝ちゃったのかな……どうしよっかな?」

 

と、最後に顔をあわせた時の雰囲気じゃない、昨日までのあいつの声が聞こえてきた。

そして、

 

「桂花?」

 

と、今度は少し音を抑えて戸を叩いた。多分ここで出て行かないとあいつは部屋へ戻るだろう。

今はそれでいい。今日は会いたくないと思っていたのに、気持ちとは裏腹に足は戸の方に向っていった。

「な、なによ、こんな時間にっ!!迷惑だと思わないの!?」

 

それまで着ていた白い服ではない、他の服に着替えた北郷一刀が居た。

口を開けば出てくる言葉。大丈夫……思ったより怖くない。

 

「ごめん。でも、今日のうちに桂花に…その……」

「わ、わたしに?」

 

言い辛そうに表情を窺ってくる。あ~、う~と口を開いては閉じている。

 

「用がないなら部屋に戻るわよ」

 

これは、きっと私の精一杯の強がり。それで覚悟を決めたのか、私の目を見て話し始めた。

 

「お願いがあるんだけど、字を教えて欲しい」

「…」

 

急に肩の力が抜けた気がする、私は何を期待していたのだろう……少し顔が熱い。

 

「桂花?」

「なによ?」

「えっと、字を――」

「二度言わなくても聞こえているわよっ!それで!?」

 

ちょっと強くなってしまった言葉。それなのにこいつは気にした素振りを見せなかった。

 

「字を教えてください」

「いやよ、私は忙しいって言ったでしょう?……他の人に頼んだら?」

「我が儘って解ってはいるんだけどさ、桂花から字を習いたい。少しだっていい、時間が空いているとき都合をつけてもらうことはできないかな?」

「ふ、ふ~ん……そう、この荀文若様に字を習いたいって言うからには、相応の見返りがあるのよね?」

「あっ、そうか……困ったな、考えてなかった」

「……冗談よ。満足出来るようなものなんて準備できないでしょうしね」

「……むっ」

「ふふ」

 

真剣な顔をしたり、困った顔をしたり、笑ったり、苦笑いだったり……ころころと変わる表情。

やっぱり、こいつは…北郷一刀はこっちの方がいい。

 

「いいわよ、字を教えてあげる」

「ありがとう。できるなら早い方が助かるんだけど……桂花はいつ都合がいいの?」

「……明日かしら」

「明日か…えっと、明日は街を見に行くつもりなんだけど、その後でいいかな?」

「街に行くって一人で?」

「そのつもりだけど……」

「……いいわ、私もついていってあげる。それにあんたわかんないことの方が多いでしょ」

「…いいの?」

「かまわないわ、それに一度面倒見るって言っちゃたしね」

「…ありがと」

 

そこで、あいつは頬を掻いて、急に視線を右に左にと落ち着きがなくなった。どうしたのかしら、と首を傾げていたら、

 

「え、えっと…も、もう夜も遅いし、そろそろ戻るよ」

「え、ええ」

 

挨拶も早々に立ち去ってしまった。後姿を見送って、さっきまであいつが居たところを見る。

何があったかはわからないけど、立ち直ったみたいで良かった。

 

――って、違う。べ、別に良かっただなんて…違うから!

ただ、あの雰囲気は視界に入ると苛々するからで、気にしてるとかじゃないんだからっ!!

 

私は、薄く照らす月光の下、草と風の音に撫でられているのを忘れて、少しの間誰かに対する弁明に気をとられていた。本当にこうなったのも全部、あいつが悪い。そう決め付けて今日はもう寝ることにした。

 

<side桂花 終>

あとがき

 

 

はじめましての方も、9度目の方も

 

おはようございます。こんにちは。こんばんは。 柳眉です。

 

 

予告どおりに投稿できず無念です。期待してくださった方々に本当に申し訳ない。

 

ただ、一言!一言だけ言わせてください。

 

「風邪にだけは気をつけて」

 

 

今回の妄想いかがだったでしょうか?

 

今作の最大の敵は華琳様でした。台詞が違いすぎると違和感強いですし、立ち位置をどうするか等

 

悩みました。……といっても、桂花がデレている時点で「違和感?なにそれ?」になってしまいますけど……

 

あと、ヤッテシマイマシタ。まさかの桂花タンにつんでれのてんぷれを……「べ、べつに~なんだからね」は

 

どうでしょう?ありですか、なしですか?それだけが柳眉には判断できません。無念です。

 

 

 

もし、お読みいただいた方の中で評価していただけるのなら・・・

 

アドバイスをいただけるのなら、嬉しいです

 

 

最後になりましたが、ここまで目を通して頂きありがとうございました。

次にまみえるご縁があることを……


 
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